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闘技場へと

 左右には同じような形をした民家が建ち並び、所々に酒場や武器屋といった少し大きめの建物が見える。道幅は広く、俺たち全員が横に並んでいても、まったく問題がなく歩行することが出来ている。道は直線的に長く続き、奥には中央広場があるようだった。


 そんな道で足を進めながら、俺は思う。


 色々あって、闘技大会に参加せざるを得ない状況に陥ってしまったわけなのだが、正直、めんどくさい、と。


 なんで俺がマジで闘わなきゃいけないんだ、って感じなのだ。


 そもそも俺は闘いを好き好んでするような根っからの戦闘野郎ではないし、悪いが、俺の相手になる人間など現れるわけもない。


 そう思い、辞退することを考えるのだが、勝つと賞金が貰えるのだという。

 どれぐらいの額なのかは出場する階級とランクによるらしいが、かなり高値だとミエルから訊いた。


 現在の俺の持ち金はざっと1ドラ。

 服を買うことは愚か、今日の食費代、宿代すら到底届かないような額だ。


 ドラは必要だが、闘うのはめんどくさい。


 どうしたもんか。

 と、顎に手を添えつつ悩んでいると、


「セル様」


 そう、ミエルに声を掛けられた。


 現在、左側に手を繋ぎ合う姉妹(こいつらホント仲良いよな)、右側にミエル、と四人で並んで歩き、闘技場へと向かっている最中である。


「その顔から察するに、セル様は闘技大会に参加するのがめんどくさいのですよね?」


 碧眼で俺の目を見据えながら、そうミエルは訊いてくる。

 なんで分かんだよ……。


「まぁな」


「やはりそうですが。それで、良かったらですが、私が闘技大会に出場いたしましょうか?」


「あー。いいのか?」


「はい。勿論です。先ほどの行き過ぎた冗談のお詫びということで、どうでしょうか?」


 別にさっきのことは全く気にしてなかったのだが(つーか言わなきゃ忘れかけてたな)、ミエルがそう言うなら、俺としてはその方が良い。


「そうか。そうだな。じゃあ、頼む」


「はい。分かりました。では、ギルドカードをお貸し願いますか?」


「ああ」


 俺は呟き、ギルドカードを差し出す。


「だが、偽造招待状があるんじゃないのか?」


「それはあくまでも偽造です。その場を乗り切るための物でしかありません。もし入念にチェックでもされてしまったら面倒ですからね。こちらの方が確実です」


「そうか」


「はい。――それしても、セル様」


「なんだ?」


「ギルドネーム、アダマス、ですか。ふふっ」


「……何笑ってんだよ」


「いえ。なんと言いますか。人間で言ういかにもな厨二病ですね、と思いまして」


「……う、うるせぇよ。適当に付けたんだからしょうがねぇだろ」


 まさかそこを指摘されるとは思わなかった俺は、恥ずかしさに顔を背け、視線は宙を仰ぐ。


 そうしていると、俺たちの会話を聞いていたシーナが口を開いた。


「あの。ミエルさん。アダマスって、なんですか?」


 と。


「それはですね。シーちゃん。『無敵』、という意味ですよ」


 ミエルは優しい口調で、丁寧に、真摯に答える。俺にもその態度を見せてくれ……。


「無敵、ですか。えと。セルにぃにはぴったりですねっ」


皮肉など微塵もこもっていない笑顔でシーナは言ってくる。純粋で、本当に良い子だった。それに対し、


「無敵、って。あんた、とんだナルシストなのね」


 と、ひねくれた姉。


「で、でも、お姉ちゃん。セルにぃは本当に無敵だよ?」

 俺が何かを答える前に、シーナがそう弁護をしてくれる。表情にこそ出さないが、なんとも嬉しいものだ。


「そ、そうだけど。例え無敵だろうと、自分を無敵なんて呼んでたらナルシストなのよ。それにね? シーナ。どうせいつか、セルはミエルに負けるわ」


「ふふふ。ユーちゃん。嬉しいことを言ってくれますね」

照れ笑いを浮かべながら、なぜか俺の背中をばんばんと叩くミエル。無意識でそうしているのか、加減が全く出来ていなかった。


 いてぇよ。


 俺はシーナがもう一度弁護してくれることを期待しつつ、指摘するのもめんどくさいのでミエルの叩きを耐え続ける。


「……ミエルさんも、強いですけど。でも、セルにぃも……。…………。…………。え、えと。…………その。…………ま、まだ、セルにぃ方が強いですっ」


 焦りながら何を言おうか考えていたシーナは、ようやくそう言い切る。


『まだ』を付けられてしまったのが何とも悲しかった。 

 俺、将来的にミエルに負けると思われてるのか……、と。


 嘘などつけそうもないシーナに言われたことが、それを倍増させる。


 いや、まぁ。

 このままミエルが鍛錬を続け強くなり続けたら、さすがにやばいのは俺でも分かっているんだがな。それを他の奴に指摘されるというのは、辛いものがあった。


「シーちゃんも私が勝つと思ってくれているのですか。嬉しいですね」


 ミエルは言いながら、シーナとユーリの真ん中へと割り込み、両手で二人の頭を撫でる。

 シーナは照れながらも嬉しそうな顔でうつむくが、ユーリは子供扱いされていると思ったのか、少しだけ不満そうだった――がまぁ、満更でもなさそうではある。


「ふふふ。私に娘ができたみたいで、とても嬉しいです」


 そう言うミエルの姿は本当に嬉しそうで、触れ合う三人の姿は家族のそれであった。

 微笑ましく、なんとも平和な光景だ。


「えと、ミエルさんみたいな綺麗な方がお母さんなら、私も嬉しいですっ」


「そうですか? ではいつでも、本当のお母さんのように私に甘えて下さいね。シーちゃん」


「はいです」


 シーナは頷き、頭に乗せられていたミエルの手を両手で握る。


 ミエルはその可愛らしい姿に頬を緩めながら、ユーリにも言った。


「ユーちゃんも、私にどーんと甘えて下さいね。――というよりも、私が甘えて欲しいので是非甘えて下さい」


「ま、まぁ、気が向いたら、ね」


 言いつつ、ユーリもシーナ同様、ミエルの手を握る。


 この二人の本当の親は生きてるのか、それとももう亡き人であるのか。

 それは俺には分からないし、訊くつもりもない。


 が、やはりユーリにも甘える人が欲しいのだろう。今まで、一人でシーナを守ろうと努力してきた身なら、それはなおさらなのかもしれない。


「えと、ミエルさんがお母さんなら、セルにぃはお父さんですね」


 ふと、俺の顔を見上げながらシーナが言った。


 それは何気ない一言なのだろうが、俺に少なからず衝撃を与える。


 俺がお父さんか、と。

 そう考えてみると、なんとも、奇妙で――滑稽だった。


「では、私とセル様が夫婦ということですね。ふふふ。それはとっても――心外です」


「…………」


「――というのは冗談で、セル様と夫婦、ですか。それはなんとも面白そうですね」


「あー、まぁ、俺は正直、尻に敷かれそうだからごめんだけどな」


「男ツンデレですか?」


「……ちげぇよ」


 いいえ。そうなはずです。とでも言うと思ったのだが、ミエルは「そうですか」と呟き、視線をそらせるだけであった。


 ユーリとシーナに一瞬睨まれたような気がしたが、まぁ、気のせいだろう。


 目の前には既に、巨大な闘技場があった。


 5mは超えるだろう二つの銅像が門の前で人々を威圧するようであり、幾多の死人を築き上げてきたであろうその闘技場は、異様な禍々しさに包まれていた。


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