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第76話 交換条件

 カシャッ、カシャッ、カシャッ……

 早朝の爽やかな光が差し込む部屋に、スマホのシャッター音が響いた。


「……ん?」


 その音に気づいた祐希が重い瞼を開けると、目の前には冷ややかな視線があった。

 スマホを握り、腕を組みながら彼を見ていたのは沙織だった。

 祐希は慌てて起き上がった。


「さ、沙織……」


「おはようございます、せんぱい……

 朝から随分と見せつけてくれますね」


 その声を耳にし、さくらが飛び起きた。

 瞬時に状況を把握した彼女の顔から血の気が引いた。

 祐希と抱き合いながら寝ていた現場を沙織に目撃されたのだ。


「……沙織さん」


「さくらさん、お早うございます。

 ぐっすりと眠れたようですね……」

 体温が一気に下がるのを感じながら、祐希は冷や汗を流した。


「せんぱい……言い訳はあとで聞きます」


 沙織はスマホをポケットにしまうと、2人を交互に睨んで、単刀直入に聞いた。


「先輩、さくらさん。

 ……エッチしちゃったんですか?」


「し、してないよ!!」


「ち、違います! 誤解です!」


 あまりにストレートな問いに、2人は首を横に振り全力で否定した。


「そうですか。じゃあ、なんでこんな状況になってるんですか?

 さくらさん、説明してもらえますよね!」


 沙織の冷徹な声に、さくらが罰の悪そうな表情で弁明を始めた。


「そ、それは……祐希さんが寝る場所がなくて、困ってたからで、他意はないんです!」


「寝る場所?」


「はい……沙織さんたちが祐希さんの部屋を占領して寝てしまったから……

 だから、寝る場所を提供するために、この部屋に来てもらったんです!」


「ふ~ん。なるほど……

 部屋に入れた理由は認めましょう。

 でも、なんで同じベッドで、しかも抱き合って寝てたんですか?

 私のベッドが空いてるなら、別々に寝ればよかったじゃないですか。

 これじゃあ、『私たちは関係を持ちました』って言ってるようなものですよ」


 沙織の正論に、さくらは言葉を詰まらせた。


「それは違う。

 僕とさくらは、沙織が帰ってくるまで別々に寝ていたんだ」


 その時、沙織はあることに気づいた。

「あれ?……せんぱい……いつの間にさくらって呼び捨てで呼ぶようになったんですか?

 やっぱり一線を越えたっていうことですか?」


「いや……それは……」


「え、なんですか?

 私に説明できない理由でもあるんですか?」


「それは、さくらが自分のことを呼び捨てで呼んでほしいっていうから」


「そうです。

 未来さんや沙織さんは呼び捨てなのに、私だけさん付けっておかしくないですか?」

 さくらは沙織に事情を説明した。


「え? ああ、確かに……

 年下なのに『さん付け』は、初対面でもないのに不自然かもですね」


「とにかく、そういうことだ……」


「その件は、分かりました……

 だけど、2人が一緒に寝ていたのはどうしてですか?」


「最初、僕はさくらのベッドで、さくらは沙織のベッドで、ちゃんと別々に寝ていたんだ。

 でも、沙織が突然部屋に戻ってきたから、さくらがパニックになって、とっさに僕のベッドに潜り込んで来たんだ。

 不可抗力でこうなっただけで、やましいことは何もしていない」


 そこで祐希は一気に畳み掛けた。

「そもそも、沙織が自分のベッドで寝ていれば、僕は自分の部屋で寝られたし、こんなことにはならなかったはずだ」


「む……」


「百歩譲って、沙織が僕の部屋で寝たことを良しとしても、そのまま朝まで寝ていれば、僕たちは別々のベッドで平和に寝ていたはずだ。

 つまり、こうなった元凶は『部屋を奪い』『予期せぬタイミングで帰ってきた』沙織、君にあるんだ!」


「ぐっ……」


 祐希の理路整然とした屁理屈に、沙織は言い返すことができず言葉に詰まらせた。

 確かに、自分が最初から部屋で寝ていれば、或いはそのまま祐希の部屋で寝ていれば、2人が密着することはなかったかもしれない。


「……はぁ。なるほど……」

 沙織は深いため息をつくと、少し呆れたように肩をすくめた。


「元はと言えば、自分の部屋で寝なかった私が悪いと、先輩は言うんですね」


「……まあ、論理的に言えばそうなる」


 祐希の正論を論破することができず、沙織はため息をついた。

 しかし、沙織は転んでもただでは起きない。

 この状況を何とか自分が有利な状況に持っていこうと、彼女は頭をフルに回転させた。

 そして、一つの名案を思いついた。


「わかりました。

 確かに祐希せんぱいの言うとおりです。

 私の過失を認めましょう。

 ……でも、最後にもう一度だけ確認させて下さい。

 ホントに、さくらさんには手は出してないんですね?」


「神に誓って、出してない」


 祐希の言葉にさくらは何度も頷いた。


 沙織は2人の目をじっと見つめ、そこに嘘がないことを確認すると、納得したように頷いた。


「わかりました。

 まあ、こんな写真が未来さんや明日奈さんに見つかったら、大騒ぎになりますからね。

 今回のことは、私たち3人の秘密ということにします」


「沙織、助かるよ……」


「沙織さん……

 ありがとう」


「ただし、条件があります……」


 沙織は一歩踏み出し、祐希の胸に人差し指を突きつけた。


「私はお人好しじゃありません。

 私の口を塞ぎたいなら……私とデートしてください、祐希先輩」


「……え?」


「私と2人きりで……

 デート費用はすべて先輩持ちでお願いします」


「もし、嫌だと言ったら?」


「その時は、シェアハウスのみんなに、この写真を送ります」


「沙織、お前容赦ないなぁ……

 ……しょうがない。要求を受け入れよう」


「やった~、交渉成立ですね♪」


 沙織はパッと明るい笑顔に戻ると、パンパンと手を叩いて2人を急かした。


「さ、早く自分の部屋に戻ってシャワーを浴びてきてください。

 もうすぐ朝食の時間ですよ」


 沙織は、上機嫌で祐希を部屋から追い出した。

 ドアが閉まると、部屋にはさくらと沙織の2人が残された。

 気まずそうに俯くさくらに、沙織は鏡の前で髪を整えながら彼女に宣告した。


「さくらさん、今回は見逃してあげるけど……

 そうやすやすと先輩は渡しませんからね」

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