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転生とチートと復讐そして奴隷  作者: 京城 都人
2 新たな暮らし
36/38

35 人は見かけによりません

 

 今回は魔王無双をメインでお送りします。

 感想や評価お待ちしております。

 

 今一番好きなキャラが魔王な作者でした(笑)



「半魔王。 君は《闇》が得意だったね。 結界を張っておくといい」

 双眸を閉じたままの魔王がそう言ったので、大人しく忠告に従うことにした。

 難しいことではなく、単に俺の《闇》の魔力を広げて俺達を包み込んだ。

 そして、ついに魔力の双眸が開かれた。




「うおっ!!?」




 瞬間、身体中を衝撃が駆け抜けた。

 それも後退りどころではなく、軽く吹き飛ばされるぐらいの。

 その間に魔王は目にも留まらぬ猛スピードで安藤兄に迫っていた。

 イメージとしては衝撃波を発しながら突撃していると言ったところか。

 勿論群がっていた盗賊は一人残らず吹き飛ばされ、岩壁や地面に叩きつけられていた。

「これが、魔王か……。 まさに世の理に反した存在だな」

 イスビスの嘆息にも納得が行く。

 流石のチートの俺でもあんな力の使い方は出来ない。

 絶えず衝撃波を発しながら人外の速さで移動、交戦をこなす魔王は流石の貫禄だった。

「でも、あの頭領も凄いですわ……。 あの衝撃波を長剣一本で相殺してますもの」

 クォールさんの着眼点にも驚きだが、唯一安藤兄だけが初めの立ち位置から動いていない。

「……"遣い"よ。 駄賃はそれだけか?」

「ほざけ! お前は、人間風情を吹き飛ばしただけで得意になるのか? やはり老いたな」

「ふん……青二才はよく吠えるな。 少しは半魔王を見習って欲しいものだ」

 軽口の応酬の合間に安藤兄の長剣が迎撃。

 対する魔王は……。

「まさか、素手で挑む気か!?」

 イスビスの言った通り、魔王は丸腰で長剣とやり合うようだ。

 普通なら、手首が切り落とされる。

 普通なら、の話だが。

「なっ!?」

 俺以外が驚きのあまりに声を上げた。

 それは、どう見ても合成映像にしか見えなかったからだ。

 長剣が、手刀でへし折られたのだ。

「……仕上げと行こう」

 魔王は淡々とそれだけ告げると、右手に魔力を貯め、迷いなくそれを驚いている安藤兄の腹に突き刺した。

「ふぐぅあぁ!??」

 口から血を吐き、悶え苦しむ安藤兄を意にも介せずに何やらぶつぶつと呟くと、突き刺した右手が脈動する。

 ゆっくりと血に染まった右手を引き抜くと、そこには……。

「寄生体……」

「寄生体?」

 アルビノのような気味の悪い生き物がぐったりしている。

 魔王はそれを躊躇なく握り潰した。

 握力ハンパない。

「《闇》、〈生瞑再世〉」

 倒れ込む安藤兄を身体で支え、傷口に魔法を行使した。

 すると安藤兄の腹の風穴はみるみる内に塞がり、やがて元通りになった。

 キロムの魔法と同じものか?

 いや、キロムの魔力は《闇》ではなかったから別物か。

「有り得ん……」

 寄生体の疑問に答えなかったイスビスが新たに呟いた。

「何がですか?」

「《闇》の魔法に再生魔法があるわけがない……。 いや、あってはならんのだ……」

 何やら意味深そうな言葉だが、今の彼は目の前の出来事に理解が追い付いていない様子。

 しばらく放っておくとしよう。

「半魔王。 これでこっちの用事は済んだ。 後処理は頼んだぞ」

 魔王は言うだけ言ってすぐにあの真っ赤な空間を出現させ、そこに入って行くと空間は空気に溶け込むかのように消えた。

「……今のって、夢……?」

 誰ともなく、ぽつりとそんな呟きが漏れた。






 何はともあれ、安藤兄はもう大丈夫だと思われるので介抱をすることに。

 吹き飛ばされていた盗賊達も、大人しく事の成り行きを見守っている。

「おい、しっかりしろ」

 肩を掴んで揺さ振ると、苦しそうな息を漏らしながら目を開けた。

「……右侍か。 僕は、一体何を……?」

「記憶障害が出ているな。 どれ、我に任せてくれ」

 何やら自信ありげなイスビスが安藤兄の額に手を置いた。

 そのまま固まってしまったのかと思った矢先、イスビスが再び動いた。

「……何やら強力な妨害魔法が施されていて、記憶を覗けなかった」

 どうやら魔法を行使していたようだ。

「この分だと、本人も何も覚えてないでしょうね……」

 キロムの呟きは全員が思っていることに違いない。

 その中でも、数ヶ月前に会ったハズなのに覚えていないと言うことは俺の中で一番の疑問である。

 梨絵の裏切りと関連はあるのだろうか……。

「お、おい……」

「ん?」

 話掛けて来たのは、成り行きを見守っていた盗賊の内の一人。

「俺達の頭領は無事なのか……?」

「あぁ。 ところで、一息つける場所はないか? こやつも寝かせたいのだが」

「なら中に運ぼう。 おい、お前ら」

 男が他の盗賊に指示を出すと、安藤兄を担ぎ、俺達を案内してくれた。






 内部は、岩をくり抜いただけの空間だった。

 しかしその中には水脈もあり、生活の基盤がしっかりとあった。

「お前達、最近貴族の娘をさらってこなかったか?」

「あぁ、牢に入ってるぜ」

 先頭を歩く盗賊は悪びれる様子もなく答えた。

 彼の名は志加野と言う。

 安藤兄の補佐役なんだとか。

「……お返し願いたいのだが」

「あんたら、物事の表面しか見てないんだな」

 棘のある言葉にイスビスがむっとした表情になった。

「事実であろう? ならばそれが全てではないか」

「何だ、ろくも調べずに来たのか。 俺達は何の意味もなく奪いやしねぇよ」

「では、貴族の娘をさらった理由はなんだ?」

「……頭領の妹があの貴族に拉致されたのさ。 あんな汚い男に妹の純潔を汚されて堪るかって……憤ってたんだぜ?」

 妹って……舞ちゃんか!

 あの見るからにダメそうな貴族の手籠にされているやもしれないとは……。

 それはちょっと行き過ぎた妄想であると信じたいが。

「そんな情報は入っていないが……」

「まぁ、盗賊の身内が貴族に拉致られても大した出来事じゃねぇからな」

 一応この世界における身分格差は分かっている。

 典型的な縦社会で、王侯貴族(クォールさん)が最上位、次いでその者達に官職等を貰っている者(俺やイスビス、キロム)。

 そして平民。

 ここに農民、職人、商人も全て含まれている。

 その下に公奴隷(亜里沙やルイル)

 そして最下位に盗賊や罪人、前科持ちという順番。

 貴族達からしてみれば、盗賊は愚か、平民が一人死のうがどうなろうとも知ったこっちゃないという態度。

 なのでそう言った細かい事は、イスビスの耳にも入ってなかったのだろう。

「……その情報の真偽が分からない今はどうとも言えんな」

「そうかい。 でも、頭領とそっちの坊主が知り合いみたいだから、話し合いをしてみてはくれないか?」

 志加野の提案にイスビスは逡巡したが、やがて頷いた。

「んじゃ、ここで待っててくれ」

 通されたのは、何の変哲もない部屋。

 岩を切り出して設えられた椅子がある程度だ。

 そこに俺達だけが残され、志加野や目を覚まさない安藤兄を初めとする盗賊達は別室へと向かって去って行った。

「……捕らえられた訳ではないようだが」

 イスビスが壁を調べながらそう呟いた。

 監視カメラもない現代はやはり基本は歩哨を立てるなりするのだろうが、人の気配もない。

 もしこれが敵の策略でも、逃げることは容易とまではいかなくとも逃げることは可能だと思う。

「捕らえるなら、何らかの形で武器を取り上げるなり分散させると思いますわ」

「隊長は疑い癖がありますよ」

 因みに女性三人が椅子に腰掛けている構図。

「だが……楽観は出来んしなぁ……」

「あの、ずっと気になってたんですけど、寄生体って何ですか?」

 今更感はこの際目を瞑っておいてもらいたい。

 どうしても気になったのだ。

「うむ……我には明確な説明は出来ないのだ、すまん」

「では私が代わりに……。 天然の寄生体とは、魔力を食うムシですわ。 あの方の体内に居たのは、調教されたムシで、魔力以外のモノも喰らってますわ」

 流石クォールさん。

 コンパクトな説明をどうもありがとうございます。

「……エイリアンみたいだな」

「? え、えいりあん?」

「聞いたことないな」

「一体何ですか、それ?」

 キロム以外からの質問攻め。

 思わぬ所で前世の知識が災い(?)を呼んだものだ。

 なんとかのらりくらりと言及を防ぎ、話題をすり替えようとするが的確な話題が浮かばない。

「……隊長、魔王ってあの魔王ですよね……?」

「ん? あぁ、そうだな……、我も信じがたい光景を目にした」

 空気を読んだのかそうでないのか、キロムが違う話題を切り出した。

 多分、俺の絡んでる話題は無いものとして時間が流れてるんだろうな。

 喜んで良いのかは分からないが、いい加減その扱いにも慣れて来た俺。

 人間の慣れって凄いね。

「でも、明らかに人外の動きでしたし……、何より手刀で真剣をへし折るのは現存する人体強化魔法でも不可能かと」

 正直、俺も絶対の確信は無いのだけれども。

 でも俺がこっちで出会った人の中では格段に強い存在ではある。

 あんな衝撃波を発しながら手刀で真剣をへし折るなんて芸当は多分俺には不可能だ。

「ま、その話はまた今度だ」

 何故、と問う前に志加野が部屋に現れた。

「取り込み中悪いが、頭領がお目覚めになられた」

 するとその後ろから安藤兄が現れた。

「どうもみなさん、安藤 慎也と申します。 そこの右侍とは友人でもあります」

 盗賊に似合わない礼儀正しい態度に、俺以外が驚きの表情を見せている。

 亜里沙は一応安藤兄のことを知っているが、容貌の変わり様に驚いているようだ。

「よぉ、久しぶりだな」

「右侍……生きていたんだな。 てっきり死んだと思ってたよ」

 いや、一回死んだんだけどね。

「……しばらく前に会った気がするんだけどな」

「すまないが、そんな記憶はないんだが……」

「そうか……」

 イマイチ会話が成り立たないのだが、それでも俺は不快感の類は一切感じない。

 恐らく、安藤兄も同じ様な心境にあると思われる。

「まぁそれは、置いておいて……。 舞ちゃんが、大変なんだってな?」

「あぁ。 信じてはくれないかもしれないが、事実だ。 まず、何故僕がこの地に居るのかも分からないんだけどね……。 この岩山をさ迷っていたら急に襲われて、舞がさらわれてしまったんだ」

 基本的に俺は安藤兄を信じているのだが、数ヶ月前のことを覚えていない所を見ると、なんとも言えない警戒心が心に渦巻く。

「右侍。 単刀直入に聞くが、信じられるか?」

「……俺自身は、信じてます」

「そうか……。 頭領殿は、これからどうされるつもりで?」

 安藤兄は予備を用意していたのか、魔王にへし折られたのとは違う長剣を差している。

 それの柄に手を掛けた。

「本日、夜討ちをかけるつもりです」

 因みに今はもう夜明けで、朝日が差し込んで来ている。

「……それは穏やかではないですな」

 イスビスは、これは困ったと言った表情。

 見た目も性格もイケメンのこの男は、妹のこととなると周りが見えなくなるようだ。

 所謂シスコン。

「止めるなら、止めて見せて頂いても構いませんが?」

 安藤兄の気迫に気圧されたイスビスは、何も言えずに黙ってしまった。

 止めなければならない立場にありながら、依頼の正当性を疑う板挟みに苦しんでいるようだ。

「……まず、貴族の娘と会わせてもらえないか? 場合に依っては、我らが交渉を行うのもやぶさかではないのだが……」

「よろしいでしょう。 こちらです」

 安藤兄に先導され、さっきとまた造りも同じ様な石室へ。

 ただ相違点を挙げるなら、歩哨役が二人程立っているということ。

 如何にも大事なものが部屋にあると思わせる様相である。

「一応、武器を預けて頂きたいのですか」

「……了解した」

 武装解除したイスビスに倣い、俺達も武器を外す。

 軽い身体検査も行われ、ようやく石室へと入ることが出来た。

 そして、そこで目にしたのは……。


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