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「しかし、私が聞くのも難だが、何故こんなに簡単に承諾をして頂けたのかな?」

 安藤兄のあっさりとした答えに安堵しつつも、やはり引っ掛かるところがあるのだろう平岩が問う。

「……自分の未熟さを承知で、栄誉ある職に任命したいとおっしゃっておられるのですから。 そんな貴重な機会を逃す気はございません」

 安藤兄は涼しげな声音でそう告げた。

 しかし、それはここへ来る前までの意見とは真っ向から食い違っている。

「平岩様。 自分は、こちらの竹中殿と天秤にかけられ、より相応しい方を選ぶのだと疑っておりました……。 ですが、実際は抜き打ちで魔力試験を行って最終決定を行った。 そうですね?」

 すると、またしても平岩は笑った。

「なるほどなるほど、流石は安藤家の子息であられる。 ご賢察、恐れ入る。 誠、その通りでござる」

「つまり、安藤の言ってたふるい落としって……」

 俺は平岩がいるのに安藤、と呼び捨てにしていた事実に気付かなかった。

「抜き打ち的な魔法審査にございます。 いや、なかなかに興味深い」

 そうか、安藤兄はその事実と自分が魔法面においては弱いという事実を受け入れた上での答えが、承諾であったのだ。

 これ以上の試験がないとも言い切れないと言うのに。

「さて、竹中殿はどうされるかな?」

 この平岩の表情からは何も企みは感じられない。


 ならばということで、一応信頼してみることにした。




「……本当に二人とも承諾しちゃって良かったのかな」

 内府を出て、外府の演習場を横目に俺は呟いた。

 不安と言えば不安だが、安藤兄が大丈夫だと判断したのだろうから気にしないことにしよう。

「大丈夫だろう。 魔法に不足があれば不採用を言い渡されていたと思うし。 舞のおかげだ」

 そう言って、安藤兄はまだ少し消耗している舞ちゃんの頭に手を置いた。

「えへへ♪」

 輝かんばかりの可愛らしい笑顔。

 いかん、萌えてしまった。

「さて、これでいよいよ千人頭かぁ。 部隊編成が決まり次第、軍事演習にも出なくてはな」

 そうだった。

 この二日間程は全く稽古をしていない。

 鈍ってはいないだろうが、これ以上放置は危険だな。

 せっかく新しいチートが手に入ったっぽいんだし、どういう条件下で使えるのかとかを検証しなくては。

 でも、普段の稽古では使えないような気もする。

 こん棒で殴られたときもそうだったし。

「なぁ右侍。 一つ提案があるんだが」

「ん?」

 何だろうか、薮から棒に。

「週一ぐらいでいいから、試合をしないか? せっかく知り合えたんだし、これもなにかの縁だと思って」

「それは願ってもない提案だな。 こちらこそ頼む」

 ものすごく都合良く、いい実験相手が出来たのでそちらで検証するか。

 と、ここまで話したところで、安藤兄の足が止まった。

 どうしたんだ、もうすぐ外府の外じゃ、ない……か。

 俺も足を止めて苦笑い。

 外府前はあらゆる体格の男達で埋め尽くされていた。




 時間的には大体午後に入ったばかりと言ったところか、腹も空いてきたところ。

 しかし白兵戦の審査結果を見に来た屈強な肉体の男達の壁が出来上がっていて、とても外府内から出れそうにない。

 いや、俺と安藤兄は頑張れば行けるかもしれないが、舞ちゃんは無理だ。

 ならどうするか。

 壁が自然と無くなるのを待つ。

 これは、正直なところお腹が保たない。

 朝ご飯をもっと食べれば良かった。

 何故か枝梨も亜里沙も、唯ちゃんも玲ちゃんもぐったり眠っていたので、ご飯は台所に置いてあったパンを一枚食べただけだ。

「……どうするか」

「よし、試合をしよう」

 は?

 隣の美少年が何か口走ったかな?

「ごめん、もう一回」

「よし、試合をしよう」

 ご丁寧に完全リピート。

 あぁ……チートがあっても腹は膨らまないし、人の意志は変えられないよね……。

「さぁ行こう」

「舞も見た−い♪」

 あれ?

 舞ちゃんの一人称って舞だっけ。




「さー行くぞっ」

 喜々として借り物の木刀で素振りをしているのは、言うまでもなく安藤兄。

 コイツには胃袋が無いのか?

 そして俺の可愛い(?)胃袋の悲鳴が聞こえないのかっ。

「お兄ちゃんも右侍さんも頑張ってー」

 審判役になった舞ちゃんの応援だけが俺の支え。

 それにしても喋るなぁ。

 緊張とかが無くなったからなのだろうか。

「さぁ、来い!」

 それにしても元気だな、イケメン。

「そりゃ」

 とりあえず間合いを詰める。

 前と違い、得物のリーチは一緒なので懐に躊躇なく突っ込む。

「お、来たね」

 木刀を満足に振れない間合いに詰められているのに、安藤兄は余裕の態度。

「ほ、ざ、けっ」

 三撃を放つが、いずれもいなされてしまう。

 くそ、空腹でどうしても斬撃が雑になっちまうな。

「そこっ」

「おっと」

 下方からの切り上げ――燕返しってやつだ。

 距離を取ってなんとか回避。

 髪の毛掠ったけど。

「……」

「?」

 ところが、安藤兄は何か違うと言いた気な仕草を見せた。

 しかしそれも一瞬。

 今度は安藤兄からの攻撃。

「てぃやぁ!!」

 さっきまでの余裕な雰囲気から一転、凄まじい迫力で斬撃。

 しかし、単調な一撃だったので弾き返した。

「しっ」

 弾き返した勢いのまま、さっきと同様に距離を詰めるのと同時に本日初めての袈裟切り。

 だが、手応えなし。

 あの、冷や汗をかいた瞬間が記憶から蘇る。

 咄嗟に上段からの攻撃に備えるべく、木刀を構えた。

 その瞬間、一撃が木刀に訪れた。

 押し込まれないように必死に耐える。

「……っ!」

「…………なぜだ」

 追撃が来ないと思ったら、まだ木刀は俺の木刀の上にあった。

 そして、安藤兄は悔しそうな顔をして俯いた。

「なぜ、あの時のような一撃を出してくれないんだ……」

「あの時のような一撃……?」

 いきなり過ぎて、そう返すのがやっとだ。

 一体安藤兄はどうしたのだろうか。

「……あの時、僕のカウンターは絶対に決まっていたはずなんだ。 なのに……なのに、防御ではなく、反撃……。 あんな体験は初めてだった……。 地面に倒れた僕は腹の痛みよりも、カウンターを返されたことのショックで立ち上がれなかった…………」

 俺は、何も言えなかった。

「……すまない、もうやめにしよう。 お昼がまだだしね」

 悲痛な表情から一転、爽やかな笑顔に。

 結局俺は何も反論、異論はせずに演習場を後にした。




 ちなみに、男の壁は舞ちゃんの《無》属性魔法、精神干渉魔法で道を作って抜け出した。

 発案は安藤兄。

 野郎、謀ったな。

 今にしてみれば、あの宰相の魔法を妨害してたんだから、ちょっと考えれば思いついたことだった。

「さて、何を食べようか」

「行きつけの飯屋ならあるけど」

 俺はいつもの稽古の帰りや合間に食いに行く飯屋を提案。

 二人とも反論はなさそうなのでそこへ向かうことに。




「ちゃーっす」

 少しばかり、久しぶりに飯屋の戸を開けた。

 飯時から少しズレている為か、店内は客がほぼいない。

「あら、ゆーちゃんじゃないの」

 出迎えてくれたのは、どことなく枝梨と容貌や雰囲気が似た女性。

 というか枝梨のお姉さんの梨絵さんだ。

「どうもです。 友達、連れて来ましたよ」

 枝梨と同じ様な、ふんわりした笑顔の梨絵さん。

 しかし二人には大きな違いがあり、それは……胸の膨らみだ。

 枝梨の豊かさに反して梨絵さんは見事に平坦。

「……ねぇゆーちゃん。 どこ、見てるのかな?」

「いえ、別に」

「言いたいことはハッキリ言ったらどうかしら?」

「……相変わらず、ですね」

 と、天地がひっくり返った。

「ほろ?」

 違う、俺が投げられたんだと。

 そう気付いた時には、地面に叩きつけられていた。

「みんな昔からそうなのよっ! ちっちゃい時はいいわよ? どっちもペッタンコなんだもん! でも忘れもしないわ。 私が十六になってもペッタンコで嫁ぎ先を探しているときに、枝梨はねっ! 十三だってのに膨らんでるのっ! ふっくらと柔らかい山が二つ聳えてたわっ! やっと苦労して私は嫁ぎ先を見つけのに、あの子は何もしなくても向こうからポンポンポンポン求婚されてるのっ!! しかも、しかもよ? 私が好きだった人には門前払いしてたわっ! きぃぃぃ、こんな胸の膨らみの差でこんなに人生に差が出るなんて理不尽よっ! 理不尽だわっ!! 理不尽なのっ!!! あぁもうペッタンコの何が悪いのよ!!」

「あがががががががががががが!!」

 押さえ込まれ、前世でいうプロレス技をかけられる。

 梨絵は姉として枝梨を守るために、体術を習っていたのだ。

 悲鳴を上げるだけしか抵抗が出来ず、延々と続く枝梨への恨み言(?)が終わるまで解放されることはなかった。


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