第46話 満天の星空に二人きり
スクリーンタープの中央には、4つのテーブルが置かれ、その周りを10脚のキャンピングチェアが取り囲んでいる。
テーブルの間には、卓上バーベキューグリルが3つセットされた。
壁際に置かれたアウトドア冷蔵庫には、明日奈が凝りに凝った食材がたっぷり入っている。
ドリンク類も飲みきれないほど、クーラーボックスに入っていた。
祐希が炭を熾し、里緒奈と瑞希が順に食材をカットしていく。
怜奈が羽釜でご飯を炊き、さくらと朱音がおにぎりを握った。
明日奈が豚汁を作り、瀬奈は人数分の食器と箸をテーブルに並べた。
未来と琴葉は、焚き火用の小枝を集めてきた。
こうして、キャンプのメインイベントである「バーベキュー」の準備が整った。
「それじゃあ、みんな乾杯するよ~」
メンバー全員の飲み物を確認し、明日奈が乾杯の音頭を取った。
「みんなの健康を願って、カンパーイ!」
明日奈は、各バーベキューグリルの担当を、鍋奉行ならぬ、炙り奉行と呼んでいる。
食材を焦がさぬよう、火加減に注意しながら焼き上がったところを、メンバーに振る舞うのが役目だ。
「焼き鳥焼けたよ~、欲しい人~」
里緒奈は肉系専門の炙り奉行として、プロ並のスキルを存分に発揮している。
「丸ナスの味噌チーズ焼き、食べる人~」
「帆立のバター焼き、先着7名募集中~」
怜奈は野菜系、祐希は海鮮系の炙り奉行として、食材に関する豊富な知識と、高い調理スキルが認められている。
紀州備長炭の遠赤外線効果で、食材は内部までふっくらと火が通り、旨味が凝縮されている。
美味しい料理に美味しいお酒とくれば、当然話にも花が咲く。
祐希のバイト先であるカフェ・バレンシアのケーキが美味しいという話や、未来と琴葉が所属するガールズバンド「VenusVenus」がフェスに出る話、里緒奈と瑞希がバイトしている「スナック茜」の話などで、大いに盛り上がった。
その中で、朱音が読者モデルをしている女性誌で、新たな読者モデルを募集しているという話になった。
「ねぇ、さくらちゃん、読モやらない?
さくらちゃん可愛いからさぁ、絶対モデルになれるよ」
「え、モデルなんて、恥ずかしいから私には無理です。
それに、父が許してくれません」
「そっか~、残念……
あ、未来ちゃんと琴葉ちゃんも応募してみない?
2人とも可愛いから、読モになれるかもよ」
「私たち、バンド活動あるし、バイトもあるから無理なんです」
「そうだよねぇ、フェスも控えてるしねぇ」
「朱音、私、応募してもいいよ」
そこで里緒奈が食い気味に言った。
「あ、ごめん、里緒奈さんは無理だわ」
「なんでよ」
「だって、募集してるの20歳までだから」
「なにそれ、ムカつくわ~」
そのような取りとめのない話をしている内に、時刻は夜8時を過ぎていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕方から始まった宴会は、夜が更けても終わる気配を見せず、最高潮に達していた。
宴会用の大型スクリーンタープの下では、アルコールも入り、皆の楽しそうな笑い声が響いている。
その喧騒の中、祐希はそっと席を立った。
「あれ、祐希ぃ、どこいくの?」
明らかに呂律が怪しい里緒奈が聞いた。
「ちょっと、トイレに行ってきます」
祐希は管理棟の清潔なトイレで用を済ませ、タープへ戻ろうとしたが、ふと足を止めた。
空を見上げると、白樺林の間から、信じられないほどの星空が広がっていた。
「うわぁ……すごい星だなぁ……」
空一面に、都会では決して見ることのできない、無数の星が瞬いていた。
まるで宝石箱をひっくり返したような夜空に、祐希はしばらく見入っていた。
(……少し、酔いを覚ましていこう)
勧め上手な年上女子の「注ぎ注ぎ攻撃」と宴会の熱気で火照った頬を、祐希は夜風で冷ました。
その時、管理棟方向の暗がりから人影が現れた。
「……あ、祐希さん」
それは、さくらだった。
少し驚いたように祐希を見つめている。
「さくらさんも、星を見に来たの?」
「え、星ですか?」
「ほら、あの林の間から見えるでしょ」
祐希が指差す方向を、さくらが見上げた。
「うわぁ……! すごいですね……!
こんなにたくさんの星、見たことないです。
まるでプラネタリウムみたい……」
空を見上げるさくらの横顔が綺麗で、祐希はドキッとした。
タープの中の喧騒が嘘のように、2人の間に静かで穏やかな空気が流れた。
「湖の方へ行ったら、もっとよく見えると思うんだけど……行ってみない?」
「はい、行ってみたいです」
祐希の誘いに、さくらは素直に応じた。
祐希はスマホの照明機能をオンにして、湖へと続く小径を歩き始めた。
しかし、辺りは思ったより暗く、2人で歩くには足元が心許なかった。
「さくらさん、危ないから、手を繋ごうか……」
「はい、お願いします」
さくらが手を差し出すと、祐希の大きく温かい手が優しく包みこんだ。
(祐希さんの手……温かいな……)
2人は、お互いの手の温もりを感じ、自然と鼓動が速くなった。
「もう少しで、砂浜に出るよ」
「はい」
2人が湖畔に下りていくと、白樺林から抜け、上空が大きく開けた。
すると、360°見渡す限りの満天の星が、祐希とさくらの頭上に広がった。
「うわ~、何だこの星の数は……」
それは、言葉で言い表せないほどの絶景だった。
「すごい……すごい星の数です……こんなの初めて……」
さくらは、あまりの感動に涙を浮かべた。
「もう少し、先へ行ってみよう」
2人は、微かなさざ波の音がする湖岸まで歩いた。
そこには、想像を絶する雄大な景色が広がっていた。
「ちょっと待って、灯り消すから……」
祐希は、さくらの手を放し、スマホの照明機能をオフにした。
一瞬、完全な闇が2人を包み、穏やかなさざ波の音だけが微かに聞こえる。
すると、頭上の数え切れない星々が湖面に反射し、眼前には想像を超える絶景が広がった。
「ゆ、祐希さん……」
気がつくと、さくらが祐希の左腕をギュッと抱きしめていた。
「さ、さくらさん……」
「ごめんなさい、真っ暗で不安だったから……」
暗闇に目が慣れてくると、星あかりの微かな光に浮かび上がるさくらの横顔は、息をのむほど美しかった。
さくらの瞳は、星の光を反射して輝いていた。
祐希は、その美しさに見とれ、さくらをじっと見つめた。
さくらも祐希を見つめ返した。
どれくらいお互いを見つめ合っていただろう。
さくらは、不意に目を閉じた。
祐希は、無意識にさくらの唇に自分の唇を近づけた。
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