第13話 元公爵令嬢
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夜の王城、執務室。
赤い絨毯の上に、整然と机が置かれている。
燭台にある魔法灯の橙色の光だけが、辺りを照らしていた。
静まり返った広い室内、壁にはラインルエットだけの影がちらちらと揺れる。
薄いプラチナブロンドの青年は、まるで完成された彫像のよう。
両手で書類の束を整理し、それが終わると顎を指でなぞる。
王の署名欄が空白。
「……不要だな」
彼は静かに書類を閉じた。
ふと、扉を叩く音がした。
ラインルエットは短くつぶやく。
「入れ」
ギイ……。
扉の外で待機していた近衛兵が扉を開けて、報告官が歩いてくる。机の前で跪いた。
「何用か?」
「はっ!」
報告官の男性は一呼吸置いて、それから静かに述べる。
「勇者マコト、隣国の地方都市滞在中とのことです。同行者、元公爵令嬢ノクティア、滞在先の町にて魔導人形を破壊。その際、魔力消失現象を確認いたしました」
「やはり、能力を露見させたか」
「どういたしますか?」
ラインルエットは背もたれに身を預け、顎を引く。
「元公爵令嬢の身分はどうなっている?」
「元公爵令嬢は国外追放済み。王国籍は保持しておりますが、爵位は剥奪」
ラインハルトはわずかに視線を上げた。
「王国籍はある、か」
「いかがなさいますか?」
「勇者を連れ戻せ」
……。
「元公爵令嬢は国外追放、それだけで十分だ」
報告官が顔を上げる。
「実は、貴族の過激派が、元公爵令嬢の抹殺を企てており、実行に及んでおります」
「抹殺? どんな目的で」
「元公爵令嬢の持つ能力は、この魔力至上主義国家を否定する象徴であると、名目を立てており……」
「ノクティアは無事なのか?」
「はっ、刺客をことごとく撃退し、地方都市へと逃れております」
そこでラインハルトは舌打ちをうつ。
「抹殺はいかん。腐っても俺の元恋人だぞ」
「はっ……」
未来の王は左手を顎に当てて、難しいため息をついた。
「貴族過激派の抹殺を阻止しろ」
「では?」
「……仕方無い、か。命令を変更する。元公爵令嬢は、拘束。勇者と共に王国へ連れ戻せ。その後、監視付きで保護だ」
「……はっ!」
「行け」
「はっ! 夜分遅くに、大変失礼いたしました」
報告官は立ち上がり、頭を下げる。扉まで歩き、また振り返って腰を折った。室内を後にする。扉がゆっくりと閉まった。
窓の外に顔を向ける。
王都の灯りは規則正しく並んでいた。
王太子は彼女に未練も怒りも無い。
あるとすれば、幾許かの同情だった。




