第55話 妹
星城大学のオープンキャンパスは、毎年7月初旬に開催される。
それに参加するため、祐希の妹「月」が、札幌から1人でやって来た。
その日バイトを休んだ祐希は、さくらと一緒に柏琳台駅の改札口で待っていた。
約束の時間になると月が姿を現し、改札口の手前で祐希を見つけると「お兄ちゃ~ん」と大きな声で手を振った。
そして改札を抜けると、全速力で駆けてきて祐希に抱きついた。
「お兄ちゃん、会いたかったよぉ~」
「おい月、そんなに思いっきりダイブしたら、危ないじゃないか!」
「これは妹の愛情表現だから、身体を張って受け止めなきゃダメだよ!」
そう言って人目も憚らず兄を抱きしめ頬ずりした。
「はいはい、その愛情、ありがたく頂戴しておくよ」
想像以上に発育した妹の胸を押し付けられ、祐希は動揺を隠せなかった。
「もぉ~、お兄ちゃん、適当に言ってるでしょ。
私、こう見えても、学園のアイドルって言われてるんだからね!」
「へ~、そうなんだ。
お前がアイドルとはなぁ……」
「何よその言い方、失礼しちゃうな!」
その時月は、祐希の後ろで兄妹のやり取りに苦笑している美少女に気付いた。
「えっ、この人、誰?
も、もしかして、お兄ちゃんの彼女?」
「いや、違うよ……
彼女は同じシェアハウスに住んでる、さくらさんだ」
「月ちゃん、初めまして、さくらです。
祐希さんには、いつもお世話になってます」
「あ、初めまして、月です。
さくらさんて、お人形さんみたいに綺麗ですね……」
月は、さくらの美しさに見惚れていた。
「そ、そんなことないですよ……
月ちゃんの方が、ずっと綺麗で可愛いですよ」
「実は今、理由あって、彼女と一緒に行動してるんだ」
さくらがストーカー被害に遭っており、ボディガード役として付き添っていることを妹に話した。
「なるほどねぇ、こんなに綺麗な人なら、私でもついていきたくなるかも……」
月は、さくらの容姿をマジマジと見た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
3人がシェアハウスへ到着すると、月はその大きさと豪華さに驚いた。
「凄いね、お金持ちの豪邸みたい。
これがシェアハウスなんて、誰も思わないよ……」
祐希がセキュリティロックを解除し、3人は中へ入った。
「明日奈さん、月、連れてきました」
祐希が言うと、ラウンジにいた明日奈が出迎えた。
「いらっしゃ~い……
えっ、あなたが月ちゃんなの……。
まあ、こんなに綺麗になって……すっかり見違えたわ」
「明日奈さん、お久しぶりです。
今日から3日間、お世話になります」
月は礼儀正しく頭を下げた。
「前に会った時は、確か中学2年生だったわねぇ。
それが、こんな美人さんになるなんて……
さあ、中へ入って……」
明日奈は、ラウンジへ月を招き入れた。
「そうそう、月ちゃんの部屋なんだけど……ここを使ってもらおうかと思って」
明日奈が、月を案内したのは、祐希の隣の部屋だった。
「ここ、普段はピアノ・レッスン室として使ってるんだけど、今週は使わないから、月ちゃん自由に使ってね。
このソファはベッドになるから」
明日奈は、ソファの背もたれを倒しベッドにして見せてくれた。
「明日奈さん、ありがとうございます」
その後、明日奈は月に、お風呂とトイレ、洗面室の場所を教えた。
「ここは共用スペースだから、空いてる時は自由に使っていいわよ。
何か分からないことがあったら、何でも聞いてね」
「はい、ありがとうございます」
月はシェアハウスの中を興味深げに見て歩いた。
「月ちゃん、2階も見てみる?」
明日奈が言った。
「はい、見てみたいです」
「さくらちゃん、悪いけど、月ちゃんに2階を案内してあげて……」
「はい、分かりました。
月ちゃん、行きましょ」
「あれ、お兄ちゃんは行かないの?」
「ああ、僕は行けないんだ」
「月ちゃん……2階は男子立入禁止なの」
明日奈が言った。
「あ~、なるほど……そうですよね」
月は納得した。
階段を上がると、建物の中央部に浴室・トイレ・洗面室があり、それを取り囲むように8つの部屋が配置されていた。
「月ちゃん、私の部屋、見てみる?」
「えっ、見せていただけるんですか?」
さくらの部屋は12畳で、月が思っていたよりも、ずっと広かった。
部屋には、セミダブルベッドや、生活に必要な家具、ウォークインクローゼットが完備されていた。
「うわぁ、こんなに広いんですか……
さくらさんの部屋、綺麗だし、それにいい匂い……」
そこは清掃が行き届き、よく整理整頓された完璧な女子の部屋だった。
「私、片付いてないと、落ち着かなくて……」
「はぁ~、さすがです。
さくらさん、いいお嫁さんになれますよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その夜、明日奈が月の歓迎会を開いてくれた。
居酒屋『百花繚乱』のホームデリバリーを利用し、豪華なオードブルが宅配された。
ラウンジのセンターテーブルには、寿司や焼き鳥などの定番メニューに加え、色とりどりの料理が並べられた。
「今日は、祐希くんの妹月ちゃんが、札幌から来てくれました。
みんな、仲良くしてね。
それじゃあ、乾杯しましょ。
月ちゃん、シェアハウスへようこそ、かんぱ~い!」
明日奈の音頭で、メンバーはグラスを合わせた。
「かんぱ~い!」
その日の参加者は明日奈、祐希、さくらの他、未来、琴葉、怜奈、里緒奈、朱音の9人だ。
「みなさん初めまして!月です。
今日は私のために歓迎会を開いていただき、ありがとうございます!」
月は礼儀正しく挨拶した。
「月ちゃん、久しぶり~!
私、未来だよ~、覚えてる?」
未来がニコニコしながら手を振った。
「えっ、未来お姉ちゃん!?
お兄ちゃんから話は聞いてたけど、ホントに同じシェアハウスなんだ……」
「そうなの!私も最初ビックリしたの……」
「え~、また会えて嬉しいです」
他の住人たちも月に挨拶した。
「琴葉です。ようこそシェアハウスへ」
「怜奈よ。よろしくね月ちゃん」
「里緒奈です、月ちゃん、ヨロシク」
「朱音です。ゆっくりしていってね」
メンバーが自己紹介を済ませると、早速料理に手を伸ばした。
「月ちゃんってさぁ、ホント可愛いよね。
スタイルもいいし、肌も綺麗だし……」
朱音がまじまじと月を見て言った。
「い、いえいえ、そんなことないです!
私なんて全然……」
「目もパッチリしてて、アイドルみたい!
ねえ、大学合格したら、うちの雑誌で読者モデルやらない?」
「え? 読者モデルですか……そんなの無理です」
月は顔を赤くして、ブンブンと手を横に振った。
「でも、このシェアハウスの方、綺麗な方ばかりですね!
さくらさんは、天使みたいに清楚で綺麗だし、明日奈さんも綺麗なお姉さんていう感じだし……
皆さん美人で、ビックリしました」
月は、お寿司を頬張りながら言った。
「あら、月ちゃんて、褒め上手ね」
明日奈が嬉しそうに笑った。
「でも、褒められて嬉しくない人はいないよね」
琴葉も、まんざらでもない様子だ。
皆がいい気分でグラスを空ける中、朱音があることに気づいた。
「あれ? 里緒奈さん、それノンアルですよね」
いつもなら豪快にビールを煽る里緒奈の手元にあるのは、ノンアルコールの缶だった。
「うん、まあね……。
この前、明日奈さんから、お叱り受けたから……
しばらく禁酒することにしたの……」
「えっ!? 里緒奈さんが禁酒!?」
「雪でも降るんじゃない?」
朱音と怜奈は顔を見合わせた。
「まあ、賢明な判断ね」
明日奈は里緒奈の行動を当然のことと受け止めた。
「あ、そういえば祐希……
こないだ、うちのメイドカフェに来てたよね」
未来が話題を変えた。
「ぶっ!」
ビールを飲んでいた祐希がむせた。
「えっ、お兄ちゃん、メイドカフェに行ったの?」
月が目を丸くして兄を見た。
「月ちゃん、祐希ね、私のメイド姿に見惚れてたんだよ」
「お、おい未来! 変なこと言うな!」
「ち、違うんだ月!
あれはコジケンに誘われて……仕方なく付き合っただけで……
メイドカフェが好きとか、そういうわけじゃないんだ……!」
「ふーん……
お兄ちゃんも、そういうの興味あるんだ……」
月は呆れたようにため息をついた。
「だから、違うって言ってるだろ!」
必死に弁解する祐希と、白い目で見る月のやり取りに、ラウンジは爆笑に包まれた。
そんな他愛もない話題で盛り上がり、歓迎会は約2時間でお開きとなった。
「はぁ~、楽しかった!
みなさん、ありがとうございました」
月は幸せそうにソファの背もたれに体を預けた。
「いいなぁ、みんないい人だし……
部屋も広くて綺麗だし……
私もこのシェアハウスに住みたいなぁ」
その言葉に、明日奈が微笑んだ。
「そうねぇ……来年月ちゃんの入学が決まった時に空室があれば、入れるかもしれないわね……」
そう言って明日奈は、里緒奈の方を見た。
里緒奈はその視線に気づかないふりをして、静かにノンアルコールビールを飲み干した。
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