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そろそろサブタイトルを考えようと思います。


 重厚な大斧が振り下ろされ、空を切れば、繊細な槍の連撃は鎧に阻まれる。

 今、僕のすぐ目の前で一進一退の攻防が為されている。

「……ちぃ、貴様ら! このガキを始末しろ!」

 周りの兵士の動きは早かった。

 僕が不意打ちを警戒しながら刀を抜いたときには包囲されていた。

 相手は五人、か。

 一対一なら問題はない、が。

 包囲されているのだから、容易には動けない。

「せいっ」

「せやっ」

 先ず、後ろの二人が切り掛かってくる。

「ちっ」

 振り返り様に右手の兵士の剣をいなし、左手の兵士の腹に蹴りを見舞う。

 そのまま一人を討とうとするが、さっきまで正面で向かい合っていた兵士の殺気を感じて転身。

 またしても振り返り様に三人と打ち合う。

「どりゃ!」

 少し体勢が崩れたが、真ん中の一人の右腕を切り落とした。

「くそ、こんなガキに……!」

 肘から下を切り落とされた兵士は憤怒に顔を歪める。

 そして発せられる剥き出しの殺意。

 正直、気を抜けば腰が砕けてしまいそうだ。

 ただし、ここへ来るまでに人を切っていなかったらの話だが。

「ふっ」

 敢えてこちらから強襲する。

 一瞬兵士がたじろいだところに、容赦なく脳天から肩まで鋭く切り付けた。

 兵士は絶叫して、絶命。

 数で優位に立っているはずの兵士達に動揺が走った。

 僕はそれに乗じて、近くの兵士二人の命を瞬く間に奪った。

 残りは二人。

 しかし、その目には闘志も殺意も映ってはいなかった。

「……降伏しろ。 これ以上は無益だ」

 構えを解いて勧告を投げかける。

 兵士はお互いの顔色を窺い、手に持つ剣を置こうとした。

「てめぇら! 俺の命令が聞こえなかったのか? 殺せ! そこに転がってる仲間の仇の首を取れ!」

 兵士二人は、男の叱責に慌てて剣を構え直した。

 しかし、そこに戦うという意志は見えない。

 僕は仕方なく二人を峰打ちで気絶させた。




 金属と金属がぶつかり合う。

 梨絵さんは少し苦戦しているようで、その証拠に汗を相手よりも多く流している。

 時折敵の鎧まで槍の穂先が届く。

 だが、鎧にその先を阻まれる。

 敵もそれを見越してなのか、よっぽどの危険な攻撃以外は無理に防御はせずに鎧に身を預けている。

 その分、反撃が早くなり、梨絵さんがそれを紙一重で防ぐ。

 その繰り返しであり、梨絵さんは確実に消耗していく。

「ふはは。 随分とぬるいな」

 遂に反撃に徹していた敵が攻勢に転じた。

「く……。 流石にそれは否定出来ないわね」

「無駄口を吐く余裕はある、か。 そもそも何故ここに来た? まさか王の愛人か?」

 敵の一撃が、槍で防いだ梨絵さんを弾き飛ばした。

「……アンタと違って、信頼されてるだけよ。 クエラ」

「ふん。 気安く俺の名を口にするな、移植民の分際で」

 僕は愕然とした。

 未だに、そんなことを……そんな差別用語を恥じることなく言える目の前の男に、怒りすら覚えた。

「この俺とお前を同列にした王には、はなから失望していた。 移植民を重く用いるということは、この王国……このバレスタ大陸を乗っ取ってくれと言っているも同然」

「アンタはまだそんなことを言ってるの? 私達和族が入植したのはもう遥か数百年前の出来事で、今じゃハーフの数も少なくないでしょ?」

 クエラは、笑った。

 だが、それは黒く曲がった笑いだった。

「黙れ、汚らわしい東猿とうえんめ」

 東猿とは、入植した和族を指した差別用語。

 それは、口にするだけで訴えられてもおかしくない程の禁句。

 それをクエラは軽々しく言い放った。

「……そう。 そこまで言うなら――」

 梨絵さんが突進を始める。

 目にも留まらぬ速さで。

「――覚悟なさいっっ」

 突き出された槍はクエラの首のすぐ横を通過した。

 遅れてクエラの首の皮膚の一部を爆ぜた。

「のわっ!?」

 そのまま槍の連撃、それもさっきよりもずっと早い。

「っち!」

 クエラは舌打ちをするや否や、部屋の奥へ後退すると、隠し扉で壁の向こうへと逃げた。

 ぶちギレている梨絵さんは同時にその壁に向かって連撃。

「おるぁぁぁ! 裏秘技、"貫壁"(かんぺき)ぃぃぃぃぃ!!」

 一撃一撃が壁を貫いて向こう側へ穂先が向かう。

 に、人間業じゃないな……。

「…………逃がしたわ。 でも、少しは手応えはあったわ」

 玉のような汗と、荒い息を繰り返す梨絵さんからはもう闘志は発せられていなかった。

「さて、安藤クン。 ここで状況を話しておくわ。 まず、見ての通り王と宰相が殺されてしまった。 恐らく首謀者はクエラね」

 出来れば認めたくなかったが、足元に転がっている多数の死体の内、庶民のものとは比べられないぐらい装飾を施した服を纏っているのは元・王の遺体。

 そして、その横には見覚えのある遺体、それは宰相の平岩さんだった。

「……平岩さん、私、王様の約束守るからね……」

 祈るような梨絵さんの言葉を聞いて、心の中で僕は黙祷を捧げた。

「…………………………なら、そうしてもらおうかのぉ」



「「え」」




 僕と梨絵さんは、なにも反応出来なかった。

 死体が喋った?

 いや、僕の聞き間違いだろう。

 でも、隣の梨絵さんも声を漏らしてしまったことを認識してしまったので、その可能性は絶望的。

 まさか、本当に死体が喋ったのか?

「…………二人共、私を勝手に殺しておらぬか?」

 今度こそ、喋った。

「し、し……」

「し?」

 隣を見れば、顔がに真っ青なった梨絵さんが恐怖に身体を震わせている。

「あの、梨絵さん?」

「しっ、鎮まり給へーーー!」

「「はい?」」

 次は僕と平岩さんの戸惑いの声がハモりという形で現れた。

 ナニヲイイダシタンデスカ、コノヒト?

「いやぁぁぁ! た、食べないでぇ! 安らかに天で眠ってぇぇぇぇぇ!」

 終いには手に持つ槍を振り回し始める始末。

 何とか羽交い締めをするが、彼女を支配する恐怖からの抵抗でなかなか取り押さえられない。

 槍で壁を壊す人だ、下手をすれば僕が貫かれないとも限らない。

「お、落ち着いて下さいっ。 生きてますから。 多分きっと恐らく」

「いや、この通り生きておるがな……」

 そこから梨絵さんの暴走はしばらく続いた。

 僕が何度か死にそうな目に遭ったが……。




「……もう大丈夫よ」

 漸くして大人しくなり、落ち着きを取り戻した梨絵さんの姿が見れて何よりだった。

 実は顔や腕なんかに切り傷が出来ているのは、僕の力不足ということにしておこう。

 話を戻すと、平岩さんは生きていた。

 死んだふりをしてやり過ごそうとしたらしいのだが、そこへ僕と梨絵さんがやって来たと言う。

「あの、その……王様は……」

「残念ながら、亡くなられた」

 淡々と伝える平岩さんだが、どこか悲しみを感じさせる表情。

 聞けば、平岩さんは王様が若い頃から共に王国で政を行ってきたと言う。

 そこへ、当時武芸が達者であると言う理由で梨絵さんやクエラが登用された。

 梨絵さんに関しては正直、今でも考えられないぐらいの大抜擢だったとか。

 そしてしばらくは、王国の力として仕えていたが、梨絵さんは婚姻を結んだので外府から辞去した。

 その際に、王様と平岩さんはクエラの選民思想に危惧を抱いたので、梨絵さんに有事の際には出撃するよう密約を結んだのだ。

「梨絵さんて実は凄い経歴を持っているんですね」

 素直に感嘆の言葉を掛けたのだが、本人は至って謙虚だった。

「いやぁ、妹を守る為に頑張ってた結果よ。 ……胸は大きくならなかったのはそのせいかしら……?」

 何やら場違いな発言は置いておき、平岩さんとこれからのことについて話すことにした。

「とりあえず、王宮は出ますか?」

「そうじゃな。 私の傷も浅くはあるが、出血は止まってはおらぬし」

 先ほどから脇腹を押さえている手からは血が垂れている。

 早く手当をしないと。

「……梨絵よ。 もう王宮は落ちる。 これ以上の無駄な殺生はせずに私を連れ出してくれ」

「はっ」

 畏まって一礼するなり、来た道を引き返す。

 ただし、怪我をした平岩さんを連れているので、行きの半分も速さは出ていない。

「平岩さん、頑張って下さい」

 僕が平岩さんに肩を貸し、梨絵さんが先導する形で進んでいるが、恐らく地上での戦闘は避けられないだろう。

 そうなっては、僕は平岩さんを最優先に守りながらの戦い。

 梨絵さんがどれだけ負担を背負ってくれるかに、期待するばかりな自分に嫌気が差した。

 と、遂に地上に戻ってきた。

 さあ、踏ん張り所だ。


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