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「どういう意味だ?」

 安藤兄はどこか思い悩んだ表情をしている。

 こう言った表情も様になるのだからイケメンは得だ。

「今まで、最年少で千人頭になったのは十一人。 しかし、白兵戦での時点で実際に合格している人数はその倍以上。 それがどういう意味か分かるか?」

「……ふるい落としがあるってか?」

 安藤兄の言うことが本当ならば、そういった争いがあるに違いない。

「そうだと思う。 だから……この任を受けるのは僕達のどちらかにしよう」

 安藤兄は決意に満ちた目をしていた。

 その瞬間、俺はなんとなくで大変なことに首を突っ込んでしまった気がした。

「どうする?」




 薄暗い空間には火の明かりだけが煌々としている。

 そこには立派な飾りの付いた冠を被った男と、それを上回る豪勢な冠、服装をした男二人が向かい合って座っていた。

 傍らには酒の入った杯があるが、二人とも一口目を口にしてからは目もくれていない。

「……天児は、受けますかな?」

 部下と思われる男が切り出した。

「相よ、それをさせるのが主の仕事だろう」

 相と呼ばれた男はただ黙って頭を下げた。

「王、安藤家の次男坊を接近させたのはやはり上策だったかと。 やはり、競い合う仲間とやらが天児に良い影響を与えたようです」

「……安藤の童、か」

 王は敢えて話を逸らした臣下を叱咤しなかった。

「長男は文才があり、次男は武の才を持っていると聞いたが……天児とある程度は渡り合えるとはな」

「安藤の次男坊ではなく、天児に問題があると思われまする……」

 相は直接その目で白兵戦を見た。

 否、天児を見た。

 だからこその見解。

「『覚醒』しておらんと?」

 だから、王も疑いは持たない。

「はい。 ただ、次男坊との戦いでの、最後の剣の一振りには『覚醒』の気配は感じましたが……」

 相は少し目を伏せた。

 その姿は言い訳をする子供の様にも見える。

「ふむ……。 まずは、主が天児を出迎えてやれ」

 言い終わると、王が杯の酒を呑んだ。

「はっ」

 そして相は、それに応えるかのように自分の杯を飲み干した。

 それは、二人の間での話し合いの終了の合図であった。




 俺はその場で答えは出さず、安藤兄妹と外府へと向かっって歩いている。

 話題は、あの美少女二人について。

「由ちゃんと玲ちゃんはですね、姉妹じゃないのにとっても息があっててですね、すっごい仲が良いんですよ」

 話者は安藤妹こと舞ちゃん。

 俺に対しては結局軽い敬語で話すことに決めたみたいだ。

「みたいだな。 昨日も元気にはしゃいでたよ」

 まさか、おっぱいおっぱい言ってたなんてことは言えないぜ。

 ていうか俺が言うと変な誤解を招きそうだという確信もある。

「ふむ。 押し付けてしまって済まなかったな」

 本当に済まなさそうな顔と声色で安藤兄が謝罪した。

「結果的に家で預かれることになったし、構わないよ」

 俺の言葉で安藤兄は愁眉を開いた。

 昨日から思い悩んでいたのかもしれんな。

「さて、外府だ。 って……誰だ?」

 外府前に着くなり、俺達三人の目の前に兵士二人と少しばかり身なりの良い服装をした文官が現れた。

「臣は、内府の院所属文官鹿野にございます。 此度は、安藤 慎也殿と竹中 右侍殿をお連れすべく参りました。 どうぞ付いて来て下さい。」

 案内人まで出すとは……やはり安藤兄の言う通り、何か悪いことがあるのかもしれんな。

 ……丸腰だけど。

「妹も、よろしいでしょうか」

 安藤兄の質問に、文官の鹿野は一瞬眉をひそめたが、やがて頷いた。

「では、こちらへ」

 そうして俺達三人は大人しく鹿野の後に付いて、内府の中へ入って行った。




「ここでお待ち下さい」

 大きなテーブルのある部屋へ通され、席に着いて待つ。

 向かって右から、俺、安藤兄、安藤妹の順にだ。

「……なんか無駄にドキドキするなぁ」

「そうだな。 最低限の警戒はすべきか」

 何気なく呟いただけだが、安藤兄は生真面目に答えた。

 確かに、普通ではないよな。

 たった十四歳の少年が、人を千人従える地位に立つかもしれないなんて。

「お待たせしましたな」

 向こう側の扉から立派な冠を被った初老の男が現れた。

 顔は少しばかりシワが寄っているが、衰えている感じはなく、ヒゲが白と黒が混じり合っているのが印象的だ。

「私は、デミア王国宰相の平岩 レイビアにございます」

 平岩は軽く頭を下げて自己紹介をした。

 レイビア……移民と原住民のハーフか。

 漢字の名を持つ者は所謂、移民であり、カタカナの名は原住民を表すそうだ。

 移民してきたというのもずーーーっと昔の話らしいが。

「あぁ、君達のことは知っておる故自己紹介は不要。 さて、お二方」

 ここで平岩は言葉を切り、俺と安藤兄に目線を送る。

「引き受けて貰えますな?」

 平岩の言外には、俺達の拒否の二文字を封じ込めるニュアンスが感じられた。

 つまり、選択ではなく、確認。

 いや、決定かもしれない。

 有無を言わせない目線が、俺と安藤兄とに交互に注がれる。

「……申し訳ありませんが――」

「――父上殿は、お元気でございますかな?」

「っ……!」

 平岩の言葉は安藤兄を動揺させるに十分だった。

 古典的かつ有効な手段。

 典型的な脅迫だった。

「……」

「竹中殿も、父上殿はお元気でございますかな? 先日は白兵戦をご一緒に審査させていただきましたなぁ」

 安藤兄の口を封じ、俺への牽制を成功させた平岩は、控えていた文官から何かを受け取った。

「こちらが、必要な書類でございます。 直筆の署名を、こちらの筆でお願いします」

 差し出された書類と筆を受け取り、時が止まる。

 今は書類に目を通している、という理由でこの時間の停滞を説明できるが、それも過ぎればただの躊躇いだった。

「……どうされましたかな?」

 まるで心を読んでいるかのようなタイミングで、平岩はわざと訝しんだ。

「…………」

 安藤兄の顔には脂汗が浮いていた。

 断るに断れない状況に危機を抱いているのが、俺からも簡単に見て取れる。

 俺はと言えば、言質以外にこの男が俺達を追い詰めたトリックをようやっと看破した。

 そう、さっきから感じていた違和感の正体にやっと気付いた。

「この書類に署名が――」

「――随分とずるいな、宰相さん」

 いきなりの俺の発言に、平岩は表情を険しくした。

「何が、ですかな?」

 口調こそ丁寧だが、声色には刺を感じる。

 だが、そこはこの際無視する。

「卑怯だぜ、宰相さん。 まさか、魔法で俺達の意識を追い詰めてたとはな。 今まで気付かなかったぜ」

 平岩は反論せず、じっと俺を見ている。

「唯一、舞ちゃんだけが魔法の妨害、対抗を試みていた、というより今さっきまでしていた」

 ちらりと舞ちゃんを見れば、かなり消耗したのだろう、荒い息をし始めた。

 恐らく今までかなり集中していたのだろう、蓄積された疲れがドッと出た様子。

 安藤兄が舞ちゃんを支える。

「そして、俺が最後に粉砕した。 《無》属性の、精神干渉魔法……俺達に口頭で確認を取ったときに、いきなり高密度の魔力で発動したんだろ?」

 俺がそう言うと、平岩はカラカラと笑った。

「何がおかしい?」

 そう言う自分が少し滑稽に思えたのも無視しよう。

「いやはや、流石は千人頭候補だ。 しかし、今回は次第点ですかな。 いや、十分に優秀ではあられるがな」

「試したってのか?」

 平岩はまだ小さく笑っている。

「くくく……。 いや失礼した。 一応、魔法に関する試験のつもりじゃったんじゃが……安藤殿があまりにも疎いものでな。 つい年寄りの戯れが過ぎてしまったの」

 安藤兄はかなり微妙な表情をしているが、平岩はそれについては何も言わなかった。

「さて、この分で行くなら……。 竹中殿は単独でも任せられるが、安藤殿をどうするか……」

 平岩は少し考え、やがて舞ちゃんに目線を移した。

「よし。 では、竹中殿には単独で千人頭を任じ、安藤殿には妹君と二人で千人頭を任じよう。 もちろん、名義上は安藤殿が千人頭じゃが、妹君を蔑ろにすることもせん。 この条件で、千人頭を引き受けて頂きたい。 非礼はお詫び申し上げる故、頼む」

 初めて平岩が頭を下げた。

 そして、安藤の返事は……。

「……わかりました、引き受けさせて頂きます」

 その返事に、平岩だけでなく、舞ちゃんも安堵の表情を見せた。


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