表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/101

第83話 さくらの帰省

 さくらは帰省のため秋田へ向かっていた。

 東京駅から乗り込んだ秋田新幹線「こまち」は、仙台を過ぎ、いつしか窓の外の景色は鮮やかな緑へと変わっていた。

 久しぶりに目にする故郷の自然を、さくらは懐かしい思いで眺めていた。


 ふと、隣に座る母・晴子が、読んでいた雑誌を膝の上に置いた。

 それに気づいてさくらが顔を向けると、母と目が合った。


「さくら」


「ん? なあに、お母さん」


「……管理人の祐希さんとは、どういう関係なの?」


「えっ!?」


 さくらは唐突な母の質問に動揺した。

 晴子は穏やかな笑みを浮かべているが、その瞳は、全てを見透かしているようだった。


「お母さんに分からないとでも思ったの?

 シェアハウスで別れ際に祐希さんと見つめ合っていたわよね……

 お互いに想いが通じあっているように見えたんだけど、どうなの?」


 さくらは観念し、小さく息をついた。

 やはり、母の直感には敵わない。

 さくらは正直に打ち明けることにした。


「お母さん……実はね、先週、祐希さんから『好きだ』って告白されて……」


「あらあら……」


「私も祐希さんのことが好きで、付き合いたいと思ってるの……」


「やっぱり、そうだったのね」


 晴子は嬉しそうにうなずいたが、さくらはすぐに表情を曇らせた。


「でもね……お父さんが反対するのは目に見えてるから……

 お父さんを説得するまで、返事を待ってもらっているの」


 その言葉に、晴子は驚いたように目を見開き、やがて優しく笑った。


「普通なら『親なんて関係ない、内緒で付き合おう』って強引に迫ってきそうなものなのに。

 さくらの気持ちを尊重して待ってくれるなんて、随分と誠実な方なのね」


「そう……とても誠実で優しい人なの」


 さくらは身を乗り出し、母を(すが)るような目で見つめた。


「あのね、お母さん……お願いがあるの。

 お父さんを説得するのに協力してほしいの。

 私一人じゃ、言い負かされちゃうかもしれないから……」


「でも、お母さんも祐希さんのことをよく知らないから、援護できるか心配だわ……」

 晴子は難しそうな顔で小首を傾げた。


「祐希さんって、すごく優秀な人なの……

 星城大学の情報工学部で、AI応用研究コースを専攻してるのよ。

 大学生なのにシェアハウスの管理人を任されていて、すごく責任感があってしっかりしているの。

 それに空手の有段者で、とっても頼もしいのよ。

 私、ストーカー被害に遭って怖い思いをしてたんだけど……

 彼がボディガードとして、ずっと私を守ってくれるから安心なの。

 平日はカフェでバイトもしてて……

 ラテアートがプロ並みで、仕事している時の横顔が、真剣ですごくかっこいいの」


 一気に語り終えたさくらの瞳は、キラキラと輝いていた。

  晴子はそんな娘の顔をじっと見つめ、感嘆の声を漏らした。

「……ふふっ。さくら、あなたの今の顔、鏡で見せてあげたいくらい。とってもいい顔をしてるわ」


「えへへ、そうかな……。

 でも、彼のこと思い出すだけで幸せな気持ちになれるの。

 あのね、お母さん。祐希さんの手って、とっても大きくて温かいんだよ……

 シェアハウスへの帰り道に、いつも手を繋いでもらうんだけど『守られてる』って安心感があるんだ。

 私、誰かをこんなに好きになったのは生まれて初めて……

 彼とずっと一緒にいたいって、心からそう願ってるの」


「あらあら、ごちそうさま」


 恋する娘の熱っぽい言葉と嬉しそうな表情。

 それを見ていた晴子は、どこか懐かしそうな遠い目をした。


「……あの時の私と同じね」


「え?」


「実はお父さんと結婚する時も、おじいちゃんに猛反対されて大変だったのよ。

『どこの馬の骨とも分からん男に娘はやれん!』ってね」


「でもあの時、お父さんが諦めずに何度も足を運んでくれたから今があるのよ。

 祐希さんは誠実な人そうだし、さくらが選んだ人なら、お父さんもきっと認めてくれると思うの。

 だから、お母さんも応援してあげるわ」


「お母さん、ありがとう!」


「でも、相手はあの頑固なお父さんよ。

 私とさくらだけじゃ心細いわね……

 そうだ、お義母様にも協力してもらいましょう」


 晴子が提案したのは、さくらの祖母であり、父・賢吾の実母である吉乃(よしの)の協力を得ることだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 2人は秋田駅に降り立ち、タクシーで15分ほどの住宅街にあるさくらの実家に到着した。

 1階の一部がピアノ教室となっている広い2階建て住宅の玄関を入ると、祖母の吉乃(よしの)(77歳)が出迎えてくれた。


「さくら。おかえり」


「おばあちゃん、ただいま!」


 さくらは祖母に抱きついた。

 祖母の優しさと温かさは、少しも変わらなかった。

 父はまだ仕事から帰っておらず、3人は茶の間でお茶を飲みながら、さくらの大学生活の話に花を咲かせた。


 しばらくして、母の晴子がさくらに目配せした。

「さくら、今のうちにおばあちゃんにも話しておいたら?」


 さくらはこくりとうなずき、祖母に向き直った。

「……おばあちゃん。実は、聞いてほしいことがあるの」


 吉乃は湯呑みを置き、孫の真剣な瞳を優しく見つめ返した。


「おやおや、改まって何の話だい?

 2人で目配せして……何を企んでいるんだい?

 言ってごらん、おばあちゃんでよかったら聞いてあげるよ」


 さくらは母と視線を交わし、小さく頷いた。


「あのね……私、好きな人がいるの」


 さくらは祖母に、祐希のことを包み隠さず話した。

 同じシェアハウスの管理人として皆をまとめていること。

 そして何より、ストーカーから自分を守ってくれている、頼もしい存在であること。


「ほう……。今どき珍しい、骨のある男じゃないか。

 可愛い孫を体を張って守ってくれたんだ、ありがたいねえ」

 吉乃は目を細めながら頷いた。


「おばあちゃん、私、祐希さんと真剣にお付き合いしたいの。

 でも、お父さんが駄目だって絶対反対すると思うから……おばあちゃんにも味方してほしいの」


「ふむ……。さくらがそこまで惚れ込むなんて、よほどいい人なんだろうね。

 分かったよ。賢吾の説得、私も協力するよ」


 祖母の力強い言葉に、さくらは胸を撫で下ろした。

 母と祖母。早乙女家の女性全員が味方についた。

 さくらにとって、これ以上ない最強の援軍だ。


「さくら、今夜は、あなたの好きなお寿司よ」


 その言葉に、さくらの瞳が輝いた。

「えっ、お寿司!?

 お母さん、ありがとう」

 

「さくらも帰ってきたことだし、今日はお父さん、上機嫌でお酒も進むはずよ」


「酔って気分良くなったところが狙い目ね」


 3人は夕食に向けて「作戦会議」を開き、結束を固めた。

 これだけ強力な援軍がいるなら、きっとお父さんも分かってくれるはず。

 さくらは希望に胸を膨らませていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ