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第79話 スペシャル・マッサージ

 沙織の強引さに負け、祐希が一泊する事になったホテルのツインルーム。

 ビジネスホテルより少し広い程度で、バス・トイレを除くと、ベッドルームの居住スペースはそれほど広くない。


 そこに、セミダブルベッドが2台置かれ、リビングスペースは限られている。

 しかも、ベッド間のスペースは僅か30cmほどだ。

 祐希は沙織との距離がこれほど近いとは思わなかった。

 その密室空間で、2人は一夜を過ごすのだ。


 風呂上がりに寄った売店で、祐希は缶ビールを、沙織はノンアルコール・カクテルとスナック菓子を買った。

 浴衣姿の2人は、冷えたビールとカシスオレンジ味の炭酸で乾杯した。


「せんぱい、今日一日お疲れ様でした、かんぱ~い」


「沙織、お疲れさん」


「ん~っ、美味しい!」


 風呂上がりの祐希の身体に冷たいビールが染み渡った。


「今日は1日私の我儘に付き合ってくれて、ありがとうございました。

 先輩も楽しそうでしたね……」


「そうだなぁ、あんな過激なジェットコースター、初めて乗ったけど、思ったより楽しかったかもな」


「先輩との初デート…… 私、一生忘れないと思います」

 沙織は祐希を見つめ、嬉しそうに微笑んだ。


 窓の外は遊園地の夜景、部屋の中には上機嫌の美女。

 祐希の警戒心も、次第に解けていった。


「ふぅ……」

 祐希は無意識に首を回し、凝り固まった肩を鳴らした。

 一日中歩き回った疲労が、アルコールとともにどっと押し寄せてきた。


「先輩、お疲れみたいですね」

 それを見ていた沙織が、スナック菓子を摘まみながら微笑んだ。


「まあな。お化け屋敷で誰かさんが抱きついてくるから、余計な力が入ったんだよ」


「ふふ、せんぱい、頼りがいありましたよ」


「そんなところで頼りがいあるって言われてもなぁ……」


「じゃあ、今日のお礼と日頃の感謝を込めて……

 私がスペシャル・マッサージをして差し上げます」


「スペシャル・マッサージ?」


「はい。こう見えても私、マッサージ上手なんですよ。

 先輩にはホテル代も出してもらっちゃいましたから……

 今日は、特別にサービスしちゃいます」


 せっかくの申し出なので、沙織のスペシャル・マッサージを受けてみることにした。

 祐希は言われるままに、ベッドに胡座(あぐら)をかいて座り、背中を向けた。


「じゃあ、失礼しますね」


 沙織が背後に回り、膝立ちしてマッサージを開始すると、ふわりとシャンプーと甘い女の匂いが漂った。

 沙織の細い指が、祐希の肩に食い込む。


「うぅっ……効くなぁ……」


「あ、ここすごい凝ってますね。

 ゴリゴリ言ってますよ」


 意外にも、沙織の指圧は的確だった。

 ツボを正確に押し、凝りをほぐしていく。

 痛気持ちいい感覚に、祐希は自然と脱力していった。


「気持ちいいですか? 先輩」


「……ああ、沙織、マッサージ上手いんだな」


「だから言ったじゃないですか、上手いんだって。

 ……じゃあ、もう少し力入れますね」


 沙織の指に力がこもった。

 それと同時に、祐希の背中に『柔らかいもの』が押し当てられた。


「ッ!?」

 祐希の体が無意識のうちに反応した。

 前傾姿勢になった沙織の胸が、浴衣越しに背中に密着していたのだ。

 肩を揉まれるリズムに合わせて、形を変えながら押し付けられる柔らかな感触。

 ほろ酔い加減の頭に、その刺激は強烈だった。


「さ、沙織……当たってるぞ……」


「はい、知ってますよ。わざとですから……」


「わざとって……お前なぁ……」


 沙織はさらに体を預けてきた。

 耳元に、沙織の熱い吐息がかかる。


「先輩、耳……赤くなってますよ?」


 沙織の豊満な胸の感触と、耳元での囁きにゾクゾクして、祐希はたまらず身をよじった。


「も、もう十分だ! そこまで凝ってない!」


「え~? まだほぐれてないですよぉ」


 沙織は不満そうに唇を尖らせながら、祐希の背中から離れた。

 祐希が安堵の息を吐こうとした瞬間、沙織はクルリと体の向きを変え、ベッドの上にうつ伏せに寝転がった。


「じゃあ先輩。次は私の番です」


「は?」


「ギブ・アンド・テイクですから。

 私、歩きすぎて足がむくんでるんです。

 お願いです、揉んでください」


 沙織は浴衣の裾を太ももの付け根あたりまで無造作に捲り上げ、白い脚をバタバタとさせた。

 優美な曲線を見せるふくらはぎと、艶めかしい太ももが目の前に晒される。

 祐希は観念して、沙織の足首を掴んだ。


「わ、わかったから。

 ……変な声出すなよ」


「ふふ、先輩の腕次第ですね」


 祐希は覚悟を決め、沙織のふくらはぎを両手で揉んだ。

 むくんでいると言っていたが、肌は弾力があり、吸い付くように滑らかだ。


「んっ……ぁ……」


 ひと揉みしただけで、沙織が甘い声を漏らした。


「おい、だから声……」


「だってぇ……そこ、効くんですぅ……」


 祐希の両手が膝から太ももへと上がっていくと、沙織はクネクネと腰をよじり、艶っぽい声を響かせた。


「あ、先輩……いい……もっと強く……んぅっ、はぁ……」


 浴衣がさらに乱れ、うなじから背中にかけてのラインが露わになる。

 上気した白い肌と、嬌声がイヤラシかった。


「あぁっ! すご……先輩、指使い、いやらしいですぅ……」


「おい、語弊のある言い方するな!」


「んっ……あ、そこ……ダメぇ……体が、熱くなっちゃう……」


 沙織の声色が、演技か本気か分からない熱を帯び始めた。

 これ以上は危険だと、祐希の本能が警鐘を鳴らした。


「よし! これで終りだ! もう寝るぞ!」


 祐希は一方的にマッサージを終了させると、自分のベッドへ戻った。


「え~、もうちょっとぉ……」


「ほら、電気消すぞ」


 沙織の抗議を無視し、祐希は足元灯のみを残して、部屋の照明を落とした。

 暗くなった部屋に、それぞれのベッドに入る衣擦れの音が響く。


「……おやすみ、沙織」


「……おやすみなさい」


 祐希は布団を頭まで被り、呼吸を整えた。


(危なかった……あのまま続けてたら、理性が飛んでたかもな……)


 ようやく静けさを取り戻し、祐希に眠気が訪れようとした、その時だった。


 ガサッ……。


 微かな物音がして、祐希のベッドの布団がめくられた。


「……っ!?」


 驚く間もなく、熱を帯びた肢体が滑り込んできた。

 それは浴衣の感触ではない。

 しっとりと吸い付くような、素肌の感触だった。

 沙織の柔らかな肢体が、浴衣越しの祐希の体に密着した。


「さ、沙織!? お前、何してるんだ……!」


「シーッ……」


 暗闇の中で、沙織の人差し指が祐希の唇を塞いだ。

 すぐ目の前に沙織の顔があった。

 潤んだ瞳が光っている。


「先輩がいけないんですよ……」


「ちょ、お前、どこ触ってるんだ……」


 沙織は祐希の浴衣の下に手を這わせ、耳元に顔を寄せた。


「あんなに激しく太もも揉んで……

 私の身体に火を付けたんですからね」


 熱い吐息が耳もとに迫り、沙織の足が祐希の足に絡みついた。


「先輩……責任、取って下さいね……」

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