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取扱注意なので、家事をまかせていいんです。

 ユキさんの自称『百七十にちょっと足りない』身長と『ごじゅうはある、かな?』という体重の原因は、成長期にあまり食べられなかったからだという。

『ブラック気質のエリートサラリーマン兼神主』と言ったのは、ユキさんの親戚の一人。『凄腕霊能者兼神様を宿した神主』と言ったのはその奥さんだ。

 ユキさんは、小学校は普通に学校に通っていたのだそうだ。

 中学二年の五月に親戚の家に引っ越して転校し、夏休み明けには不登校になった。

 そして、高校には行かずに大検を受けて大学に進学したのだという。

 不登校の原因は、そもそももはや下界にいなかったかららしい。

 夏休みに入るなり修験道の修行に送り込まれた。そして、地元のお祭り以外はずっとその修行場の山を駆け回っていて、解放されたのが師匠が『消えた』十八になろうという頃。

 そこから薬剤師をしていた叔父さんに家庭教師をされて、大検に合格したのだそうだ。

 修業から戻った時の身長は百六十なくて、体重も四十ちょい。叔父さんが一生懸命食べさせて社会勉強にあちこち連れまわしてくれて、なんとか身長も急に伸びて社会常識もおおむね現代人になったのだそうだ。

 今はとてもきちんとした人なのだが、修業中はほぼ野性の人だったらしい。

 肉はたまに野生動物をしとめた時だけで、それも一食分以外は修行場に渡していたのだとか。あとは、お米をもらいに行くときしか修行場には行かず、師匠と二人で山野を駆け巡りながら修業していたのだそうだ。

 そんな事情を知っている人から、ユキさんには変わった依頼がくる。

『猪撃ったからさばいてくれ』と。

 東京でも西の方では獲れるんだそうだ。

 報酬はもちろん、肉だ。

 オスがまずい時期というのはあるらしいが、そういうとき以外はもらってくる。

 鹿や鳥のときもある。

 正直、うまい。

 もちろん、俺も杞冬もさばくところは見ていない。しかし、その腕さばきはたいしたもんだ、と、ユキさんを送迎してくれた人に聞いたことがある。

 ちなみに、ユキさんは凄腕の霊能者なのだそうだけれど、その技も、俺も杞冬も見たことがない。

 杞冬は多少見たことはあるらしいけれど『凄腕』と称されるほどのものは見たことはないのだそうだ。ただ、杞冬にはまったくわからないレベルのものまで感知するので能力が高いことは確かだという。

 親戚の中にはその凄腕具合を見たことがある人もいて、ユキさんを『ブラック気質のサラリーマン』と呼ぶ親戚が言うには『あれはもはや人の技ではない』のだそうだ。

 うちにいると、エプロン姿で料理を作ったり家事をしているから、肉さばきも霊さばきも全く想像できないんだけど。鴨を丸ごと持って帰ってきたときも、気づいたら鍋になってたからどうやったのかわかんなかったし。

 ただ、正月が近づくと、神主らしいことをしているのを見ることができる。

 お札づくりだ。

 あと、御朱印づくり。お祭りや年末年始に帰るときには御朱印帳に直に書くこともあるらしいけど、一枚単位で渡すものも用意しているんだそうで、それを作っているのだと言う。

 ユキさんは、ペンでも筆でも達筆で、特に筆だと、ものすごくありがたみがありそうな字を書く。少なくとも、二十五歳の字には見えない。

 年末が近づくと、乾かすスペースも必要だからと、家で一番広いリビングでまとめ書きしているので、結構圧巻だ。

 このときばかりは、ユキさんが普通の人じゃない気がする。

 部屋の空気が違う。なんとなく、墨以外にお線香か花みたいな高級なにおいがうっすらとするし、濃密な感じとすっきりとした感じがする。

 そういうときは、杞冬は窓を一回開けないとリビングに入れない。

 あたるのだという。

「ユキちゃんの中には神様がいるんだよ。神職モードの時は気配が出てくるんだ。あれでも抑えてるらしいけど、神気が強くて俺は近づけないね」

 ユキさんが以前同居していたユキさんの叔父さんも、中に神様がいるのだそうだ。そちらについては、杞冬も神気を神社の神殿内にあふれさせるのに行き会ったことがあるそうで、気づいたら倒れていたそうだ。ユキさんに水をぶっかけられて起こされたと。

 翌日まで頭の中の一部が白くなっている感じだったとか。

 まあ、杞冬が言うには、とにかくユキさんというのは、国宝級の取扱注意の天然記念物なので、いかに普通の人にしておくかが重要なのだという。言ってることが逆な気がするんだけどね。

 普通にご飯作ったり掃除したりお仕事に出かけたりさせておくのが、一番良い扱い方なのだそうだ。

 そんなわけで、遠慮なく家事をやらせていいんだ、というのが、杞冬の主張である。

 よって、俺も遠慮なく家事をお願いしている。


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