第81話 後輩以上恋人未満
翌朝、カーテンの隙間から差し込む眩しい光で、祐希は目を覚ました。
「……んぅ……」
重い瞼を開けると、全身にけだるい疲労感が残っていたが、不思議と不快ではなかった。
だが、すぐに違和感に気付いた。
腹部のあたりに、ずしりとした重みと、温かい感触があるのだ。
そして、下半身が、温もりに包まれている感覚。
まるで、女性の胎内に収まっているかのような、得も言われぬ安堵感と充足感。
「あっ、先輩。おはようございます」
視線を下げると、そこには沙織がいた。
乱れた髪のまま、祐希の上に跨っている。
昨晩の余韻を残した肌はほんのりと桜色に染まり、その表情は蕩けるような笑みを浮かべていた。
「さ、沙織……お前……いつの間に……」
「ふふ、先輩の……すっごく元気だったので……我慢できなくて、つい乗っちゃいました」
沙織は腰をゆっくりと沈め、その快感を確かめるように内側から祐希を締め上げた。
「っ……!」
「んっ……ふふ、先輩のおっきくて気持ちいいです……」
沙織は祐希の胸に手をつくと、腰を上下に揺らし始めた。
視覚的にも、感覚的にも、朝一番の刺激としては強烈すぎる。
「朝の運動……最後まで付き合ってくださいね、せんぱい……」
覚めたばかりの祐希の意識は、再び甘美な快楽の中へと引きずり込まれていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝からの一戦を終え、沙織は祐希の腕の中で呼吸を整えていた。
「ふぅ~、気持ちよかった……
先輩と私、エッチの相性、抜群にいいと思うんですよね」
「それは否定できないな……」
「先輩……私を彼女にしませんか?
そうしたら、好きな時に私とエッチできますよ!」
その問いに祐希はしばらく間を置いて言葉を継いだ。
「沙織、ごめん、それはできないんだ……」
「えっ、どうしてですか?
先輩、彼女いないって言ってたじゃないですか……」
「確かにそうなんだけど……」
祐希の言葉は歯切れが悪かった。
「先輩、私のこと嫌いなんですか?
身体だけの関係の都合のいい女だと思ってるんですか?」
「いや、そんなことは思ってない。
沙織は可愛い後輩であると同時に、とても魅力的な女性だと思っている。
好きか嫌いかと言われたら、間違いなく好きだ」
「私を好きだと言ってくれたのは、素直に嬉しいです。
先輩にとって私は、ただの後輩以上になったと考えていいんですね……
じゃあ、なんで私と付き合えないんですか?
それって、さくらさんがいるから?」
さくらに告白したという事実を告げるべきか……
祐希は意を決し、沙織に真実を伝えることにした。
「……沙織、よく聞いてほしい……
海水浴の夜、僕はさくらに告白して、彼女も僕を好きだと言ってくれた」
「えっ……先輩とさくらさん……両想いなんですか?」
「そうだ…… ただ、彼女の父親が厳しい人で……
大学で勉強するという理由で一人暮らしを許可したのだから、男と付き合うなど論外だと言ってるんだ。
さくらは、帰省した時に父を説得すると言ってくれた。
それまで、返事を待ってほしいと言われたんだ。
だから、沙織の申し出に応えることはできない……」
沙織はその言葉に、信じられないといった顔をして、祐希を見つめたまま言葉を失った。
祐希は、その説明で沙織が諦めてくれると思っていたが、彼女の反応はまったく違った。
「……つまり『正式なお付き合い』は、まだしてないってことですよね?」
「その通りだ……」
祐希の言葉に、沙織の瞳からスッと感情の色が失せた。
「先輩が、さくらさんと両想いだということは、よ~くわかりました。
でも、私にはそんなこと関係ないです」
沙織は祐希の頬に両手を添え、彼を真っ直ぐに見つめた。
「私、先輩が好き……大好きなの。
もう身体だけの関係なんて嫌なんです。
だから、私と付き合ってください。
今すぐさくらさんに連絡して『沙織と付き合うことになった』って伝えてください……
……もし、断るなら……」
沙織はスマホを手に取り、画面を祐希に向けた。
そこには、信じられない光景が映し出されていた。
疲れ果てて泥のように眠る、全裸の祐希。
そしてその隣で、一糸まとわぬ姿の沙織が、カメラに向かって満面の笑みで「ピース」している写真。
どうやら今朝、祐希が目覚める前に撮られたものらしい。
「一夜を共にした」と分かるシチュエーションで、どう見ても動かぬ証拠だった。
「この写真……今すぐ、さくらさんに送信します」
「なっ……!?」
「先輩が私と何回エッチしたか、どんなふうに感じてたか、どんな声を出してたか……
詳細にレポートして送りますから。
もちろん、この『ラブラブな朝の写真』もセットで」
それは、祐希にとって脅迫以外の何ものでもなかった。
「だから……私と付き合ってくれますよね? 先輩」
沙織はにっこりと、魅力的かつ冷徹な笑みを浮かべた。
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