第56話 オープンキャンパス
次の日、月は祐希と一緒に、星城大学のオープンキャンパスに参加した。
正門をくぐると、そこにはひとつの「街」のような空間が広がっていた。
中央広場には大勢の学生たちが行き交い、平日開催のオープンキャンパスならではの風景があった。
「うわぁ、人がいっぱい……!
それに敷地も広~い」
月は、その規模の大きさに目を丸くした。
「学部ごとに校舎が分かれてるからな。
移動だけでも時間がかかるんだ」
授業が始まるまでの間、祐希は月に学内の主要施設を案内した。
入学式などの式典に使われる大講堂は、まるでコンサートホールのような威容を誇った。
体育館は、高校の規模とは比較にならない大きさで、充実した設備を備えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2人は、情報工学棟にある大講義室へ向かった。
すり鉢状に配置された数百の座席と、正面には巨大なスクリーンがある。
月は緊張した面持ちで、祐希と一緒に中段後方の席に座った。
チャイムが鳴り、壇上にひとりの男性が現れ授業が始まった。
黒縁の眼鏡を掛け、白髭を蓄えたその人物は、ワイルドな風貌とは裏腹に優しい口調で学生に語りかけた。
「皆さんこんにちは。
今日はオープンキャンパスの見学者も来ているようですね」
吉永教授は、柔和な笑みを浮かべて会場を見渡した。
「月、あれが、吉永教授だ」
「えっ、あの人、教授なの?
なんか冒険家みたいに見えるね……」
月が小声で囁いた。
「私の専門はAI応用研究です。
今日は『AIによるシステム構築』の実演を見てもらおうと思います」
教授が手元の端末を操作すると、スクリーンに真っ黒な入力画面が映し出された。
「AIが普及する前は、プログラムを書くためには専門的な言語を覚える必要がありました。
でも今は違います」
教授はマイクに向かって、まるで人間に話しかけるように言葉を発した。
『君は優秀なエンジニアだ。
ユーザーが今日の日付を入力すると、過去の同じ日に起きた歴史的な出来事を検索して表示するWebアプリを作成してくれ。
対象地域や言語も指定できるようにして欲しい。
デザインは青を基調にシンプルに。
プログラム言語はPython、フレームワークはStreamlitを使用して作成すること』
吉永教授の指示が完了すると、スクリーン上に猛烈な勢いで文字が表示された。
AIが教授の言葉を理解し、リアルタイムでプログラムコードを生成しているのだ。
構造化された英数字の羅列が滝のように流れる。
「これが生成AIによるコーディングだ。
人間がアイデアを出し、AIがその指示に従い形にする」
数十秒でコードの生成が止まり、画面が切り替わった。
そこには、教授が指示した通りのWebアプリが表示されていた。
「嘘……もう出来ちゃったの?」
月は目を丸くして、スクリーンに釘付けになっている。
「魔法に見えるかもしれないが、これは技術です。
そして、この魔法の杖を振るのは、君たちの想像力なんだ」
ワイルドな風貌の教授が語る、最先端の技術論。
ただ授業を受けているだけなのに、月の胸は高鳴った。
「凄い……お兄ちゃん、大学ってこんな面白いことやってるんだ……」
「まあな。僕も最初は驚いたよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
講義が終わると、お昼になった。
2人はキャンパス中央に位置する巨大カフェテリアへ向かった。
和食、洋食、中華、イタリアン、ファストフードなど36の店舗が軒を連ね、最大800人を収容するホールは、食事を楽しむ学生たちの活気に溢れ、食欲をそそるいい匂いが漂っていた。
「うわぁ、何これ! お店いっぱいあって選べないよぉ」
迷った末に月は、「日替わりパスタランチ」を、祐希はいつもの「カツカレー」を選んだ。
トレーを持って席を探していると、コジケンが祐希に手を振っていた。
「お~い、祐希! ここ空いてるぞ~!」
祐希たちは、コジケンの向かいの席に座った。
「おっ、そちらが妹さんか?」
コジケンが興味津々な様子で月を見た。
「うん、妹の月だ」
「はじめまして! 月です。
いつも兄がお世話になってます」
「俺は小島健太郎。コジケンって呼んでくれよな、よろしく!」
コジケンが月に挨拶した。
「あ、そういえば……。
コジケンさんて、お兄ちゃんをメイドカフェに連れて行った人ですよね?」
「ぶっ!!」
味噌汁を飲んでいたコジケンが盛大にむせ返った。
「お、おい祐希! お前、妹に何吹き込んでんだよ!」
「違うって、その話は未来が月に教えたんだ」
「なるほどな、情報はそっちルートか」
コジケンのあわてように、月は苦笑した。
「コジケンさんって、面白い方なんですね」
「なんか、オレの第一印象、お笑いタレントみたいになってない?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午後3時、祐希と月は、聖女の正門前でさくらと合流し、星ヶ丘駅前の名店「カフェ・バレンシア」へ向かった。
カフェバレンシアは洋館風の大きな建物で尖塔の風見鶏が目印だ。
店内に入ると美里ママが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ~、カフェバレンシアへようこそ!
あら、祐希くんにさくらちゃん、えっと、こちらの方は……」
「美里ママ、妹の月です」
祐希が紹介した。
「え、祐希くんの妹さんなの?」
「月です。
兄がいつもお世話になってます」
月が丁寧にお辞儀した。
「あら~、礼儀正しいのね。
こちらこそ……お兄さんには、いつもお世話になってて感謝してるのよ。
それにしても月ちゃん、スタイルいいし、可愛いわね~、まるでアイドルみたい」
「え!……いえいえ、とんでもないです」
月は照れながら否定したが、満更でもない様子だった。
「月、僕はこの後バイトだから、何か注文して待っててくれ」
祐希がバイトする間、さくらが月の話し相手となり、カウンターの隅で待つこととなった。
「月ちゃん、何注文する?」
2人は、カフェ・バレンシアのメニューブックを開き、80種類を超える美味しそうなスイーツの数々に目移りしていた。
「う~ん、迷っちゃうなぁ……
さくらさんは、何にするんですか?」
「私は、いつもカフェラテなの」
「そうなんだ、どうしよう……パフェにしようかぁ……
でもケーキも美味しそうだしなぁ……」
月は迷いに迷った末、特製フルーツパフェを注文した。
月は、カウンターの中で手際良く働く祐希の横顔に、思わず見惚れてしまった。
(お兄ちゃん、なんかプロみたいでかっこいい)
「カフェラテ、お待たせしました」
祐希がさくらの前に置いたカップには、ミルクの泡で可愛いクマの絵が描かれていた。
「うわぁっ、すごい!
お兄ちゃん、ラテアートできるの!?」
月は目を輝かせた。
「うん、勉強して資格も取ったからな……」
祐希はぶっきらぼうに答えたが、妹に褒められて悪い気はしていなかった。
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