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男三人暮らし中です。

 天野祥平高校三年生男子の一人称小説です。

 祥平と同じ年の叔父神谷杞冬と、杞冬の叔父神谷冬季との三人暮らしをぽつぽつと書いていきます。

 のんびりと『百物語が終わる迄』の後日談的なお話ですが、『百物語が終わる迄』を未読でも問題ありません。興味が出たら是非読んでください。よろしくお願いいたします。

 なお、お好みでご自由に腐れつつお読みいただいて結構です。

 うちは少し変わっている。

「おはよう」

 朝起きてリビングに行くと、ユキさんがお弁当を作ってくれていた。

「おはよう」

「はよー」

 俺の挨拶への返事は二つ。ユキさんと、すでに朝食を食べ終えようとしている杞冬(こふゆ)だ。

 柴田(しばた)杞冬は、俺と同じ高校三年生。電車で二駅先にある超進学校に通っている。

 俺の父の異母弟(おとうと)、俺と同じ年の俺の叔父だ。

 朝ごはんと弁当を作りつつ洗濯と風呂掃除をこなしているのは、神谷冬季(かみやふゆき)という二十五歳の会社員。親族に『冬』がつく人が多いために、省略して『ユキ』と呼ばれているらしいので、俺もそれにならって『ユキさん』と呼ぶことにしている。ユキさんは杞冬の母親の弟なので、杞冬の叔父にあたる。これまた、大手不動産グループ会社の本社勤めの超エリートだ。勤務時間が変則的で出張も多いためいないこともあるが、わが家の家事の柱だ。ちなみに、ユキさんがいないときは、杞冬が弁当を作ってくれる。

 何が変わっているって、うちは、杞冬を挟んで杞冬の叔父のユキさんと杞冬の甥の俺、天野祥平(あまのしょうへい)が同居している。若い男三人暮らしなのだ。

「俺、帰って来るの明日の朝か昼だから、夕飯はシチューをあっためて食べて。弁当の材料はいろいろあるから適当に頼んだ」

「わかった」

「はい」

「ユキちゃん、なみちゃんに会う?」

「いや、あっちの次の休みかな、会うのは。何?」

 なみちゃんというのは、ユキさんの婚約者だ。二屋菜摘(ふたやなつみ)さんという名前だが、ユキさん以外は『なみちゃん』と呼ぶ謎ルールがある。ユキさんの実家がある、埼玉の端っこの方にある同じ村(正確には市町村合併をしているので旧村)の出身で、ユキさんより一つ年下。農業関係大手の会社員。何度か会ったことはあるが、少し独特なペースの人だ。

「なみちゃんの誕生日が来週って覚えてるよね?」

「・・・・・・思い出させてくれてありがとう」

「どういたしまして」

「忘れたらヤバイやつじゃんっ」

 ユキさんはため息を落とす。

「まあ、趣味がちょっと理解不能なんで、基本プレゼントは本人にリクエスト訊くから、当日でもいいんだよ」

 なみさんはいわゆる腐女子らしい。二人は小中学校は同じで、大学生の頃に再会したそうなのだけれども。再会場所が池袋だったのだそうだ。三年つきあって二年前に婚約したけれど、なみちゃんが最低でも三年仕事をしてから結婚する約束になっているそうだ。だとするとあと一年くらいのはずなのだけれど、『最低三年』であって上限は設定していないそうなので、まだ先なのかもしれない。双方忙しくて月に一回くらいしか会っていないらしいし、関係ないけど心配になる。

「杞冬―、俺、焼きそば飽きた」

 ユキさんの女性関係も心配だが、明日は杞冬弁当ということは、言っておかないとまた焼きそば弁当になる。

「じゃあ、おにぎりかサンドイッチだな」

「サンドイッチ希望。ハムチーズとジャムでいいから」

「了解」

「野菜も入れろよ、レタスあるから」

 朝食にも、ちゃんとサラダがついている。

 この奇妙な同居生活は、二年前に始まった。

 俺の両親は、今はニューヨークを拠点にするミュージシャンだ。

 両親が結婚するとき、父方の祖父が杞冬の母と結婚した。杞冬がすでにお腹にいたそうで、兄弟ができるならと、父は一人娘だった母の家に婿入りした。その後俺が生まれたわけだけれど、両親の仕事が軌道に乗り、世界を飛び回るミュージシャンになった。

俺は生まれたあとは母親の実家に預けられていて、時々両親が帰ってくる形だった。

 父方も母方も音楽一家。俺も必然的に子供の頃から楽器をいじっていて、祖父の元でピアノの道に進むことになった。母の実家は防音室もあったし、不自由はしていなかったのだけれど、母方の祖母が三年前に急逝した。その後一年くらいは祖父と二人でなんとかやっていたのだけれど、家事手伝いに雇った人と祖父が不倫関係になり、相手方の夫や親が殴り込んでくるような状態になったために、俺は杞冬たちのところに避難することになった。

 ごちゃごちゃしつつも祖父はお金で解決して再婚したそうだが、俺はもう帰る気になれなくなった。

 杞冬の方は杞冬の方で、四年前に両親を亡くしていた。俺の祖父と杞冬の母親は、年が倍ほども離れた夫婦だった。俺の父の母親は父が子供の頃に離婚していたので、ごちゃごちゃはなかったけれど、二人は、杞冬の母親の親戚に殺された。

 その時、杞冬も大ケガをした。

 ユキさんも死にかけた。

 二人とも、体にその時の傷痕が残っている。

 現場は杞冬の母親のマンションで、祖父はそこで暮らしていた。

 再婚前に住んでいたのが、今俺たちが三人で暮らしているこの家だった。遺産相続で俺の父が相続したけれど、ほぼニューヨークにいる状態だったので、杞冬はこの家に転居した。

 中学生一人で暮らすわけにもいかないので、ケガから回復したユキさんが保護者として同居するようになり、その更に二年後に俺が転がり込んだというわけだ。ユキさんは俺の国内保護者も引き受けてくれた。

 ちなみに、ユキさんはその前はユキさんの叔父さんと同居していたのだそうだ。その叔父さんが実家の神社から出られなくなったとかいうよくわからない事情で部屋を解約することになって、しばらくは療養を兼ねて実家にいたらしいけど、大学もあるしということで杞冬と同居することになったらしい。

 神社の家系だとかで、お祭りのために二人は八月末に実家に帰る。ユキさんは就職してからは、年末年始にも手伝いに帰っているが、杞冬は帰らない。俺は一度も誘われたことがない。

 とにかく、杞冬の母親の家系はいろいろややこしいし物騒らしい。

 杞冬は父親は指揮者、母親はピアニストで、俺と同じく音楽家夫婦の子供なのだが。俺と違って、ピアノとヴァイオリンの腕前は国内コンクールでは上位常連、海外のコンクールでの入賞経験もあった。それなのに、ケガで左頬と右腕にケガをしたために、進路を音楽学校から普通科に切り換えた。

 左頬の傷痕は内側から縫ったので線一本の傷なのだけれど。右腕のケガも神経や筋に影響はないのだけれど。

 ただ、巻き込まれただけなのだけれど・・・・・・。

 杞冬は今は、進学校に通いながら、コンサートやライブ、レコーディングの手伝いをしている。杞冬は、音楽業界で、目立たないあたりで生きていくと決めたのだ。

 大学は文系ですでに推薦合格している。

 対して俺は、音楽で生きていくのは当たり前のように敷かれた道だったし、逸れるつもりもない。母方の祖父の指導を受けていたが、そんなこんながあったので、今は祖父の弟子のひとりの指導を受けている。

 コンクールも国内で入選止まり。音大の試験はこれからで、共通テストも受けないといけないから、家でも家事は免除されている。地下にあるグランドピアノの使用優先度は俺が一番ということになっているし、部屋にもアップライトピアノがある。

 様々な恩恵を、当たり前に享受しているつもりはないけど。

 優遇されているのは大変ありがたいと思っているし、いずれは恩返ししたいと思う気持ちはあるが、少なくとも進路が決まるまではこのままでいかせてもらうつもりでいる。


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