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ミレトスの首輪

「そういえば、ユーリ」


 さすがにまた本気で飛ぶのはめんどくさかったので、さっきより押さえ目のスピードで飛遊しながら俺は話を切り出した。


「……? 何?」


「その首輪、邪魔じゃねぇか?」


「うーん。もう慣れちゃったけど、確かに、邪魔かもね」


「あー。……じゃあ、取ってやろうか?」


「ほ、ホント!?」


 ユーリは思わず大きな声を出すが、反対の側で俺と手を繋ぐシーナに「どうしたの?」といった表情で見られ、思わず口を塞ぐ。おそらく、首輪も『ミレトス』の話題に入ると思ったからだろう。


「そんぐらい、大した手間でもないからな」


「……嬉しい、けど、でも、この首輪にはかなり強い魔力が込められてて、簡単には取れないわよ? それに、取ったら死ぬって訊いたこともあるわ」


「大丈夫だ。俺に魔力で勝てる人間が居る訳ないだろ? その首輪の魔力全て消し去ってから壊してやるよ」


「……大丈夫、かな」


「信用、できねぇか? まぁ、別に、それならそれでもいいんだが」


 ユーリは首を振りながら答えた。


「ううん。信用、するわ。……これでホントにこの首輪を外してもらったら、恩がさらに増えちゃうけど、『ミレトス』とはもう決別したいしね。……それに、今までのあんたの行動を見てれば、信用できないはずがないもの」


「そうか。まぁ、それならいいが」


「うん。お願い」


「ああ。だがなんつーか、今はお前とシーナの手が離せないから、地上に降りてから外してやる」


「……うん」


 ユーリはそうしおらしく呟くと、両手で俺の手をぎゅっと握る。その行動の意味がよく分からなかったが、微妙に気まずさを感じたので、俺は飛行スピードを上げることにした。


 ユーリまでもが俺に本気で魔法を使わせるとは。この二人は不思議な姉妹である。

 いや、それとも、人間が不思議な種族なのだろうか? 

 


「着いたぞ」


 話しているうちに『プリステンダム』など裕に通り過ぎていたので、俺たちは『プリステンダム』を見失ってしまった。


 さすがに町を探知することなどできないし、魔力が弱すぎると、人間でも探知することが難しくなってしまう。


 俺と戦ったジェイクなら大きな魔力を持っているだろうから、ジェイクの『気』を探そうともしてみたが、あいつは常日頃から『気』は消してるらしい。この俺でも探知することが出来なかった(まぁそもそも、探知魔法の鍛錬はサボり続けたから得意ではないのだが)。


 だからやむを得ず、適当にずっと飛遊し続ることになり、30分ほど経っただろうか。


 俺はようやく、『プリステンダム』を見つけることが出来たのだった。


 クエスト遂行時間より戻ってくる方が時間がかかるとは、なんとも計画性がなかった。


 俺はそんなことを思いつつ、未だに明かりが見える市場から離れた草原へと降り、シーナとユーリに掛けていた防御魔法を解こうとする。――が、俺の魔力はほぼ無限だし、寝たままでも持続できる。俺と離れてるときに、『ミレトスの兵士』に捕まっても面倒だし、三重の防御壁は掛けたままでいることにした。


「えーっと、その、……セル」


 ふと、ユーリは口ごもりながら俺の名を呼ぶ。


「あー。首輪だったな。約束通り、外してやるよ」


 俺はそう呟き、ユーリの首に手を伸ばした。そしてどす黒い竜の刻印に触れ、首輪の魔力を感じ取る。中々に高位の魔術師が呪いを掛けたことは伺えるが、まぁ、それほどではない。


 俺は微量の浄化魔力を指先から流出させ、その呪いを消し去った。


 これでもう、壊しても大丈夫になっただろう。 


 そう確信し、俺は人差し指でとん、と首輪を叩いた。すると首輪は、ばりんと乾いた音をたて、粉々に砕け散る。


 その様子を眼で見ていたユーリは、複雑な表情で言った。


「……ホントに、外してくれたのね。……その、今日何回言えばいいのか分からないけど、ありがとね、セル」


「あー、まぁ、気にすんな」


 言いつつ、俺はユーリに背を向け、今度はシーナの方を向いた。


「シーナ。一回、目ぇ瞑ってくれ」


 俺がそう言うと、姉の首輪がいきなり壊れて困惑していたシーナだったが、


「えと、はいです」


 と、素直に眼を瞑ってくれる。

 俺はそんなシーナの首に手を伸ばすと、さきほどと同じように、首輪を粉々にした。


「わ」


 いきなり首輪の割れる衝撃がして驚いたのか、そう声を上げ、シーナは眼を開いてしまう。そして首に違和感を感じ、小さな手で首をべたべたと触り始めた。


「……あ。……首輪が、ないです。首がすーすーします」


 普通の反応。

 首輪には『ミレトス』の刻印が掘られていたし、首輪について触れたらシーナがまたヒステリーを起してしまうんじゃないかと俺は考えていたのだが、まぁ、さすがに杞憂だったようだな。


「あー、勝手に取ったが、別に良かっただろ?」


「えと、はい。もちろんです。何から何まで、ありがとうございます。セルにぃ」


 シーナはそう言って、笑顔を浮かべた。


 なんというか、やはりこの笑顔は和むものだった。


 俺はそんな一歩間違えればロリコンに間違えられそうな危ないことを思いつつ、ギルドに戻るため、城門へと歩き出した。


 さっき気絶させた門兵は復活していたが、また、気絶してもらうことになるだろう。周りの人間にばれたら面倒だから、慎重に、素早く、だ。


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