18 次期国王
またまた遅くなりました。
今回からサブタイトルを頑張ってつけてみようと思います。
前の話にもサブタイトルをつけていこうと思います。
感想や要望などありましたらお願いします。
さて、話の内容ですが、幕間という感が強いのでちょっと違和感があるかもしれません。
王国内、王宮。
国王の住まいであり、政を行う上での最高の意思決定機関である。
その中でも取り分け大きなスペースを持つのが、神聖な儀式や他国の使者と謁見を行う謁見の間である。
そして、そこで一つの儀式が行われていた。
「――これを以って、バルギア様を王国の主として神々を始めとする臣下、臣民に宣言する」
新宰相であるイルスタ・ルノアが、持っている書状に記されている言葉を淡々と読み上げる。
周りの臣下達もそれを黙って聞いている。
「では王よ、自らを王として宣言するのです」
玉座に対面するように立ち、長々とした自分の台詞を喋り終えたルノアが目でバルギアを促す。
新たに設えられた冠を軽く被り直し、ゆっくり立ち上がり、息を吸い込んだ。
「我は、新たな国王になったデミノルーア・バルギア。 この場にて問う、我に従わぬ者がいるなら、出てこい!」
これも、決まり切った口上。
「バルギア、覚悟ぉぉぉ!」
左右に並ぶ臣下の列の中から、軽装の兵士が三人飛び出して来た。
それも、慣習通りで、バルギアは何も慌てない。
ただ、側に立て掛けて置いた剣を取り、静かに抜いた。
兵士達は臣下の列の間の道を走り抜け、ルノアの横も通り過ぎると、各々がバルギアに切り掛かった。
「死ねい!」
一人目の斬撃を、受ける前にバルギアの剣が兵士の胴を凪いだ。
一人目が倒れるのを見送る迄もなく、左に現れた二人目の兵士を睨む。
敵が一瞬怯んだ隙を逃さず、これも一撃で仕留める。
しかしその背後から三人目が既に斬撃を放っていた。
これで、バルギアの首が落ちるはず、だった。
だが、兵士は既に斬られた兵士二人を巻き込み、身体をくの字に折って吹き飛んだ。
「……おみごとです、バルギア様。 最後の〈覇〉は特に素晴らしい一撃でございます」
ルノアが賛辞を送ると、バルギアは血を払って剣を鞘に戻した。
まだ、儀式は続いているのだが、ルノアはそれを無視した。
しかし、咎めなかった。
バルギアのように、魔法でこの慣習を終わらせた国王はいなかったからだ。
それも、《闇》の魔法で、だ。
反乱から一日、まるで予定されていたかのように王位の継承儀式は遂行された。
それに疑問を抱いた人間は、この内府と外府を含めた王宮にはいなかった。
反乱時に、全て始末してしまったからだ。
「……ルノア。 クエラは?」
王の居室、そこには王となったバルギアと新宰相のルノアの二人しかいなかった。
扉の向こうには護衛の兵士が待機しているが。
「もうすぐ、かと。 今はそれよりも、情報操作を」
「それはもう方針は決まっているはずだ。 変な噂が広まる前に手を打て」
バルギアは組んでいた手を解くと、手でルノアの退出を促した。
ルノアも頭を下げると、部屋を出て行った。
残されたバルギアは、人の気配が遠くなっていくのを感じ、天を仰いだ。
「……ここからが、本番だ」
その呟きを聞いていた人間は誰も居なかった。
それから二日後。
混乱などもないまま、ルノアの情報操作によって街はいつも通りの賑わいを見せていた。
結局、バルギアとルノアが共謀して前国王、バルギアの父と平岩を殺した事実を、共犯者であるクエラが反乱の主として行ったということで形式上の投獄をしている。
そして、反乱はバルギアとルノアが鎮めたことになっている。
「……バルギア王。 これをどうお思いですか?」
ルノアからもたらされた一報に、バルギアは大いに顔をしかめた。
「それもだが……天児の埋葬についてだ。 場所は、西の緩衝地帯。 副葬品はあの刀だ」
「はぁ……。 しかし、本当に天児は蘇るのでしょうか」
半信半疑のルノアは、あまり乗り気でないようだ。
確かに、古文書の記述しか根拠がないのだから、疑うのは仕方のない話だ。
だが、今はこれしか方法がないともバルギアには分かっていた。
「蘇るさ。 そうでなくては……この反乱の意味がない」
「……では、そろそろお休み下さい。 今日はもう私の方にお任せ下さい」
バルギアは、隣の寝室へと入って行った。
「明日は、天児の埋葬を行う。 そっちはどうなんだ?」
宙に話かけると、淡い光が発した。
『明日……まだ動かないです。 それにしても予定外のことが起こり過ぎなのでは……?』
光からは少女の声が紡ぎ出され、バルギアの質問に答えた。
隣の部屋からルノアが居なくなったことを確認してからの、いつもの出来事だ。
《光》属性の〈話〉で毎日行っているが、これが盗み聞きされることはない。
されてはなれないのだ。
「お前は俺の指示に従えばいい。 ……前の指示も覚えているな?」
『はい……。 あの、』
「言いたいことは分かっている。 何も心配は要らない」
光は暫くの沈黙の後、納得したのか、別の話題に移った。
『お体は、大事ないでしょうか?』
「それはお前の心配すべきことじゃない。 それよりも、お前自身が身の危険を察知して、対処することに集中しろ」
『……はい。 それでは、また明日』
光が消え、〈話〉を切ると、バルギアは大きくむせ返った。
手の平には収まらない程の赤黒い液体が溢れていた。
まだ、口から漏れているのが分かる。
思っていたよりも消耗しているのが、バルギア自身にも分かっていた。
しかし、今は休むことは出来ない。
全ては、大望の為に。
そっと血溜まりを処理すると、いつもの様に過去を思い出しながら床に就いた。