表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生とチートと復讐そして奴隷  作者: 京城 都人
2 新たな暮らし
29/38

28 甘い誘惑と罠

 感想や評価、特に感想をお待ちしております。


 翌朝、二日酔いでまともに歩くことさえできないルイルを担いでホテルを出て家へと戻った。

 玄関を開ければ、仁王立ちする亜里沙さん。

 これはお説教コースだね。

 でもルイルは寝かせてからにしてください。

「お帰りなさいませご主人様、ルイル」

 ニッコリ笑顔だけども目が笑っていません。

 確実に怒っていらっしゃるご様子。

「随分と遅い帰宅ですのね。 それに……ルイルの髪が黒くなっているのは何故ですか?」

 やっぱり見逃してはくれなかった。

「と、とりあえず……ルイルを寝かせてからお説教を……」

「早く戻って来て下さいね?」

 笑みが消え、真顔になった亜里沙の変容に背筋に冷たいものを感じながら二階へルイルを運んだ。

 部屋のベッドに寝かせると、すぐに安らかな寝息を立て始めた。

 とりあえず掛け布団だけ掛けて部屋を後にした。






 結果的に言えば、こってり絞られた。

 暴力はなく、精神的にふるぼっこにされた。

「……それで、ルイルも奴隷にしたんですね?」

 流石に、ルイルに公認奴隷の烙印があることは俺達は見落としていることだった。

 だが、誰とも契約していないのは意外だった。

 てっきり連合の上層部とかと契約している気がしたんだが……。

「そうだ。 まぁ成り行きと言うか……」

 亜里沙は頻りに俺がルイルを抱いたのだろうと鎌をかけて来たが、抱いていないのでボロも出なかった。

 流石に思い止まったよ?

「で、これからどうされるつもりですか? 連合に勤める彼女を奴隷としてご主人様が私有化してしまった以上は、最悪彼女は退職しなくてはなりませんよ?」

 こっちの労働条件を知らないのだが、もしかしてまずかったか?

「えーと、どういうことだ?」

「一般的に奴隷は私有化された場合はその人に仕えるんです。 つまり、私達と同じく傭兵になる可能性があると言うことです」

 折角の職場を失うってことか。

 一応役人ではあるが。

「とりあえず、ルイルの意向も聞いてみよう。 まずはそこからだ」

 と言っても爆睡していると思うが。

 どうしようかと思案していると、玄関のドアがノックされた。

「はーい、どちら様でしょうか?」

 亜里沙が出迎えると、すぐに訪問者は中に入って来た。

「ルイルは何処だ?」

「……何をしに来たんですか?」

 不審に思って尋ねてみると、彼は左手に持っていたモノを見せつけた。

「「染色剤……?」」

 俺と亜里沙は同時に首を傾げた。






「今朝一番に報告を聞いて焦ったぞ。 まさかもうルイルに手を出すとはな」

「手を出すなんて……」

「奴隷化しているのは、立派に手を出した証だ」

 ぐうの音も出ないとはこのことだ。

 眠っているルイルを椅子に座らせ、染色の泡を塗っていくイスビスの手つきは慣れたものだった。

「こういうことは、結構な回数やって来たんですか?」

「まぁ、な。 ……よし」

 どうやら終わった様子。

「では後は任せてくれ」

 そう言われたので部屋を後にした。

 下へ戻ると、亜里沙が昼食を作って待っていた。

「もう終わるみたいだ。 ちょっと待ってよう」

「……ご主人様?」

 急に不安そうな顔をした亜里沙。

 どうしたのかと尋ねるまでもなく彼女は抱き着いて来た。

「私のこと……捨てないで下さいね……?」

「何馬鹿なことを言ってるんだ。 俺は亜里沙が大好きなんだぜ?」

「ルイルばっかり見ないで下さい……。 わがままな奴隷で申し訳ありません……」

 頭を撫でて落ち着かせようとしていると、階段から人が降りてくる足音がした。

 それを感知するなり、亜里沙は俺から離れて元居た席に座った。

「ごはんにしましょうか」

 イスビスが姿を現した所で、亜里沙は笑顔でそう言ったが、どうにも無理をしているような笑顔だったのに気付いた。






「では我は戻るとしよう。 くれぐれも、連合には知られないようにな」

「はい。 では」

 イスビスから注意されたことは二つ。

 まずはルイルを奴隷化したことを連合には秘密にしておくこと。

 そして二つ目は、俺達には監視兼護衛が付いているので、あまり軽率な行動をするなと釘を刺されたことだ。

「さて、と。 今からどうする?」

「そうですね……。 いろいろあって疲れたので、お昼寝でもしませんか?」

 これからは依頼も役人の仕事も入ってくるだろうし、安眠出来るのも今日ぐらいかもな。

 よし、そうとなればお昼寝だ。

「じゃあ寝るか。 って何をしてるんだ?」

 正座をした亜里沙。

 膝の上を軽く三回程叩いた。

 恐らくはここに来いというジェスチャーだ。

「いや、部屋に行こうよ」

「どうぞこちらへ」

 聞いてらっしゃらない。

 仕方なく俺は膝枕をしてもらった。

 かなり嬉しいんだけどね。

「寝心地はどうですか?」

「かなり良い」

「ふふ……おやすみなさい、右侍」

 その言葉が引き金となったのか、疲れの津波が俺を飲み込み、すぐに俺の意識を奪っていった。






「ちょっと右侍起きなさいよ! 起きなさいってば!」

 誰かが俺を叩いている。

 もう少し寝たいんだ……そっとしといてくれ。

「こうなったら……えい」

「痛っ!?」

 思いっ切り腕を抓られた。

 その痛みに耐えかねて眠気が飛んでしまった。

「あ、起きた」

「何て起こし方しやがるんだ……」

 すっかり出会った時と同じ、オレンジの髪色をしたルイルがちょこんと座っていた。

「ねぇ右侍。 私ってもう右侍の恋人よね?」

「は?」

「契約してくれたじゃない。 髪の色はどうせイスビスが戻したんでしょうけど、しっかり記憶にはあるんだからね?」

 恋人ではなく奴隷だと思うんだが。

「俺の恋人は亜里沙なんだが……」

「一番は譲ってあげるから、二番目の恋人ってこと」

 何とも都合の良い解釈なんだが、彼女は俺との契約を恋人としての契りとも受け取っているのか?

「いや、でも……」

「じゃあ、他の誰かに抱かれていいの?」

「良くはないけど……さ」

 とにかく亜里沙にこれも話すべきか?

 また説教になりそうだが。

「ところで何で起こされたんだ?」

「べ、別に何でもないわよ?」

「なら、おやすみ」

 再び眠っている亜里沙の膝枕を楽しもうとすると、腕をルイルに掴まれた。

「……か……の」

「ん?」

「寂しかったのっ!」

「うわぁ!?」

 勢いのあるタックルにバランスを崩してしまい、縺れ合って床に転倒した。

「いてて……ってうわっ」

 仰向けに寝転んだ俺が膝をつき、その下腹部の辺りに俺に抱き着いているルイルの下腹部が当たって……。

 つまり、体勢的には騎……。

「ふわぁ……、ってご主人様何をしてるんですかっ!?」

 タイミング悪く目を覚ました亜里沙は俺とルイルの誤解を招きそうな体勢を見て、目の色が変わった。

「いや、これは誤解で……」

「ご主人様! そんなに溜まっていらっしゃるのなら私に言って下さい! という訳で今からご主人様に愛し……ご奉仕致します!」

「ちょっと、私が先よ!」

 俺を巡ってこの場に収拾のつかない痴話喧嘩(?)が勃発した。

 今はゆっくり眠りたいのだが……。

「いいえ、新入りには荷が重いので先輩の私がやります!」

「右侍は初物が好物だから私が適任なの!」

 俺は初物とか気にしない主義なんだが……。

 そうだ、連合に依頼でも見に行くか。

 確かあそこは夜でもやっていたハズだ。

「初物じゃあ到底ご主人様のご奉仕なんか出来ません! 精々鳴かされるだけです!」

「ていうか、そんなに抱かれたいなら陰館でも行きなさいよ!」

「ご主人様と一緒に居て、ご主人様にしか抱かれたくありません。 私はご主人様の妻なんですから」

「結婚してないでしょうが! 勝手に右侍を墓場に持っていかないで!」

 ヒートアップしてるな……。

 ルイルの言う墓場って、結婚は人生の墓場って言うあの墓場なのか?

「私のご主人様だから結婚しているも同然ですっ! あなたは、まぁ食事の世話ぐらいならさせてあげますわよ?」

「頭きたわ……。 あのねぇ、デカ乳だけが魅力だと思わないでよ!? 思ったよりお尻大きいクセに!」

「ひっ!? 言いましたね? 私が最近悩んでいる恥ずかしいコンプレックスを言いましたねっ!?」

「えぇ言ってやったとも。 あと、勘が正しければお腹も……」

「いやぁぁぁ!? もう言わないで! 不摂生をした私が悪かったから、もうご主人様に私の恥ずかしい悩みを暴露しないでぇぇぇ!」

 ルイルの勝利に終わったみたいだな。

 かく言う俺はもう玄関にいて、ドアを開けるところだった。

 触らぬ神にはなんとやらってな。






 連合は予想通り、夜でも開いていて、何組かの傭兵達が依頼板の前で何やら話し合っている。

 そして二階からは相変わらずの怒号と喧嘩か何かで生じる振動が伝わってくるのだが、正直穴が開かないか心配だ。

「んーと……」

 上級の証である額縁に飾られた依頼書を順に見ていくと、依頼板を見に来た目的の一つを発見した。

「ミラードラゴン討伐、報酬は一千万ルディアか……。 やっぱ上級の魔物だったんだな」

 しかしその依頼書には大きく赤い字でバツが印されていた。

 討伐完了と言うことなのか、受注済みの証なのかは分からないが、とりあえず受けられないと言うことは分かった。

「君、一人かな?」

 後ろから声をかけられて振り返ると、炎を摸した様な形の大剣を背負った女性が立っていた。

 見た目的に年齢は俺より三つぐらい年上か。

 クリーム色の髪をサイドポニーで結っているのが良く似合っている色白美人だ。

 一番の特徴は、右目の眼帯と装備の上からでも分かる大きな膨らみと引き締まった腰周りに大きすぎるという印象は与えない形の良さそうなお尻。

 典型的なナイスボディ……亜里沙とルイルを足して割ったらこんな体つきになりそうだ。

「はい、他のメンバーは家ですけど」

「君、女難の相が出てるよ。 もしかして追い出されちゃったの?」

 本当に傭兵か?と思わせるぐらい上品な笑い方をする彼女に、俺は新しい魅力を感じていた。

 ずばり姉キャラ。

 ただ、一つ気になる点を挙げれば、瞳に生気が感じられないことか。

「いや、まぁ自分から出てきたと言うか……」

「恋する女の子って恐いものね」

 その通りだと思う。

 ただ、一緒に住むことになっているのだから仕方ない。

「あ、申し遅れたけど、私はビエルア・クォールと言います。 好きに呼んでもらって構わないわよ?」

「僕は竹中 右侍って言います。 えーと、クォールさん」

「何かしら?」

 包容力のある笑顔にノックアウト寸前です。

「あの、何で僕に声をかけたんですか?」

「そりゃあ、武器も鎧も着けずに上級の依頼板を見ているんだもの。 みんな興味津々よ?」

 そう言われて周りを見ると、色欲に塗れた視線を送る男傭兵達の姿。

 いやいや、気付いてないのあなたですって。

「そういう人って、無謀ですぐ死ぬか……」

 細いが、引き締まった腕が伸ばされ、手が頬に当てられた。

 そのちょっとした行為が、今まで見たことがないぐらいになまめかしく感じた。

「すごぉーく、アブナイ人か、よね?」

 指先が、俺の左目に触れた。

 すると俺の左目が激しく熱を持ち、あの鈍痛が走った。

「っがぁ!?」

 思わず手を振り払い、左目を抑えた。

 鈍痛だけで、血は出ていない様子。

「あらぁ、どうしたのかしら? 私が介抱させて頂くわね?」

 何やら本能が危険を感じて逃げようとするが、声も出ず、身体も動かなくなっていた。

 俺は、為す術もなく女に手を引かれて行った。






 いつの間にか眠っていたようで、振動が俺を起こした。

「ここは……?」

 さっと身を起こすが、何やら薄暗い屋内……荷馬車の荷車に似た空間の中に居る。

 左目の痛みもなくなっており、身体も自由に動く。

 どうしようか思案を巡らせていると、不意に振動が止んだ。

 聞き取りにくいが、人の話し声が聞こえる。

 それが終わると、荷車の戸が開けられた。

 そこには屈強そうな男を数人従えた、クォールが居た。

「目が覚めたかしら?」

 先程までのほんわかとした雰囲気から一変、獲物をいたぶる肉食獣のような目になっていた。

「やっぱ男は単純なのよね。 簡単な催眠でも引っ掛かってくれるんだもの」

 つまり、さっきのは魔法だったのか?

 全く分からなかった。

「あなたこれからどうなるか分かるかしら? 奴隷になるのよ? どう、絶望したかしら? 家で待っている恋人にももう会えないのよ? ふふ、ふふふふふふふふ」

 楽しくて仕方ないと言わんばかりの笑顔。

 完全に狂ってやがる。

「……いいのか? 俺を怒らせて」

 実は、ミラードラゴンを倒すときに、〈痛〉では倒せなかった時の為に創造しておいた魔法がある。

 と言っても、一撃必殺の技ではないが。

「ふん、強がりは好きじゃないの。 そんな足枷と手枷を付けられていながら私達を相手に、なん……か?」

 言い切る前に、クォールの身体が溶け始めた。

 それを用心棒らしき男が止めようと俺に襲い掛かるが、〈痛〉を発動して思いっ切り両目を凝視。

 男は為す術もなく崩れ落ちた。

 俺は錯乱するクォールと、狼狽する用心棒の様子を見て自分の優位を確信。

 取引を持ちかけることにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ