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病気知らずの弱点。

 ユキさんは病気知らずだ。

 けど、病気知らずでもかかる病気(?)というものがある。

「あれ?」

 朝起きたら、LDKにユキさんがいなかった。

 昨日薬を塗った時には、ちゃんと今日が総合型の試験日だと把握していた。カツ弁当を作ってくれるはずだったのに、朝食準備の気配すらない。

 テーブルの上やスマホを見ても、メッセージはない。これは、何かあったのか?

 玄関を見ると、靴はある。うちは靴を一足だけ出していいルールで、靴の有無で在不在を確認できるように、出かける時は靴ゼロルールなのだ。

 いよいよおかしい。俺は、杞冬の部屋に行く。派手にがんがんノックすると、すぐに顔を出した。

「どしたの?」

 急いで出てはきたものの、寝ぼけ気味だ。今日は俺がいつもより早いせいだ。

「ユキさんが起きてる気配ないんだけど。靴あるし、メッセージも何もない」

 靴があるということは、仕事ではない。仕事なら、緊急でも短文メッセージくらいは入れてくれる。

 杞冬は眉をひそめて、廊下に出て来た。

「行ってみよう」

 ユキさんの部屋は、本人以外は二人いないとドアを開けることができない。ユキさんの作るお札は、危険物だからなのだそうだ。

 杞冬と二人で、ドアノブに触れる。一緒にひねると、ドアは簡単に開いた。

「ユキさん!」

 ユキさんは、机の前の椅子から落ちて倒れていた。

 声を掛けても反応はない。

 ゆすっても起きない。スウェットが濡れて冷えている。

「これは、・・・・・・市村さん案件?」

 杞冬が、扉の前からお札だらけの机の上を見て言う。

「そうみたい。汗びっしょりで冷えてる」

「だーかーらー無理をするなとーーーーっっ!」

 杞冬が叫ぶ。うん、気持ちはわかる。

 でも、とりあえず、市村さんに連絡して、せめてベッドに運んでやろうよ。

 お札作りは、ユキさんの仕事ではとても大事らしい。

 その場その場で即席で作ることも多いらしいけど、事前に現場の状況がわかっているときなどは事前に準備する。神社で普通に配るようなものならともかく、お祓い相手次第では、それなりに強いものを作るらしい。

 その場合、ユキさん一人ではなく、中にいる神様に協力してもらうこともあるのだという。

 まあ、ユキさん一人のときでも、影響はもちろんあるらしいけどね。

 神様に協力してもらうと、更にレベルアップするんだそうだ。でも、ユキさんは普段きっちり中の神様を制御しているので、神様は久しぶりにお仕事の手伝いをすると、張り切ってしまうのだそうだ。

 それなりに高度なお札を作っていると、いろいろな部分があいまいになって、ユキさん自身、夢中になってしまうこともある。

 そして、神様が表に出てくると、体は人間なので、結構負担になるらしい。

 その結果、頑張ってお札を作っていると、結構、汗をかく。

 そして、病気知らずの人にも容赦なく襲い掛かってくるのが、脱水症状、だ。

 のどの渇きも汗にも気づかず集中して楽しみ(?)過ぎた結果、体の限界に至ってぶっ倒れる、ということだ。

 昨日、傷痕に薬を塗ったのは、それなりに無理する予定があったからなのか。

 とりあえず、二人でベッドに運びたいのだが、杞冬は扉の前から動けない。

「ダメ?」

「ダメ。俺飲み物取って来る。そのあと、市村さんに連絡するから」

 そう言って、スリッパをドアに挟んで行ってしまった。

 市村さんというのは、ユキさんの職場の先輩だ。

 ユキさんはそこの『第七班』に所属しているそうで、七人いる。

 市村さんはそこのナンバーツーなのだそうだ。ユキさんは就職したばかりなので一番下っ端だけど、実力はナンバーワンだ、と、たまに会う同僚の人たちは言う。

 市村さんは、そんな中でも順位のつけようがない特殊な才能の持ち主なのだとか。

 三十分くらいで、市村さんはやって来た。ちょうど家を出るところに連絡が来たので、電車通勤だけど自家用車で来てくれたのだそうだ。

「あー、全然、意識ないね。病院行きだね、確かに」

 俺が一人で運んだベッドのうえで、ユキさんは相変わらず意識不明だ。

「病院は大歓迎だそうです」

 杞冬が言う。

 うん、そうだよね、あの病院は。きっと嬉々として集中治療室に入れてくれるよね。

「この部屋の封印はできるんだよね?」

 市村さんが机を見ながら杞冬に訊く。

「部屋の封印くらいならできます」

 杞冬は、相変わらず、ドアから顔をのぞかせるだけだ。

「まあ、そもそも簡単には開きませんけど、このドア」

 二人がかりじゃないと開かないからね。

 うちのすべての外側の扉や窓も、初めての人は入れない仕様だ。間が一か月以上開くと初めての人に戻ってしまうし。そうなると、三人の誰かが一緒で、一定の作法をこなさないと、他の人は入ることができない。

 市村さんも久しぶりだったので、杞冬が作法にのっとって中に入れた。

「じゃあ、こっちはよろしく。ドアの開閉係頼むよ」

「はい」

 俺はドアの開閉係。市村さんは、軽々とユキさんを抱き上げた。

 市村さんは、ガタイがでかい。総合格闘技をやっていたことがあるそうで、筋肉も隆々だ。

「相変わらず紙みたいに軽いなあ」

 ユキさんは滅茶苦茶軽い。俺でも余裕なくらいだし、市村さんなら紙だよね、うん。

 俺は、ユキさんの着替え一式と靴を適当にまとめた紙袋を持って、先導して行く。

 杞冬は、ユキさんがドアを抜ける時には自分の部屋の方に逃げていた。

 そう、こういう状態のユキさんは、神様制御が少し外れている。

 もともと、神様たちはユキさんの体から出て行くことはないのだけれど。そのパワーが漏れている状態は、杞冬のようにある程度以上の感知力がある人間には怖いのだという。正確には、(おそ)れ多くて近づけない。

 そして、市村さんは、そういったものをかけらも感知しない。俺のような一般人でも、ちょっとぬるい感じの粘りのような違和感を感じるというのに、市村さんは感知力ゼロなのだそうだ。

 そういう鈍感さが、仕事の役に立つので、特殊な立ち位置らしい。

 しかも、物理ではめっちゃ強い。

 だから、憑依されている人に近づけないとか、結界がバリバリ張られていて大変だ、とかいう時に、なんの気構えもなく物理でなんとかしてくれるのだという。

 そして、あまりに感知力がなさすぎて、派手にドジでいろんなやらかしをするらしい。本人の名誉のためと言って、そんな話をしてくれる同僚のみなさんもユキさんも、何をやらかすのかは教えてくれないけど。

 市村さんは、車の後部座席にユキさんを載せる。後部座席の足元は寝袋とかクッションとかが詰められていて、横になれるようにしてあった。ユキさんにクッションを一つ抱かせて、シートベルトも一本、体を通している。俺が渡した着替え一式を助手席に置いて、市村さんはまた連絡するから、と言って去って行った。

 さて。

 俺は、あとは玄関から杞冬に行ってくるなー、と声をかけて、そのまま家を出る。

 駅のコンビニで、朝ご飯のおにぎりと一緒に、カツ弁当を買って試験に向かった。

 試験にはギリギリ間に合った。

 結果、落ちた。

 ユキさんは点滴を受けて一泊で戻ってきたけど、めっちゃ平謝りされた。

 結果が出たあと、もう一回平謝りされた。

 まあ、一般試験で受けなおせるしね。

 なんだか、俺は、これは。

 彼女と別れろという、フラグのようにしか思えなかった。

 ちなみに、普段寝に行くよりも効果が高いらしく、病院には『いつでも倒れていいからね!』と言われたそうだ。

 

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