時谷莉紬《ときたにりつ》
オレには3人の婚約保留の女の子達がいる。
2人目は小学校6年生の時、1つ年下の時谷莉紬ちゃん。
彼女とは小学三年生の時に引っ越した先のアパートで、家が隣同士となりとても仲良くなった。
お母さんが死んでしまっていたので、父さんが仕事で遅い日は1人きりの時が結構あった。
しかし、莉紬ちゃんの家族にお夕飯を招待されたり、彼女がお夕飯を持ってきてくれて一緒に食べてくれたり、彼女が5年生にもなると料理を作ってくれて一緒に食べてくれたりと、とても温かくしてくれたので寂しくはなかった。とても感謝している。
そして、オレが小学6年生の時に父さんの出世が決まり転勤が決まった。
ある夏の日、オレは彼女に誘われて2人でプールへとやって来た。
着替え終えてプールのシャワーを終えた先で待っていると、恥ずかしそうにタオルを巻いた彼女がやって来た。長いキレイな髪も巻き込んでトボトボと歩いてきた。
学校でだってプールあるのに、なんで恥ずかしい事があるんだろう?とキョトンとしていると。
「あのね、啓太にだけ見てもらいたくて今日の為に水着を買ったの。」
そう言うと彼女は、巻き込んだ髪た一緒に、はらりとバスタオルをほどいた。
「あのね、最近はおっぱいも出てきたの……女の子になってきているの……だから少しでも啓太にドキドキしてもらいたくって見てもらいたかったの。」と、彼女が顔を赤らめお披露目してくれた水着はビキニだった。
この時、彼女の大胆さに押されて、子供でまだエロい事なんて考えた事もなかったオレが、彼女の少し大人に向かう未発達な、華奢な体を見て生唾を飲んだのを鮮明に覚えている。
「キレイだ。」と心の声が漏れたことも気付かず、「さあ、泳ぎに行こう!」と彼女の手を握った。
彼女が顔を赤らめうつ向いているのも泳げば治ると思って、オレのこの異様な顔の火照りも治ると思って急ぎ足で向かった。
泳ぎ疲れてプールで2人して浮いていると、彼女が空にカメラを向けるように手で四角を作って覗き込んだ。
「啓太、水中でこんな風にカメラを手で作って空を覗き込むと水面と空気の合せ鏡が出来て未来の結婚相手が見えるんだって。」
そう言うと彼女は僕の肩を握って涙を一筋こぼした。
「ねえ?引っ越しちゃうんでしょ?もし啓太の手に私が写ったら……将来結婚してくれない?」
オレは静かにうなづき手を前に四角を作って沈み始めた。
ユラユラと揺らめく水面、時おり日光の光が走って幻想的だ。
その時、黒い影が僕のカメラを覗き込んだ。莉紬ちゃんだ。
彼女は僕の腕の中に入ると抱きつく様に力強くキスをした。
「帰ろっか。」水から浮かぶと彼女はそれだけ話した。
* * * * *
高校2年生になったばかりの春、なぜこんな古い記憶の夢を見たのだろうか?
オレは昨日から一人暮らしを始めたばかりの部屋で目を覚ました。
まあ、どちらかと言うと良い思い出ではあるしまあ良いか、とその時はあまり深く考えずに高校へ登校する支度を始めた。
次の授業の手伝いで、職員室の先生からプリントの束をもらって運んでいる時だった。
誰かとぶつかりプリントが宙を舞った。
ぶつかった事に「ごめん」と良いながらもヒラヒラと舞うプリントに気を取られ拾おうと前屈みになった時、ゴチんと頭が何か固いものにぶつかった。たぶん壁だ、微動だにしない、そんな衝撃。
オレは勢い良くぶつかった衝撃でひっくり返ってしまった。
仰向けで少し目を回していると「啓太?」と朝の夢の続きが見えてきた。
僕の顔を包むように垂れ下がる長い黒髪……良い匂いがする。
大きな瞳に長いまつ毛、近すぎる可愛らしい顔は今にもキスしてしまいそうだ……。
いや、夢じゃない!「え、え、えー!莉紬ちゃん!?」と正直驚いた。
クスクスと笑っている。
「私も驚いたのに啓太のせいで台無し。なにそのリアクションお腹痛いよぉ。」
どうやらツボに入ったようでお腹を押さえて笑いだした。
「でも良かった。啓太元気そうで。」
「莉紬ちゃんも元気そうで良かったよ。」
莉紬ちゃんは子供の頃と変わらないキレイな長い黒髪で少しタレ目な大きな瞳、長いまつ毛、小さな柔らかそうな唇、女の子らしい華奢な体……って今朝の夢のせいでマジマジと見てしまった。
ダメだダメだと立ち上がった。そして、彼女を立たせようと手を差し出した。
彼女は素直に手をとって立ち上がる、久しぶりに繋いだ手は柔らかく温かい。ふと……あることに気が付いた。昔、同じ位だった背丈が、今では彼女の頭がオレの胸の位置にある程に差が出ていた。なるほど……これではプリントを持っていたら見えないと納得してしまった。
「プリントはオレが拾っておくから大丈夫だよ。」
「え、でも、私もぶつかっちゃったし。」
「女子はスカートでしゃがんだらパンツ見えちゃうかもだからいいよ、裾も汚れるしさ。」
そう彼女は結構短いスカートだ。だから心配した。
そんな心配をよそに彼女はじゃあぁと言うようにイタズラな笑顔で僕を見た。
「啓太の体で見えない様に隠してくれれば良いじゃない?啓太にはいっぱい見て欲しいから。」
「だ、ダメー!」とオレは急いで、そそくさとプリントをかき集めた。
そして、最後の1枚……目の前でしゃがむ彼女……困り顔で頬を赤らめる彼女……彼女の秘部を1枚だけで隠すふかふかと柔らかそうなピンクの布地……。
「もおぅ、もっとゆっくり見て欲しかったのに、はい!最後の1枚」
オレは色んな意味で「ありがとう」と返し彼女を直ぐ様引き上げた。
「どういたしまして。ところで啓太は何組なの?」
「2組。」
「わかった。じゃあね!」と、手を振って行ってしまった。
彼女の大胆さは昔から変わっていなかった。オレはしばらくドキドキがおさまらず彼女の背中を見送った。
* * * * *
昼休み、オレはいつもの様に売店で焼きそばパンを買って屋上に向かった。
屋上の重めの鉄扉をきーっと開くと、見覚えのある長い黒髪を風に遊ばせる女の子が1人で立っていた。
「莉紬ちゃん?」
彼女は名前を呼ばれても真剣に何かを眺めていた。
何を眺めているんだろう?オレはゆっくりと回り込む。
彼女はいつか見た前方にカメラを構えるように手で四角を作り遠くを眺めていた。
「何見てるんだ?」ってオレが覗き込むとニッコリと微笑んだ。
「ひみつ、でも今、良いものみれたよ。」
彼女はそう言うと風に遊んでいた長い髪を耳に掛ける。
少し汗ばんだうなじにドキッとしてしまった。彼女は小学校の頃に比べて大人になったんだなって感じさせられた。
「啓太、私と付き合ってよ?」
彼女の言葉は正直嬉しい。正直好きだし。ただちょっと彼女の大胆さが怖いと言う気持ちがあった。
彼女が怖いのではない。オレが行き過ぎてしまうのでは?と怖いんだ。
オレはどちらかと言うと愛をゆっくりと育みたい。だから彼女の魅力に盲目になりたくないんだ。
「オレさ、彼女も出来たことがないし女の子の友達もいないんだ。だから、勝手がわからないんだ。」
「うん」て真っ直ぐな瞳の彼女、真剣な気持ちが伝わってくる。だからこそもっとゆっくりと考えたいと思う。
「正直、好きだと思う、だからこそ少し考えさせて欲しいんだ。……良いかな?」
「好き……」と呟き、彼女はニヤけるのを押さえたいのか両手で口元を隠してうつむいた。
それでも顔が真っ赤で手の隙間からわかる程に漏れだしてしまう笑顔。
彼女は左右に大きく首を振ると大きく手を広げて深呼吸をした。
すると突然、そのままオレの首筋に腕をまわして飛び込んできた。
むわりと汗ばんだ彼女から香る良い匂い。赤らめた顔は火照って熱く、荒い息使い。オレの男の全てが彼女に吸い込まれるのをグッと堪えた。
「ふふ、じゃあいっぱい誘惑しちゃうからね。」
彼女はやっぱり大胆だった。
* * * * *
同級生の友達と遊んだ後、オレは自分のアパートに帰って来た。
玄関の鍵は、どこだとカバンを探していると……。
「キャー!」と突然、隣の部屋から悲鳴が聞こえた。
隣の玄関がバン!と開く。
豊満な胸を揺らし、上はキャミソールで下はレースの可愛い下着姿のパッと見でわかるスタイルの良い女性が目に飛び込んできた。
「ゴキブリが!」と玄関を勢い良く閉めるその女性。
ショートヘヤに見覚えのある可愛らしい顔……3番目に婚約保留にした堀崎羽海先輩だとすぐわかった。




