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ちょっとまだチートが目立たないので、もどかしいかもしれません。

あと、転生についても後々にはっきりするのでお待ちいただけると幸いです。



 外府にある第一演習場は所謂スタジアム型になっており、審査官は客席に当たる部分から全体を見回すそうだ。

 その第一演習場には既に多くの参加者が集まっていた。

「右侍、まさか緊張しているのか?」

 登録所に並んでいるとき、親父がそんなことを言ってきやがった。

「まさか。 てか親父こそ審査官席行かなくていいのか?」

「まぁ一つ助言してやる。 絶対に周りに釣られて突撃するなよ」

 俺の返事を待たずに親父は審査官席のある上へと向かって行った。

 そして俺の番になって登録、番号を割り当てられ、氏名と得物の刃引きされているのかを確認して終了。

 登録時に見た名簿から見ると大体俺で千人と少しか。

 登録終了後、一人で試験会場となる演習場の端に腰を下ろし、精神統一をすることにした。

「やぁ、君も参加者?」

 するといきなり声がかかった。

 ここにいる時点でそんなことを聞くのは明らかに愚問だが、敢えて指摘する気もなかったので声の主を見る。

 俺と同い年ぐらいの少年。

 着ているものを見る限りでは良家の子息と言った風情。

 それで且つ腕に覚えがあるから来たのだろう。

 得物と思われる、使い込まれた長めの木刀を引っ提げている。

「あぁ。 雑兵として初陣はしたくないからな」

 言い忘れていたが、これは雑兵ではなく士官を選抜する白兵戦である。

 なので、上位で合格と見做されれば、いきなり兵士を百人を配下に置いて指揮を執るという可能性もある。

「そうだね。 僕は、安藤 慎也。 君は?」

「俺は竹中 右侍だ。 お互い頑張ろう」

 ここまでは年頃の少年同士の自己紹介。

 そして気付いたのは、彼の苗字である安藤とは『国』の中の文官達の中でも上位に位置する名家だ。

 さらに俺の苗字が竹中と聞いて、安藤の表情が少し変わった。

「……君も、一刀流かい?」

「あぁ、そうだな」

 一刀流とは、刀一本で戦うというスタイルのこと。

 恐らく得物である木刀を見てそう判断したのだろう。

「なら、尚更負けられないなぁ」

 口調はおどけすら感じさせるものだったが、顔は武芸者そのものだった。

 ただのボンボンということではなさそうだ。

「やはり師は父親かな?」

「そうだな。 父以上の師はいないと信じてる」

 俺がそう言うと、安藤は苦笑いを我慢しているような顔をした。

 まぁ悪い感情は持たれていないと思うが。

「師は良くても本人の腕次第さ。 お、始まるみたいだな」

 なんとなく、宣戦布告されたと感じた瞬間に銅鑼の音が鳴った。




「白兵戦の参加者は全員こちらに注意をむけろー!」

 銅鑼の音がした方を見ると、進行役らしい甲冑を着た兵士数名がいた。

 その中心にいる、小さな飾りの付いた兜を被った兵士が大声を張り上げている。

「よーし! いいかぁ、まずは確認だが、ちゃんと登録をしてここに来ているか? 飛び入りは認めん。 次に、ちゃんと刃引きされた得物は持ってきているか? これは登録時に確認済みだが、もう一度確かめろ!」

 父の話によると、毎年何人かは必ず真剣の武器を持ってくる者がいて、必ずと言って良いほど死人が出るらしい。

 一応自分の木刀を一瞥し、真剣でないことを確認する。

「では次に、白兵戦の説明だ! いいか、今から兵士が縄を引いていくから、その縄から俺から見て右が白、左を赤組とする!」

 そう宣言するなり、俺の程近いところを兵士が縄を引っ張って行って人の集まりを分断した。

 つまり、俺は赤で、縄のすぐ向こうにいる安藤は白組ということになる。

「それでは、今からそれぞれの組の色をした帽子を配るからそれを被れ! 既に頭に何か装備している者は帽子に取り替えろ! 帽子を被らなければ失格と見做す!」

 別に異存もないので大人しく赤い帽子を被る。

 大の大人が被ると少しだけ無様だが、すぐに笑いの欲求を抑え、木刀を強く握る。

 それぞれの組が演習場の端と端(大体向こう側までは三百メートルぐらいだと思う)に別れ、後は銅鑼による開始の合図を待つだけ。

 そして、一瞬の静寂の後、運命を決める銅鑼が鳴った。



 総大将もいなければ作戦もクソもない突撃。

 右も左も雄叫びをあげて突っ込んでいくのを冷ややかに見送り、一歩遅れて俺も突撃。

 どうやら他にも同じ思考をした人間がいるようだ。

 いずれも猛者っぽい雰囲気を感じる。

 顔を覚えておこう。




 最前線では我先にと突っ込んだ者達同士が文字通りの肉弾戦を繰り広げている。

 そこからすり抜けてきた一人の槍遣いと目が合い、自然と対峙する。

 初めての実戦だからといって胸を借りるつもりなんかは毛頭なく、俺から躊躇なく槍を切り上げる。

「このっ」

 相手の槍遣いは切り上げられたままの槍で俺が追撃に放った袈裟切りを受け止めるとそのまま押し返す。

「どりゃぁ」

 そしてすぐに体勢を整えた槍遣いの鋭い胸への一突き。

 なんとか木刀で軌道を逸らすと、再び敵の懐へと潜り込み、木刀ではなく蹴りで体勢を崩させる。

 その狙いは的中し、腹に蹴りを受けた相手は数歩たたらを踏んで前を見るが、次の瞬間にはお手本通りの軌道から袈裟切りをその身体に受けた。




 槍遣いはその場に大の字で倒れた。

 本当なら手を貸してやりたいが、もう次の相手がそこに迫っていた。

 さっき最前線で見かけた、デカイ図体に似合ったゴツい木刀二本を振り回していたスキンヘッドの男だ。

「うがぁぁぁ!」

 その咆哮に一瞬身体が竦んでしまうが、土を蹴って素早く男の懐に入ろうとするが、 男の膝蹴りが頬を掠めていった。

「あっぶね……」

 無意識に放った言葉だが、どうやらスキンヘッドはそれに気を良くしたらしく、さっきよりも大きな咆哮を上げて間合いを詰めてくる。

 しかしそれが彼の致命的なミスだった。

 そして彼は激しく動揺した。

 目の前の少年が、自身の繰り出した二本の木刀の斬撃(実際には切れないが)を受ける瞬間に目の前から消えたのだから。

「がっ……は……」

 漏れだした苦悶の声の主はスキンヘッド。

 彼の腹にはしっかりと少年――右侍の木刀がこれでもかと言うぐらい食い込んでいた。

 手応えを充分に感じた俺は木刀を男から離した。

 そしてさっきの槍遣いと同様にそのまま倒れた。

 今のはしっかり技の型通りに出来た、と自分を褒める。

 しかし今はそれ以上の満足感に浸る間もなくさらに敵が俺に殺到するのに対応する。




 それから何人かを切り伏せたところで、偶然か必然か、すぐそこに安藤の顔があった。

 斬った敵の反り血に塗れている――なんてことはなかったが、それを彷彿とさせる雰囲気が彼を包んでいた。

 ここが本物の戦場で、目の前の敵を情け容赦なく屠ってきた歴戦の勇士のような雰囲気……。

 俺はすっかり彼の雰囲気に呑まれていて、今斬りかかってこられてもろくに反応出来ずに打ちのめされていただろう。

 しかし、安藤も同じように雰囲気に呑まれたような表情をしていた。

 それに意外感というべきか、驚きというか、何とも言えない気分を感じた。

「――真剣勝負だ、来い右侍!」

「――もちろんだとも、慎也!」

 木刀を構え直し、二人の間に火花が散った。

 そしてしばらくの対峙の後、お互いが同時に木刀で切り掛かった。


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