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転生とチートと復讐そして奴隷  作者: 京城 都人
2 新たな暮らし
25/38

24 出世と秘めたる生い立ち

 

 大げさな題名ですが、センスがないので許してください。w

 感想や評価等お待ちしております。



 行きよりも二人の距離は縮まった。

 それは喜ばしいのだろうが、何故か二人の間に会話はない。

「す、スピード上げるぞ」

「う、うん……」

 男は照れ隠しの様に少し声を張るのとは対照的に、女の方は消え入りそうな声だった。

 俺、竹中 右侍は後ろに乗っている亜里沙とき、き、キスを、した……。

 そう、したんだ。

 今朝目覚めてからも、どこか気まずい空気が二人の間をさ迷っていた。

「……」

「……」

 故意にではなく、不可抗力的に押し付けられている双丘の感触がいやに気になる。

 それから少し経ち、小休憩を入れるべく馬を止め、草原に降り立つ。

 会話は、依然として交わされない。

 まるで付き合い始めた次の日みたいだ、と俺は思った。

「……水、飲むか?」

「えっ? あ、う、うん」

 革の水筒を手渡す。

 すると、凄まじい勢いで水を飲み干されてしまった。

「……あ、す、すいません! すぐに汲んで来ますね!」

 慌てた亜里沙は逃げるように沢へ向かって行ってしまった。

 確か、付き合い始めの時もこんな出来事があったような気がする。

 思い出に浸っていると、亜里沙が戻って来たので再び馬を進めることにした。






 マルシアに帰り着いたのは夕方近い時間だった。

 報酬を貰いに連合へ向かうと、入口にはルイルが居た。

「どうしたんだ? まさか待ってたのか?」

「えぇそうよ。 付いて来て頂戴」

 冗談のつもりで言ったのだが、ルイルは肯定し、俺達を先導し始めた。

 連れて行かれたのは受付の奥、会議室と書かれた部屋。

「さ、入って」

 促されて中に入ると、中にはいかにも仕事が出来そうな雰囲気の男が一人。

「やぁ、君がミラードラゴンを討伐したと言う新人君かな?」

 かなりがっちりした体格で、身長も百八十は余裕でありそうな巨漢。

 その手もやはり大きかった。

「はじめまして、竹中 右侍です。 こちらは亜里沙です」

 握手を交わすと、向かい合うように座る。

「さて……。 まずは、礼を言わせてくれ。 このマルシアの危機を救っていただき、本当にありがとう」

 深々と頭を下げられたので、ついこちらも頭を下げ返した。

「申し遅れたが、我はここの責任者の一人であり、公国のある要職に就いているイスビスだ。 君には、話さなければならないことが何点かある」

「あ、はい……」

 もしかして、人体実験とかさせられるんじゃ……。

「今回の依頼の報酬なんだが……」

 一同が固唾を飲んで次の言葉を待つ。

「……ミラードラゴンの素材も譲渡して、五百万ルディアで手を打たせてはもらえないか?」

 ご……五百万!?

 いや、現実的な金額ではあるが、これはかなりの臨時収入だ……。

 それだけあれば、しばらくは依頼もそこそこに資料を集めたりすることが出来る。

 だが、それに納得出来ない者がいた。

「本当なら、その十倍は出すべきなのでは? そこまで公国の財政も厳しくはありませんよね?」

 イスビスの提案に異を唱えたのは、横に座っている亜里沙だった。

 その時、イスビスの目に嫌な光が宿ったのが見て取れた。

「失礼、貴女は公認奴隷ですね?」

「……はい」

「では、黙っていてもらおうか。 これは君の口出しすべき領分の話ではない。 そもそも公認奴隷の君が主人と並んで座っているのは私に対しても失礼だ。 君は後ろに控えていなさい」

 その時、俺は無意識に亜里沙の手を引き、席を立っていた。

 しかしルイルが、唯一の出入口への道を塞いだ。

「席に戻って」

「俺はこんな奴と交渉のまね事をする気はない」

「……せめて、話だけでも聞いてくれないかしら」

 懇願する訳ではないが、どこか逆らえない雰囲気に押され、俺達は席に戻った。

「……何が言いたい?」

「君には、格安の報酬とは引き換えにと言うのも難だが、公国の軍の要職に就いてもらいたいんだが……」

「断る。 金は都合出来るだけ用意してくれればいい。 それじゃ、もう俺達には構わないでくれ」

 今度こそ席を立ち、俺達は会議室を後にした。

 ルイルも、今度は邪魔をしなかった。






「ご主人様……」

「亜里沙、おいで」

 すぐに宿屋に戻った後、俺は亜里沙を甘えさせていた。

 そう、奴隷であることを理由に話し合いに参加させてもらえなかったからだ。

 俺の胸で啜り泣く亜里沙の頭を撫で続けた。

 口から紡ぎ出されるのは、謝罪の言葉。

「私なんかの……せいで、折角のお話を台無しに、してしまって……うぅ……ごめんなさいぃ……」

「亜里沙は何も悪くない。 あの男が、この世が悪いんだ……。 俺は、お前のことを奴隷だからって差別なんかしない」

 泣き止まない亜里沙を慰めていると、部屋のドアがノックされた。

 亜里沙を落ち着かせ、ドアを少し開ける。

「……どちら様ですか?」

「我だ。 先ほどは済まなかった、ちゃんと謝罪させてくれないか?」

 一瞬俺は亜里沙を見るが、まだ泣きそうな顔をしていた。

「……また後日にして下さい」

「いや、どうか今話を聞いて欲しい。 このままでもいい」

 俺はドアを開け、イスビスを中に入れた。

 ツインだが、部屋自体はワンルームなので片方のベットに俺達が座り、もう片方にイスビスが座った。

 服の下は見た目通りの強靭な肉体であるらしく、ベットが大きく軋む音を発した。

「……我、イスビスはマルシア公国の人事を司る役職の長を務めている。 今回、右侍君には簡単なテストをさせてもらった」

「テスト?」

 一体いつの間に?

「そうだ。 今、我らが欲しているのは……奴隷に本当に分け隔てなく接することの出来る人間だ」

「それが、何なんです?」

「君はその奴隷の少女を深く愛している」

「ぶっ!」

 不意打ちについ噴き出してしまった。

 い、いきなり何を言い出すんだコイツは。

「それに腕も立つ。 だから、右侍君を私の直属の部下としてスカウトしたい」

 つまり、さっき俺を怒らせたのはわざとってことか?

「……ルイルから聞いたんですか?」

「あぁ。 彼女とはちょっとした縁があってな、こちらの欲している人材を紹介してくれるんだ。 今回のようにな」

 そういえばルイルが居るのにも拘わらず、がっつり甘えて来た子が居たような……。

 ちらりと視線を亜里沙に移すが、亜里沙はそっぽを向いていた。

「どうだ。 来てはくれないか。 駆け出しの傭兵の仕事では収入は安定しない。 だが、国に勤めるとなると収入は安定するし、君の場合はいきなりの高位職だ。 悪い話ではないと思うんだが」

 魅力的と言えば魅力的な話だが……。

「……ちょっと考えさせて下さい」

「分かった。 明日また来るから答えを出しておいてくれ。 それから、お嬢さん、酷い事を言って済まなかった」

「あ、えと……はい」

 それだけ言うと、イスビスは部屋を出て行った。

 やれやれ、今日も寝れそうな気がしないな。






 とりあえず夕食を摂り、別々に風呂を済ませたところで再び部屋で話し合いをすることになったのだが、亜里沙の風呂を待っている時に部屋に訪問者が現れた。

「はい、どちら様……って、ルイルじゃないか。 どうしたんだ、こんな時間に」

 ルイルは仕事中のような格好ではなく、女の子らしい服装をしていた。

 仕事帰りと言った風情か。

「ちょっと話があるの」

「あぁ、いいけど」

 ルイルを中に入れ、ベットに座らせた。

 外は肌寒いので、温かい茶を煎れた。

「んで、話って?」

 茶を一口飲むと、ふっとため息をついた。

「今日、あの後にイスビスが来たでしょ?」

「あぁ」

「私がこの宿に泊まってるって情報を与えたの」

 道理で、すぐに宿屋に来たのか。

 てっきり尾行されていたのかと疑っていた。

「何故そんなことを?」

「私は、何が何でも出世しなきゃいけないから。 だからどんな些細なことでも彼に協力してきたわ。 今回だって、あなたのことを教えてあげた」

「それと、一体何の関係が……」

「彼は公国内でも相当発言力のある存在なの。 彼に協力して信頼されれば、何か公国内の重要ポストにねじ込んでくれるかもしれないじゃない?」

 だから、イスビスの探している人材の情報を与えているのか。

 つまり、俺はルイルの出世するための道具って訳か。

「……自分の出世の為に、俺にこの話を受けろと?」

「簡単に言えばそうなるわね。 でも、お互いに良い話じゃないかしら。 ハッキリ言って、傭兵の仕事だけで暮らしていける人なんて殆どいないのが現実よ。 みんな公国の騎馬軍に入りたくて公国の人事関係者にアピールしているか、高名な傭兵になるのを夢見て挫折するかのどちらかなの」

 現実は思ったよりシビアなんだな。

 確かに体張るだけじゃ厳しいのはよく分かる。

「俺じゃなくてもいいだろ?」

「いいえ。 駆け出しの傭兵が、万が一の偶然が起きてもミラードラゴンなんか倒せないわ。 絶対に」

「その偶然かもよ?」

「惚けるのはやめて。 敢えて詮索しなかったけど、あなたは一体どうやってあの恐ろしい怪物を殺したの? イスビスにも黙っておくから、教えてもらえるかしら?」

「その前に、何でそこまで出世にこだわるのかを教えてくれよ。 そんな偉くなってどうするんだ?」

 ルイルは、しばらく悩んだ末に滔々と語り出した。

「私は、数年前に実家が破産して身売りに出されたの。 本当なら普通に雑用なんかをする奴隷で良かったのに、不運にも悪徳な奴隷商に売られてしまったの。 そうなっては私の運命は決まっていたわ。 脂に塗れた男や変態に買われて慰み者になるってね」

 また一口茶を口に含んで、嚥下した。

「でも、市が立つ寸前に国の軍が違法取り締まりってことで助けられたの。 あのイスビスの軍にね。 彼は人事を司るだけでなく、軍団長もこなしているの。 それはまぁいいとして、そうして助けられた私は武の才能があるって言われて訓練を受け、今の仕事に斡旋してもらったの」

「それじゃ満足出来ないのか?」

「傭兵と同じよ。 収入は安定しないの。 調査員にも信頼ってものがあって、指名したりするのが一般的。 私は元々の愛想も良くないからまともに固定客もつかない。 それに経験も圧倒的に不足している。 だから、実家に仕送りも出来ないのが現状なの……」

「仕送りって……奴隷に出されて売られたのに?」

「両親も強制労働に就いてるわ。 生活保護の代償よ」

 国によるのだろうが、社会保障的な制度もあるのか。

 これは勉強になったな。

「私以外にも姉と兄が奴隷としてどこかへ売られて行ったの。 一月に一度手紙をくれるけど、あっちは普通だったみたいで、普通に暮らしてるわ。 って、そんなことよりも、私の出世したい理由を教えてあげたんだからアンタの秘密も教えなさいよ」

 ルイルは、私欲なんかの為でなく家族の為に出世を望んでいたのか……。

「あぁ。 その前に一つ聞きたいんだが、"天児"って聞いたことあるか?」

「アンタは人をバカにしてるの? そんなもん知ってるに決まってるでしょ。 呼吸しなきゃ人間が死ぬってことぐらい常識よ」

 随分と微妙な例えだが、 言いたいことは分かった。

「そうか……。 今から俺が言うことは、信じても信じなくてもいい。 だが、全部本当のことだ」

「何よ。 もったいぶらなくて良いから教えなさいよ」

 意外と口に出すとなると、緊張もするし恥ずかしいものだな。

「まず俺は、"天児"だ」

「……へ?」

 開口一番、ルイルは目が点になった。

「本当の"天児"の力とか特徴とかは分からないんだが、俺は二年ぐらい前に一回死んでから生き返ったんだ。 それで、殺した相手であろうデミア王国に復讐しようと思ったんだが、思い通りに行かずにここに来た。 それはともかく、俺は一回死んで生き返った時に《闇》属性魔法に目覚めてしまった。 あのバケモンも《闇》魔法で捩じ伏せたんだが、強力過ぎて目を痛めちまったけどな」

「……………信じられないけど、ミラードラゴンを倒したんだし、信憑性はあるわね。 ね、その魔法ちょっとやって見せてよ」

「俺も使ったのは二回だけだから、手加減とかは出来ないと思うが……」

「良いから良いから。 私こう見えても、人の魔力が見えるのよ」

「どういう事だ?」

 特殊な技能だったりするのだろうか。

「簡単に言えば、その人の魔法の力量を計れるってこと。 力持ってる人が弱い魔法撃っても威力とか全然違うしね」

「それで俺の力量を計ろうって訳か」

「そ。 さ、やってみて? 痛かったら無理にとは言えないけど」

 幸い、目は回復してきたし、こんな機会もあまりないかもしれないしやってみるか。

 一瞬ぐらいなら、大丈夫……かな?

「いや、やってみるよ」

 眼帯代わりの包帯を解き、右目を閉じて左目でルイルを見る。

 そして、左目に魔力を集中させて発動を念じる。

 《闇》、〈痛〉!

「っ!!! きゃぁあああ!!」

 両目を大きく見開き、悲鳴を上げるルイルを見て俺は慌てて左目を閉じた。

 僅かに鈍痛を感じるが、大したことはないようだ。

 それよりもルイルだ。

「大丈夫か?」

「ええ……。 ちょっと、驚いただけよ」

 強がっているのがもろ分かりだが、指摘はしない。

 倒れ込んでしまっていた彼女を起こし、ベットに座らせた。

「アンタ……ハッキリ言って異常な魔力ね。 もう何もかも桁違いよ。 出鱈目もいいとこだわ」

 絶賛には違いはないのだろうが、どこか毒を感じるのは気のせいではないだろう。

「そうか。 で、出世云々の話だが……」

 先程解いた包帯を巻き直して彼女の方を見ると、条件反射でなのだろうが、体が一瞬強張っていた。

「……受けてもらえないかしら?」

「ルイルの事情は分かったけど、まだ分からない。 亜里沙と話合って決めるよ」

「そう……、なら良い返事を期待してるわ。 でもね……?」

 ルイルが近寄って来たぞ?

「……私にはあなたしかいないの……」

 ……ほっぺに、柔らかい感触……?

「よろしくね」

 俺が頬に手を当てて呆然としているのを尻目に、ルイルは軽やかな足取りで部屋を出て行った。


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