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転生とチートと復讐そして奴隷  作者: 京城 都人
2 新たな暮らし
26/38

25 酒乱には気を付けよう

 感想、要望お待ちしております。


「ご主人様」

「……はい」

 時刻は深夜、場所は宿屋の一室。

 俺は地面に正座していた、というよりさせられていた。

「自ら罪を告白して下さい」

「……ルイルを部屋に上げて話をしていました」

「話だけではありませんね?」

 目の前には仁王立ちをする風呂上がりの亜里沙。

 肌がほんのり桜色に染まっており、すごく色っぽい。

 それは良いとして、傍目から見れば、どっちが奴隷でどっちが主人かは分からない光景だ。

「…………ほっぺに、その……」

「何ですか?」

 一言一言が俺の心に突き刺さる。

 あぁ心が痛い。

「…………キスを…………されました……」

「あの子からですか? ご主人様が持ち前の色気で誘ったのでは?」

 そんなもんは持ち合わせていないのだが。

 あるのならもっとモテると思う。

「もぅ……。 反省してるんですか?」

「反省もなにも……ごめんなさいごめんなさい」

 蛇に睨まれた蛙よろしく、大人しく頭を下げた。

「ご主人様はもう少し私のことを見るべきですっ。 もう自分のものになったと思っているから浮気をするんですよっ」

 俺のものだけどね、奴隷的な意味で。

 というより、俺もある意味被害者なんだが。

「浮気なんかじゃない。 俺は亜里沙しか見てないよ」

「そ、そういう甘言でルイルを誘惑したのですね!? ご主人様は鬼畜です! そうやって、年頃の女の子を食い物にして……」

「ま、待てって! 話が飛躍しすぎだろ。 事実、俺はルイルの話を聞いていて、帰り際にいきなりされたんだよ」

 その言葉に亜里沙は何故か衝撃を受けていた。

「そんな……愛の告白を受けて、すぐにキスだなんて……。 私にはすぐにキスしてくれなかったのにーーー!」

 いかん、キャラ崩壊を起こし始めた。

 と言っても、俺が何か発言しても火に油をぶっかけるだけだし……。

 ええい、こうなったら!

「きゃっ!? 何をするんですかご主人様!」

「うるさい! いいか? よく聞け。 俺はお前のことが本当に大切なんだ。 ルイルとはなにもなかったんだ、本当に。 ただ彼女にも事情があって、スカウトの話を受けて欲しいって頼まれただけなんだ」

「……」

 だ、ダメか?

 ハグをしながら本当の事を言ったのだが……。

 すると、するりと俺から亜里沙が離れた。

「……」

 俯いていて、表情は窺えない。

 だが、怒っているような感じもしないが……まさか、泣いているのか?

 やはり信じてくれなかったのか?

「……ご主人様?」

「な、何だ?」

「どっちのほっぺにされたんですか?」

「左、だが」

 答えた瞬間、亜里沙が飛び掛かって来た。

「のわぁ!?」

「ご主人様、動かないで下さい!」

「おま、一体何をし」

 言い切る前に、マウントを取った亜里沙が俺の左頬にキスをした。

 それも一回ではなく、立て続けに十回程。

「……浄化、完了しました」

 最後には、清々しい笑顔でそう言った。

「…………どいてくれないか?」

「嫌です」

「…………何でだい?」

「ご主人様の唇にキスがしたくなったからですっ」

「そ、そんなに息を荒げなくてもいいんじゃないか――んんっ!?」

 我慢出来ないと言わんばかりに亜里沙はむしゃぶりついてきた。

 コイツ、絶対にキス魔だ。

 時折漏れる声は、切ない甘えた声になってるし。

「……はふぅ。 お粗末さまでした」

 一頻り蹂躙(?)して満足したのか、亜里沙はマウントを解いてくれた。

 なんとも嬉しいような恥ずかしいようなイベントだったぜ……。

 まだ一回しかキスしてないハズなのに、もうはまってしまったのだろうか。

「ご主人様の唇、柔らかくて素敵ですっ」

 恥じらいながらもこんなことを言ってくれる。

 う、ちょっとムラムラ来たよ?

「あの」

「それじゃ、お休みなさいませ」

 俺の言葉を遮り、ベットに潜り込んでしまった。

 その時、部屋のドアが僅かに音を発した。

 俺はすかさずそれを聞き咎め、ドアを開けると、そこにいたのは。

「……主人、ここで何をやっているんですか?」

「へ? あぁ、そのぉ………………巡回だよ! そう巡回! いやぁ最近は犯罪も多いからね〜、はははは」

「そうですか、覗き犯がいたような気がしたんですけどね」

「何だって? そりゃ大変だ、すぐに追いかけるよ!」

 と走り出そうとする主人の服の衿をわしづかみした。

「マスターキーなんか持って何をしていたんですか? あと、亜里沙から少々酒の匂いがするんですが……」

 キスの嵐をされているとき、僅かにだが、酒の匂いがした。

 俺達はどちらも酒は飲まない。

 つまり、間違えて飲んだか飲まされたことになる。

 亜里沙は間違えて飲むようなドジは踏まない。

 なら、飲まされたことになる。

「…………分かったよ。 わしがあの嬢ちゃんに酒を勧めた。 でもわざとじゃあない。 風呂上がりに一杯だけ良かったらと言う形で勧めたんだ。 そしたら一杯で酔いが回ってな、酒乱のケがありそうだったからこれは何か起こるんじゃないかと楽しみで……」

「……もういい。 結果、望みのものは見れなくて残念でしたね」

「全くだ。 ただ、あんな良い子はいないぜ? 大事にしてやんな」

 わしづかみから解放され、服を正した主人はそれだけ言い残して下へ戻って行った。

 部屋に戻ると、亜里沙は宿屋の貸出品である浴衣をはだけさせて眠っていた。

 う、これは……。

 亜里沙の裸体がほぼ全て視界に映ってしまい、思わずトイレに駆け込んでしまった。






 すっかり賢者になった俺は、亜里沙の浴衣を正した上で布団を乗せてやった。

 その後もう一度賢者に転身したのは仕方のない話だ。

「……俺も寝るか」

 そう言った瞬間、ドアが鳴った。

 来客か?

 しかしこんな夜更けに一体だれが……。

「どちら様ですか?」

「我だ、イスビスだ」

 え、と。

 まだ夜更けなのだが、まさかもう答えを聞きに来たのか?

「一応お伺いするんですが、ご用件は?」

「何を寝ぼけているんだ。 スカウトの返事に決まってるだろう」

 ですよねー。

 まだ話し合いをしていないのだが……。

「場所も場所なんで、どこか行きません?」

「良かろう。 ついて来い」






 イスビスに連れられてやって来たのは、大人な雰囲気の店。

 俺は未成年だが、果たして大丈夫なのか?

「いらっしゃーい、てイスビスじゃない。 上なら空いてるわよ?」

 出迎えてくれた店主らしき女性はどうやらイスビスと知人らしい。

「では上を借りるぞ。 右侍君、こっちだ」

 階段を上ると、宿屋のように個室がいくつか並んでいる廊下に出た。

 イスビスは一番奥の部屋を選んだようで、ドアを開けるとそこはテーブルと向かい合うように置かれた二つの椅子と燭台しかない殺風景な部屋だった。

 片方の椅子に腰掛けると、イスビスもゆっくりと腰掛けた。

「は〜い、イスビス。 久しぶりの交渉? 頑張ってねん」

 さっきの女性が簡単な料理と酒を持って来た。

 帰り際に部屋の隅にあった暖炉に火を入れて行った。

「あの……」

「まずは一献と行こうではないか」

 酒は飲めないと言う前に盃が差し出されたので、大人しく受けとった。

 そして、一口だけ酒を口に含んだ。

 芳醇な葡萄に似た香がしたかと思うと、すぐに苦みが出てきたので急いで嚥下した。

 やはり酒は苦手だ。

「さて、意志は固まったかな?」

「いえ、まだちゃんと話し合えていないので……」

 まさかこんなタイミングで来るとは思っていなかった。

「そうか……。 ルイルが来ただろう?」

「は、はい」

「やはりな……」

 この反応を見る限りでは、かまをかけられていたようだ。

 でも、一体何の為だ?

「彼女の生い立ちは聞いたと思うが、どう思った?」

「そりゃ、大変だなと……」

「ではキスをされてどう思った?」

 いきなり何を言い出すんだ……。

 まさか現場を見ていたのか?

「な、何とも思いませんでしたよ?」

 はい、嘘です。

 少しぐらいはドキドキしましたとも。

「なら彼女の純潔を捧げられたことは、どう思う?」

「キス、じゃなくて……」

「男女の営みだ」

「そんなことしてません!」

「……そうか」

 さっきから一体何なんだ、この人は。

 何が言いたいんだ。

「……ルイルが紹介し、俺が欲しいと思った人材にはこうして頼み込んでいるみたいなんだよ。 時には体も使ってな」

「っ!?」

「ショックだったか? まぁ、そうでもしないと男の信用なんて得られないしな。 右侍君は感じなかったか? 初対面の印象と帰り際のルイルの態度の違いを」

 確かに、初対面より柔らかいイメージが……。

 まさか、全部演技だったのか?

「おっと、彼女の生い立ちに関しては本当だよ。 ……俺の聞いた限りではな」

「そこまでしても、誰もスカウトは受けなかったんですか?」

「いや、何人かは成功した」

「なら何故ルイルは未だに調査員をやっているんですか?」

 一番の疑問はそこだった。

 成功しているなら、もう公国に仕えているハズだ。

「あるものは、慰み者として召し抱えようとし、またあるものは、そんな尻の軽い奴を配下に入れたくはないと拒んだ」

「……ちゃんとした仕事に就けないから、ですか」

「その通り。 ましてや慰み者としてなんて、彼女のトラウマでしかない」

「イスビスさんが職を与えるのではダメなんですか?」

「多分彼女もそれを宛てにしていると思うのだが……生憎そこまで人材不足ってことでもないんだ」

 イスビスは酒を一気に飲み干すと、皿に盛られたチーズを頬張った。

「彼女には人の魔力を見る力があります。 きっと人事でも役に立つかもしれませんよ」

「それぐらいならもう二、三人ぐらいいる。 もっと優秀な奴らがな」

 酒を注ぎ、また一口煽ると、俺にも酒を勧めた。

 また俺が一口だけ飲むと、話が再開した。

「どうだい、受けてくれないか?」

「今は、お返事できません」

「ルイルの為にも、だ。 そうでないと、彼女はまた違う男に抱かれることになるだろう」

 その時、イスビスの声に哀れみに似た感情が滲んでいるのに気付いた。

 自分ではどうしようもないから、代わりに助けてやって欲しいとも言われているような気がした。

「……」

「そういえば、刀を折ってしまったらしいな」

「あ、はい」

「これで工面してくれ」

 渡されたのは金の入った袋だった。

 見るからに大金が入っていそうだ。

「受け取れません」

「我個人の出資だ。 気にしないでくれ」

「でも……」

「依頼の報酬も未払いだしな、迷惑をかけてスマンと思っている」

 何とも断り辛いな。

 ここは有り難く頂いておくのが正解か?

「では、受け取ります」

「うむ。 それでは、今はここまでにしよう。 また日が上ってから訪問させてもらおう」

「分かりました」

 その後イスビスと別れ、店を出て宿屋の部屋まで戻った。






「ただいま、って起きてる訳ないか」

 暗いままでも自分のベットに入ると、先客がいた。

「……ん、お帰りなさいませ」

 起こしてしまったようだ。

 もしかして待ってたのだろうか。

「ただいま。 寝ていいぞ」

「……スカウトをお受けになられたんですか?」

「いや、まだ保留してる。 亜里沙とはまだ相談してないしな」

 擦り寄ってきた亜里沙を迎え入れ、頭を撫でる。

「私は……お受けになっても良いと思うのです。 でも……」

「でも、なんだ?」

「ご主人様と二人っきりで過ごすことが出来なくなるのは辛いです……」

「そうなると決まった訳じゃないだろ?」

 泣きそうな亜里沙の身体を抱き寄せ、唇を奪った。

 あれ、何で俺こんなに積極的なんだ?

「……そうですけど……、心配で……」

「何がだい?」

「他の女性と関係を持ってしまったりすると思うと……とても不安です……」

 ぎゅっと抱きしめると、亜里沙も抱きしめてくれた。

「なら、初めては亜里沙がいいな……」

 ……俺何言ってるんだ?

 これ爆弾発言だよね?

 説教ものだよね?

「……私も、右侍がいい」

 その時、俺は自分の中で生じた衝動を抑えられなかった。

 自分のことを名前で呼んでくれた。

 それも、俺を求めて。

「……んっ……」

 浴衣を脱がせても、嫌がられなかった。

 俺は、この上ない愛情を抱いて亜里沙と一つになった。

 俺も、きっと不安だったんだ。

 ハグをしてもキスをしても主人に強要された奴隷がするのと変わらない気がしていたのを、ずっと無意識下に抑えていたのだ。

 それも全てが解き放たれ、情愛へと変わっていった。

 ただ一つ残念だったのは、お互いに酒が入っていたことだった。






 頭痛が、目覚まし代わりになって目を覚ました。

 もう朝……どころか夕方だった。

「えーと、俺は一体……?」

 服を着てベットに寝転んでいる。

 あれは夢だったのか?

 そう、だよな。

 だが、それならこの身体の倦怠感は何だろう。

 特に下半身中心の。

「ご主人様、おはようございます」

 風呂上がりで浴衣姿の亜里沙が妙につやつやしている。

 風呂上がりと分かるのは、石鹸の香りがするからだ。

「あぁ、おはよう……」

 起き上がると、二日酔いと言う奴なのか頭が痛い。

「ご主人様、今夜も激しくしてくださいね?」

「は?」

「もぅ……。 あんなに愛の言葉を囁きながら抱いてくれましたのに、もう私は用済みですかぁ?」

 ……夢などではなく、現実でした。

 これで分かったのは、俺も相当な酒乱だと言うこと。

 それも色欲が強くなると言う質の悪い……。

「それより、何か飲み物を……」

「こちらどうぞ」

 手渡されたコップの水を飲み干す。

「……これ水じゃないな?」

「お酒です」

 ニッコリ笑顔の亜里沙さん。

 注意力が散漫だった俺の負けだ。

 大人しく酔わされて長い長い第二ラウンドに突入して行った。

 そういえばなんか忘れているような……?


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