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第63話 ピロートーク

 激しい情事の余韻が、部屋を官能的な空気で包み込んでいた。

 乱れたシーツの上で、祐希は明日奈の豊かな胸に顔を埋めている。

 彼女はそんな彼を優しく包み込み、愛おしそうに髪を指で梳いていた。


「ねえ、祐希……

 聞いてもいい?」

 明日奈が甘えた声で言った。


「ん、何を?」


「さくらちゃんと未来ちゃん……

 どっちが本命なの?」


「えっ、今、それ聞くの?」


「だってぇ……義姉(あね)としては、義弟(おとうと)の恋愛事情を把握しておきたいじゃない……」


「ホントにそれだけ?」


「ホントよ、どっちが好きなのか気になるじゃない……ね、お義姉(ねえ)さんに教えて……」

 明日奈は懇願するような目で祐希を見た。


「わ……分かったよ……正直に言うよ」

 祐希は慎重に言葉を選びながら、明日奈の要望に応えた。


「さくらさんは、シェアハウスで会う前に、偶然駅で見かけて、一目惚れしたんだ」


「あ~、それ分かるわぁ。

 さくらちゃんって、『可愛い』と『綺麗』と『可憐』と『清楚』を足して4で割ったようなビジュアルだから、絶対目を引くよね」


「確かに、その表現がピッタリだと思う……

 だから、さくらさんが本命なのは間違いないかな……」


「じゃあ、未来ちゃんのことは、どう思ってるわけ?」 

 

「未来とは、シェアハウスで運命的に再会した時に、見違えるほど綺麗になったと思ったけど、幼馴染みを超えるような恋愛感情は無くて……でも……」


「でも?」


「この前、ライブの後、2次会でスナック茜に行ったでしょ……

 実はあの後、未来に告白されたんだ」


「へ~、未来ちゃん、ずいぶんと思い切ったわねぇ」


「未来は……自分をただの幼馴染みじゃなく、一人の女性として見てほしいって言ったんだ」


「なるほど……異性として見てほしいって、はっきり言われた訳か……」


「そんなこと言われたら、嫌でも女性として意識するでしょ……」


「確かにねぇ……

 それで、本命のさくらちゃんとは、何も進展ないの?」


「この前のキャンプで……キスしたよ……」


「え! キスしたの?

 青春してるわねぇ……」


「あの夜、さくらさんと2人で湖岸まで星を見に行ったんだ……

 満天の星空で、すごくいい雰囲気になって……

 星を見てるさくらさんが、あまりにも綺麗だったから……

 その横顔に見とれてたら、彼女が目を閉じたので、思わず、キスしちゃったんだ……」


「祐希、意外と大胆なのね。

 ……で、告白したの?」


「その時は、キスしたことに舞い上がって、頭が真っ白になっちゃって……」


「時機を逸したわけね……」


「そう……

 それにタープに戻ったら……もうそれどころじゃなくて……」


「あ~、里緒奈ちゃんの暴露事件ね」


「ホント、あの時は修羅場だったよ。

 僕と未来がラブホテルに入るのを、瑞希さんが見てたらしくて……

 それを里緒奈さんが酔った勢いで、暴露しちゃうから大変だったよ」


「その話、怜奈ちゃんから聞いたけど……

 最悪のタイミングだったわね……」


「その時はパニック寸前だったけど、とにかく全力で否定したよ」


「まあ、それしかないわよね。

 ……そこで認めたら、さくらちゃんとの関係が終わっちゃうもんね」


「間違いなくそうだよね。

 そしたら、未来が物凄い剣幕で里緒奈さんに食ってかかって……

『私が具合悪くなったから、祐希に頼んでホテルで横になってただけ!

 やましいことは何もしてない』って言い張って……」


「……必死に(かば)ってくれたのね」


「うん、その場はそれで収まったけど……

 でも、さくらさんとのキスの一件は、うやむやになったまま、今に至るって感じかな」


「なるほどね、そんなことがあったんだ…」


「でも、未来ちゃんとラブホで何もなかった訳じゃないでしょ?」


 図星を突かれ、祐希は言葉に詰まった。


「明日奈には隠しごとできないなぁ……

 実は未来が僕をホテルに誘ったのは仮病だったんだ」


「え、仮病?」


「そう、具合が悪くて歩けないから、ホテルで横になりたいって言うこと自体が嘘だったんだ……」


「あ~、それ、男を連れ込む時の常套手段よ……

 祐希、まんまと引っかかったのね」


「でも、その時は本当に具合悪そうに見えて、ホテルに入って未来がベッドに横になったら、寝息を立てて本当に寝始めたんだ……」


「ライブの疲れが出て、ホントに寝ちゃったのかもね」


「僕はすることがなくなったから、時間潰しに風呂に入ったんだ」


「なるほど、自然な流れね」


「そして湯船に漬かって、マッタリしてたら、未来が急に風呂に入ってきて、少し寝たら具合良くなったから、お礼に背中を流して上げるって言われたんだ」


「それは計画的犯行ね」


「多分そうだと思う。

 それで体を洗ってもらって僕が風呂から出ようとしたら、『私の初めてをあげるから彼女にして』って迫ってきたんだ」


「それはまた、随分と強引な手を使ったわねぇ……」


「……でも、さくらさんが好きな気持ちの方が強かったから、未来には『彼女にできない』って断ったよ」


「未来ちゃん、ショックだったでしょうね……」


「……その時に、未来を好きだという気持ちも確かにあるって伝えたんだ」


「ふふ、誠実なのか不誠実なのか、わからない答えね」

 明日奈は苦笑した。


「それで、未来ちゃんは諦めたの?」


「僕と付き合うのは諦めてくれて……」


「そうなの……でも、ずいぶんと聞き分けいいんじゃない。

 それで終わるはずないわよね……」

 明日奈の洞察力は鋭かった。


「さすがは明日奈、何でもお見通しだね」


「私も女だから、未来ちゃんの気持ちは痛いほど分かるわ。

 それで未来ちゃんになんて言われたの?」


「未来は『もうすぐ二十歳になるから、初めては好きな人としたい』って……

 そして『一生のお願いだから、私の初めてを貰ってほしい』って言われて……」


「なるほどね……

 それで、その願いを叶えてあげたんだ……

 そこまで言われれば、もう断れないよね」


「そう、もし断ったら、未来とシェアハウスで会うのが辛くなると思ったから……」


「祐希も罪な男ねぇ……」

 明日奈は微笑みながら、祐希の頬を指でつついた。


「さくらさんが好きだと言う自分の気持ちに嘘はつきたくない……

 でも、未来の一途な想いも無駄にしたくない……

 どっちつかずで、最低だよね、僕」


 祐希が吐露した苦しい胸の内を、明日奈は優しく抱き寄せて包み込んだ。


「最低なんかじゃないわよ。

 ……だって、そんなこと言ったら、今祐希とこうしている私も似たようなものじゃない?」


 明日奈の言う通りだった。

 義弟(おとうと)の恋を応援すべき義姉(あね)という立場にありながら、月に一度、自らの欲求を満たすために身体を重ねる、セフレのような関係を続けているのだから。


 明日奈は回した腕に力を込め、互いの体温を分け合うように強く密着した。


「若いんだから、悩みながら進めばいいのよ……でも……」


「でも?」


「もう、その話はお終い」

 明日奈は手を伸ばし、ベッドサイドランプの灯りを消した。


「今はただ、私を満たして……ね?」

 暗闇の中、窓の外に広がる街明かりが、2人の重なり合う輪郭を鮮明に浮かび上がらせた。


 祐希は頷くと明日奈を抱き寄せ、情熱的に唇を重ねた。

 煌びやかな夜景を背に、一つに重なり合った2人のシルエットが、お互いを求め激しく揺れ動いた。

 祐希と明日奈の熱い夜は、深夜遅くまで続いた。

※創作活動の励みになりますので、作品が気に入ったら「ブックマーク」と「☆」をよろしくお願いします。

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