第96話 ピロートーク
「ねえ、祐希……」
「ん……?」
「……私たち、身体の相性、いいと思わない?」
祐希はその言葉に意表を突かれた。
しかし、否定する理由は見当たらなかった。
「……確かに、そうかも……」
正直な感想を口にすると、明日奈は満足そうに微笑み、彼の胸元に指で小さな円を描いた。
「じゃあ……いっそのこと、私たち付き合っちゃう?」
さらりと言ったその言葉に、祐希は思わず息を呑んだ。
明日奈は、血の繋がらない義姉弟で、7歳年上であるが、法的には何ら問題はない。
世間の目を気にせず、両親さえ説得できれば、将来的に夫婦になることは可能だ。
「……っ」
返答に窮する祐希を見かねて、明日奈が声をかけた。
「……なんてね。冗談よ、そんな顔しないで」
彼女は慈愛に満ちた、どこか寂しげな微笑を浮かべて彼の顔を見た。
「そんなことしたら、お義父さんやお義母さんに顔向けできないもの。
……それに、さくらちゃんからも一生恨まれちゃうわ……」
その名が出た瞬間、祐希の胸にさくらの顔が浮かんだ。
「ところで、さくらちゃんとは、その後どうなったの?」
「うん、実は、海水浴の夜、さくらに告白したんだ……」
「え、そうなの?
随分と思い切ったわね。
それで、さくらちゃんの返事は?」
「さくらも、僕のことが好きだって言ってくれて……」
「あら、両想いじゃない、おめでとう!
じゃあ、さくらちゃんと付き合うのね」
「それが、そう単純な話ではなくて……
彼女のお父さんが交際を認めるまで、返事を待ってほしいって言われたんだ」
「そっかぁ……それは大変だね」
「以前、さくらと2人で彼女のお父さんを交番に迎えに行った時も、僕を見るなり、いきなり怒鳴り始めて……」
「ああ、それって、ストーカー容疑で職務質問受けた時の話よね……」
「うん、あの時初めて会ったけど、娘のこととなると見境なくなる感じだったから……
さくらは『絶対説得して見せる』って言ってたけど、苦戦しているらしいんだ」
祐希はさくらとチャットアプリでやり取りしているが、未だに説得出来たという話は聞いていない。
「ふ~ん、順調かと思えば、そうでもないのね……
ところで、祐希の実家はどうだったの?
お義父様、お義母様は元気だった?」
「うん、うちの両親は元気だったけど……
今回は月のことで色々あって大変だったよ」
「え、月ちゃんがどうかしたの?」
「月が突然、僕をデートに誘ってきて、2人で一日デートしたんだけど」
「月ちゃんのブラコンぶりにも一層磨きが掛かってきたというわけね」
「いや、そんな笑い事で済ませられるような話じゃないんだ」
祐希は月とのデートの一部始終を明日奈に話した。
ファイターズ戦で隣に座って腕を組み、ことあるごとに胸を密着させてきたこと。
祐希が観覧車に乗って外を見ていて振り返ったら、ちょうどそこに月の顔があって結果的に妹とキスしてしまったこと。
その夜、祐希が自室で寝ていたら、合鍵で部屋に入って来て祐希に身体の関係を迫ってきて、どうにか一線を越えなかったものの、月を抱いてしまったこと。
「ちょ、ちょっと……
それって妹じゃなくて、一人の女性として祐希にアプローチしてるよね」
「そう、その通り。
月は本気だったんだ。
だから、もし一線を越えてしまったら……一生後悔することになるし、もう二度と元の兄妹には戻れないぞって、真剣に説得したんだ」
「なるほど、実の妹だと結婚できないし、さすがに一線を越えるわけにはいかないわよね」
「僕だってそのつもりだったさ。だけど、話にはまだ続きがあって……
次の日、父さんが僕と月に話があるってリビングに呼んだんだ」
「それで、どんな話だったの?」
「16年前に交通事故で亡くなった父さんの弟の話だった」
「へ~、その話は初耳ね……」
「僕から見たら叔父、叔母に当たる人が16年前に交通事故で亡くなって、その時に同じ車に乗っていた1歳の子が奇跡的に助かったという話だったんだ」
「その子は一度に両親を亡くしてしまったということね……、それでその子はどうなったの?」
明日奈はそこまで言って、あることに気付いた。
「まさか……」
「そう、その子が月だったんだ。
月は、父の弟夫婦の子で、僕の従兄妹だったんだ」
「え、そんなドラマみたいな話、現実にあり得るの?……」
「嘘みたいな話だけど、事実なんだ。
僕と結婚できると知ってから、月の目が真剣で、本気モードに完全にスイッチが入ったっていう感じだよ」
「え~、月ちゃん、来年の春にうちに来るわけでしょ……
そうなったら、兄妹の関係、どうなっちゃうのかしら……
さくらちゃんもウカウカしていられないわね」
「それに沙織も、隙あらば彼女の座を奪おうと、グイグイ来てるし……」
「あら……また沙織ちゃんと何かあったの?」
「実はあることの交換条件として遊園地デートに付き合わされたんだけど、彼女の策略にはめられて日帰りのつもりが、結局ホテルに一泊する羽目になったんだ」
「それって、エッチしちゃったってこと?」
「うん、外堀を埋められて、なし崩し的にね……」
「あらあら、お盛んですこと……
……それで、さくらちゃんと両想いになったことは話したの?」
「それはきちんと説明したよ。
……でも、沙織に泣きつかれて、結局月に一度デートする約束をさせられたよ」
「開いた口が塞がらないというか……モテる男は辛いわね~」
「明日奈、茶化さないでよ。こっちは真剣なんだから」
「そうね、筋を通すことは大事よね……
もし、祐希がさくらちゃんと『正式』に付き合い始めたら……
私との関係も、終わりにしなきゃね」
「……明日奈」
「それがけじめだわ。
祐希が本気でさくらちゃんと付き合うなら、沙織ちゃんや月ちゃんとの関係も、それに未来ちゃんとのことも、全部綺麗に断ち切らなきゃだめよ。
中途半端に繋ぎ止めるのは、優しさなんかじゃなくて、ただの偽善なんだから」
「僕もそう思ってる。
でも月も沙織も、そうすんなり引き下がるとは思えないんだよな……」
「それでも、きっちり線を引かないと、あとあと禍根を残すわよ」
「……口で言うほど、簡単じゃないよ」
「私と祐希は、欲求不満を満たすための秘密の関係だから、いつでも解消できるけどね……」
明日奈は冗談ぽく言って祐希の頬をつついた。
「祐希も罪な男ねぇ」
「……明日奈にそう言われると、返す言葉もないよ」
「さあ、もうその話はお終い」
明日奈は手を伸ばし、ベッドサイドの灯りを消した。
「今はただ、私を満たして……ね?」
祐希は頷くと明日奈を抱き寄せ、情熱的に唇を重ねた。
お湯が静かに流れる音の中、一つに重なり合った2人のシルエットが、お互いを求め激しく揺れ動いた。
祐希と明日奈の熱い夜は、夜更けまで続いた。
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