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女侯爵は夫の不倫相手を全力で保護しにかかった

作者: 特になし
掲載日:2026/03/02

 夫の不倫が発覚した。結婚十年目のことだった。


 私、ルアンヌは、デュヴィラール侯爵家の現当主である。私以外に子供のいなかった侯爵家は、私が婿を取って跡を継ぐことになった。その婿というのが現在の私の夫、伯爵家の四男坊だったジェロームである。


 私たちは適齢期ぴったりの十八で正式に夫婦となった。家同士の取り決めという、貴族社会でありふれた愛のない結婚。それでも、私はかなり努力したつもりだった。


 跡継ぎとなるべき厳格に育てられたせいで、元来私は可愛らしさや愛嬌というものと無縁だった。おまけに高身長ときつい顔立ちも相まって、社交界デビュー時は、同世代の令息たちから華麗に避けられていたことを覚えている。パーティーではいつも壁の花……いや、花ではないな。壁の染みだろうか。まあ、そういった立ち位置だった。


 そんな私が、ジェロームと打ち解けるために微笑みかけ、甘い台詞を言って、プレゼントを送って……。しかし、彼はそれを全部気色が悪いとはねのけた。


 優しさの欠片もない女と結婚させられた哀れな男、というのが自己認識なのだろう。彼は私を嫌っていることを隠さず、またそれを正当化していた。


 結婚から数年後、ジェロームは勝手に別居を開始した。一晩中花街で遊びまわって、朝方に私の屋敷に戻ってくるのが面倒になったのだろう。以来、公の行事の時だけ顔を合わせる、仮面夫婦未満の夫婦生活が続いている。


 当然のように、私たちの間に子供はいない。領地に隠棲した両親ははじめこそ心配していたが、やがてそういうものと割り切って、いとこの子供にでも家督は継がせればいいという結論に至った。


 そして十年。私は二十八になった。


 人生に不満はない。夫婦関係が上手くいってなかろうが、それは些末なこと。侯爵家当主としてやることはたくさんある。領地経営に社交界での人間関係、慈善活動……。この十年間は非常に充実したものだった。


 もしかすると、これは私にとって最適の形の結婚だったのかもしれない。今ではそう思うようにすらなっていた。


 そこにきての不倫発覚である。


 事の発端は、共に参加した夜会でのこと。ジェロームは酒に酔った勢いで不倫を暴露した。きっと私への当てつけだったのだろう。いかに不倫相手が素晴らしいか、私に不満があるのか、口の端から唾をまき散らしながら吐き捨てた。


 夜会会場は異様な盛り上がりを見せた。暇を持て余した貴族たちは、誰かの醜聞が大好物だ。不倫スキャンダルはその最たるもの。ジェロームがはっと正気に戻る頃には事態は会場中の知るところとなっていた。明日には貴族社会全体の知るところとなっているだろう。


 しかし私が抱いたのは、あほらしい、という感想一つだった。公衆の面前で不倫を白状するなんて、どういった脳みそのつくりをしているのだろう。


 ジェロームは夜会会場からそそくさと逃げ出した。妙な騒ぎに付き合う気もなかったので、その日は私も早々に退出することとなった。


 次の日、私のもとにジェロームから一通の手紙が届いた。謝罪の台詞でも書いているのかと思いきや、そこにはただ、しばらく王都を離れ旅行するとだけ。要するに好奇の目から自分だけ逃げたのだ。


 かくして私は社交界という戦場に一人残された。だとしてこそこそする筋合いもないので、私はいつも通りパーティーに出席した。


「聞いたわよ、旦那様が不倫なさったんですって」

「おかわいそうに……」

「ご心痛でしょうね」


 到着するや、大して仲良くしたつもりもない夫人たちに私は取り囲まれる。


「いえ、特に」


 悲壮感のない私の返答に、夫人たちは不思議そうな顔をする。


 夫の不倫は貴族女性の最も恥とすることだ。それが知られてしまうことは、夫の関心を失った魅力のない女と烙印を押されることと等しいとされる。


「それにしても許せないわよね、その不倫女!」

「痛い目を見せてやればよろしいのよ」


 夫人たちは今度、私への憐れみから不倫相手への攻撃に内容を変えた。


 さて、不倫によって名誉を失った女性たち。そんな彼女たちが尊厳を取り戻す方法はただ一つ。不倫相手にきつい制裁を下すことだ。


 あれは何年前のことだったろう。十年以上不倫に気が付かないふりをし続け、不倫相手が完全に行き遅れの年齢になった瞬間、不倫の証拠を突きつけて社会的制裁を下したシャンポリオン伯爵夫人は、女傑として今なお語り継がれている。


「ジェローム様には、正妻が一番と気付かせてさしあげなければ」

「そうですわ。真に愛されているのは不倫女などでなく、正妻たるルアンナ様に決まっているのですから」

と、さらに助言をしてくれる夫人たち。


 不倫された妻の最終目標は、不倫相手に奪われた夫の愛を取り戻すこと。言ってしまえば、不倫が発覚した瞬間、正妻対不倫相手というバトルのゴングが鳴るのである。


 しかし、どうしよう。果てしなくどうでもいい。


 夫と愛し合っていたのならば、「この泥棒猫! 人の旦那を誘惑して!」なんてありきたりの台詞も言えたのかもしれないが、私に対するジェロームの愛はもともとなかったし、彼から愛されることに価値があるとも思っていない。よって、不倫相手に対する怒りというのはまるでわかないのである。そもそも私は従来の考え方的に、不倫相手に憎しみの全てをぶつける、というのは好きではない。


 だがーー


「その相手というのは、いったいどんな人物なのでしょう」


 その点だけは気になってしまう。私の感覚では、彼はお世辞にも魅力的な男性とは言えない。社交界でも人気はなく、不倫はしたくでも相手にされずできないタイプと考えていた。それがついに不倫とは、随分なもの好きもいるものだ。


「それがねえ」


 夫人たちは汚らわしい、とでも言いたげに顔をしかめた。


「社交界デビューもしてない小娘なのよ」


「え」


 私は声を漏らす。


「十四歳ですって」

「その年頃なんて、一番いやらしい年齢よ」

「調子に乗ったこまっしゃくれた娘なんでしょうね」


 十四歳――? ジェロームの相手が? 十四歳?


 この瞬間まで、不倫相手の処遇などどうでもいいと心から思っていた。完全に捨て置くつもりだった。しかし……。


「許せない……」


 あまりの怒りに、私は握っていた扇をボキリと折った。



 ナタリア・テモワン。それが不倫相手の名前だった。没落して久しいテモワン子爵家の娘。両親は既になく、現在はラングラン伯爵家でメイドとして働いている。


 ラングラン伯爵とは古くから付き合いがあり、屋敷に夫婦で足を運ぶことも少なくなかった。その中でジェロームはナタリアと出会ったのだろう。


 私が伯爵邸を訪問するや、

「この度は我が家の使用人が誠に申し訳ございませんでした」

と、ラングラン伯爵は大きく頭を下げてきた。


「ナタリアのことは既に解雇しております。デュヴィラール侯爵におかれては、どうか我が家を無礼者に与するものと思われないでくださいませ」


 伯爵は醜聞が自分にまで及ぶこと、ひいては私の怒りを買うことを未然に防ぐため、迅速な行動をしていたらしい。私は現在の住所だけ聞き出し、伯爵邸を後にする。たどり着いたのは古びた下宿部屋。貴族令嬢の行きつく先としては、かなりの落ちぶれっぷりである。


 私は扉をノックする。


「はーい、どちらさまー?」


 勢い良くドアが開くと、そこにはかわいらしい少女が立っていた。十代のころには気付かなかったが、いざ自分が二倍の年齢になってみると、十四歳というのはあまりに子供だった。


「はじめまして。私はルアンヌ・デュヴィラール。あなたはナタリアで間違いなしかしら」


「デュヴィラール……。ジェローム様の奥さんね」


 ナタリアは途端、かわいい顔をゆがめ、きっとにらみつけてくる。


「ふーん、やっぱりジェローム様の言ってた通り。とんだおばさんじゃない。私の方がかわいいって言ってたのも納得ね」


 胸を張るナタリア。


「へえ、そう。あの男は他にどんなことを言ったの」


「冷たい妻より無邪気な私の方が好きって言ってたわ。あなたとはいずれ離婚して、私を伯爵夫人にしてくれるともね」


 この子は間違えている。ジェロームは侯爵家の婿であり、侯爵ではない。彼に継承権はなく、彼女を家に迎える権利もない。


「他には?」


「これをくれたの。流石侯爵様はお金持ちだわ。こんな大きな宝石、見たことない」


 ナタリアは首飾りを見せびらかすが、これは偽物。困窮した家庭で育ったこの子には、判別がつくはずもない。


「で、他には?」


 表情を動かさずに尋ねる私に、ナタリアの挑戦的な表情はやがて崩れ始める。


「……笑いに来たんでしょ。不倫して、だけど結局本当の奥さんには勝てなかった私を。ジェローム様はもう終わりにするって、そう手紙をよこした。あの人が愛してるのはあなたなのよ」


 ナタリアはうつむく。


「惨めな私を見て満足した? ジェローム様に捨てられ、仕事をくびになって困窮して、この後も社交界には戻れない。ざまぁみろって思ってるんでしょ。それとも何? この上に慰謝料でも請求するつもり?」


 憎まれ口をきくナタリアだが、その口元はぷるぷる震えている。当然だ。彼女が今言ったように、彼女の人生は既に詰んでいるのだから。私が制裁を下すまでもない。


 さて、一般的なご婦人方であれば、この状況はまさに願ったりかなったりなのだろうがーー


「あなた、私と一緒に暮らしなさい」


「え……?」


 私の提案にナタリアは目を丸くする。


「私がここに来たのは、あなたを養女に迎えるためよ。分かったらさっさと荷物をまとめて。屋敷に行くわよ」


 訳が分からないという様子のナタリア。私はそんな彼女を半ば強引に家に連れ帰った。



 養子縁組手続きを済ませた直後、ナタリアは当然のように私を警戒していた。家に招き入れて油断させて、世にも恐ろしいことをしてくる気だ! ナタリアの顔にはそんな文字が書いてある。


 私はナタリアに家庭教師をつけ、侯爵家の娘にふさわしい教育を受けさせた。その他にも、質のいい食事、衣服、部屋を与えた。この扱いに、ナタリアも徐々に警戒心を緩めていった。


「あの、奥様……」


 いつからかナタリアは私を奥様と呼ぶようになった。初期の粗っぽさがなくなったのは、淑女教育の成果だろうか。


「何?」


「私のことが憎くないんですか? だって、私はあなたの夫と……」


「憎いと思ったことはないわ。変な心配はしなくていいわよ」


「……奥様はお優しいのですね」


「いいえ、私はまったく優しくないわ。自分で思ったことも、他人に言われたこともないし」


「じゃ、じゃあ、どうして……?」


「いずれ気が付くわよ。今すぐ知る必要はないけれど」


 私がそう言うと、ナタリアは神妙な面持ちで口をつぐんだ後、ゆっくりと開いた。


「……ごめんなさい。許されるわけじゃないとは知ってるけど、本当にごめんなさい」


 素直に謝れるようになった。この子はきっと大丈夫だろう。私はそう確信した。



 不倫発覚から三ヶ月。人々がこの話題に飽き始めた頃、ジェロームは王都に戻ってきた。


「お帰りなさい。思ったよりも早かったわね」


 私は大切な話があると、ジェロームの屋敷で彼を待ち構えていた。十年間不干渉を貫いていた私が動いたことに、流石の彼もあせったのだろう。


「き、君の言いたいことは分かってる。だけど、安心してほしい。遊び相手とはもう別れた。王都を離れていたのは、彼女と一切連絡を取らないことを証明するためだ。彼女に気持ちはない。君の好きなように彼女を処分してくれて構わない」


 ジェロームは冷や汗を流しながら自己保身のための台詞をべらべらと並べてくる。いくら嫌っていても、彼は生活の全てを私に依拠している。完全に怒らせてしまえば待遇が悪くなると推測したようだ。


「ナタリアにはもう会ったわ。かわいい子ね」


「それなら話は早い。で、どうしたんだ? 最下層の修道院にでもぶち込んだか? 妻がいる俺をたぶらかすとは……。汚い女だ。ひどい目にあわせてくれ。それで君の恥もぬぐえる……」


「ナタリアは私の娘にしたわ」


 途端、ジェロームはぶっと紅茶を吹き出した。


「正気か!? まさか、大切な話ってのは……」


「いいえ、違うわ。大切な話は別にあるの」


 私は静かに続ける。


「あなたとは離婚するわ。今すぐここにサインして家を出て行ってちょうだい」


 離婚届を差し出すと、ジェロームの顔色は一気に青ざめた。


「……どうしてだ。俺はナタリアじゃなく君を選んだ。君の勝ちだ。満足だろ? それなのに離婚されるなんて、そんな筋合いは……」


 凄いものだ、と感心する。この人間は心から自分が制裁を受けることはないと思っているのだから。


「私はずっと不思議だったの。この社会では、夫の不倫は妻の恥とされるでしょう。恥じるべきはやった本人であるはずなのに。おまけに、妻が復讐すべきは不倫相手だけとされている。どうして不倫した張本人の夫は、何の社会的制裁も受けず、むしろ正妻と愛人二人に取り合われるというポジションに収まるのかしら。私には理解できない」


 それはずっと抱いていた疑問だった。


「つまり、君は俺を恨んでるんだな」


「違うわ。不倫したのならば、した側は双方とも責任を取るべき、という見解をまず述べさせてもらっただけ……」


「君の発言は矛盾してるぞ!」


 殊勝ぶっていたジェロームは、その時勝ち誇ったように叫んだ。


「君はナタリアを家に迎えてるじゃないか。双方を罰するんじゃなかったのか? それを俺だけにあたって、こんなのただの当てつけだ。自分以外を好きになった俺に腹を立ててるだけなんだろ。本音を語れ」


「本音?」


 私は小さく微笑む。


「じゃあ、言わせてもらうわ。このくそ野郎。自分より弱い相手じゃないと強気になれない、いきり弱者思考野郎。気色が悪い。同じ空気を吸いたくない。さっさと出ていけ、恥さらし」


「……え?」


 目が点になる、というのはまさにこういった状況なのだろう。


「あなたが本音を言えと言うから」


 本当はとっくに限界なのだ。この人間を前にした瞬間から、私は何度怒りのあまりこいつを殴りかけるのをこらえたことか。


「私は、不倫は双方が糾弾されるべきだと言った。でも、あなたがしたのは不倫じゃない。一方的な犯罪行為だわ」


 私は怒っている。ずっと怒っている。ジェロームの相手が十四歳だと知ってから、ずっと。


「自分の半分しか生きていない子供を手懐けて、自分の虚栄心を満たすために利用する。犯罪以外の何だというの? 大人として恥ずべき行為だわ。子供に手を出すような倫理観の生き物に、同じ家の名前を名乗ってほしくない」


「ナタリアとは自由恋愛だ。年が離れていたとして、責められる筋合いはない」


 彼は白々しい言い訳をするが、私が問題視しているのは年齢差そのものでない。子供ならではの判断力の弱さ、そこに付随する力の上下を利用したことだ。


「あなたは明確に彼女が幼いこと、しっかり教育されていないこと、困窮していることを利用しているわ。自分が侯爵だと噓をついて、偽の贈り物をして信用させて。その後ナタリアから聞いた話によれば、両親が残した借金を返済するほか、財政破綻した子爵領を立て直してやるとまでうそぶいていたそうね。自分の力を誇示することで、彼女をコントロールしたのでしょう」


 十四歳。本来なら両親の庇護の下で守られるべき年齢。しかし、ナタリアに両親はおらず、守ってくれる存在はない。そのことをこの男は知っていた。知ったうえで、弱さに漬け込んだ。


 ナタリアが抱いていたのは恋愛感情とは違う。力を持っている大人への信頼を、恋愛と思うよう彼に仕向けられたのだ。その結果、不倫の迎える結末も知らないまま、破滅に突き進んでいった。


「あなたはナタリアの人生を滅茶苦茶にした。未来ある子供を狂わせた罪は重いわ」


 世は愛人という立場の者に厳しい。我が家の養女になったとして、不倫の当事者となった過去を消すことは不可能だ。彼女は今後ずっと苦労していくことになるだろう。


「ことの詳細はあなたのお兄様方にも報告したわ。凄く話の分かるいいお兄様ね。事態を重く受け止めてくれて、あなたを自由にさせるとまた卑劣なことをしでかすから、責任をもって家の中に閉じ込めて監視するとおっしゃってくれた。すぐにでも迎えが来るでしょうね」


 ジェロームは兄たちとの関係がすこぶる悪い。真人間がくず人間をよく思うわけがないので、当然の帰結ではあるのだが。実家に戻った彼を待ち受けるのは、軽蔑の意まなざしと完全に統制された生活だろう。


「別に私があなたを管理しても良かったのだけど、我が家にはもうナタリアがいるから。そばにいさせたくないのよ。ナタリアの人生に、これ以上、一ミリでも、あなたが関わることは許さない」


 十年間で初めて見る私の剣幕に、ジェロームは何も言えなかった。そして、侯爵家から書類上でも物理的にも出ていった。これで私の不倫騒動の精算は完了したのだ。


「おかえりなさいませ、奥様」


 屋敷に戻ると、ナタリアが習いたてのカーテシーで出迎えてくれた。少し前より格段に上手になっている。


「お茶の準備をしておりましたの。それで……よろしければご一緒していただきたくて」


 もじもじと頬を赤らめるナタリア。この子はいつか気付くだろう。自分が汚い大人に利用されたことに。


 この子に必要なのは制裁でなく保護。するべきは贖罪でなく反省である。だから家に迎えた。そして、いつか全てを理解できるようになった時、もう利用されない強さを身につけさせておくのだ。


「私はお茶の味に厳しいわよ」


「は、はい……!」


 先を行く私を、ナタリアが追いかけた。



 それから二年。十六歳になったナタリアは、ついに社交界デビューの日を迎えた。


 世の中のナタリアへの目は相変わらず厳しい。また不倫相手でありながら、家に迎えられたという不可思議な境遇への好奇の目も凄まじいことだろう。


「お母様」


 会場へ続く廊下を歩きながら、ナタリアは改まった面持ちで私を見上げた。


「私、これからは侯爵家の名に恥じない行いをすると誓います。二度と過ちは繰返しませんわ」


 ナタリアは二年で大きく変わった。頼りなかった少女は今、一人の大人としての覚悟を持った瞳をしている。


「そうね。自分の行いが原因で負った不名誉は、自分の行いでしか拭えない。逆に言えば、あなたがどんな人間になるのかはこれからの行動で作っていけるのよ」


「ありがとうございます。私にやり直す機会を下さって。お母様は本当に優しい方です」


「優しくないわ。優しくするのは苦手なの」


 ジェロームを離縁してから、私が冷たい女という評判はまた広まった。まあ、そう言われる原因を作っているのは自分なので、それについて不平を言うつもりはないのだが。


「いいえ、お母様は世界一優しい方です」


 しかし、ナタリアは首を横に振った。


「私は知っております。お母様がしてくださったことも、そこにある思いも全て」


 この十二年間、お世辞にも普通の生活とは程遠かった。しかし、私自身は現状に非常に満足している。かわいい娘との二人暮らしは、どうやら一番自分に向いているようだ。

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