第89話 ギリギリセーフ
祐希は弾かれたように飛びのき、壁にしこたま頭を打ちつけた。
「あ、月……なんでこんな近くに……!」
「あーあ。お兄ちゃんたら、そんなに月が好きなの?」
彼女は自分の唇を指先でそっと押さえ、驚くどころか、とろけるような笑みを浮かべた。
「ち、違う!今のは事故だ……!」
「お兄ちゃん、好きなら好きって言ってくれればいいのに……しょうがないなぁ」
月は悪戯っぽく、祐希を見つめた。
「でも、お兄ちゃんからキスしてくれて、私嬉しかったよ……」
密室の中で逃げ場のない祐希を、妹の甘い視線が絡め取っていく。
観覧車が降下を始めても、祐希の動揺が収まることはなかった。
観覧車を降りた2人は、新しいランドマーク『COCONO SUSUKINO』へと移動した。
真新しい館内を見て回る間も、祐希の心臓はドキドキが収まらなかった。
隣を歩く月は、時折唇に指を当て、意味深な笑みを浮かべていた。
「お兄ちゃん、ここでご飯にしない?
私、お腹空いちゃった」
月が足を止めたのは、高級焼肉店『焼肉臼井』の前だった。
落ち着いた照明と高級感漂う店構えに、祐希は思わず財布の中身を心配した。
「おい、月、ここ高そうだぞ……」
「え、大丈夫だよ。
足りなかったら月がお金貸してあげるから……」
「……な、なんでそうなるんだよ」
妹の魅惑的な笑顔と、先ほどのキスの衝撃で、祐希は月に抵抗する気力もなく、そのまま暖簾をくぐった。
2人は、ススキノの夜景が綺麗に見える窓際のテーブル席へ通された。
月が注文したのは、見事なサシが入った最上級の黒毛和牛セットだった。
その見事な肉を上手にトングで網の上に並べていく。
「ん~、この匂い!やっぱり焼肉って最高だよね、お兄ちゃん!」
月はアイドル顔負けの可愛い笑顔で祐希に微笑みかけた。
ジュウジュウと脂の弾ける音が響き、香ばしい匂いが立ち上る。
焼き上がった極上のカルビを口に運ぶが、祐希は肉の味に集中できなかった。
さっきの観覧車での「事故」の感触――柔らかい唇の感触が、まだ鮮明に残っていたからだ。
(あれは事故だ。不可抗力だ……)
自分に言い聞かせるように冷水を煽る祐希の皿に、月が次々と焼けた肉をサービスしてくれた。
「ほら、お兄ちゃん。もっと食べて」
「い、いや、そんなに一気に食えないから」
「駄目だよ。ちゃんとお肉食べて栄養摂らなきゃ」
月は意味深に目を細めると、声をひそめて囁いた。
「精力をつけてもらわないとね。……夜は長いんだから」
「ぶっ……!」
祐希は危うく肉を喉に詰まらせそうになった。
その言葉の意味を問いただすのが怖くて、祐希は慌てて視線をそらし、白米をかき込んだ。
目の前で微笑む妹の、本心を垣間見た気がしたからだ。
焼肉店を後にし、地下鉄で実家に帰り着いたのは、22時を回った頃だった。
「おかえり~。楽しかったかい?」
リビングでくつろいでいた両親に、祐希は「うん、楽しかったよ」と適当に答え、そのまま風呂場へ直行した。
湯船に浸かりながら、祐希は大きく息をついた。
今日の妹とのデートは、精神的なダメージが大きかった。
特に観覧車でのアクシデントと、焼肉屋での妹の言葉が、今も脳裏にこびりついて離れない。
(……今夜は絶対に阻止しないと)
風呂から上がり、髪を乾かした祐希は自室へと戻ると、すぐにドアの鍵をかけた。
さらに念のため、ドアノブを回して開かないことを確認する。
「よし……これで安心だ」
さすがの月も、鍵を掛ければ入れないだろう。
祐希は安堵の息を漏らすと、部屋の灯りを消し、布団に潜り込んだ。
デートの心労もあり、ほどなく祐希の意識は眠りへと落ちていった。
(ん……なんの音だ……?)
寝てから間もなく祐希は異音に気づいた。
それはドアの鍵を開ける音だった。
固唾を呑んで見守っていると、音もなくドアが開き、誰かが部屋へと滑り込むとすぐに鍵を閉めた。
それは、パジャマ姿の月だった。
「……お兄ちゃん、起きてる?」
「あ、月……なんでお前が鍵を持ってるんだ」
「ああ、これね……
お兄ちゃん、鍵閉めて寝ると思ったから、合鍵作っといたの」
「そ、そこまでするか……!?」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、月がベッドに近づいてきた。
想像以上に大胆な妹の行動に祐希は身構えた。
月は躊躇なく布団をめくると、祐希の隣に潜り込んできた。
「お、おい!月、部屋に戻れって……!」
「し~っ。……お兄ちゃん、昨日の続きをするって約束でしょ」
「そんな約束した覚えないぞ!」
そう反論する間もなく、月は祐希のトランクスを強引に引き下ろした。
露わになった中心に、妹の熱く湿った口内が吸い付く。
手加減のない吸い上げと、快感のツボを心得た舌使い。
与えられる熱と快感以上に、夢中で頭を動かす妹の姿があまりに扇情的で、背徳的だった。
その強烈な快感に、祐希は成す術もなく腰を浮かせた。
観覧車でのキスの記憶がフラッシュバックし、妹の柔らかな舌の感触に、祐希の理性はあっけなく崩壊寸前に追い込まれた。
「くっ、は……! もう、だめだ……!」
限界が近づいたその時、月が動きを止めた。
彼女はパジャマのポケットから、銀色の小袋を取り出した。
コンドームだった。
「えっ、お前、なんでそんなの持って……」
「準備いいでしょ?
……ねえ、エッチの練習だから、先っぽだけ入れて、お願い」
袋を破る乾いた音が、深夜の部屋に響く。
「先っぽだけなら、ギリギリセーフだよね?」
「ま、待て!それはさすがに……!」
「待たない」
月は祐希の上に跨ると、手早くコンドームを装着させた。
月明かりに照らされた彼女の表情は、愛らしい妹の顔と、大人の女の顔が入り混じっていた。
指先で結合部を確認すると、彼女は甘い吐息と共に、祐希のモノをその温かい秘裂へとあてがった。




