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転生とチートと復讐そして奴隷  作者: 京城 都人
2 新たな暮らし
33/38

32 温度差


 今日は短めですが、投稿します。

 主人公のキャラが定まらない……。


 感想や評価等お願いします。



 夕方も終わりがけに、イスビスの使者がやってきた。

 説明を兼ねて夕食を共にしたいとのことで、正装で来るように言われたのだが……。

「正装って……どんな格好なんだ?」

「その場の格式に合った格好のことですが」

「いや、言葉の意味じゃなくてだな……」

 正直、今俺達の所持している服は正装とは程遠いだろう。

 この世界では、服は仕立てをするのが一般的で、店に行って気に入ったものを買うということが出来ない。

「今持っている中で、一番良いものを着て行くのが最善策かと思われますが」

 亜里沙の意見は尤もだが、それで良いものかと逡巡する。

「あなたは傭兵としても扱われるはずですから、きっと思いきって武装して行っても良いぐらいだと思いますわよ?」

 見ようによってはドレスに見えなくもない、いつもの服装をしたクォールさんが上から降りて来た。

 唯一違うのが、サイドポニーを今は下ろしていることか。

「そうですかねぇ……。 ところで、何故髪を下ろしているんですか?」

「マルシアでは、儀式や格式の高い食事会では女性は髪を結っちゃダメなんですの。 これは習慣なので致し方ありません……似合ってませんか?」

 下ろしてある、やや癖のある髪を指先で弄りながら上目遣い。

 その色気に、一瞬息を飲んだ。

「い、いえ、下ろしていても素敵ですよ」

「ふふ、ありがとうございます」

 悪戯っぽくウインクされたので、さっきの表情とのギャップにまた俺は脳をやられた。

「……ふん」

 隣では会話に入りそびれた亜里沙が、頬を膨らませてそっぽを向いた。






 使者の先導のもと、馬車に乗って役所の方に向かった。

 今まで二度乗った、あまり上等でない馬車ではなく、一応中級程度の装飾のされたものだ。

 乗り心地に大差はないと言うのは内緒だ。

 やはり長時間は乗りたくない。

「待っていたぞ。 こっちだ」

 いつも通りの格好をしたイスビスに迎えられ、役所(と言うよりは城に近い建物だ)の一室に通された。

 そこには食事がもう用意されており、イスビスに促されて俺とクォールさんは席に着いた。

 公的には亜里沙は奴隷の為、こう言う場で同じ席には着けない。

 頭では分かっていても苛立ってしまう。

 それを感じ取ったのか、クォールさんに視線で窘められた。

 暫しの間沈黙していると、扉が開き、身なりのいい肥った男が複数の従者を従えて現れた。

 多分コイツが依頼者の公爵なのだろう。

 貴族とはどうしてこうも醜く見えるのだろうか。

「こちらは、今回の依頼者であるノリボス二世公爵にあらせられる」

「どうぞ公爵様席へ。 粗末な食事ではありますが、お許し下さい」

 イスビスの遜った挨拶に満足したのか、ノリボスは気味の悪い笑みを浮かべ、席に着くと瓶を抱えた従者を呼び寄せた。

「まぁ料理はクソでも、酒が美味ければマシにはなるだろう。 さぁ一献」

 詮を開け、席に着いている四人の盃がノリボスの持参した酒に満たされた。

 ごてごてとした紫の液体を、最初に香ったノリボスが一口。

「……んはぁ、これはたまらんなぁ。 さぁお主らも呑め、呑め」

 勧められるままにイスビスが一口。

 一瞬動きが止まったように見えたが、何事もなかったかのように「美味しいですね」と一言。

 お次にクォールさんが一口。

 にこにこ笑顔を崩さずに盃から口を離し、「とても良いお酒ですわね……ぐふ……」と言い切ってから、小さな声でむせた。

 ノリボスは気付いていない様子。

 やっぱり、この酒は爆弾のようだが、順番的に俺の番。

 意を決して盃を口に近づけ、僅かな量を流し込む。

 すると、舌は焼けるように熱く、口の中から鼻に入ってきた何とも言えない悪臭に涙が出そうになる。

 こんなモノを、二人は澄まし顔で美味しいと言ったのか?

「お主、感想はどうであるか?」

「……んくぅ、ふぅ……。 いや、とても僕の舌じゃあ理解出来ない上品な味ですね」

 嚥下するのに大分苦労したが、なんとか胃袋に流し込み、感想を述べた。

「ぬっふっふっふっ。 舌で酒を味わうのではまだまだ半人前だな。 これは喉で味わうものだ」

 するとノリボスは、何の躊躇いもなく盃の酒を一気に飲み干してみせた。

 そして歓喜の声を上げた。

「かはぁぁっ! これだ、これ。 余はこの酒に出会うのに長い時間を費やしてしまったわい、全く」

 空になった盃に、瓶を持って控えていた従者がなみなみと酒を注いだ。

「あの、ノリボス様。 そろそろご依頼の内容をお教え下さいませんか?」

 このままでは進展がないと踏んだのだろうイスビスが、今日の本題を口にした。

 すると醜悪な笑みで酒を楽しんでいたノリボスの表情が曇った。

「うむ……その件なのだが……」

 先程とは打って変わり、盃の酒を含む程度だけ口に運び、深々とため息をついた。

「今、既に傭兵が依頼を遂行しているのだが……今朝の定時連絡が途絶えたのだ……。 敵は盗賊と侮っていたのだが、考えを改めることにした。 報酬もケチりはせん。 二百万ルディアでどうだ?」

 一般的な家庭の月収は約十万ルディア程度。

 それを加味すれば、かなり高額な報酬であることが窺える?

「分かりました、受けましょう。 後は、詳しい打ち合わせになりますが、フィリスお嬢様の救出の方法は我々にお任せになりますか?」

「うむ。 我が娘に危害が無ければ何でも良い。 では、任せたぞ」

 言うや否や、従者と共に部屋を出て行った。

 扉が閉められ、足音が遠退くのを確認すると、すぐにイスビスは料理人と思われる男に盃を持って来させた。

「……ふぅ。 酷い酒だった」

 盃の水を飲み干すと、イスビスが忌ま忌ましげに瓶を睨みつけた。

 あの酒を土産としてノリボスが置いて行ったのだ。

 クォールさんも眉をひそめながら水を飲んでいるのを見て、やはり苦しかったのだろうと確信。

「大丈夫ですか、ご主人様?」

 終始後ろに控えて、事の成り行きを見ていただけの亜里沙が羨ましくて仕方なく思えた。

「あぁ、なんとか。 舌が溶けるかと思った」

「確かに、ノリボス殿の酒の趣味は貴族の間でも悪趣味だと噂されているぞ。 まさかここまでとはな……」

「私も、このようなお酒は呑んだことはありませんわ……」

 全員が酷い目に遭ったと認識し合ったところで、ようやく本題へ。

「さて、今回は我と右侍君の二人で向かおうと思う。 お二方は留守番をしていて欲しい」

「あの、そのことなんですが……」

「ん?」

「イスビスさんはご存知ないと思いますが、亜里沙もクォールさんも腕は立ちます。 動ける人手が足りないと言っていたので、この二人にも手伝わせてやってもらえませんか?」

 イスビスは腕組みをし、何やら考え始めた。

 一応検討はしてくれているのか?

 それともどう断ろうか考えているのか?

 どうやら考えはまとまったようで、腕組みを解いた。

「……クォール殿は、それでよろしいのですかな?」

「えぇ。 喜んでお手伝いさせていただきますわ」

 笑顔でそう答えると、イスビスは部下と思われる女性を呼んだ。

「今日深夜より、クォール殿として彼らの家に駐屯せよ。 我らが戻るまで、外部の人間に悟られるな」

「はっ」

 手短に命令を出すと、再びこちらに向き直った。

「では、クォール殿はその正体を見破られぬように上手く振る舞って下さい。 では、また使者を出す故、それまでに出立の準備をしておいてくれ」

 そうと決まった以上は早く家に戻ろうと思ったが、折角美味しそうな料理がテーブル一杯に並べられているので、亜里沙を含めて三人で美味しくいただいてから家に戻った。






 家に戻ってから準備をし、それもあらかた終わったので、今は一息ついているところ。

 まだ使者は来ていない。

「……ルイルは、まだ戻らないのか」

 依頼はいつ終わるのか、それは全く以って予想もつかない。

 もしかすると明日かもしれないし、今この瞬間なのかもしれない。

 余計な心配は要らないとは思うものの、顔を合わせていないと寂しくも感じてしまう。

「あら、もう準備は終わりましたの?」

 髪を下ろしたままのクォールさんが大剣を背負って現れた。

 身体は黒い外套に包まれている。

「髪、直さないんですか?」

「えぇ。 丁度いい変装になると思いまして」

 確かに、サイドポニーとはイメージが違う。

 結っている時よりも少し色気が増しているような……。

「後は亜里沙だけですね」

「私ならもう準備万端です」

 上の階ではなく、居間の方から亜里沙が姿を現した。

 その手には何やら液体の入った瓶が三本。

 蛇足ではあるが、瓶はそれ単体で売られているぐらい価値のあるもので、水筒の代わりに使ったりもする。

「それは、なんですの?」

「夜は冷えますから、スープでもと思いまして」

「それはいいな」

 瓶を一人一本受け取り、使者が来るのを待っていると、程なくしてまた馬車を引き連れた使者が現れた。

 結局、ルイルは戻らず、三人で馬車に乗ってイスビスの許へ向かった。






 イスビスと合流後、馬に乗り換えてマルシアの街を出た。

 亜里沙は馬に乗れないので俺の前に乗っている。

 こちらの方が安全だからだ。

 イスビスの先導に従い、目的地のアジトへ向かう途中の休憩中にスープを頂く。

「ん……美味いな」

 野菜の甘みが疲れを癒してくれている気がした。

 イスビスはそれを尻目に剣を点検していた。

 彼の出で立ちは、マルシアの正式な兵装だった。

 青を基調としたその鎧は所々に黒い染みのようなものが見受けられた。

 恐らく、斬った人間の返り血であろう。

「一口どうです?」

「ん? あぁ、いや、遠慮しておこう。 この武装は意外と厚着でな、極寒の地でも動けるぞ」

 案外それは本当なのかもしれない。

 息が白くなるぐらいの空気の冷たさに拘わらず、馬を降りた時の彼は汗ばんでいたぐらいだ。

「さて、そろそろ行軍を再開するか」

 剣を仕舞い、立ち上がった所で、イスビスは来た道の方に視線を向けた。

 何かが迫ってくるのが視認出来る。

 月明かりはそれ程強くないので、まだその正体は掴めない。

「イスビス様ぁぁぁ!」

 すると、女性の声が響いた。

「この声……キロムか!」

 迫って来た影は、馬に乗った女兵士だった。

 髪は短く切り揃えているので、少々男っぽい。

「もぅ、置いて行かないで下さいよ。 隊長在るところにキロム在りですって何回も言ってるじゃないですか」

 また何とも個性の強そうな人が来たものだ。

「怪我で寝ていたはずだろう」

「隊長が出撃したと聞けば寝てなんていられませんっ!」

 よく見れば腕には包帯を巻いている。

 重傷には見えないが、やはり安静にするのが一番だと思う。

「それで、何用だ?」

「はいっ! このキロム、イスビス隊長の任務に同行致します!」

「……どうせ言っても聞かんだろうな。 よろしい、自分の身は自分で守れよ」

 新たな同行者となったので、挨拶をすることに。

「アタシはキロムです! よろしく、お二方」

 ん?

 お二方?

 一人足りない、と言おうとしたところでイスビスがやれやれと首を横に振った。

「キロムは男嫌いでな、初対面の男は眼中にも入らないんだ。 隊の連中も初めは相当苦労したみたいだしな」

 早速キロムは亜里沙とクォールさんとは打ち解けて話をしている。

 ところが一向に、俺に対して何かしらのアクションを起こそうとする気配が感じられない。

 イスビスの言う通り、完全に無視されている様子。

「……キロム、もう我々の休憩は終わりだ。 行けるか?」

「もちろんですっ! では四人で参りましょう!」

 ……きっと俺だけじゃないんだよな、こんな切ない気持ちになったのは。

 しかも亜里沙もキロムの馬に乗ってしまった(と言うより乗せさせられた)のでさらに切なくなった。

 俺は瓶の中身を飲み干し、行軍は最後尾に位置して進んだ。

 身体は温かいのに心は冷たいぜ。


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