第3話 隣にいる人
馬車が再び動き出します。
綺麗に立ち並ぶ木々の道を抜けて、いま草原に出ました。窓の外の景色が開放感に包まれます。
――ようやく自由になれましたわ。
轍ができた地面。何度も踏みしめられた硬い道を、トトン、トトンと車輪が揺れます。不思議と落ち着くリズミカルなその音に、眠気さえ感じました。
斜め対面に座っている黒髪の男性が口を開きました。左目の泣きぼくろがかすかに揺れます。
「怪我は?」
「ありません」
「そうか」
……。
マコトは両手を胸に組み、唇を緩ませています。明るい表情であり、これからの将来について何も不安が無いかのようで。
「どうして来たんですの?」
「選んだからだ」
「それはどういう意味なの?」
「そのままの意味だ」
「そうですの」
――本当にずるい人。
わたくしは自分のカバンをごそごそと漁り、水筒とマグカップを取り出しました。紅茶を汲んで、マコトに差し出します。
「どうぞ」
「ああ、すまない」
彼が紅茶をずずとすする音が響きました。わたくしも水筒のフタに汲んで、それを口元につけます。ちょっとぬるくなっていました。だけど美しい香り。
「申し訳ないことになってしまいましたわ」
「何がだ?」
「生徒会の皆さんに対してです」
「ああ、そういう事か」
「貴方は気になりませんの?」
「僕らの代わりなんていくらでもいる」
「言われてみればそうですわ」
わたくしたちは会話を続けます。生徒会の思い出のこと、いつかわたくしの家で行ったパーティーのこと、マコトの元いた世界、地球のこと。様々な話題が飛び交いました。
ふと改まった表情でわたくしの名前をマコトが呼びます。
「ノクティア」
「何ですの?」
「僕は、着いて行って良いのかい?」
「では、しばらく同行を許可しますわ」
「ありがとう」
馬車は揺れ続けます。
けれど、私の心はもう揺れていませんでした。




