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よーへーギルド バトル

 ものすごい形相で睨んでくるジェイクと呼ばれた男。


 なぜかこいつは俺の国のことを知りたいらしいが、俺が神人(テオール)だと知ってるのだろうか。どうせ俺は勝つから話すことにはならないが、少しだけ気になることだった。


 先頭にジェイク、その後ろに俺、ユーリ、シーナと続き、金属で作られた床をコツコツと音を立てながら歩く。


 薄暗い廊下。左右には等間隔に明かりが灯され、所々に騎士の銅像が置かれていた。なんとも物々しい場所であり、そんなこの場に気圧されてかユーリとシーナは一言も喋らずにただ歩いている。


「ここだっ」


 沈黙の中、微妙な気まずさがあったが、それはジェイクの声で打ち消される。

 ジェイクは閉ざされた大きな扉の前で立ち止まり、そして俺を睨みながらその扉を勢いよく開けた。


「……」


 扉の先にあったのは――闘技場。

 軽く千人程度は入れるだろう観客席に、ど真ん中にある大きなリング。激しい戦いだろうも耐えられるように作られているのか、闘技場内のほとんどが鉄製で、リングなんかは銀色にギラギラと光っていた。


 傭兵ギルド内にこんなところがあったのか、と俺は驚く。


 どうもでかい所だなとは思っていたが、まさか闘技場が建物内に押し込まれてるとは。


 人間の技術はすごいものである。


「貴様。ここで闘うぞ! ルールはない。相手を降参させるか、気絶させれば勝ちだ! 勿論殺しても、いい」


 ジェイクは威圧的に言う。


 そして、強靱な跳躍力でリングへと飛び乗った。


「早く上がれ! すぐ始めるぞ」


 なぜ、この男はこんなに気合が入ってのだろうか。

 さっきから殺気がバンバン飛んでくる。


「……はぁ」


 俺は居心地悪い視線を無視しながら一度溜息をつくと、リングへ上がろうとする。


 そんな俺に向けて、シーナとユーリはそれぞれ口を開いた。


「え、えと。セルにぃ。頑張ってくださいっ」


「あんたが負けると野宿しなきゃいけないんだから、その……が、頑張ってよね」


「あー。まぁ、ちょっくら勝ってくるよ」


 俺はそう呟き、リングへと続く階段を上った。


 そして鉄製のリングに足を踏み入れると、すぐ前には今にも攻撃してきそうなほどに興奮しているジェイク。


 さっさと、終わらせるか。


「あーもう、始めていいのか?」


「ああ。いくぞ」


 ジェイクはそう呟くと、腰に刺した剣を引き抜き、いきなり俺に斬りかかってきた。


 とりあえずそれを右に少しだけサイドステップして回避すると、中々に良物な剣が空を斬る。そしてごぉん、というすさまじい音を立てた。


 なるほど。自信があるだけに、中々の腕前はあるのかもしれない。


 そう思っている間にもジェイクは剣先を横に向け、横一文字に斬りつけてくる。腕に魔力でも込めたのか、そのスピードは人間の限界を超えるほどに早く、少しだけ反応が遅れてしまう。だがそれでもやはり、俺にとっては見慣れたスピードだ。


 膨大な魔力の1%ほどを指先に込め、剣の勢いを止める。そして、デコピンで剣の中央部を粉砕した。


 ジェイクは驚きで顔を歪めるが、今まで幾度もの修羅場は潜ってきたのかすぐにバックステップで距離を測る。そして背に掛けていた身長ほどもある大きな魔杖を取り出した。


「炎を司りし神よ、我が盟約に従い、集え――」


 もう一度バックステップをして俺から距離を取ると、ジェイクは詠唱を始める。


「あー」


 だが、俺が詠唱している時間を見逃すはずもない。


 超上級魔法空間転移により、十メートルほどの距離を一瞬で詰め、手をかざす。そしてミレトスの兵士を倒した時と同じ、風刃列覇(アネモス)を無詠唱で放った。人間には見えるはずのない超高速の斬撃が、ジェイクを襲う。


 普通の人間がこの技を避けきれるはずもない。


 これで、この戦いもあっけなく終わりだな。


 と、俺は気を抜くのだが。

 やるな。


 ジェイクは確かに俺の魔力を察知し、ぎりぎりの所で転がり込んで、風刃列覇(アネモス)を回避したのである。

 だがなんとか回避したものの、俺の圧倒的な強さは分かってしまったのだろう。焦りの表情が顔に浮かんだ。


「あー」


 なのに、なぜだろうか。ジェイクの目に光は消えない。ギラギラと目を光らせ、未だに俺を睨みつけてくる。


 絶対に諦めない。絶対お前を倒すぞ。と、そう言ってるようだった。


「その身に――」


 詠唱を再開するジェイクに向けて、もう一度風刃列覇(アネモス)を放つ。


 だがそれも、さっきのがマグレではないことを証明するかのようにかわされ、続きを詠唱した。


「灼熱の炎を宿し――」


 このまま魔法を放たれても何ら問題ないが、どうせなら完封勝ちがいい。

 ジェイクが最後の一言を詠唱し終える前に、ジェイクが放とうとしている魔法を無詠唱で放つことにした。


 ――龍爆炎(ドラクシス)


 心の中でそう呟き、両手を斜め上にかかげる。


 それだけで目の前に大きな魔法陣を作り出し、そこから竜の形をした炎を生み出す。そしてそれを、ジェイクに向けて飛翔させた。


「――っ」


 ごぉぉぉぉぉぉおおぉおお。


 凄まじい音を立てながら襲いかかる炎の竜にジェイクは恐怖し、必死でかわそうとする。


 だが込められた魔力は俺の魔力。威力もスピードも大きさも申し分があるはずもない。炎の竜はジェイクを捕え、大きな口で噛みつき、全てを焼き尽くそうとする。


「……」


 これは人間相手に出す技じゃなかったかもしれない。


 そうも思ったが、俺の中じゃ最低限の力に抑えたし、あの男なら死なないだろう。咄嗟に体全体を魔法壁で纏っていたのもある。気絶してるだけで、大した火傷も負ってない可能性すらあった。


 まぁどちらにせよ、戦いはもう終わりだ。人間にしては中々強い男だった。


 俺は勝利を確信し、リングを降りようとした、その時。


「――いでよ。龍爆炎(ドラクシス)!」


 龍爆炎の詠唱、最後の一言が聞こえてくる。


 そしてその一言と同時に、俺の炎竜は打ち砕かれ、新たな炎竜が生み出された。


「やるな、こいつ」


 そう呟きつつも、俺が焦ることなどない。


 人間相手に一度でも魔法を放たれたってだけで、俺のプライドはかなり傷つけられたのだが、俺にこんな魔法は絶対効くはずがなかった。焦るわけも無いのだ。


 予想以上の強さを見せるジェイクの心を折るかのように、轟音を上げながら飛来する炎竜を、両手を広げて受け止めた。炎竜は俺の体に触れるだけで、少しのダメージも与えることなく消滅する。


 それを見たジェイクは驚愕に打ちひしがれ、顔を悲痛に歪めた。


 だが、なんなのだろうか。


 ジェイクの目の光は、未だに少しも消えていなかった。

 圧倒的な強さは見せつけたはずのに、こいつはまだ、俺に勝てると思ってるのだろうか。 そこまでして、俺に勝ちたいのだろうか。


 魔法壁で防いだとはいえ、灼熱の炎を浴びて服を焦がし、身を焦がしたはずなのに、なぜ、少し怯まない。疑問だった。何が、ジェイクをこんなにも動かすのかが。


「大気に満ちる空気よ――」


 また、詠唱か。

 一度じゃ俺に魔法が通用しないことに、気付かなかったのかよ。


「――我が命に従い――」


 もう一度空間転移を使い、ジェイクの目の前に瞬間移動する。

 ジェイクは中々の反射速度で後退して見せるが、逃しはしない。


 拳に1%にも満たない魔力を込め、ジェイクの左わき腹を軽く殴った。

 ごきっ、という鈍い音ともに、数本のあばらがへし折れる感触がする。


「――ぐはっ」


 体にはあり得ないほどの痛みと衝撃が襲ったはずだ。

 なのにこいつは、倒れない。息を荒くし、未だに俺を睨みつけてくる。


 ホント、なんなんだ。


「僕は。……僕は負ける訳にはいかないんだっ。ミレトスの兵士なんかに、負ける訳にはっ。僕がみんなを、助けるんだよっ」


 ジェイクは言いつつ、足に仕込んでいたナイフを二本投げつけ、俺から距離を図ろうとする。


「……あー」


 なるほど、そういうことか。この男は、ユーリたちの首輪に掘られた竜の刻印を見て、俺を『ミレトスの兵士』と勘違いしていた訳か。……なんとも、迷惑な話だ。


 だがまぁこの誤解のおかげで、高ランクのクエストが受けれることになるわけだ。これはこれで、良かったのかもしれない。


 呑気にそんなことを思っていると、投げられたナイフがいつの間にか俺に直撃していた。だが、只の尖った鉄程度では俺の皮膚を通すはずもない。ナイフは鉄の床へと落ち、カランと響きのある音がする。まったく。頑丈な体に生まれてきたものだ。


 思いつつ、


「おい、お前」


 と、空間転移でジェイクの目の前に現れ、俺は言った。


 だが必死になっているジェイクには聞こえていないようで、なりふり構わず後退し、詠唱の続きを開始する。


「全てを――」


「おいって」


「――凍てつくせ! 氷空殺(クリユール)!」


「ちっ」


 大気中の原子が動きを止め、俺の周りだけが極寒となる。そして鉄の床から馬鹿でかい氷を召喚し、俺を囲んだ。炎魔法みたいに触れるだけで消滅ってわけにはいかないから、氷魔法は少しだけ苦手である。


 ――照炎(ミクロシス)


 心の中で呟き、鉄の地面に手をつける。それだけで床に魔法陣を完成させ、灼熱の炎を発し、巨大な氷をすべて溶かした。


 ついでに俺の声が聞こえないらしいジェイクを正気に戻すため、空中にも魔法陣を作り出し、凝縮した照炎を球状にして放った。炎球はジェイクの腹に直撃し、ジェイクは苦しそうに蠢く。


 本来、照炎は普通の魔術師が使ったらランプを灯す程度の火力しか持たないのだが、俺が使えばここまでになってしまう(かなり加減しているが)。何の因果があってか強く生まれすぎた俺にとって、ダメージを少しだけ与えたい時などにこの技は結構使えるのである。


「おい、聞こえるか?」


 空間転移で膝をついたジェイクの目の前に移動し、その頬をぺちぺちと叩く。それによってジェイクは失っていた意識を取り戻し、ばっと立ち上がった。


「――!? くそっ。僕は気絶していたのか!?」


 まだ俺の姿を認識していないジェイクは、そう自分を恥じるように言う。


「おいお前」


 俺の声を聞き、ジェイクは目の前に居る俺の存在をようやく認識した。そして今までと変わらぬ目で睨んでくる。


「話しかけるなっ。ミレトスの兵士がッ。まだ、まだ僕は負けていないッ!」


 ジェイクはそう言って、重い足取りで俺から離れようとする。


「あー」


 最早、誤解を解くのもめんどくさい。


 次の一撃で、こいつの意識を根こそぎ取るか。


 ――雷光(ブロース)


 心の中で呟き、雷属性最弱魔法雷火を放つ。威力や雷の大きさは押さえに押さえ、ジェイクの体に一筋の電撃を与えた。


 風刃列覇(アネモス)をかわせたのだから、万全な状態ならこの技もかわせたかもしれないが、今のジェイクにそんなことができるはずもなかった。雷光は直撃し、ジェイクはその場に崩れ落ちる。


 三キロ先の本だろうと読むことのできる視力でジェイクの顔を見てみると、ジェイクは完全に失神していた。さすがに、もう目は覚まさないだろう。


「……終わり、か」


 俺は呟き、倒れているジェイクを肩に担いだ。そしてそのままリングを降り、ユーリとシーナに、当然の勝利を報告する。


「あー。……勝ったぞ」


 ユーリはなぜか放心状態だったが、シーナは目を輝かせながら言ってきた。


「セルにぃすごいです! カッコよかったです!」


「そうか?」


「はいです。セルにぃはやっぱり、強いんですねっ」


 シーナはそう嬉しそうに笑顔を作る。

 そこまでべた褒めされると少し照れるが、悪い気はしなかった。


「まぁな。それより、さっさと受付さんに勝ったこと報告しに行くか。今日中にで

かいクエストをクリアしなきゃいけない訳だしな」


「えと、はいです」


 シーナはそう言って、歩き出した俺の後に続いた。


 だがもう一人、ユーリの方はついてきていない。俺は一度足を止め、振り返った。


「あー。ユーリ」


 未だ放心状態だったユーリの名を呼ぶと、ユーリは体をびくっと震わせ、正気に戻る。


「あ。――な、何?」


「いつまでそこいんだよ。さっさといくぞ?」


「う、うん。ごめん」


 ユーリはそう呟き、小走りでシーナの隣まで来た。そして自然な動作でシーナの手を握り、口を開く。


「――それにしても、あんたって、ホントに強いのね。驚いたわ」

「まぁな」


 俺はシーナにも言われた言葉を肯定し、


「だからなんつーか、安心しろ。お前らぐらい、守るのは余裕だからさ」


 と、付け足した。


 自分で言ってて少し照れくさくなったので、歩き出すことでその顔を隠すことにした。


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