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一応彼女がいるんです。

 俺にも彼女がいる。

 正確には、いた、か?

 一つ年上で、今は大学生なのだ。

 俺の第二希望先の音大生。高校生のうちは学年が違ってもまだ良かったが、高校生と大学生になってしまうと、なかなか会う機会もない。去年はあちらが受験生で、今年はこちらが受験生。ユキちゃんの心配は自分の心配だ。それでも、週に一回くらいは顔を見ているけれど。

 偶然駅で、とかで。視線が合うだけで、挨拶もしないこともある。

 彼女は、ヴァイオリンを弾く。

 俺はピアノだから、一緒に弾くこともあった。それは楽しい時間だった。

 もし俺が違う音大になったら、このまま自然消滅な気がしなくもない。

 去年、彼女の受験が終わった直後、彼女の親とばったり出くわして、印象が悪いのもある。

 別に、何も悪いことはしてないんだけど。

 多分、向こうの方がバツが悪かったんだと思う。

 俺の同居人の杞冬とユキさんは、いわゆる幽霊だのが視える人だ。

 実家が神社で、実際にそういう家系らしい。

 杞冬がいうには、ユキさんは桁外(けたはず)れだという。

 俺には、家事も得意だし働き者、将来有望エリートで人柄も良い最高の男に見えるんだが。

 実態は凄腕霊能者でその腕を買われてバイトから正社員にのし上がったブラックサラリーマン兼神主なのだという。

 二人が視える人なことは、普通に知っていた。杞冬の母親もそうだったし、祖父や俺の両親もそれを経験上理解していたからだ。困ったらいろいろ頼んでいたらしい。

 なので、俺は彼女から相談を受けて、杞冬に相談した。

 彼女のマンションの部屋に、おばあさんの幽霊が出るようになった。彼女だけ遭遇して見ている。怖いから帰りたくないと言っている。と。

 それで、学校帰りに落ちあって彼女の部屋に三人で行こうとしていたら、マンションのロビーで彼女の父親に出くわした。彼女は、親に説明すると面倒だからと、家族の不在時を狙って俺たちを呼んでいたのだ。

 マンションのロビーで怒られ、保護者を呼べと言われ、仕事中のユキさんに連絡をとって、急遽来てもらった。

 仕事中だったユキさんは、作業着だった。彼女の父親は大病院の医者だった。最初から舐められていた。

 けど、ユキさんは営業職かと思えるほど温厚に対応して、保護者として詫びを入れつつも彼女と俺たちから事情を聞き出し、ロビーから上を見上げた。もちろん、何も見えるはずはない。普通なら。でも、ユキさんには何かわかったらしい。

 幽霊なんてうさんくさいとばかりだった彼女の父親に、ユキさんは彼女がカバンにつけていたお守りから話をつなげた。

 お父さんが娘にあげた合格祈願のお守りだった。

 ユキさんは自分が神主の資格を持つことを伝えて、幽霊どうこうはともかく、こういったお守りを用意する側には、それなりのやり方が存在すること。そして、それは本人や送り主の気持ちも作用するものなので、幽霊を信じるも信じないも、神様を信じるも信じないも、お守りを信じるも信じないも、いずれも正しいのだと言った。

 俺にはよくわからなかった。

 しかし、実際に幽霊なんていないと言い張りつつ娘にお守りを与えた父親は、微妙な顔をした。否定も肯定もされていないのだけれど。

 そこに、ユキさんの上司が現れた。

 ユキさんは、本社の管理部門にいる。現れたのは、そこの部門長だった。

 にこにこと現れ、険しい顔をした彼女の父親に声をかけてきた。

 曰く。

「こんにちは、大変ご無沙汰しております、田宮様。覚えていらっしゃいますかね、私、このマンションの販売時にお部屋をご案内いたしました担当の大野です」

 そう、二十年くらい前にこのマンションを建てて売ったのが岩瀧不動産で、当時大野さんはそこの販売責任者だったのだという。そして、今は誰もが名前を知っている岩瀧グループの大元、株式会社岩瀧本社のエリート中のエリート管理部門の部門長だと、名刺を差し出した。

 出世なされたのですね、と言われ、おかげさまで本社に身を置くことができるようになりました。田宮様のおかげです、と返す。そして、

「彼は私の部下でしてね」

と、ユキさんを見る。更に、彼が現れた事情を説明した。

 ユキさんが次に向かう予定の現場が、大野さんが無理やりねじ込んだ現場だったらしくて、大野さんの指示で急遽マンションが合流場所になったらしい。

 そして、状況を簡単に説明したユキさんに言ったのだ。

「大切なお客様がお困りだ。大野様のお部屋の問題を解決してもらえるかな?」

 と。

 もはや、彼女の父親は現象を否定することができなかった。

 ユキさんは、問題を取り除くのは簡単だけれど、と言いつつ、彼女の父親に言った。

「失礼ですが、最近お母さまに会われていますか?」

 と。

 父親はまたキレそうになったが、にこにこしている大野さんの手前我慢したらしく、母は父と離婚しているため、ほとんど連絡を取っていないと言う。確認した方がいいと思いますと言われて、またキレそうになったが、すぐにスマホを取り出した。

 まあ、実母が死んでいる疑惑なので、キレそうになる気持ちはわかる。

 結局、実母は死んでいた。母親の電話を取ったのは、再婚後生まれた異父弟だった。連絡先は母親しか知らなかったし、スマホのロックが解除できず連絡できなくて困っていた、母は一週間前に亡くなり、今日が通夜だ。そう、伝えられた。

 彼女が霊を目撃していたのは、一週間前からだった。

 ユキさんは、お部屋でお母さまのことをお話ししながらお支度をするといいですよ、後日まだいらっしゃるようでしたらご相談ください、と伝えた。そうして、大野さんと一緒にお悔やみを告げて、深々と頭を下げた。

 ユキさんは最初から最後まで丁寧だった。そして作業着だったけれど超エリート。

 彼女の父親は、その場では慌てて失礼しただのおかげで葬儀に間に合いますだの言っていたが、後になってバツが悪くなったらしい。

 解せぬ。

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