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皇帝のおしごと。  作者: 五十鈴 りく


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24/73

[24]お忍び

 キリュウはローシェンナの町の翼石ウィングラピス使用ポートに降りた。

 皇帝であるキリュウは、ここ以外で翼石ウィングラピスを使用しちゃ駄目っていう使用制限の限りではないけど、今は一般人を装っているからここに降りたんだろう。

 使用ポートから並木道がまっすぐに伸びてる。ここを抜けた先が町中なんだろうな。

 この道がなんの石でできてるのかよくわからない。白くキラキラと輝く石畳に汚れはまったくない。ところどころに不思議な紋様が入っていておしゃれだ。


「これ、どういう意味?」


 ノギおにいちゃんの姿をしたキリュウは、ああ、ってつぶやいた。


「その紋様は除雪のための術式だ。今の季節には意味がない」


 除雪なんて予想外だったけど、面白い。

 きれいに整えられた並木道を抜けると、そこは夢の園に続く夢の国だった。


「うわぁ」


 青い空によく映える白い建物たち。オブジェに使用されたキラキラと輝く色とりどりの石が、陽を浴びて光に色を移す。ふわふわと空に浮かんでいるシャボン玉っぽい球体が、目にも楽しかった。

 ローシェンナの町は城の窓から眺めていた城下町に劣らない。あたしはアミューズメントパークにやって来たような高揚感を感じてしまった。

 思わずはしゃいでキリュウの袖を引っ張る。


「ねえねえ、あれは?」


 あたしははしゃぐ子供みたいにシャボン玉を指さす。キリュウはちらりと空を見上げてから言った。


「この地方の太陽光は直接受けるには少し強い。あれを浮かべておけばほどよく陽を浴びられる」


 紫外線カットってこと?

 じゃあ、日焼けしないんだ? 便利だなぁ。

 そんなあたしの姿は多分田舎者丸出しに見えたんだろう。時々、振り返った女の人たちにクスクスと笑われてしまった。道行く人たちは優雅な着こなしで颯爽と歩いてる。ここは都会の部類なんだろうな。

 まあ、気にしたって仕方がないんだけどね。もとの世界でもあたしが住んでる地方は田舎な方だし。


「さて、時間はそれほどない。急ぐとするか」


 キリュウはノギおにいちゃんの格好で颯爽と歩く。普段は皇帝の装束なのか、ずるずるの長い裾が足もとを隠していてわからないけど、そうして歩く姿勢はきれいだった。


「う、うん」


 あたしは置いて行かれないように小走りになる。

 そうして通りを進むと、お祭ってわけじゃないんだろうけど、人が多かった。朝だからかな。

 小さな子供やお年寄りも多い。先を行くキリュウとあたしとの間を、数人の子供たちが声を立てながら走り去った。ぶつかりそうになって、あたしは思わず立ち止まったけれど、キリュウはそれに気付かずに先へ行く。


「え……あ……」


 あたしとキリュウの距離が開いた。なのに、キリュウは振り返らない。

 ここでキリュウとはぐれたら、あたしはどうなるんだろう?

 そう考えてゾッとした。一人では帰れないし、どこへも行けない。クレハさんの屋敷に戻れても、あたしだけじゃ入れてもらえないんじゃないだろうか。


 急に、この世界へ来てすぐに感じたような孤独感が押し寄せて来た。

 そうだ、ここはあたしの世界じゃない。はぐれたらおしまいなんだ。

 どうしようもなく怖くて、心細くて、あたしは思わず声を上げていた。


「待ってよ!!」


 誰もが振り返る。その大声に、キリュウは驚いて立ち止まっていた。

 あたしは慌てて駆け寄ると、その腕にしがみ付いた。


「置いて行かないで!」


 自分でも情けないと思うほどの涙声になってしまったから、うつむいて顔を見せなかった。ただ、腕は放さなかった。

 見上げたら、うっとうしいって顔をしかめてるんじゃないかなと思うけど、そんなこと知らない。迷子にはなりたくない。

 そうした時、あたしの頭に手が乗った。


「悪かったな。町の様子を眺めるのに夢中になってしまった」


 キリュウは、この町がよい状態で治められているのかを見るためにお忍びでやって来た。だから、今、真剣に町を眺めて、問題がないかを確認してた。

 皇帝にとってそれはすごく大切なこと。あたしのことを忘れてしまっていても仕方がないくらいに。

 これくらいのことで喚いて、あたしは自分のことばっかりだって呆れられたかな。


 恐る恐る見上げると、ノギおにいちゃんの顔をしたキリュウは珍しく困惑したような顔だった。

 キリュウなりに、あたしを忘れていたことを悪かったと思ってくれてるみたいだ。


「はぐれたら困るから、このままでいていい?」

「ああ」


 試しに言ってみたら、あっさりと許可が下りた。こう言っちゃなんだけど、意外。

 でも、ホッとした。繋がっていると安心できるから。

 キリュウの腕にしがみ付いて歩くあたしは、この時、迷子にならないことが最優先事項で、あんまり他のことに気が行っていなかった。だから、すれ違ったある人が、そんなあたしたちを見て驚いていたことにも気付かなかった。

 そして、その人はいきなりキリュウの頭を殴ったのだった。

 

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