欠落人間
欠落人間
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「痛い・・・痛ッたいよ。お兄ちゃん」
「あっははっははは」
「抜いてよ、早く抜いてよ」
「大丈夫だよ」
「大丈夫なんかじゃない、痛いよ。ママ、助けて!!」
「ほら、黙れよ」
「やめて、お兄ちゃんやめて。何するの? やめて、お兄ちゃん。・・・お願いだから」
「はッははははは」
「あーあああああああああああああああああああああ! 右足が!! 右足が!! ああああああああああああああ!!!!」
「はっは、切り落とすってのは、心が痛むな、あー、痛む。しかし、それ以上に、けッけけ、和むな」
少年、の左太ももにナイフを刺したのは過去の話。
今現在。
俺は、少年、の右足を切断した。
「痛ッーーーーーーーーー!! ママ、助けて!!!!」
「けッけけ、ママ? ママってのは、こいつ、のことか? 馬鹿だな。こいつはもうーお前の、母、じゃない・・・」
「ママ!」
「・・・屍だ。けッけけ」
小学校の教室。
俺は、少年、が通う教室でいささか不吉なことをしていた。
倒れている、屍。
少年はそいつのことを、ママ、と呼ぶ。
屍なのに、ママ、と叫ぶ。
妄想、幻想、虚像。
あー、なんてこの子は無垢で純粋なんだろう。
けッけけ。
「はッは。きみ、そろそろ逝かせてあげるよ。これで、本当のママ、に会えるね」
「痛いよー、ママ! 助けてよう、痛い、痛いよ、痛すぎるよ」
「さあ、ママと再会だ」
はッは。
さあ、バラバラ殺人劇、再開だ。
「きみの身体、バラバラ。バラバラバラバラバラバラにして殺すね。けッけけ。あッ、きみの名前なんだっけ」
「ママ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あー。
そうだった、きみの名前は・・・・・・。
「臨時ニュースです」
「・・・――沼地 啓太くんと、その母、沼田 綾さんが永楽小学校の教室内で午前六時三十五分頃、死体として発見されました」
1
殺人を視野に入れて、警察官が動き出したなんていうニュースを見た俺はいささか、ドキッ、とした。
もうー、警察が動き出したのか。
朝の食卓。
母は急いで料理を作り、父は仕事がまだ余裕なのだろう、新聞、を両手で広げ、いろどりみどり、の話題を読む。朝刊には、まだ、あの事件が取り扱っていないのだけれど、しかし、ほとんどのテレビは、臨時特番で、あの、事件、を取り上げている。
これじゃ。
特番のお陰で潰された、幼児向けのアニメを楽しみにしていた子供達は泣いているだろうな、きっと。
けッけけ。
「けッけけ」
「うん? どうした。お前、急に笑って」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・なんでも無い」
「そうか」
新聞越しで問いかけてきた、新しい父はそう言って、そのまま沈黙する。
あー、土曜日なのに仕事は大変だね。
なんていうほどの仲良し家族ではない。
だからといって、途轍もなく仲悪家族でもない。
至って、普通である。ただ、父親がこれで四人目であるということは除いてだがな。
四人目の父は寡黙である。
しかし、あッ。
ホラ、また。
「あー土曜日なのに学校か。大変だな」
気御使うのだ。
この言葉を俺が言えば、きっと、胡散臭くなるだろうが、しかし、父の気御使うというスキルはいささか胡散臭くなる一方か嘘という事実だけが明白として残るのだから、はあーこの父親早く、死んで欲しい。
「・・・・・・・」
問いかけた父親を無視する、俺。
なーに。
これが日常だ。
「出来たわよ」
母が食器に盛り付けた、目玉焼き、が出てきたとき、俺は。
あー。
完全に、事件、のことを忘れ。
そして。
「・・・・・・・」
沈黙しながら、少し焦げた目玉焼きを食べた。
美味い。
2
そして、思いだしたときにはもうー、教室内であった。
三年二組。
中学校。
俺は窓際の席で、顔面、を机に擦りつけながら寝そべる。
無論、寝てはいない。
「今回の事件は悲しいことである。先生はとても、心が暗くなっている。しかし、だ! こんな新米教師であっても、お前らに元気づけるのが俺の先生としての役目だ。だから、落ち込むな。みんな、となりで起きた小学校での、事件、は・・・うん? おい、お前!! 寝ているおまえ、話を聞け」
怒鳴り声とは言い過ぎかもしれないが、しかし、担任の声は荒々しく俺に言う。
「・・・ふざけているのか。こんな、事件、が起きたのに不謹慎だと思わないのか」
「・・・・・・」
近づく足音、顔面、を机に擦り付けている俺はいささか、この新米教師がなにするか。
大体、想像が出来る。
「お前は・・・ふざけてるのか!!!」
騒いでいる、生徒らの反応から見て、これは今から教師が体罰をやるのだろう。ということは大体想像が出来る。平手だろうか? それとも・・・拳骨か?
何を行動して、何をするのかは大体検討がつていた俺であったが、しかし、まさか、ここで予想だしなかったことが起きた。
先生は。
俺の頭部を、拳骨、より遥か数倍ある。
椅子を叩きつけた。
「うっ」
「・・・解かったか。先生のいうことは、絶対、だ」
痛い。
痛い。
痛い。
「血が、血が出てる」
生徒らは言い、騒ぎ立てる。
「・・・・・・」
けッけけ。
殺す。
3
「今日のニュースです」
おれは朝目覚めて、まずはじめにいつも日課として、いや、これは癖としてのだろうが、テレビをつけた。一昨日やっていた、あの事件が今日から、少しばかり変わっていた。
父はまた両手で新聞をもち、寡黙、に読んでいる。
そして、今回も使うのである。
気御使うスキルを。
「・・・最近物騒だな。お前も気御付けろよ」
「・・・・・・」
テレビ画面に向けている俺に対していったのか、定かではないけれど、しかし、お前という単語が出てくるのなら、やはり、俺であるのだろう。
母のことは、そもそも、母さんと呼ぶ。
まったくこの父は古風だ。
「そうだな、防犯ブザー必要だな、今日、帰ってきたら・・・」
「いらない」
「・・・そうか」
横目で見たけれど、やはり、いつもと同じで新聞越しで読んでいるのだから、悲しいのか、それとも普通なのか検討が付かないのである。まったく、人の話を面と面で向かって話せって先生に教わらなかったのか。
・・・先生。
あー、そういえば、なんで先生、ニュースに載っているんだろう。
あれ、あれれれ、今思えば、一昨日やっていたあの少年事件のことが少ないな。はッは。まったく、人間はすぐ新しいものに行きたがる。
「・・・本当に気を付けるんだぞ。お前の担任が、その例だ」
父は言う。
ああ。
そういえば、先生、あの夜息絶えていたな。
「出来たわよ」
母が食器に盛り付けた、卵焼き、を見た俺は。
あー、完全に先生のことを忘れ。
今日は、祝日だ。なんて、浸りながら。
そして。
卵焼きを食べた。
甘い。
4
深夜の二時。
俺は目覚める。
台所に静かに降り立つ。
包丁が収納されている、ドアを開け、そしてそのまま、ドアを閉める。
右手には、包丁、を残して。
再び二階に上がる。
父の寝室部屋が一つ。
母の寝室部屋が一つ。
殺す。殺す。
殺したい。
いやーーーーーあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
駄目だ、興奮する。
やばい。
やばい、やばい。やばい。やばい。やばい。やばいやばいやばいやばい。
狂う、殺す。
けッけけ。
5
目覚めた俺の寝室部屋は、べっとりと赤く染まっている。
身体を動かそうにも動かない。
意識があるのに、動けない。
俺は俺で、俺のことを見ている。
まるで、鏡のように見る。
えッ? 俺、どういうことだろう。
解からない。
しかし、解かること、今はまだ、深夜の二時半で、そして、父が僕の隣で仁王立ちしている。
「・・・・・・」
寡黙。
俺の胸には、包丁、が刺さっている。
あー。
殺されたか。
「・・・はッ。俺は俺は、なんてことを」
父は言う。
おいおい、哀しむなよ。
俺はべつに怒っていないさ。
けッけけ。
「けッけけ」
寒気が走った。だれだろう。この、笑いをしたのは、あー、俺だろう、俺でしかないだろう。この笑いをするのは、こんなへんてこりな笑いは俺でしかないこれは明白で・・・はないのか。
笑った先には、俺自身ではなく。
父が笑っていた。
「けッけけけけけけけけ、けけっけっけけけけ。殺す、殺す。殺しちゃう。あー、悲運だ。しかし、劇的だ。俺は、息子、を殺した。では、それでは、殺人者ではないか。けッけけ」
笑っていた。
6
臨時ニュースです。
速報です。
今さっき入りましたニュースです。
今日の午後。
六時三十四分頃。
家族皆殺し事件が発生しました。
あっは。
7
十二年後
「けッけけ。懺悔する。俺は人殺しだ、けれどなあーー俺は息子とを母さんしか殺していない。なのに、何故? 何故なんだ。三人の死まで、俺の所為になる。やめてくれよ。俺もいい年なんだ。解かるだろう。これはすべて。けッけけ、あーでも、俺結局は人殺しか。はッはは」
「・・・それだけか。言い残す事は」
「俺は殺人者、けれど、お前ら全員も同罪だ。何人? 殺した? 何人死刑にした? なあ、教えてくれよ・・でも・・・・・」
「・・・―――執行する」
「・・・あー、マジで人生俺の人生終ってる・・・うっ」
「・・・・・・」
「うっ、はッは。う、うっ、うっ・・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「・・・・・・」
「あああああああああああ・・・うっ、け・・けッ・・・・けッけけ、けッけけけけけっけけけけけっけけけけけけけけけけけけけけけけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・執行終了」
首吊りの刑。
最終八
「臨時ニュースです」
けッけけ。
人は欠落している。