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第49話 お仕置き

 キャンプの早朝6時、スクリーンタープの中では、明日奈と怜奈とさくらが朝食の準備をしていた。

 怜奈が羽釜でご飯を炊き、さくらは味噌汁を作り、明日奈は野菜炒めを作った。


「おはようございます」

 そこへ祐希がやって来た。


「祐希くんおはよう」

 明日奈と怜奈が挨拶した。


「祐希さん、おはようございます」

 さくらは祐希と視線を合わせず挨拶を返した。


「何か手伝いますか?」

 祐希が気を利かせて言った。


「それじゃ、祐希くんは目玉焼き焼いてくれる?

 フライパンとターナーはそこ、卵とオリーブオイルはこれ使ってね」


「分かりました」


 祐希が目玉焼きを焼き始めると、明日奈が言った。

「昨日は、あの後、大変だったみたいね」


「あ~、里緒奈さんのことですか?」

 祐希が答えた。


「そう、怜奈ちゃんから内容は聞いたけど……

 里緒奈ちゃん、厳しく叱っておくから許してね」


「はい、分かりました。ありがとうございます」

 祐希が返事すると、何事もなかったかのように、みんなは朝ごはんの準備を続けた。


 やがて、未来と琴葉、朱音、瀬奈の順に起きてきた。

「おはようございます。

 朝ごはんの準備手伝いますね」


 みんなは、食器を並べたり、味噌汁をよそったりと準備を手伝った。

 朝食の準備ができても瑞希と里緒奈は起きてくる気配がなかった。


「怜奈ちゃん、悪いんだけど、瑞希ちゃんと里緒奈ちゃん起こしてきてくれる?」

 明日奈が、怜奈に頼んだ。


「分かりました。叩き起こしてきます」

 怜奈は腕まくりして、キャンピングカーの方へ歩いていった。


 それからしばらくして、瑞希と里緒奈が寝癖がついたまま、タープに姿を現した。

「みんな、おはよ~」

 2人は欠伸しながら挨拶した。


「里緒奈、昨日は飲みすぎたね」

 瑞希が言った。


「ホントだね、頭ガンガンする、完全に二日酔いだわ」

 里緒奈は悪びれた様子もなく、朝食の準備が整った席に座ろうとした。


 それを見かねた明日奈が言った。

「ちょっと、そこの二人、遅く起きてきて、言うことはそれだけ?

 早起きして、朝ごはんの準備してくれた人に感謝の言葉は無いわけ?」

 いつも温厚な明日奈にしては珍しく、激怒(げきおこ)状態だった。


「あ、ごめんなさい、飲みすぎて頭が働いてなくて……

 みんな、ご飯作ってありがとね」

 里緒奈と瑞希は周りの人に頭を下げた。


「二人とも昨日のことは、覚えてないわけ?」


「あ~、確かに飲みすぎて迷惑かけたかも……」


「それだけじゃないでしょ……里緒奈ちゃん」


「え、他に何かありました?」

 里緒奈は、昨日の自分の失言を覚えていなかった。


「呆れたわね……

 里緒奈ちゃん、シェアハウスに帰ったら、オーナー室へいらっしゃい。

 あなたに、言いたいことがあるから……

 この話はこれでお終い。

 せっかくの温かいごはんが冷めてしまうわ。

 さあ、いただきましょう」


 明日奈の合図で、全員が手を合わせ「いただきます」と言った。

 朝の食卓には、何とも言えない気まずい空気が流れた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その日の午後、シェアハウスに戻った住人たちは、キャンプの後片付けに追われていた。

 それも一段落したその日の夕方、明日奈が里緒奈をオーナー室へ呼び出した。


「里緒奈です」

 神妙な面持ちで里緒奈がノックすると、中から返事があった。


「はい、どうぞ」


「失礼します」

 里緒奈が中へ入ると、明日奈の隣には祐希が座っていた。


「そこへ掛けて」

 里緒奈は明日奈に促され、向かいの席へ座った。


「今日は、このシェアハウスの管理人として、祐希くんにも同席してもらうから……

 里緒奈《《さん》》、どうして私に呼び出されたか分かる?」


「はい、キャンプで羽目を外して、酔っ払って迷惑掛けたからだと思います」


「確かに、それもあるわ。

 でもあなた……大事なことが分かってないから、こうしてわざわざ来てもらったの……」


「は、はい」

 里緒奈は、小さな声で答えた。


「何が分かってないと思う?」


「……分かりません」


「まず一つ目は、プライバシーの侵害……

 今回の件、怜奈ちゃんから詳しく聞いたけど……

 本人の同意もなく、勝手に他人のプライベートを言いふらしたわよね?

 酔っ払ってたからといって、決して許されることじゃないわ!」


「……その通りです……」


「二つ目。あなた、パワハラが過ぎるわよ。

 祐希くんの先輩だからって、嫌がる彼を無理やりスナックに連れていったりしたわよね。

 それも一度や二度じゃないはずよ」


「……はい」


「三つ目。これが一番呆れたんだけど……セクハラ発言よ。

 祐希くんに『経験ある?』って聞いたり、本人が否定しているのに『しちゃったんでしょ』と決めつけたり……。

 それは立派なセクハラだし、人として一線を越えてるわ!

 しかも、自分が言ったことも覚えてないなんて、言語道断よ!

 それから、一番の問題はお酒よ。あなたね、毎回飲みすぎ!」

 明日奈は畳み掛けるように言った。


「……はい……」

 図星を突かれ、里緒奈は返す言葉もなかった。


「里緒奈ちゃん、あなたもう22歳でしょ。

 もう少し分別ある大人の振る舞いをしなさい!

 祐希くんは、大学の後輩でもあるんでしょ?

 後輩といえども節度を持って接するべきよ。

『親しき中にも礼儀あり』って言葉、知ってるわよね?」


「は、はい……」


「あなたにとっては、お酒の席での『楽しい』出来事かもしれないけど……

 巻き込まれた側にとっては『楽しくない』、ただの後味の悪い嫌な思い出にしかならないの。

 それが分からないようじゃ、いつかお酒で失敗するわよ」

 明日奈の言葉は、鋭い刃物のように里緒奈の心に突き刺さった。


「昔から言うでしょ、『酒は飲んでも飲まれるな』って。

 あなたの酒癖の悪さは、これまでも何度か注意してきたわよね?

 その度に『気をつけます』って言ってたけど、今回は流石に(ひど)すぎるわ。

 これ以上、見過ごすわけにはいかないの」


「……申し訳ありません」

 里緒奈は完全に萎縮し、小さくなっていた。


「年下の後輩たちのこと、もっと尊重してあげなさい。

 先輩としての威厳を見せるのは、お酒の量じゃなくて、気遣いと態度なんだから」


「はい……肝に銘じます」


「今回は厳重注意としておくけど……

 今後、同様の問題を起こしたら……その時は退去してもらうことになるから……

 そのつもりでいてね」


「た、退去ですか!?……」

 シェアハウスを追い出されると聞いて、里緒奈の顔から血の気が引いた。


「そう、退去です」

 明日奈は冷たく言い放った。


「わ、分かりました……

 明日奈さんの言葉を肝に銘じて、問題を起こさないよう気をつけます……」


「分かればよろしい。

 祐希くんや他の住人への謝罪は、後でちゃんとしておくこと。

 話は以上よ、下がっていいわ」


「はい……色々とご迷惑をおかけしました……」

 里緒奈は深々と頭を下げると、重い足取りで部屋を出ていった。

 その背中は、入ってきた時よりも一回りも二回りも小さく見え、完全にうなだれていた。

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