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第7話 国ではなく、わたくしを

 火の粉が夜空に舞っています。



 物の焼ける匂いが鼻につきました。



 遠くで警報の鐘が鳴っています。



 顔を厳しくした衛兵が町の中を走り回っていました。



 わたくしたちは走っていました。町の外れに急いで向かいます。並走するマコトが息を弾ませていました。わたくしはそれほどでもありません。体力だけが取り柄ですわ。



 ……これで、もう後戻りはできませんわね。



 おそらく、門は塞がれていると思って良いでしょう。



 だとしたら迂回(うかい)するのが吉です。



 後方で大声が響きました。



「いたぞ! ノクティアだ!」


「勇者もいるぞ! 共犯だ! 捕らえろー!」


「こっちですわ!」


「ちょっと!」



 彼が何かを言う暇も与えずに路地に飛び込みました。狭い通路を抜けてまた道路に出ます。路地を縫うように走り、追っ手を振り切りました。



 それから十分も走ったでしょうか?



 わたくしたちは足を止めました。



 ……誰も追って来なくなりましたわね。



 わたくしは振り返りもせずに言いました。



「貴方は、勇者として王都に残れましたのに」


「ははっ、ノクティアは足が速いな」



 両手のひらを膝について、肩で息をするマコト。わたくしはわざとらしくため息をついて、また同じ内容の言葉を繰り返します。



「わたくしと関わらなければ、


 貴方の未来は約束されていましたわ」



 マコトが上半身を上げます。凜々しい顔つきで首を振りました。



「どうしてそんなことを言うんだ?」


「……わたくしは!」



 目が熱くなってこらえます。



「私と関わると、(ろく)なことがありませんのよ」


「違うよ。君がいる、それで十分だ」


「それはどうしてなの?」


「言葉のままの意味さ」


「本当に、ずるい人! 貴方は」


「そうかい?」



 彼は口の端に笑みをたたえます。



「……これは忠告ですが、もっと自分の将来を見据えるべきですわ」


「将来なんてどうでもいい」



 ……。



「僕は君を選んだ」



 わたくしの瞳がわずかに揺れます。



 呼吸が浅くなり。



 だけど涙も出ません。



 ただただ、驚きに包まれていました。



 ――本当に、ずるい人。



 気づけばマコトが一歩踏み出して、わたくしの隣に並んでいます。



 それから、二人で歩き続けました。



 東の空が白む頃。



 振り返ると、焼け跡から空に立ち昇っていた煙が薄れていました。



 ――自由など、最初からありませんでしたのね。



 それでも構いませんわ。



 わたくしは、奪うと決めました。



 そして、これだけは確かに分かる。



 ――勇者は、国ではなく、わたくしを選んだ。



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