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報酬

 門兵を自然な動作で気絶させ、なんなく『自由と商業の都プリステンダム』へと入る。

 さっきよりユーリとシーナの失望の眼差しが痛く感じたが、今回も気にはならない。


 俺が正義を振りかざすヒーローだと思ったら大間違いだ、ということを分かってもらういい機会だろう。


 シーナとユーリの会話に混ざることなく歩き続けていると、すぐに傭兵ギルドは見えてきた。


 俺は特に躊躇うことなく中に入り、すぐに受付さんの元へ行く。そしてポケットからデュオ・ケパレードラゴンの赤眼を四つ取り出し、カウンターに置いた。


「これでクエストクリア、だろ?」


 俺がそう簡単に言うと、受付さんは驚き、周りの傭兵たちはざわめき始める。


「も、もうクリアしたのですかっ?」


「ああ。ちゃんと証しもあるだろ?」


「……は、はい。そ、そうですか。では、この赤眼が本物であるかどうか、鑑定させて頂きます。少々お待ち下さい」


 受付さんはそう言って俺に一度お辞儀をすると、他の従業員を呼ぶ。そしてその従業員が赤眼を手に取り、眼を凝らして観察し始めてから数分。ようやく鑑定は終わったようだった。


 受付さんはその従業員と少し話しをしてから俺の方を向き、口を開いた。


「鑑定の結果、本物であることが分かりました。こちらが、報酬の30万ドラになります」


 俺は受付さんに差し出された『一万』と書かれた紙幣の束を受け取る。

 受付さんはそれを確認し、続けた。


「それと、こちらの赤眼は、どういたしましょうか?」


「……? どうする、って?」


「この赤眼は、一つ10万ドラでお売り頂くことが出来るのですが、買取してもよろしいでしょうか?」


「四つで、40万か。悪くないな。売らせてもらおう」


「ありがとうございます」


 受付さんは頭を下げ、カウンターの下から何かを取り出す。


「――では、こちらが追加の40万ドラになります」


 そしてそう言いながら、もう一度ドラを差し出してきた。

 俺はそれを受け取ると、もう用はないだろうと思い、背を向けようとする。


 ――が、まだ続きがあるみたいだ。


「他に、剥ぎ取った素材などありますでしょうか?」


「他に? なんか取ってくるものでもあったのか?」


「あ、いえ。デュオ・ケパレードラゴンの鱗や骨盤などは武器や防具などの素材として利用されているため、高額で買い取りを行っているのですが、そういったものはお持ちでないでしょうか?」


「あー、そうなのか? 取ってきてないんだが。まぁ、別にいいか」


 そんなたくさんドラは要らないし、もう一度リ・ガロス荒野に戻るなど考えるだけでめんどくさい。



『おい、聞いたか? あいつ馬鹿だぜ。折角ドラゴンを討伐したってのに、素材を剥ぎ取ってこないなんてよ。素人か? 運で倒したんじゃねぇのか? あいつ』

『ああ。たまたまドラゴンが倒れていたに違いねぇ。あんな奴がドラゴンを倒せるもんかよ』



 ふと、俺がドラゴンを倒したと聞いてざわめいていた傭兵たちが、そんな会話を始めた。ユーリとシーナにミレトスの刻印がない今、俺はミレトスの兵士には見えないのだろう。


 うざったいと思いつつも、俺は無視することを決め込んだ。


 だがあろうことか、陰口を言う傭兵の代表的数人が、俺に突っかかってきたのである。


「おいお前。何処の所属だ? 新人か?」


 なんという、典型的なめんどくさい野郎だ。


「……」


 俺は受付さんからギルドカードが返却されると、そいつらを無視してここから出て行こうとする。だが、


「おい待てよゴラ」


 と、その内の一人が俺の肩を掴んできた。


「無視か? てめぇ。何処の新人だって訊いてんだよ」


 自分を強い人間だと思っているのか、こいつは凄み、俺を睨みつけてくる。

 まったく怖くなかったが、これでも精一杯やってるつもりなんだろう。


「あー。めんどくせぇな。いいからどけよ」


 俺は無気力にそう応えてやると、男は激昂する。


「ンだとゴラッ! てめぇSSランクの俺に向かってそんな口聞いていいのかおいッ! 大体てめぇ、女連れこんで傭兵ギルド来るたぁどういうつもりだッ? てめぇごときがドラゴンを倒しただとッ! ふざけんなッ!」


 ガンをつけ睨みつけてくる傭兵に、その後ろの取り巻き数人。すぐにどけば、見逃してやろうと思っていたのに。


 なんともまぁ、愚かでうざったい奴らだ。

 めんどくさいが、消えてもらうことにするか。


「……失せろ」


 俺は不機嫌さ一杯の声でそう呟き、押し込めていた殺気を少しだけ開放する。


 だが自称SSランクなだけはあり、薬屋で出会った盗賊よりは根性があるらしい。足をがくがくと震わせ、汗をだらだらとこぼすだけで気絶には至らなかった。


 得体のしれない恐怖を感じ、自分の意思に反して震える足に驚き、男は声を張り上げた。


「――!? て、てめぇ何者だ!?」


 唇を震わせながら強がるその姿は滑稽で、威厳もクソもあったもんではない。


「うるせぇ。――どけ」


 これが最後の忠告のつもりでそう言ったのだが、男は意地からか、そこからどこうとしなかった。


 めんどくさいが、仕方がない。こいつにも、公衆の面前無様にも失神してもらうことにしよう。俺は無限に放出できる殺気を、無言で強めた。


「……ぁ、ぁ」


 すると、俺に突っかかってきた男は言葉にならない喘ぎ声を上げ、白目をむく。そして今までもぎりぎりの所で意識を保っていたのか、勢いよくその場に倒れ込んだ。続いてこの男の取り巻きにも殺気を送ってやると、みな同様に一瞬で気を失った。


 音を立て崩れ落ち、その一部始終を見ていた他の傭兵たちは、息を呑む。


「あー」


 こんな奴が、SSランクなのかよ。

 ジェイクはSランクだったらしいが、あいつの方が全然強かったな。


 と、俺は一度嘆息し、


「ユーリ、シーナ。行くぞ」もうここから出ていくことにした。


 口を開きながら唖然とする受付さんや傭兵たちを無視し、俺は出口へと直行する。


 ユーリは少し気分が良さそうに、シーナは少し申し訳なさそうに、俺の後に続いた。


 ホント、人間にはいろんな奴がいる。


 悪い奴。めんどくさい奴。

 良い奴。親しみやすい奴。


 ホント、色々。


 ――めんどくさいが、面白いものである。


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