第51話 メイドカフェ「VeryBerry」
日曜日の午後、コジケンこと小島健太郎から呼び出しがあった。
「競馬で万馬券を当てたから奢ってやる」
電話の向こうでコジケンはそう言った。
横浜市内のある場所へ行くと、上機嫌のコジケンが待っていた。
「よっ、祐希、遅かったな」
「突然呼び出されてもなぁ、こっちだって都合があるんだぞ」
「まあまあ、文句言うなって……
今日は、俺が全部奢ってやるからさ」
「お前、随分と気前いいな……
いったい、いくら稼いだんだよ」
「……知りたいか?」
コジケンがポケットから取り出した分厚い封筒には、1万円札の束が入っていた。
「な、なんだ、その札束……」
「全部で60万だ。羨ましいか?」
「凄いな……
お前、競馬の才能あったのか?」
「まあな……」
「ところで……今日はどこへ行くんだ?」
「最初は、メイドカフェに行くぞ!」
「メイドカフェだって?」
祐希の頭には、未来の顔が浮かんだ。
(未来のバイト先も、確かメイドカフェだったな……)
「祐希、メイドカフェって、行ったことあるか?」
「一度もないよ」
「そうか、俺もないんだ。
だから、横浜で一番人気のメイドカフェを調べてきたぞ
ほら、こっちだ」
スマホの地図アプリを見ながら5分ほど歩くと、目的地に着いた。
それは「VeryBerry」というメイドカフェだった。
その店は1階がコンビニの雑居ビルの2階にあった。
店に入るとメイド姿の少女が、満面の笑顔で出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ~、ご主人様~」
「おお……これが本物のメイドカフェか……
前から来てみたかったんだよなぁ……」
コジケンは、興奮を隠せない様子だった。
まるで聖地に来たかのように、目を輝かせ店内を見回した。
店内は、苺とミルクをイメージしたポップで可愛らしい内装だ。
日曜の午後早くという時間帯で満席だったが、運良く空いたテーブル席へ2人は案内された。
席に着くと、コジケンが声を潜めて言った。
「おい祐希、知ってるか?
この店には『伝説のトップメイドル』がいるんだぞ」
「メイドル?」
「ああ、メイドとアイドルを組み合わせた造語さ。
その頂点にいるのが『みるく』ちゃん。
この店の人気ナンバーワンで、ファンクラブまであるらしいぞ」
「へぇ、ファンクラブか……それはすごいな」
すると1人のメイドが祐希たちのテーブルへやってきた。
「ご主人様、本日はご帰宅ありがとうございますっ!
苺の国からやってきた、摘みたてベリーの『みるく』ですっ!
今日はた~っぷり癒やされていってくださいねっ♡」
アニメ声で挨拶したメイドル『みるく』が、一礼して顔を上げた。
「ゆ、祐希……」
彼女は、なぜか祐希の名前を呟いた。
祐希がそのメイドルの顔を見ると、それは紛れもなく未来だった。
「み、未来……」
未来は祐希の顔を見て、完全にフリーズしていた。
メイド姿の未来は、まさに「トップメイドル」と呼ぶに相応しかった。
赤と白のフリルがあしらわれた衣装に、胸元の大きなリボン。
細身ながらもバストラインが強調されたデザインで、すらりとした脚にはニーハイソックスがよく似合う。
腰まであるホワイトスノーアッシュの長い髪は、衣装とお揃いの赤いリボンでツインテールに結われていた。
動くたびに揺れるその髪は、店内の照明を受けてキラキラと輝いていた。
(う、嘘だろ……未来のバイト先って、ここだったのか……)
(なんで……なんで祐希がここにいるのよ……)
その微妙な空気を、コジケンは見逃さなかった。
コジケンは怪訝な顔で、祐希に聞いた。
「祐希、みるくちゃんと知り合いか?」
「……ああ、そうなんだ。
同じシェアハウスの子で、実は幼馴染みなんだ……」
「はぁっ!?」
コジケンの声が裏返った。
店内の数人が何事かとこちらを振り返った。
「おい、声デカいって」
「ま、マジで……
みるくちゃんと一緒に住んでるのかよ?
しかも、幼馴染みって……
お前、羨ましすぎるだろ……」
コジケンは声を押し殺して祐希に訴えた。
我に返った未来は、何ごともなかったかのように注文を取り始めた。
「ご注文は、お決まりですかぁ……?
ご主人様ぁ♡……」
その切り替えの早さは、さすがにプロだ。
普段の未来より、ツートーンくらい高く甘い声だ。
しかも語尾にハートマークも見える。
「うほぉ~、す、すげぇ……
ほ、本物の『みるく』ちゃんだ……」
コジケンの目は、営業スマイルを貼り付けた目の前のトップメイドルに、釘付けとなった。
「おい祐希、遠慮するな……
今日は俺の奢りだから!」
「う~ん、僕はお前と同じものでいいよ」
「そうか。じゃあ俺に任せろ!
やっぱりメイドカフェに来たら『お絵かきオムライス』が王道だよな!
みるくちゃん、『お絵かきオムライス』とアイスコーヒーのセットを2つお願いね!」
「はい、オムライス2つとアイスコーヒー2つですねっ!
みるくが愛情込めてお絵かきしちゃいますねっ!」
「うん、お願い!」
「は~い! 少々お待ちくださいねっ♡」
未来はウインクを1つ残して、厨房の方へ戻っていった。
「妖精さん、妖精さん、オムライス2つとアイスコーヒー2つお願いします」
未来は、厨房にオーダーを伝えた。
「おい祐希、見たか今のウインク!
さすがファンクラブができるだけあるな……破壊力が違うわ。
でも、お前と同じシェアハウスだったとはなぁ……
おい、今度紹介しろよ……」
「そ、そうだな……」
祐希は曖昧に頷き、水を飲みながら思った。
(未来がこんなに人気があるとはなぁ)
(この前エッチした仲だなんて、口が裂けても言えないな)
約10分後。
「お待たせしましたぁ~!
お絵かきオムライスとアイスコーヒーで~す!」
トップメイドル『みるく』が、料理を運んできた。
2人の前には、黄色い卵に包まれたオムライスとアイスコーヒーが置かれた。
「それでは、オムライスにお絵かきしますねっ!
何か、リクエストはありますかぁ?」
ケチャップのボトルを構えた未来が聞いた。
「じゃあ、『LOVE』って書いて!
ハートマーク付きで!」
コジケンがニヤけ顔で言った。
「かしこまりましたっ!」
未来は器用な手つきで、オムライスの上に『LOVE』の文字と猫のイラストを描き上げた。
「はいっ、出来上がりですっ!
みるくの愛情、た~っぷり注入しておきましたからねっ!」
「うおおお……すげぇ!
なんか食べるの、勿体ねぇ!」
コジケンがスマホを取り出し、撮影会を始めた。
「次はご主人様のオムライスですねっ!
リクエストはありますかぁ?」
未来がケチャップを構えて、祐希を覗き込んだ。
「あ、えっと……お任せで」
祐希が小声で答えた。
「かしこまりましたっ!」
未来は手慣れた様子でスラスラと、祐希のオムライスに大きなハートマークを描き、その中に『LOVE』の文字を書き込んだ。
仕上げに、そのハートを射抜く矢のイラストを描き添える。
「それでは、オムライスに美味しくなるオマジナイをかけますねっ!
ご主人様たちも、ご一緒にぃ~!
いきますよ~! せーのっ!」
「美味しくなぁれ♪、美味しくなぁれ♪、萌え萌えキュンッ♡」
コジケンは嬉々として、祐希は恥ずかしそうに、未来の仕草に合わせて手でハートを作った。
目の前で堂々とハートを作る未来を見て、祐希は無性に気恥ずかしかった。
「わぁ~、ご主人様たち、とってもお上手ですぅ~!
これで、愛情た~っぷり注入完了ですっ!
……ご主人様、どうぞ召し上がれ」
未来は、片目を瞑って祐希にウインクした。




