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第13話 元公爵令嬢

 ◆◆◆



 夜の王城、執務室。



 赤い絨毯の上に、整然と机が置かれていた。



 燭台(しょくだい)にある魔法灯の橙色の光だけが、辺りを照らしていた。



 静まり返った広い室内、壁にはラインハルトだけの影がちらちらと揺れる。



 薄いプラチナブロンドの青年は、まるで完成された彫像のよう。



 両手で書類の束を整理し、それが終わると顎を指でなぞる。



 王の署名欄が空白。



「……不要だな」



 彼は静かに書類を閉じた。



 ふと、扉を叩く音がした。



 ラインハルトは短くつぶやく。



「入れ」



 ギイ……。



 扉の外で待機していた近衛兵が扉を開けて、報告官が歩いてくる。机の前で(ひざまづ)いた。



「何用か?」


「はっ!」



 報告官の男性は一呼吸置いて、それから静かに述べる。



「勇者マコト、隣国の地方都市滞在中とのことです。同行者、元公爵令嬢ノクティア、追っ手から逃れ、滞在先の町にて魔導人形を破壊。その際、魔力消失現象を確認いたしました」


「やはり、か」


「どういたしますか?」



 ラインハルトは背もたれに身を預け、顎を引く。



「元公爵令嬢の身分はどうなっている?」


「元公爵令嬢は国外追放済み。王国籍は保持しておりますが、爵位は剥奪」



 ラインハルトはわずかに視線を上げた。



「王国籍はある、か」


「いかがなさいますか?」


「勇者を連れ戻せ」



 ……。



「元公爵令嬢は抹殺」



 報告官が顔を上げる。



「では、排除を――」


「いや、待てよ」



 あくまで静かに、未来の王は言い渡す。



「魔力を消失させる能力は王国にとって天敵。しかし、使いようによっては切り札になるやもしれぬ」


「では?」


「命令を変更する。元公爵令嬢は、拘束」


「……はっ!」


「行け」


「はっ! 夜分遅くに、大変失礼いたしました」



 報告官は立ち上がり、頭を下げる。扉まで歩き、また振り返って腰を折った。室内を後にする。扉がゆっくりと閉まった。



 窓の外に顔を向ける。



 王都の灯りは規則正しく並んでいた。



 元公爵令嬢に、未練も怒りも無かった。



 ただあるのは、魔法至上主義国家を否定する能力を持っている事実と、それが資産になりかねない可能性。



「エミリッタはどう思うだろうか」



 元公爵令嬢ノクティア。



 それはまだ、国家の管理下にある存在だった。



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