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転生とチートと復讐そして奴隷  作者: 京城 都人
2 新たな暮らし
24/38

23 初任務と思惑

なんか甘々の要素が……。

戦闘が書き難いので苦戦しました。

ぐだぐだですが、それでも良いと言う方はどうぞ。

感想や評価もお願いします。



 宿に戻り、夕飯を頂いた後の遅めのお風呂タイム。

 一つ決まり事があり、入る為には一度宿屋の主人に了解を取らなければならない。

 よって、タオルと石鹸を持って主人のいる一階へ降りたのだが……。

「はい、お二人さんね。 今は誰も入ってないから、楽しんでくれよ」

「は?」

 親指を突き出す主人とは対照的に、俺がつい間の抜けた声を出してしまったのには訳がある。

 多分、一緒に風呂に入ろうとするであろう亜里沙が寝静まるのを待って、出し抜いて来たのだ。

 来たハズなのだ。

「分かりました。 ご主人様、お背中を流させて頂きますね?」

 なのに、隣には頬を染めて笑顔を浮かべた亜里沙。

 しっかりお風呂セットも持っていやがる。

 嫌なんじゃない。

 恥ずかし過ぎてどうしたらいいか分からないのだ。

 なのに何故、こうも彼女は積極的に来れるのか。

「お背中を流すのは、奴隷のお仕事ですから」

 心の内までバレテーラー。

 しょうがない、腹括るか。






 かぽーん。




 ぶしゅっ!(鼻血の噴射する音)






 俺は、その日は眠ることは出来なかった。

 隣のベットでは亜里沙が一日の疲れを吹き飛ばす勢いで寝息を立てていた。






 翌朝、いつの間にか眠っていた俺は目を覚ました。

「ご主人様、朝ですよ」

 起こしてくれた亜里沙は、清々しい笑顔だった。

 俺はその笑顔を直視出来ず、布団を被った。

「もーご主人様ったら、働くんじゃないですか? 私が陰館に行きますよ?」

「さ、依頼を見に行くぞ」

 俺は反射的に布団を跳ね飛ばして起き上がった。

 すると目の前にいる亜里沙は、悪戯っぽい笑顔だった。 は、嵌めやがったなコイツ。

「朝ご飯ですよ、ご主人様」

 主導権を握られている以上、大人しく従う他なかったのは不可抗力だ。

 決してデレデレしてたとかではない。






 主人にいろいろと滋養のつくものばかり食わされたのは、誤解なので本当に止めて欲しかった。

「さて……どの依頼を受けるかな」

 依頼の掲示板には、大量の依頼。

 その中で、気になったのは依頼書の作りだった。

 簡単そうな依頼はただの紙だが、難しそうな依頼は作りが少し豪華だ。

 もしかしてランク分けの為だろうか?

「ご主人様、あの依頼はどうでしょうか」

 亜里沙が見つけた依頼、その内容は魔物討伐。

「期間は一週間、報酬は十万ルディアか……」

 多分一般の人よりは早く討伐出来るだろうから、二日で帰ってこれるなら……。

「よし、これにしよう」

 あまり作りが立派でない依頼書だし、多分受けられるだろう。

 これでダメなら、あとは格安の依頼しかないしな……。

「これ、お願いします」

「えー、と。 洞窟の主の退治ですね。 登録証をお願いします」

「はい、どうぞ」

 俺と亜里沙の分を出すと、すぐに返された。

 え、まさかの即却下?

「どうぞお気を付けて。 討伐の成功か失敗かは同行する調査員が判断するので、気にしないで下さい」

 なんだ、てっきり討伐の証とか持って来いとでも言われるのかと思った。

 て、亜里沙の機嫌が見る見る内に悪くなってるぞ……?

 まさか、二人っきりの腹積もりだったのに邪魔者が現れたからか?

「ご主人様」

「ん?」

「提案があるんです」

「何だ?」

「この依頼止めましょうか」

 ……やっぱり、そうなんだな。

「いや、今は短期間で稼がないといけないんだ。 でないと亜里沙の服の金が払えない」

「服なら今度でいいです。 難なら、私が今からキャンセルしてきますが」

 どんだけ二人で居たいんだ。

 いや、俺も二人っきりがいいけどね?

 今は手段を選んでいられないのであって……。

「着飾る亜里沙も見てみたいんだが」

「……もぅ」

 やれやれ、やっと折れてくれたか。

 本当に奴隷と主人の関係が成り立っているのか?

 いや、そんなことにはこだわらないでおこうと決めたハズだ。

「では、調査員を紹介します。 ルイル、お仕事よ」

「……よろしく」

 出てきたのは、受付の後ろに控えていたきつめの目つきをしたオレンジ髪色をしたストレートロングの美少女だった。

 ボディスーツのようなデザインの黒い服装をしており、まるで工作員のようだ。

「俺は竹中 右侍。 よろしく」

 握手を求めたが、敢え無くスルーされた。

「私は亜里沙」

 亜里沙など、 始めからつんけんした態度だ。

 絵に描いたような不和だが、これで大丈夫か?






 目標の主のいる洞窟はマルシアの東南にあり、そこへは歩けば二日ほどかかるらしい。

 ルイルは連合の用意した馬に乗っている。

 俺達の乗っている黒い馬よりは小柄だが、良い毛並みをしている。

「じゃ、出発しようか」

 言うや否や、ルイルは馬を駆ってさっさと出発してしまった。

 めっちゃ嫌われてますね、分かります。

「――待てよ。 仲良く行こうぜ?」

 馬を横に並べると、さらに速度を上げられてしまった。

 と言っても、俺の馬はもっと速さは出るんだけどな。

「ご主人様、ほっときましょ? それより、私にも構ってくれないと嫌ですよ?」

 と、背中に柔らかい双丘が押し付けられ、一瞬手綱を放しそうになってしまった。

「……あんまり悪戯するなよ?」

 思えばこの数ヶ月で本当に亜里沙と距離が縮まったと思う。

 恋人的な意味で、だが。

「分かっております」

 さらに強く押し付けて来よった。

 全然分かってないな。

「スピードあげるぞ」

「きゃぁ!」






「あれがそうか?」

 窪地にぽっかりと開いた穴。

 洞窟と言うならあれぐらいしか見当たらない。

「えぇ。 じゃ、さっさと終わらせてよね」

「何か偉そうだな……」

 とは言っても、 モタモタするつもりはない。

 亜里沙を引き連れ、早速洞窟内へと侵入した。

 内側はもちろん真っ暗なので、ランタンに火を入れた。

 《光》属性で照らすことも出来るのだが、同行者のルイルに知られたくはない。

「そういえば、俺達は何を倒せばいいんだ?」

「……そんなことも知らずに依頼を受けたの?」

 小ばかにするような態度のルイルだが、俺のミスなので言い返せない。

 が、コイツは違った。

「ご主人様はどんなものが相手でも負けはしません。 いちいち弱点を調べて戦うのは弱者のすることです」

 いや、俺は立派な戦術だと思うぞ。

 むしろ一番正しいとも思うぞ。

「……思い上がりもいいところね。 登録証見たけど、初任務なのに一体何が出来ると言うの?」

 確かに、初任務から主の討伐なんて引き受ける奴もまま珍しいのだろう。

 命知らずとも思われているのかもしれない。

「何にせよ、前に進まないとな」

 感情剥き出しで対立する二人を何とか宥め、奥へと進んだ。

 途中は下級の魔物を相手にしながらの探索。

 主に宝箱的な存在を探している。

 ただ、この世界における宝箱的な存在は、魔物が大事なものを埋めたり隠したりしたものを指す。

 なので、白骨化した骨なんかが出てきても、何も珍しいことではない。

「ふー……。 ルイルも手伝ってくれよ」

 今俺達が探し当てた宝は地面に埋まっており、貸出で貸してもらったスコップで掘り返しているところ。

 亜里沙と二人で作業を進めているのだが、どうも地面が硬くて掘り返しにくい。

「私は調査員よ? 宝探しの作業員じゃないの」

 この一点張りで手伝ってはくれない。

「なら何でここまで付いてくるんだよ……」

 既に洞窟内は踏破しており、主の居そうな場所も特定済み。

 調査ならもう済んでおり、後は俺達が倒す予定の主の討伐を確認するだけのハズで、ここにいる理由は無いのだが。

「初めての任務に、チュートリアルは付き物でしょ?」

「いや、もう一通り終わってるんじゃないかと……」

「馬鹿ね。 忘れちゃったら大変じゃないの」

「ご主人様はそんな低脳なんかじゃありません!」

 ほら、また亜里沙が噛み付く。

「ふん。 どうせここの主にやられて私が助けに行かなきゃならなくなるのに、そんな口を利いていいのかしら?」

「ご主人様が守ってくれますから結構です」

 険悪だね。

 これはもう早く終わらせるしかないな。

 と、思いつつスコップで地面を掘り返していると、ようやくお目当てのものが出てきた。

「……玉?」

「それは、水晶ね。 そのぐらいのものなら、多分三千ルディアぐらいでしか売れないわ」

 見た目も少し濁って見えるし、相場はそんなものなのかもしれない。

「結局手に入れたのは、この水晶と薬草だけか」

 薬草が大量に埋まっているのを見た時はちょっと引いた。

「もういいかしら? そろそろ主とご対面しましょ?」

「なんで貴女が仕切るのよ」

「決まってるじゃない。 初心者のサポートをする教官の役目を背負っているからよ」

 それは初耳だが、いろいろと教えてもらった手前文句はない。

 元々俺に文句はないのだが。

「……先行くぞ」

 またしても口論に発展したので、置いて行くことにした。






 依頼内容は、洞窟の主である土竜のような魔物を討伐することだったんだが……。

「なんだ、コイツ……」

 目の前には血のような体液を撒き散らして横たわる巨大土竜。

 そしてそれを啄む翼竜。

 その身体は、全身が水晶の様なもので覆われていた。

 ランタンの光りが無くとも、自ら光を発し、青白く光り輝いている。

 見るからにヤバいやつだ。

 その証拠に、ルイルは口を開けて絶句している。

 体長も……優に俺の五倍はありそうだ。

「亜里沙、下がってろ」

 刀を抜き、翼龍に気付かれないように距離を詰める。

 しかし、足場はあまり良くない。

 柔らかい砂を踏む音でこちらの存在に気付かれてしまった。

 こちらを睨むその青白い瞳に、殺気が宿った。

「――っ!?」

 瞬間、辺り一面にまばゆい光がほとばしり、全ての感覚を麻痺させられてしまった。






「……う」

 目を見開くと、目の前に翼竜が迫っていた。

 まだ身体の感覚が戻りきっていないが、必死に身体を横に投げ出す。

 その一瞬後に、翼竜が俺の立っていた場所を通過した。

「くっそ!」

 すぐに起き上がり、翼竜の後を追う。

 今気付いたが、この空間はまるで闘技場のような円形を為している。

 なら、真ん中で闘うのが一番だ。

「こっちだ!」

 翼竜は、光り輝く息吹〈ブレス〉を吐き出した。

 それを真横に跳んで避け、翼竜との距離を詰めることに成功。

 間髪入れずに初撃を入れる。

 跳躍しながらの袈裟切り。

 だが、それは翼竜の身体を傷付けることは出来ずに刀は折れてしまった。

「ご主人様っ!」

 その一部始終を静観していた亜里沙が、ついに動き出した。

 しかし、彼女がいかに一般の傭兵より強くても、コイツはどうにもならない。

 なら、アレを使うしかない。

 魔物相手にはまだ使ったことはないが、今の俺にはもう魔法しか残っていない。

「亜里沙! ルイルを連れて撤退しろっ!」

 俺の意図を察してか、一瞬否定の色を浮かべるが、すぐに命令通りにルイルを連れてこの空間を後にした。

 亜里沙に心の内で謝罪しつつ、左目の眼帯を解いた。

「行くぜ、バケモン」

 まずは、《闇》属性の創造魔法の〈爆〉。

 心臓と思しき箇所に圧縮した魔力を送り込み、発散。

 身体の内部が破裂し、水晶状の鱗が体液と共に飛び散った。

 これなら、仕留めきれてはいなくとも、致命傷にはなったハズだ。

 しかし、翼竜は信じられない行動を起こした。

「これは……脱皮?」

 内部から破壊したハズの身体が、水晶状の身体の中から傷一つない身体で帰って来やがったのだ。

 まさか、再生したのか?

 なら、このまま〈爆〉を使い続けてもラチは明かない……。

 右目を閉じ、左目に全魔力を集めた。

 今の俺の最強必殺、〈痛〉を行使した。

「――――っつぅ!?」

 左目が鈍痛を訴え出した。

 だがしかしこれが、発動した証であり、破滅の始まり。

 青白い瞳と目線が合い、固定。

 刹那、翼竜は悲鳴を上げて激しく暴れ出した。

 だが、視線は俺の左目からは外れない。

 いや、外せないのだ。

 俺にとって脅威だったこの翼竜は、この左目に魅入られてしまった以上はただの獲物でしかない。

 言わば、これは呪い。

 使用者にも相応の苦痛を与える死に至る呪いだ。

 見る見る内に翼竜の抵抗が弱々しいものに変わっていく。

 最初に見た時のような恐怖や畏怖の感情はなく、ただ目の前の命を弄んでいるぐらいにしか思えない。

 この《闇》を使っている時の自分の思考は好きになれない。

 だから、一切の考えを排除して目の前の翼竜を睨む。

 ただ睨まれるだけで与えられる苦痛に身をよじり、何とか和らげようとするが、それは意味のない抵抗だった。

 耳障りだった金属質な悲鳴も小さくなり、動きもすっかり緩慢になった。

 何となく分かる。

 もう目の前の命は風前の灯。

 あと一睨みと言ったところか。

「じゃあ、これで最後な」

 目に力を込め、翼竜を睨み殺した。

 翼竜は断末魔を上げ、ぐったりと地面に横たわった。

 俺は荒い息をし、左目に手を当てた。

 生暖かいものが指に絡んだ。

「血……」

 どうやら久しぶりの酷使に、左目が限界を超えていたようで、血が流れていた。

「亜里沙達の所に戻らないと……」

 立ち上がろうとしたところで、コケてしまった。

 よくよく自分の身体を見れば、傷だらけで、右肩からは血も流れていた。

 どうやら最初の光が痛覚をも麻痺させていたようだ。

 それだけ左目の痛みが激しいことになるが……。

「うっがっぁぁ!?」

 思った途端に、左目に痛みが走る。

 途絶えることのない痛みの波を堪え、うずくまる。

 しばらくは動けなさそうだ。

「ご主人様っ! ご主人様、しっかり!」

 と、そこへ呼びに行くまでもなく、亜里沙が走り寄ってくるのが声と足音で分かった。

「大丈夫ですか!? またアレを使われたのですね? 直ぐに手当します!」

 そう言うと、砂の上に寝かされ、頭は亜里沙太ももの上に乗せられた。

 鼻腔をくすぐるいい匂いで痛みをなんとかごまかそうとするが、流石に無駄な努力だったみたいだ。

 無理、痛いです。

「……これ、国の依頼なんかで討伐対象にされてる竜よ? 一体どうやって倒したの?」

 死体の検分を終えたのか、ルイルが俺に疑問を投げかけた。

「それは、まぁ……秘密ってことで」

「協力者がいたの? それだけはハッキリさせてくれる?」

「いや、俺だけだ」

「……そう」

 それだけ言うと、また彼女は死体の方へ行ってしまった。

「……はい、とりあえず応急処置は完了しました。 立てますか? 個人的にはこのまま耳掃除なんかもしたいんですが」

「……魔物の巣窟の中だし、遠慮しとくよ」

 残念そうな表情を隠そうともしない亜里沙に、内心苦笑しながら起き上がった。

 改めて翼竜を見るが、これを俺一人で倒したという事実がまだ信じられない。

 殺し方もなんか非現実的だし。

 実はまだ死んでないんじゃないかって思ってしまう。

「どう、死んでる?」

 自分でも変な質問だなと思いつつもそう口にした。

「えぇ。 ただ、外傷がほぼ無いわね。 本当に、どうやって討伐したのか知りたいわ。 まさか心臓を直接握り潰したんじゃないの?」

「そんなこと出来たら苦労しないよ」

 年頃の女の子とは思えない発言に驚きつつ、軽く否定。

「そうよね。 こいつの特徴は身体の内部に結界のような膜を張ることと、脱皮よ。 最高で四回まで脱皮したという記録が残されているけど、殺せなかった」

 結界……もしかすると、〈爆〉を阻んだのはそれのせいなのかもしれない。

「結局、その時はどうしたの?」

「撃退したわ。 流石に脱皮も無制限に出来る訳じゃないみたいで、弱ってはいたそうよ」

「そっか……」

 話ながらも、ルイルは何やら報告書のようなものに羽ペンを走らせている。

「ご主人様、もう外は真っ暗です。 どうしますか?」

 どうするか、とは帰るか野宿するかの二択だろう。

 傷も痛いので個人的には野宿が良いのだが、ルイルは違うようだ。

「マルシアの近郊にこんな翼竜がいたということはハッキリ言って大事件だし、その上それを一人で討伐してしまったという荒唐無稽な報告をしなきゃいけないから、私は戻るわ」

 荒唐無稽って……。

 自分で事の重大さが分からない以上はどうしようもないが。

「多分報酬も凄まじいと思うわよ?」

「え、それって……」

「それじゃ、後は二人で楽しんでね」

 ずっとムスッとしていたルイルが笑顔でウインクをして走り去って行った、その出来事に少しドキドキしてしまった。

「……浮気はダメですよ」

「分かってるよ」






◇ ◆ ◇ルイル◆ ◇ ◆






 帰り道、自分のもの同然の乗り慣れた馬に跨がり、月明かりを頼りに帰途に就いた。

 自分は、とんでもない出世頭に出会ってしまったかもしれない。

 勢いのある人間に付いて行けば、必ず自分にも恩恵はあるハズだ。

 なら、少々怪しい部分もあるが、あの男に接触を保ってみるのも悪くないハズ。

 奴隷の女が気に入らないが、男が出世して高給取りになれば当然頼れる部下が必要になる。

 自分がそれに取り立てられれば、今の危険の伴う任務からある程度安全で給料もいい仕事を貰える。

 今は、あの男に気に入って貰う必要がある。

 見たところは普通の男のようだし、ちょっと甘い態度を見せれば必ず信用するわよね。

 お金の為なら、操の一つや二つは安いもの。

 きっと出世してみせる。






◇ ◆ ◇右侍◆ ◇ ◆






 ルイルは本当に帰ってしまったようで、本当に二人っきりになった。

 満点の星空の下の草原で、だ。

「ご主人様、ご飯です」

 持って来ていた食材を煮込んで作ったシチュー紛いのものを受け取り、一口。

「美味いな」

「喜んで貰えて何よりです」

 亜里沙も自分の分もよそって食べはじめた。

「っつ!?」

 二口目を口に運んだ所で、左目の痛みでスプーンを地面に落としてしまった。

 流石に落としたスプーンじゃ食べられないな……。

「あーん」

「え?」

 いつの間にか俺のシチュー皿を持ち、自分のスプーンで食べさせようとする亜里沙。

「だから、あーんですよ。 あーん」

「いや、《水》魔法で洗浄すれば……」

「今ご主人様が魔法を使うと暴走しかねないのでダメです」

 そ、そうなのか?

 暴走(?)は《闇》魔法限定なんじゃないのか?

「じゃ、じゃあ仕方ないな」

「はい。 あーん」

 諦めてあーんをしてもらいました。

 その後の食器の洗浄は俺がやりました。

 やっぱ嵌めやがったな。

「んじゃ、亜里沙は寝てろ。 俺が見」

「嫌です」

「張るからさ……答えるの早いな」

「今日はご主人様が寝て下さい」

 申し出はありがたいのだが、ここは宿屋ではなく魔物もいる草原だ。

 男の俺が起きていなくてどうする。

「大丈夫だからさ」

「じゃあ一緒に起きてます」

 結論から言うと、二人でロマンチックに星を見ることになった。

 ホントに綺麗だな。

 前世じゃ考えられないぐらいに。

「……ご主人様」

「ん?」

「私が……例え奴隷でなくなったとしても、側に置いてくれますか?」

 並んで座っていた亜里沙は頭を、俺の肩に寄せた。

「もちろんだ」

「……絶対の絶対にですよ?」

「約束する」

 俺は亜里沙の肩を抱き、密着させた。

 服越しに伝わってくる体温が心地良い。

「あと……どんなに傷付いてボロボロになっても、私がいますから、たくさん頼って下さいね」

「……あぁ」

 今日も亜里沙の応急処置のお陰で目以外は大して痛くなくなっている。

 目は本当に痛いが。

「亜里沙、大切にするからな」

 多分、その時の俺は目の痛みと満天の星空の醸し出す雰囲気でおかしくなっていたのかもしれない。

 いや、そう思っては亜里沙に失礼か。

 俺は、亜里沙の唇を初めて奪った。


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