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学校が始まってしまって鬱です。


感想などよろしくお願いします。



 追っ手を振り切って、少し経ってから僕一人で再び外府に様子を見に行くと、遠巻きに野次馬の一般市民がいたが、そこはまさしく戦場だった。

 朱塗りの壁はより色濃い朱で染まり、地面の石畳も死体や血で本来の姿が見えなくなっていた。

 奥の方にある内府からはちらほらと火の手が見え、この外府でも、激しい戦闘が展開している。

 しかも、驚いたことに魔獣の姿も見受けられる。

 一方の兵士と共闘しているようだ。

 一体誰が危険な魔獣なんかを召喚したのだろうか。

 よほど魔法の適性が高く、かつ努力をした者にだけ使える高等魔法だ。

 国内でも一人二人しかいないという領域なのだが。

「くっ……」

 目の前の魔獣から吐き出された漆黒の球体を避けると、後ろで爆ぜた球体が僕の身体を襲う。

「ふん、俺のペットの力はどうだ?」

 黒いローブを纏った男が現れる。

 コイツが、魔獣の召喚主のようだ。

「お前は何者だ」

「俺様は、『堕天の召喚者』だ」

 僕は、身体が竦み上がるのを感じた。

 二つ名持ちの魔法使いには、良くも悪くもいろいろと噂がある。

 目の前のローブの男は、大量虐殺等の理由で表舞台から姿を消したかつての若き大魔法使い。

 二つ名も『青天の召喚者』からこの『堕天の召喚者』と呼ばれるようになった。

 一端の傭兵として各地を巡り歩き、乱に乗じて大量虐殺をしているという噂を聞いたことがある。

 それが竦み上がる原因であると冷静に分析してはみるも、身体は自由には動かせず、緊張状態に陥っている。

「……向かって来ないのか? なら、ちぎっちまえ」

 一つ吠えると、三尾を持つ狼型の魔獣が僕の喉を食い破らんとして走り始めた。

 か、身体が言うことを聞かない……。

 目線はずっと魔獣の殺気の篭った黄色い目と合っている。

「っ!」

 もう目の前に魔獣が迫っているのだが、 まだ腰が抜けている。

「ぅわああぁぁぁぁ!!」

 剥き出しの殺意を目の前に、僕は奔流となって襲い来る恐怖を叫んでごまかすことしか出来なかった。

 死を、覚悟した。

 すまない、舞……。




「――大丈夫かな?」

 無意識に閉じていた目を開けると、一瞬誰か分からなかった。

 何故なら、意外過ぎる人だったから。

「梨絵さん!」

 梨絵さんは僕に微笑むと、割烹着に三角巾という出で立ちに銀の槍を携え、魔獣に真っ直ぐ突っ込んで行く。

「さーて、久しぶりの戦場だわ!」

 鋭い一撃が一閃。

 魔獣は片目を潰され、耳障りな悲鳴を上げた。

 その間に梨絵さんはさらに二撃を加える。

「貴様の銀の槍……まさか……」

 黒ローブの男の声色に明らかな動揺の響きがあった。

「そ、"銀槍の魔獣殺し"よ」

 魔獣に突きの連撃を叩き込みながら梨絵さんは言った。

 ま、まさか身近にこんな凄い人がいたなんて……。

「ちっ、またピンポイントで嫌な奴が出て来ちまったぜ……。 〈送還〉!」

 男は魔獣を闇に還すと、ローブを翻し、内府へと逃げ始めた。

 すると、掃討をしていた敵兵も同じように内府へ退却を始める。

「もう、私の許可なく出て行かないの」

 ため息を吐き、呆れた様子でこちらを見下ろしている梨絵さんだが、この人も割烹着姿で魔獣を退治してしまう辺り、相当な豪傑であることを物語っている気がする。

 伊達に枝梨さんのお姉さんをしている訳じゃないんだろうな。

「さ、内府はもう手が付けられないわ。 魔獣に精鋭兵士がいっぺんに相手じゃ流石の私も無理よ」

「一体何が起きているのか、知ってるんですか……?」

 やけに梨絵さんの冷静さが気になって訪ねてみると、意外過ぎる答えが返ってきた。

「今、王国の反乱分子が結束して内乱を起こしていて、もうすぐ終わるわ」

「終わるって……」

 どっちの意味ですか?とは繋がらなかった。

 先程の魔獣を操る男と言い、王国随一の将軍の死、そして将来も競い合うことが楽しみだった友人の死。

 それ以上は言うまでもなく、結果は予想出来た。

「……食堂に戻ってて。 私は内府へ行くわ」

「梨絵さんが戻らないなら、僕も戻りません」

 男としての意地、と言ったようなわがまま。

「ダメよ。 ここからは、いくら私でも面倒見切れないわ」

「自分の面倒は自分で見ます……今度こそ」

 つい先程助けられてしまった手前、大きく出られないのはいた仕方ないか。

 それでも、僕はこの反乱はただの反乱ではないと思ったから、その真相を見極めたいのだ。

 そして、梨絵さんにも何か秘め事があるような、そんな気もする。




 梨絵さんは、それ以上は何も言わず、無言で走り出したので僕もそれに続く。

 向かってくることに気付いた、反乱兵三人が槍を構えて突進してくる。

 梨絵さんは二人の槍を払い、それぞれ銀槍で腹を貫いた。

 残りの一人は僕に標的を定めたようで、訓練された鋭い突きを繰り出して来た。

 僕は抜刀し、槍の柄を切り落とす。

 一瞬怯んだ兵士の懐に素早く潜り込み、右侍の仇と言わんばかりに袈裟切りを放った。

 ほとんど力任せだったが、刀が業物なのだろう、兵士の身体を刃は滑るように通過していた。

 血を払い、自分の初めて討った兵士の亡殻に一瞥くれ、また梨絵さんの後に続いた。

 恐怖やその類の感情は感じなかった。

 逆に、高揚感が僕を支配していた。

 ――これが戦場、これが合法で無法な殺し合い、なのだと。

 ある意味、僕は人を斬る才能があるのかもしれない。

 良くも悪くも、だ。




 それから、そろそろ二桁は切り伏せてきた頃だろうか、ようやく王国側の兵士の防衛線の辺りまで来た。

 もう王宮も目前の、内府の奥だ。

 この防衛線が崩れれば、すぐ王宮内に反乱兵がなだれ込むことだろう。

「総大将は誰だ!」

 大声で梨絵さんが叫ぶと、応戦している兵士が応えた。

「王宮内から指揮を執っているデーリル様です!」

「分かった! 君も来るんでしょ?」

 デーリルと聞いた瞬間、梨絵さんの顔が強張った気がしたけど、気のせいか?

 とりあえずその疑問は捨て置き、梨絵さんの言葉に僕は頷いた。

 そうするや否や、梨絵さんは器用に槍をしならせてその反動で城壁の向こうへと跳んだ。

 僕は、全力で跳躍し、城壁上部の出っ張りを掴み、登った。

 僕がもたもたしている内に、梨絵さんは王宮内に走って行く。

 見失わないように追いかけると、地下へと入って行くようだ。

 隠し戸のような所から、地下へ階段が続いている。

 梨絵さんは躊躇なく駆け降りていくのを見て、僕も明かりも疎らな階段を駆け降りる。

 やっぱり、梨絵さんはただ者じゃなさそうだ。

「……この先には一体何が……」

 そう呟くと、目の前には終着と思われる戸が現れた。

 それも躊躇なく開け放つと、初めて梨絵さんの動きが止まった。

 僕も梨絵さんの後ろから中の様子を窺うと、そこは如何にも密会が行われていそうな部屋だった。

 左右の壁際にある松明が二本と、唯一の家具である机の上にある一本の蝋燭だけが部屋の明かりで、その中で人が数人。

 立っているのは六人、倒れているのは八人。

 その倒れている中の一人に見覚えがあった。

「平岩……さん」




 これは、一体?

「……おや、銀槍さんか。 少し遅かったですね」

 兵士にしては少し厚めの鎧を着た背の高い眼帯男がこちらに話しかけてきた。

 恐らく、この男はこの中でも高い地位なのだろう、他の兵士もこちらに注目している。

「やっぱり、アンタだったのね」

「はて、何のことやら」

 大袈裟に肩を竦めた男に梨絵さんは怒りを顕にした。

「王族殺しに王国の重臣を殺した罪は、拷問して殺しても足りないぐらいよ? 何を考えてこんな馬鹿なマネを?」

 男は覇気のない目で天を仰いだ。

「……神のお告げ、ってやつだ」

「ふざけないで!! アンタを始めとする反乱に加担した主な者を全員王国裁判送りにしてやる!」

 口調も乱暴になると共に槍を男に突き付けた。

「なぁ梨絵。 お前も思うところはないのか? 一世を風靡した女戦士が今や街で食堂の女将だ」

「それが何? 私は早一さんが好きだから今のままで幸せなんだけど」

「……王の逆鱗に触れて、王宮を追い出されて絶望していたお前の気持ちに付け入っただけの男に惚れたか。 いやはや、他国でも有名であっただけに余計に哀れだな」

「アンタよりも幸せだし、早一さんはそんな人じゃないから。 優しくて魅力的なんだから」

 ごちそうさま、などと茶化して口喧嘩(?)の様子を見守っていると、男の方が先に殺気を発した。

 同時に大斧が梨絵さんを襲う。

 しかし、梨絵さんはあっさりとその奇襲を避けると、逆に男の首を撥ねようと横凪ぎを放った。

「……ふん、落ちぶれてしまってはもう手の施しようがないか」

「野心でガチガチに固めたその醜い顔に言われたくないわ」

 口喧嘩をしながらの死闘。

 その様子を僕や周りの兵士は固唾を呑んで見守ることになった。

 一瞬の油断も許されないこの戦いの行方と結末を。


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