よーへーギルド
自由と商業の都プリステンダム三番街路内拠点傭兵ギルド
「今日中にぱっぱと大量のドラを稼ぎたいんだが、良いクエストはあるか?」
どうやら押しに弱いらしい俺が守ることになった、姉妹。
この二人と共に傭兵ギルドへと足を踏み入れ、すぐに受け付けのお姉さんにそう訊いた。
「ま、まず、ギルドカードを見せてください」
ユーリとシーナの姿を見て俺の奴隷だと判断したのか、受付のお姉さんは少しだけ怖じ気づきながら言った。
ちなみに今現在、俺は他の傭兵どもから蔑みの視線がばんばん注がれている。
ここに居る奴らは俺がミレトスの兵士を倒したのを見ていないだろうから、ユーリとシーナの首輪に掘られた刻印を見て、俺のことをミレトスの兵士だと思っているのだろう。
だがまぁ、これも些細なことだ。気にするほどのことではない。憐みの視線には慣れているのか、ユーリもシーナもあまり気にしていないようだった。
「ギルドカードって。なんだそれ」
「え、えと、ギルドカードという物はですね。簡単にいえば、ポイントカード、のようなものです。傭兵ギルドは、クエストを完了するたびにそのクエストに応じたギルドポイントが貰えるのですが、そのポイントが一定数まで溜まると、ギルドランクがアップするのです。ギルドランクはF~SSまであり、このランクが高いほど、より高報酬のクエストを受注することが出来るようになっています」
若干早口にそう説明する受付さん。
「あー。まぁ、ぶっちゃけ良く分からんが、クエストを受けるために、そのギルドカードはいるのか?」
「はい。必要です」
「そうか。じゃあ、とりあえずそれが欲しんだが、どうやったら貰える?」
「特に必要なものはありません。誰でも発行することが出来ます」
「じゃ、発行してくれ」
「分かりました。では、ギルドネームは何に致しますか?」
「……そうだな」
普通に俺の名前のセルでもいいが、これじゃインパクトが足りない。インパクトを求めてどうすんだ、って気がしなくもないが、まぁそれはいい。
格好よくて、強そうな名前。
『アダマス』でいいか。
「じゃあ、アダマス、で頼む」
「はい。承知致しました。では――」
受付のお姉さんはカードを一枚取り出すと、そのカードの隅に『アダマス』と書き記す。そしてその隣に印を押すと、それを俺に差しだしてきた。
「このギルドカードを紛失してしまわれた場合、ポイントは初めから溜めなおしとなってしまいますので、保管には十分お気を付けください」
「ああ」
俺はカードを受け取りながら応える。
だがまぁ、こんなもの、すぐに失くすだろうな。
「――なお、アダマス様はFランクからのスタートとなっておりますので、Fランクと一つ上のEランクまでのクエストを受けることができます。クエスト内容や報酬などの詳細は、あちらの掲示板に添付されておりますので、一度足をお運びください」
「ああ。分かった」
「説明は以上でございますが、何か、質問などございますでしょうか?」
「あー特にないな」
「そうですか。では、SSランク目指して、頑張ってください」
受付さんはそう言って、丁寧にきれいな姿勢で頭を下げた。俺はそれに対して「ああ」と小声で応えると、すぐに受付さんに背を向け、掲示板の元へと向かった。
「あー。えーっと、ユーリ。宿泊代って、一人何ドラぐらいだ?」
先ほどまで多くの傭兵たちがいたのだが、俺たちが来たことによって無人になってしまった掲示板の目の前。そこにはランクとクエスト内容が書かれた様々な紙が貼られていた。どのクエストを受注しようかとそれらを眺め始め、しばらくして、俺はユーリにそう訊いたのだった。
「……そうね。一度入ったことがある宿屋では、2千ドラぐらいだったわ。全然ドラ足りなくて、借りられなかったけどね」
良いクエストがないか未だにきょろきょろと探しながら、ユーリは応えた。
「そうか。じゃあ、三人で6千ドラか。飯代込みにしたら、8千ドラぐらいかかるよな?」
「そうね」
「んで、だ。Eランクの、最高報酬はいくらだ?」
「見て、分かるでしょ?」
「ああ。俺には、千二百ドラ、にしか見えない。もしかして一ケタ、見間違えてるのか?」
「ううん。そんなことないと思う。あたしにも、千二百ドラに見えてるから」
「マジかよ。全然、足りねぇじゃん」
「そうね]
「……がっぽがぽじゃなかったのかよ」
「それは高ランクのクエストをクリアしたら、ってことだったんじゃないの?」
「あーそうかもな。Aランクとか、10万ぐらい普通にあるし……」
ちくしょう。
人間にとってどんな難しいクエストだろうと俺にとっては楽勝なのに、まず受けることが出来ないとは。低ランクのクエストを受けてポイントをコツコツと溜めればいいのだが、そんな時間はなかった。
なんせ、今日中にドラを稼がなきゃ宿代を得る意味がないのである。
どうしたもんか。
と、状況を打破すべく頭を働かせていると、今まで黙っていたシーナが口を開いた。小さな体で、俺を見上げる。
「え、えと。セル……にぃ。……その、受付のお姉さんに、頼んでみるのはどうですかっ? セルにぃは強いから。ものすごく、強いから。それが証明できれば、高ランクのクエストでも受けさせてくれると思いますっ」
俺に意見することに緊張してるのか、シーナは手をぎゅっと握りしめる。
「あー。証明って、例えばどうすればいい?」
「えと。ここにいる傭兵さんの中で、一番強い人に勝つのが良いと思いますっ」
……簡単に言うな、この子。まぁ、簡単なんだが。
「そうだな、シーナ。そうしてみるか」
俺がそう呟くと、シーナは何が嬉しいのか顔をぱぁっと明るくさせる。
「……? どうした? シーナ?」
「え、えと。――セルにぃは優しいですねっ」
いや、今の言動の何処に、優しさが含まれたのだろうか。
「あーまぁ良く分からんが、シーナ。お前も俺に遠慮はすんなよ。嫌いなんだ。するのも、されるのも、な」
「はいです。その、気を付けますね」
「……なんつーか。ユーリと話す時みたいに、敬語じゃなくてもいいんだぞ?」
「えと。でもそれは、セルにぃに、悪いです。セルにぃはわたしとお姉ちゃんを助けてくれた、恩人さんなのに、わたしみたいな、子供が……」
「あー」
これが、まだ十歳(推定)の子供が言う台詞なのか。ホント、しっかりした子である。ユーリと血が繋がってるとは、とても思えなかった。
「まぁ、別にどっちでもいいか。とにかく、子供とか恩とかはもう気にすんな。遠慮なく、遠慮しなくていいからよ」
そっちの方が、やりやすい。
「えと……はいですっ」
シーナは素直にこくりと頷いた。そして顔を上げて俺の顔を見ながら、
「その、セルにぃは、ホントに優しいですねっ」
と、そう言って、にこりと笑った。
「あー」
――ホント、訳が分からなかった。
やはり奴隷にされていただけあって、こんな扱いでも優しいと感じてしまうのだろうか。




