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転生とチートと復讐そして奴隷  作者: 京城 都人
2 新たな暮らし
28/38

27 寂しさを癒して

 本日も投稿と相成りましたので、投稿します。

 感想や評価、要望などお待ちしております。



 宿屋に戻ると、荷物が無くなっていた。

 元々の備え付け家具以外は何一つ残っておらず、初めてこの部屋を見たのと同じ状況だった。

「えーと……空き巣か?」

 この世界に防犯装置なんてものはない。

 とは言え、ここは宿屋の三階で、外からの侵入は難しいだろう。

 なら、このドアからの正面突破が残る。

 しかし押し入った形跡もない。

「あの……お金もないです……」

 残して置いた金が一ルディアも残っていなかった。

 これは……本当に困ったぞ。

「おう、君達。 さっき運送屋が荷物運んでったぞ。 これ、泊まってない分の宿泊費の残りだ」

 とルディアの入った袋を手渡された。

 その前に、運送屋が来たって?

 そいつらが犯人か?

「あと、下にあの大男来てるぞ」

「大男って……」

 思い当たるのは一人だけだ。

 イスビスのことに違いなかった。






「そういう訳で、引っ越しはもう済んでいる」

 開口一番にそう言われたので、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。

「えっと……」

「早く新居に行ったらどうだ? もう用事は済んだろ?」

「あの、運送屋を寄越すんだったらもっと早く言って下さい。 泥棒かと思いましたよ」

 あの大金が盗まれていたらと思うと背筋が凍りそうだった。

 もし金庫かなんかがあったら、絶対にそれに放り込んで管理しようと思った。

「何しろ急だったんでな。 今回は事後承諾ということで許してくれ。 代わりと言っちゃあ難だが、新居まで案内しよう」

 イスビスの先導に従い、新居へ向かった。

 また何か忘れているような……。






 一方、連合では……。

「なによ、すぐに来てって言ったのにぃ!」

 ルイルが全力で拗ねていた。

 仕事の同僚が、たまたま街中で買い物を楽しむ彼らを見たという報告を受けてからこの調子である。

 自分は素直(?)に彼の言葉を聞き、大人しく待っていた。

 実はその後すぐに一件仕事を任されそうだったのだが、無理矢理代えてもらったのだ。

 そこまでしたのに、買い物をしていた……それもあの女と……。

 その事実がルイルの機嫌の悪さに油をたっぷりと注いでいた。

「信じそうになった私が馬鹿だったわ……。 私のファーストキスを返せーーー!」

 ……遠巻きにその様子を見ていた同僚達は、哀れみと好奇心を含んだ目で彼女を見ていた。






「え」

 俺達は新居に着いて一息入れていた

 二階建ての、普通の家より少々大きい物件で、二人で暮らすには部屋数が多い。

 多分、十人は暮らせるぐらいの広さがある。

 そこで引っ越しも終わった居間で、亜里沙の煎れた茶を飲んでいた時のイスビスの一言が俺を驚愕させた。

「すまんかったな」

 最早お決まりの謝罪。

「もしかして……騙されたのか、俺達?」

「こちらも切迫していたのだ。 分かって欲しい」

 それはこちらの知るところの事情ではないと、反論したかったがそれはもう詮なきことなので黙っておく。

 変に逆らったら契約書を燃やされそうだ。

 また生き返れるのかもしれんが。

「まぁ良かったではないか。 ルイルは男の手すら触ったことのない純潔の乙女だぞ」

「……それはともかく、騙していたことに違いはありませんよね?」

 つまり、あの夜のルイルのキスは……。

 いかんいかん、思い出すだけで鼻血が出そうだ。

「ならば、何かしらの形で便宜を便宜を図らせてもらおう」

 何とも抽象的で都合の良い答えだが、一応それで納得しておくことにした。

「では、我は帰るとしよう。 この家は好きに使ってくれ」

 玄関までイスビスを見送り、ドアが閉まるなり何かが抱き着いてきた。

 言うまでもなく亜里沙だった。

「ご主人様〜……。」

 俺の胸に顔を埋めて甘える亜里沙を俺も抱きしめた。

 恐らく、二人っきりになるまで我慢していたんだろうな。

 片方の手で頭を撫でると、さらに身体を密着させてくる亜里沙を受け入れ、より強い抱擁になった。

 しばらく経って、亜里沙が顔をこちらに向けて、まるでキスをせがんでいるような気がした。

 俺から顔を近付けると、亜里沙も背伸びをしてそれを受け止めようとし、唇と唇が重なり合う……ハズだったのだが、ドアからものすごい視線を感じてそちらを見てみれば、そこには怒りに燃えるルイルがいた。

 何故怒っているのか分からない。

 根本的に言えば何故彼女がここにいるのかも分からない。

「や、やぁ。 どうしたんだい?」

 出来るだけ冷静に対処しようと試みたが、ややぎこちない口調になったのは致し方ないと諦める。

「どうした……ですって? 今朝のことをよぉーーく考えて思い出しなさい」

 今朝……スカウトを受けて、ルイルがドア越しに盗聴していたのをイスビスが言い当てて、ルイルと話をした……だったハズ。

「そうね、私がもっとハッキリ言えば良かったのかもね! 一緒に任務に行こうって!」

 ……思い出した。

 やんわりとではあるが、すぐに装備を調えて連合に行こうと思っていたのがいろいろと用事が立て込んでしまって、結果的に行けなかったんだ。

「挙げ句の果てに、引っ越しした新居で奴隷女とイチャイチャしやがってちきしょーーー!」

 頭に血が上り過ぎたのか、キャラブレが発生してしまったご様子。

 と、とにかく宥めないと……。

「お、落ち着けルイル! 明日謝りに行こうと……」

「今の今まで忘れてたクセに何をいけしゃあしゃあと! そ・れ・よ・り・も! いつまでアンタ達はくっついてるつもりなの!? 人の目の前なんだから、早く離れなさいよ!」

 またしても女の子らしい服装をしたルイルが鞄を振り回して暴れ出した。

 それも半狂乱になっているのか、スカートが捲れ上がって中の布地や白い太ももなんかが丸見えになり……それが俺の命を脅かす結果になった。

「ぶほぉう!?」

 鞄の直撃と鼻血の噴射が重なり、そのまま床に叩き付けられた格好になった。

 打ち所があまりよろしくなかったのか、出血が激しいのか、意識が薄れて行った。

 最後に見えたのは、言い争う亜里沙とルイル……のスカートの中身だった……。






 目覚めてみれば見慣れない天井。

 それもそうだ、新居に引っ越して一日目なのだから。

 しっかり意識が覚醒したのを確認してから気付いたのだが、これはまたしても膝枕だ。

 匂いで分かる、亜里沙だ。

「……いててて」

 側頭部に走る鈍痛に顔をしかめたが、目の前のソファーにはルイルがいた。

 場所は居間で、時間はとっぷり夜だ。

「その子寝てるから介抱してあげたら?」

 そう言われて亜里沙に視線を向ければ、正座で熟睡していた。

 足を崩させてとりあえず俺の太ももの上に頭を乗せた。

「ほんっとに仲がいいのね」

 憎々しげにそう言われても、事実はどうしようもない。

 俺は亜里沙が好きだ。

 そして亜里沙も俺を好いていてくれているハズ。

「まぁね」

「……どこまでしたの?」

「は?」

 その質問が何を示しているのかが分からない。

「だから…………もぅいいわよ」

 ルイルは顔を赤らめてそっぽを向いた。

 一体何だったんだろう。

「ところで、今日は泊まってくの?」

 こんな時間だ。

 部屋も空いているし、泊めるぐらい何てことはない。

 が、ルイルはこいつ大丈夫か?と言いたそうな顔をした。

「ここは私の家でもあるんだけど?」

 ……。

 ちょっと状況を整理しよう。

「俺達は、ここを住居に定められたんだが……」

「私もそうよ? 三人で暮らせってイスビスが言っていたわ」

 犯人はイスビスか……。

 いや、一緒に暮らすのが嫌なんじゃなくて、予想外の事態に戸惑っているだけだ。

「んじゃあ、もう荷物も運び込んであるんだ?」

「えぇ。 二階の南側の角部屋にね」

 まだ家の中を全ては見ていないので、後で確認だけしておくか。

 俺と亜里沙の部屋もどこか分かっていない。

「……分かった。 んじゃあ、とりあえず腹減ったし、ご飯にしよう」

「いいけど、誰が作るの?」

「ルイルは料理出来ないのか?」

「仕事が遅くなってそんなことをしている時間ないもん。 アンタは?」

「いや、出来ないけど」

 …………。

 亜里沙は寝ている。

 起こすのは忍びない。

 それは、ルイルも何となくだが察しているみたいだ。

「亜里沙寝かせて来るから、食いに行くか」

「そうね……」

 何とも情けないが、亜里沙を寝かせつけて(荷物が運び込まれていた部屋を見つけたので。何故かベットはダブルだった)玄関で待っていたルイルと合流して街へと繰り出した。






 中心街なだけあって、夜中でも賑わいが絶えない。

 風俗的な酒場や、公認賭博場は特に騒がしい。

 さて、ご飯の話だが、酒場は喧嘩を吹っかけられたくないのでパス。

 かと言って、落ち着いた店に入れば素晴らしい高額料理を食わされるハメになるだろう。

 その中間を探していると、イスビスと話し合いをした店を見つけた。

 店の前を通ると、あの女性と目が合った。

 手招きされたので、店に入った。

「……アンタ、こういう店が好きなの?」

 店内は、際どいドレスを着たお姉様方が客の相手をしていた。

 所謂キャバクラだ。

 イスビスも、所詮は男だな。

「あなた、前に来た子よね?」

「えぇ、そうです」

 女性が近くに来たのだが、香水の類と思われる匂いに鼻が馬鹿になりそうになった。

「あら、彼女連れ? ならまた上の部屋貸してあげるから楽しんで行って頂戴?」

 否定しようとしたが、女性がテキパキと指示を済ませてしまい、上の部屋に案内されてしまった。

 ルイルもあまりの手際の良さにただ呆然としていた。

 これはカモられたのだと気付いたが、もう遅かった。

「二名様、お食事で〜す」

 運ばれて来たのは、肉の盛り合わせと酒。

 しかも肉の方はかなりのボリュームで、食べきれるかかなり心配だ。

 料理を運んで来た女性が部屋を出て行った後、すぐに沈黙が部屋を支配した。

「……とりあえず、食べるか」

 肉を一切れつまんでみる。

 塩がきつく、とても飲み物無しでは食べられそうにない。

 その為の酒なのなら、商売上手だ。

「はい、アンタも呑みなよ。 こうなったら楽しみましょ?」

 渡されたグラスには並々と注がれた酒。

 亜里沙には後ろめた気持ちがあるが、今から店を変えるのも億劫だった。

 仕方なく心で謝り、酒を一口飲み込んだ。

 前よりは、美味しく感じられるようになったが、やはり苦手だ。

「やっぱり、お酒呑むならこういう店の方が美味しいわ」

「普段も呑むの?」

「たまに仕事終わりに付き合わされるぐらい。 量もあんまり呑まないわ」

 その割に、もうルイルのグラスは空に近くなっている。

「そうなんだ。 俺は苦手だな、苦味とかが特に」

「……味じゃなくて、呑まなきゃ出来ないこともあるのよ」

 一気にグラスを空けたルイルはさらにグラスに酒を注いだ。

 既に顔は真っ赤で、目が据わっている。

 出来上がってしまった状態だ。

「慣れてないなら、もう呑まない方がいいんじゃ……」

 しかし彼女は俺の言葉を無視して肉を肴にまたグラスを空けた。

 なんと次は瓶に口をつけて直のみを始めた。

「お、おい! 無茶な飲み方するな!」

 急性アルコール中毒になられては大変なので、急いで瓶を取り上げた。

 彼女は駄々っ子のように嫌がったが、酒が回っているため、大した抵抗も出来ない。

「……ぐすっ」

 俯いたかと思うと、泣き声が聞こえ出した。

 泣き上戸なのか?

「ねぇ右侍ぃ〜……何れ私はぁ、こぉんなにぃ、不幸なのかなぁ……」

 ゆっくりと、少々呂律の回らない喋りだが、聞き取ることは出来た。

「それは……なんでだろうな」

「私はぁ……幸せに、なりたいのぉ……」

「あぁ、そうだな」

「なんでぇ、右侍はぁ……私を、幸せにしてくれらいのぉ……?」

 今朝のことについての続きだろうか。

 よっぽど恨まれるてるのだろう。

「今朝のことはごめん。 明日行こう? な?」

「ちぃがぁうぅぅ…………アンタは、何も分かってないぃ!」

 違ったみたいだ。

「なんで、アンタはぁ……あの子しか幸せにしてあげないの……?」

「え……」

 そんなつもりはない。

 それに、今回俺がスカウトを受けたことはルイルにとっても幸せなことなんじゃないか?

「ねぇ……キスしてよぉ……。 らめならハグれも我慢するからぁ……」

「待て待て。 一体どうしたんだよ」

 酒に酔っているだけなのだろうから止めないと。

「私はぁ……アンタのこと…………す…………すー……」

 ……眠ったようだ。

 多分、疲れていたんだろう。

 とりあえず、寝かせておこう。

 しかし問題は……肉の山だった。

 どう処理しようか……。






「また来てねー!」

 あの女性に見送られて街に出ると、もう人影も疎らになっていた。

 あの後、一人で格闘した結果は辛勝。

 酒の力も借りつつの苦しい戦いだったが、制したのは俺だった。

 酔い潰れて眠っていたルイルを負ぶさって店を出たのだが……。

「……帰り道が分からん」

 行きに煌々と照らされた通りや店は暗闇に溶け込んでおり、酔いも手伝って方向感覚が全く無くなってるいる。

 頑張って歩いてみたが、やはり帰れない。

「……どうしよう。 目の前には、怪しげなホテル……」

 そう、ラブホってやつだ。

 どうやら、そういう通りに迷い込んでしまったようだ。

 朝一番で帰って亜里沙に説明すれば許して貰えるだろう。

 仕方ない、一泊するか。

 うん、仕方ないんだ。






 部屋は宿屋並に狭いが、大きな違いと言えば、やはりベッドはダブルサイズ。

 とりあえずルイルを寝かせ、俺も横になった。

 このまま寝てしまおうと思ったのだが、そうそう安眠は訪れてはくれなかった。

「ゆう……じ……」

 まだ寝ぼけているようだが、ルイルが目覚めてしまった。

「あ、起きた?」

「うん……。 ここは?」

 ……ここで本当のことを言ってバイオレンスな展開になるのは避けたいのだが。

 しかし嘘をつけばもっとバイオレンスだろう。

 なら、本当のことを言おう。

「ここは……ラブホだ」

「……そっかぁ。 あの、初めてだから……優しくしてよね……?」

 これは、まだ酔っていらっしゃる?

 いや、聞くまでもなく酔っているな。

「いやいや、そんなことしないよ? 俺はそこまで獣じゃないよ?」

 先日は思いっ切り獣だったんだが。

 しかもイスビスに見られてしまったという恥ずかしい思い出付きで。

「私……やっぱり魅力ないよね。 あの子みたいにおっぱいおっきくないし、性格も良くないから抱きたいとも思わないよね……」

「いや、ルイルは魅力的だぞ?」

 お世辞は一つもない。

 確かに胸は亜里沙ほどではなくとも、人並みには膨らんでいるし、腰周りはほっそりしていて見事にくびれている。

 脚も鍛えられているが、筋肉はほどほどで女性らしい肉付きな上に色白。

 これで抱けない男は多分病気なんだよ、うん。

「なら、抱いて……?」

「いや、そうはならないだろう……」

「魅力的なんでしょ? だったら、抱いて欲しいの……」

「一体どうして……」

「家ならあの子が居るから……もう今日しかないの。 お願い、抱いて?」

 ここまで美少女に抱いてと言われて断れる勇気を、俺は持ち合わせていなかった。

「……でも、亜里沙が…………」

 すると、ルイルは服を全て脱ぎ、生まれたままの姿になった。

 すると、左胸のところに見覚えのある模様が……。

「なら私も奴隷にして。 そうしたら、抱いても誰にも文句は言われないわ。 それに……私は一番に愛してくれなくてもいい、二番目でいいから、愛して……?」

 彼女は、泣いていた。

 泣き顔を隠そうともせず、真っすぐ俺を見ていた。

 まるで、幼い子供が母親の愛を求めているかのように。

「…………契約完了、ルイルは俺の愛すべき奴隷だ」

 彼女の、ぱっちりとしたオレンジの瞳は黒くなり、髪の毛も黒く染まった。

 俺の奴隷である証だ。

「ルイル、俺で良かったら、君の寂しさを受け止めさせてくれないか?」

「……はいっ」

 しっかり彼女を抱きしめ、泣き止むまでそっと頭を撫でつづけた。

 彼女は、寂しかったのだ。

 そして、俺を求めた。

 でも気の引き方が分からず、こうして身体を、純潔を差し出した。

 だから、そっと唇だけを奪った。

 それ以上は、俺が亜里沙に対して申し訳ないのと、また酒の勢いだけでしたくはなかったからだ。

 それでもルイルは納得しているみたいで、それから何も言わずに俺に身体を預けて眠った。

 その寝顔がドキッとしてしまうぐらい可愛かったのは気のせいではないハズ。

 窓の外の景色を見ると、もう夜明けは近かった。




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