小柳真仁《こやなぎまに》
オレには3人の婚約保留の女の子達がいる。
一人目は小学3年生の時、お母さん達が友達で保育園から一緒に育った幼馴染みの小柳真仁ちゃん。
小学2年生の時にオレのお母さんが死んでしまって、それからオレを支えてくれた優しい子。
お母さんの死から父さんがガムシャラに働くようになって次の年、オレが小学3年生の時に出世で転勤が決まった。
転校が決まった夏日の夕方、彼女に公園へと呼び出された。
その頃のオレの団地は山の斜面にあった。
家の裏にある長い階段を登って、少し木々に囲まれた先を抜けたら現れる、街並みと海を一望出来る崖に作られた公園。
海も街もオレンジ色になりながら風に揺られてキラキラと瞬く。
そんな景色を背景に、可愛らしい容姿の彼女は良く似合うツインテールを、それまた良く似合う白いワンピースと共に風に踊らせてゆっくりと微笑んでオレを待っていた。
「私を将来お嫁さんにして欲しいの」
* * * * *
高校2年生になったばかりの春、なぜこんな古い記憶の夢を見たのだろうか?
オレは昨日から一人暮らしを始めたばかりの部屋で目を覚ました。
まあ、どちらかと言うと良い思い出ではあるしまあ良いか、とその時はあまり深く考えずに高校へ登校する支度を始めた。
今日も1日の授業を終え、さあて今日はこれからどうするかと周りを見渡した時、丁度一年生の頃から仲の良い寺田良樹が、よおうっと言う様に、こちらへフラフラと向かってきていた。
「今日、合コンいくべよ。」
え、今日?「急すぎじゃね?」と流石に困惑した。
「いや、それがさ、3組の和田と北畠が予定の他2人が風邪引いたって困っているのを偶然見つけてさ!すかさず立候補してきたんだ。」
とまったく、いつも遊ぶ事に関しては全力なんだよこいつは。まあ、そこが飽きないし面白いんだけどね。
「で、相手はどんな子達なの?」
「それが、隣の芸大付属の女子高の子達だってさ!オシャレで可愛いんじゃね?」
マジか……オレ、派手な子はちょっと苦手かも。
「オレ大人しくしてるけど良いのかよ?」
「いいよ。オレはさあ、啓太には早く春を感じて欲しいと思っているんだよ。だからそういう青春って空気だけでも感じて欲しいんだよ。」
こいつは世話焼きな所も憎めないんだよな。一年生の時、こいつが最初に話しかけて来たのがやっぱり「合コンいくべよ」だったんだけどさ。オレはその時、父さんが転勤族な話や3人の婚約保留の女の子がいることを話して断ったんだけど、どうやら興味に火を付けてしまったみたいで……まあ、合コンは引きずられるように連れて行かれるんだけど、他の事でも良く遊ぶようになって、今ではお互いに親友と呼べれるようになった。
それにこいつは合コンに行くのは好きだが彼女を作るでもなく、女の子を口説く訳でもなくただ単に知らない子達と騒いで楽しむだけって言う……なんだか面白い奴なんだ。
* * * * *
そして、私服に着替えて合コンに来てしまった。
カラオケ店の店先で主催の和田が「あの子達だ!」っと手を振った。
あちらも主催の女の子らしき人が小走りで駆けてきた。
あどけない表情に長めのウエーブのかかった髪、少し肩の出たブラウスに胸元に光るちょっとしたアクセ、春の色に良く合うフレアスカート、どこをとってもオシャレな女の子だ。
他の子達も近づいて来た、1人はショートヘアにふわふわとしたベレー帽、少しだぼっとしたニットにミニスカート、スニーカー、性格の明るさとあざと可愛さを感じさせられる子。
2人目は、ロングのストレートな黒髪、長い美脚はスニーカーにショートパンツ、長めのシャツを羽織って中のTシャツをおヘソの所でショートパンツにねじ込み細身のウエストが良くわかる、ストリートな感じのオシャレな子。
そして、一番最後の子はとぼとぼと歩き、浮かない顔をしている。
しかし、オレの目に一番強く止まった。
髪色は左右で赤と青の違うインナーカラーと、とても派手ではあるが、見覚えのあるツインテールに顔の輪郭、僕が良く見ていた、そして見つめられていた目元。
「真仁ちゃん?」にそっくりだった。
思わず声に出ていた事にハッと気づく。するとその幼馴染みにそっくりな彼女は僕をきょとんと見つめた。
「うん?なに?2人知り合いだったの?」と主催の女の子が話した事で僕の中で確信に変わった。彼女は紛れもなく真仁ちゃんだ。
彼女はゆっくりと歩み寄る。
少し派手なツインテール、インナーと重ね着した所々にリボンの付いたオフショルダーのショートTシャツ、ショートパンツにブーツ、オシャレであの頃と変わらない可愛い容姿の彼女。
気が付くと彼女は僕の胸に飛び込んでいた。
「けいちゃん大丈夫だった?あれからずっと心配してたんだよ。」
そうだ、彼女はいつも僕を気にしてくれていた。変わらないな……変わってしまったことは、オレが背が高くなってしまったことか。昔は同じ位の背丈だったのに、こうして胸の中にいる彼女を見下ろす様になってしまった。
と、胸の中にいる彼女……頭をフリフリと左右に大きく擦り始めた。
「ちょっと、人前で何してるの!?」
キッと僕を見上げた彼女。
「結婚して!」
「まだ考え中!!」
そうだ彼女は小さい頃から強引だった。
冒険とか、虫とか高い所とか暗い所とか大好きで、いつも引っ張りまわされていた。
アハハハと良樹達も、女の子達も腹を抱えて笑いだした。
「良かったな啓太!」
「真仁が男の子に珍しく興味を示したと思ったらイキナリなにー!」
みんなの笑いが巻き起こる中、真仁はお構いなしにオレの頬をつねる。
「ねえ、私以外に女の子いないでしょうね?そこんとこどうなの?」
「いたい、いたい、大丈夫、女友達もいない!」
「大丈夫だよ」と良樹がフォローに入ってくれた。
「オレと一緒に楽しく合コン良く行くけど、彼女は全然作らねえんだわこいつ」
余計なこと言うなー!
「へえ、合コン三昧なの?」
ちょっと、どこをつねってらっしゃるのですか?そのちょっとした突起物は痛い、痛いよ?
「オレはいつもただの人数合わせですので、誓って大丈夫です。彼は言葉のチョイスを間違えただけでございます。」
こうして、あわただしく始まった合コンは、最初の出来事で緊張の糸も解れとても楽しい時間となった。
合コン中、真仁ちゃんは終始べったりオレにくっついていたが、昔の事や離れ離れになってしまった間の事など良く話せて良かった。
まったく、凄く強引な所は変わっていないのが少し残念ではあるが……。
* * * * *
「あのね!あのね!」
僕の隣に座った真仁ちゃんは、離れていた時間を感じさせない位に嬉しそうに話しかけてくれた。
真っ直ぐで愛らしい目を輝かせカラオケなんてそっちのけ。
周りには少し悪い気もするけど、でも子供の頃から変わらない僕を楽しませてくれるその笑顔には勝てるわけもなく僕は彼女の方にだけ体を向けていた。
「あらあらお熱いですね~」と女子の誰が言った。
目を向けてみると女子陣がニヤニヤとこちらを見ていることに気がついた。
とたんに真仁ちゃんは顔を赤らめ「わ、や、これは……」と慌て始めた。
さっきまで夢中に話していた彼女はどこへ言ったんだろう位慌てている。またそこが可愛い。向こうで眺めている女子の皆さんもそんな彼女を見てニコニコ満足そうだ。少し可哀想だから、フォローしてあげないと……。
「いや、でも子供の頃からオレを励ましてくれた真仁ちゃんの笑顔は可愛くて大好きだから、オレはもっと話がしたいよ……」ってこれはフォローになったか?
すると、部屋全体にオオーと言う謎の歓声があがった。
ゆっくりとオレの方へ向き直す真仁ちゃん。
ふるふると震え、困り顔でオレを下から覗き込むように見つめた。潤んだ瞳で徐々に顔を真っ赤に染めていく。
本当にこの子は可愛いんだから。
「ずるい!」と彼女は突然にオレの胸を叩いた。
「昔は私よりちっちゃかったのに、こんなに大きくなって私がまるで子供みたいじゃない!」
そう言って、まるで子供のようにツインテールを揺らす彼女に部屋全体が笑顔になった。
こうして、オレは彼女と話すばかりだったけど合コンのカラオケは楽しく終わりを向かえた。
和田達が二次会を提案したが、女子達は女子達だけで二次会をしたいらしく断られたようで彼らがしょぼんとしている。
「良いなぁ……、一番良い思いしたのは人数合わせのお前だけかよ~。」とジト目で見てくる和田と北畠。
良樹はと言うと……オレの肩にポンと手を置いたかと思うとアハハハと盛大に笑いだした。こいつ楽しんでやがる!!
と、その時、女子の主催の里美ちゃんがこちらへ小走りで駆けてきた。
「和田くん、今日は楽しかったからまたこの8人で遊ばない?だから連絡先教えて欲しいの?」
「ヤッーター!」と喜びを隠せない和田。
何でお前だけと蹴りや拳を入れる北畠。
うん?オレもか?楽しいし、真仁ちゃんにもまた会えるし、まあ良いか。
答えは、ゆっくりと決めるとするかな。
どうするかな……、と今日の昼間に再開した2人目の婚約保留の女の子、時谷莉紬ちゃんの事が頭を過った。




