怒らせたら怖いんです。その1。
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
ユキさんの活躍は上記『百物語が終わるまで』にて連載中です。なろう版を大改造していて若干設定が変わっているので、カクヨム版もお読みいただけると嬉しいです。
ユキさんは、滅多に怒らない。
怒るといっても、強めの注意を俺たちが『怒られた』と言っているに過ぎない。その程度だ。
杞冬によると、怒ったらそれはそれは怖いのだそうだ。
ユキさんは普段は完全にセーブしているが、ものすごいなんだかを内側に秘めているという。
感情が振れても、本人は精一杯セーブするらしい。それでも漏れ出てくるほどに怒らせた相手は、完全フリーズするか腰を抜かすかで、逃亡できる者はごくごく少数派なのだという。
去年、杞冬がさらわれたことがある。
俺は夕飯の時にユキさんに、お前も気を付けろよと聞かされただけだが、ユキさんの怒りの余波を受けた杞冬は、熱を出しておかゆをすすっていた。
ユキさんは、超大手のエリートと言われてはいるけれど、実際にやっている仕事はだいたいお祓いらしい。会社からの指示でやっているだけなのに、それを変に恨んでくるやつもいるのだろう。仕事が過疎った詐欺師霊能者が脅しのために、杞冬をさらったのだそうだ。
杞冬が言うには、テスト二日目で高校が昼までだった。その帰り道に車に引っ張り込まれ、縛られて三十分くらい車に乗せられ、古いマンションの地下駐車場でおろされてエレベーターで上の方の階に連れて行かれたんだそうだ。
犯人二人は、車の中で会社に脅迫メールを送ったらしい。ユキさんを会社の屋上から飛び降りさせろとかいう文面を作っていたと、あとで杞冬に聞いた。
連れて行かれたのはワンルームの部屋で、杞冬は縛られたままカラの浴槽に放り込まれ、浴室のドアを家具でふさがれたという。窓もないから戸の上の方から漏れる明かりだけで、これからどうなるのかと途方にくれつつ、とりあえずバタバタとなんとか浴槽から這い出して、戸がどれくらい開けるか押してみようかと思った時には、玄関ドアの開く音が聞こえたのだそうだ。
「俺、漏らしそうになったよ。マジでやばかった」
『目のまえで大量殺人鬼が大殺戮を始めて次の次の次くらいに無抵抗なうちに自分の番が来る』というような感覚に、杞冬は陥ったという。
それはほんの一瞬で、一分後には浴室ドアは解放され、ユキさんが立っていたのだそうだ。
地下で車を降りてから、ユキさんに連れられて地下に停めてあった会社の車に放り込まれるまで、十分くらいだったと杞冬は言っていた。
そんなわけで、杞冬誘拐事件はわずか四十分ほどの出来事だったらしい。
杞冬が浴室を出たあとにちらりと見たところでは、犯人二人は床に大の字になって倒れており、それこそ本当に漏らしていたという。
会社の車にはユキさんの同僚が運転席にいて、真っ青になって震えていた。余波はそこまで届いていたらしい。杞冬はユキさんの運転で一度会社に行って保護され、警察対応などもあったのだそうだ。
俺は何も知らず、のんびり夕飯時になって家に帰って、話を聞いたわけだ。
ユキさんの怒りが漏れ出たのは、本当に一瞬だけだったらしい。
それでも、ネットニュースに、杞冬が連れて行かれたマンション付近で鳥が一斉に墜落したというネタが出ていた。大半は復活して飛び去ったらしいが、一部は死んでしまったらしい。インタビューを受けた近所の住人は、室内で犬が硬直しておしっこをもらし、その日は散歩に出るのをいやがったという。ほかにも、いろいろと動物の異常行動があったそうだ。SNSをチェックしてみたら、自称霊感ありな人たちがなんだかんだと言っていた。
それらをみて、決して怒らせまいと、俺は覚悟した。
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ユキさんの活躍は上記『百物語が終わるまで』にて連載中です。なろう版を大改造していて若干設定が変わっているので、カクヨム版もお読みいただけると嬉しいです。




