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第66話 いつもの帰り道

 カフェ・バレンシアからの帰り道

 祐希とさくらと沙織の3人は、星ヶ丘駅前から同じ電車に乗り、柏琳台駅で降りた。

 そこからシェアハウスまでは、徒歩8分ほどの距離だ。


 美里ママが持たせてくれた3人分の賄いが入った紙袋を祐希が持ち、3人は並んで歩いた。

 さくらにとって、祐希と2人で歩く帰り道は、いつもなら甘い雰囲気になるドキドキタイムなのだが、今日は全く違った。


「ねえねえ、先輩、今日の吉永教授の『RAG(ラグ)』の講義、分かりました?

 あのベクトル化の処理が、私、いまいち理解できなくて、あれってどういうことですか?」

 沙織は、さくらが理解できない話を祐希に振って、彼を独占しようとしていた。


「あぁ、その話か……

 僕は分かったよ、何なら後で、まとめノート見せようか?」


「わぁ~、嬉しい。お願いしま~す。

 やっぱり先輩って、頭いいんですね」


 さくらは、その会話に全く入っていけず、無言で歩みを進めた。

 それに祐希が沙織のことを、呼び捨てにしていることも気になっていた。


 (なんで沙織さんは呼び捨てなんだろう……

 いくら大学の後輩だからって、普通呼び捨てにするかな?

 未来さんも『未来』って呼び捨てにしてるのに、私だけ『さくらさん』だし……

 なんか、距離感じちゃうな……)

 さくらは、ため息をついた。


 その様子に気づいた祐希はコンビニを過ぎた辺りで、そっとさくらの手を握った。


「あ~、手ぇ繋いでる~。

 え、もしかして、2人は付き合ってるんですか?」

 沙織が祐希に聞いた。


「いや、そうじゃなくて……

 さくらさんはストーカーに狙われてるし、この辺りから暗くなるから……

 いつもここからシェアハウスまで、手を繋ぐことにしてるんだ」


「あ~、そういうことですか……

 じゃあ、私も手繋ごうっと」


 沙織は、祐希が左手に持っていた紙袋を奪い取ると自分の左手に持ち、右手で祐希の空いた左手を握った。


「あ、ホントだぁ~。

 手を繋いだら、なんか安心感ありますね。

 私も大学入学したばかりの頃は、変な男に後をつけられたんです。

 でもメイク変えて、三つ編みにしてメガネかけたら追いかけられなくなりましたよ」


「え、沙織の大学の姿って変装だったのか?」


「まぁ、変装まではいかないですけど、ダサコーデにして頭ボサボサにして眼鏡かければ、大抵の男は寄ってこないですよ」


「なるほど、その手があったか。

 さくらさんも真似してみたらどう?」


「えっ、私がですか?」


「うん、今のさくらさんの容姿って、完璧すぎるくらいだから、沙織のマネして崩してみるといいよ」


「……そんなこと、思いつきもしませんでした。

 沙織さん、どうすればいいか教えて下さい」


「いいよ、それくらい……

 でも、さくらさん、可愛いから隠しきれるかなぁ……」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 3人は、シェアハウスに戻り、それぞれの部屋で部屋着に着替えて、ラウンジに集まった。

 さくらは、3人分の賄いをレンジで温めた。


「さて、今日の賄いは、何かな?」

 祐希が蓋を開けると、メインディッシュはチーズハンバーグだった。

 それに付け合わせの人参のグラッセ、ブロッコリーのソテー、皮付きフライドポテトにターメリックライスといった内容だ。


「わぁ~、美味しそ~!

 さすがは一流シェフの作る賄いですね」

 沙織はマスターの腕前を知っているらしい。


「あらぁ、美味しそうねぇ」

 明日奈が、沙織の賄いを覗き込んだ。


「明日奈さんも味見してみます?」


「ありがとう、でも沙織ちゃんの晩ごはんだから、遠慮しておくわ」


「お~、ホントに美味しそうね。

 ねえ祐希、今度私にも賄い作ってってマスターにお願いしてくれない……」

 里緒奈が祐希に言った。


「ダメです!

 この賄いは、従業員限定なんですから!」


「祐希のイジワル~」


 3人で、遅い夕食を取った後、話題は『沙織のダサメイク・ダサコーデ』の話となった。


「なるほどね~、沙織ちゃん、可愛いのに頭ボサボサにして眼鏡掛けて大学行くの謎だったけど、そういうことだったのね」


「そうなんです。

 入学当初はバッチリメイク決めて、おしゃれファッションで大学通ってたんですけど。

 星城大学って共学じゃないですか……

 講義受けてても、私をジロジロ見る男の人の目が不快で、別にオシャレする必要ないなって思って、今のスタイルに変えたんです。

 そしたら、ジロジロ見られなくなって、とても楽なんですよ」


「確かにそれ、一利あるかもね。

 さくらちゃんも真似してみたらどう?

 それでストーカーも寄ってこなくなるかもよ」

 明日奈がさくらに勧めた。


「分かりました。

 私、やってみます」


 明日奈の勧めで、さくらの『即席ダサメイク・ダサコーデ計画』が始まった。


「眼鏡、これ使ってみて」

 明日奈がさくらに眼鏡を渡した。


「明日奈さん、眼鏡持ってたんですね」


「それ、伊達眼鏡なの。

 レンズはただのガラスだから……

 さくらちゃんにあげるわ」

 それは安っぽい、赤いプラスチックフレームの眼鏡だった。


「ありがとうございます」


「それじゃ、早速やってみましょ。

 まずは今のメイクを落とさないとね」


「は、はい」


 さくらは、洗面所でメイクを落とした。

 しばらくして戻ってきたさくらを見て、ラウンジにいた全員が息を呑んだ。

 さくらの肌は、化粧していた時と変わらないくらい白く、キメ細かかった。


「うわっ、すっぴんでも全然変わらない!

 肌、きれいすぎ……」

 怜奈がさくらの顔を見て驚いた。


「本当にきれい……さすがは秋田美人ね」

 明日奈も感心しきりだった。


「ホントに綺麗……

 でも、このメイクを施せば大丈夫!」

 沙織はさくらの顔にメイクを始めた。


 マットなファンデーションで艶を消し、頬には濃いめのチークを入れる。

 仕上げにアイブロウペンシルで、鼻の周りに『偽そばかす』を描き足した。


「はい、これで完成です」


「ど、どうですか?」

 さくらがメイクした顔をみんなに見せた。


「ん~、確かに変わったけど、前とは別の可愛さになったわねぇ」

 明日奈が素直な感想を言った。


「そうね、なんか欧米の人形っぽくなったかも……

 祐希、なんで赤くなってるのよ」

 怜奈に突っ込まれ、祐希が慌てて顔を背けた。

「いや、別に……」


「でも、三つ編みにして服装もダサくしてみたら、また変わるかもしれませんよ。

 さくらさん、着替えに行きましょ」

 沙織はさくらを連れて、部屋に着替えに行った。


 しばらくして、さくらと沙織が戻ってきた。

 さくらは、白いポロシャツにデニムスカートを着て、きっちりとした三つ編み姿だった。


「こんな感じですが、どうですか?」

 さくらがみんなに聞いた。


 全員がさくらの姿を見て溜息をついた。

「なにこれ、ダサくなるはずが、むしろレトロ可愛いんですけど……」

 里緒奈が呆れながら言った。


「すっぴんが最強すぎて、何をやっても『あえて外したオシャレ』になっちゃうんです……」

 沙織が本音を漏らした。


「うわ、ここまでして、まだ可愛いの……

 素材がいいと何をしても無駄なのね。

 私……なんか悔しい……」

 怜奈が頭を抱えた。


「でも、変装にはなってるから……

 しばらくこれで通学すれば……さくらちゃん」

 明日奈は半分呆れながら言った。


「はい、そうしてみます」


 さくらのダサメイク・ダサコーデ計画は、こうして『半分失敗・半分成功』という、微妙な結果に終わった。

※創作活動の励みになりますので、作品が気に入ったら「ブックマーク」と「☆」をよろしくお願いします。

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