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第16話 月

 その日の夜10時、祐希が自室で課題をこなしていると、スマホが鳴った。

 それは高校3年生の妹、(あかり)からの電話だった。


「もしもし…(あかり)…」


「お兄ちゃん、今話しても大丈夫?」

 電話の向こうから、やや緊張気味の妹の声が聞こえた。


「どうしたんだ、こんな時間に」


「お兄ちゃんの声が聞きたくなって電話したの…」

 (あかり)は、自他ともに認めるブラコンだ。


「ホントか?」


「へへ~、そう言われると嬉しいでしょ」


「まあ、確かに嬉しいかな…」

 祐希は、妹のストレートな言葉に照れた。


「お兄ちゃん、火事たいへんだったね…」


「ホント、ツイてないよ、(あかり)、心配してくれて、ありがとな…」


「2人きりの兄妹(きょうだい)なんだから、心配するの当たり前よ。

 それより、お兄ちゃん、何か困ったことない?」

 

「そうだなぁ、部屋は明日奈さんの所に決めたからいいけど…

 衣服や教科書なんかも全部燃えちゃって、少しずつ買わなきゃならないことかな」


「そっかー、大変だね。

 ところで、お兄ちゃん、そこってシェアハウスなんだよね」

 このシェアハウスに住むことは、両親に報告したので、(あかり)もそれを聞いたのだろう。


「そうだよ…」


「シェアハウスって…トイレとかお風呂とか、リビングも共用なんでしょ。

 てことはさ、ご飯とか、他の住人と同じところで食べるんでしょ?

 他にどんな人が住んでるの?」


 (あかり)は、明日奈のシェアハウスに興味津々といった様子だ。


「ん~、1階は俺と明日奈さんだけで、あと2階は全員女性かな」


「え!他の住人は、全員女子っていうこと!?

 ちょっと、お兄ちゃん、変なコトしてないでしょうね…?」


「な、何言ってるんだよ、(あかり)

 明日奈さんの好意で住まわせてもらってるんだから、そんなことするわけないだろ!」


「ならいいんだけど…。

 ところでさぁ、お兄ちゃんに1つお願いがあるんだ…」


「お願い…どんな?」


「ほら、私、お兄ちゃんと同じ星城大学を目指してるの知ってるでしょ…

 それで、7月にオープンキャンパスあるじゃん。

 (あかり)、それに行ってみたいから、お兄ちゃんの部屋に泊めてほしいな~って、思ってさ…」


「泊めるっていったって…ここ、シェアハウスだぞ…

 妹とはいえ、オレの部屋に女子を泊めるのは…さすがにまずいだろ…

 (あかり)、ホテルに泊まれよ。

 近くのホテル探してやるからさ…

 それくらいの金、父さんが出してくれるよ」


「お兄ちゃん…可愛い妹を一人でホテルに泊まらせるつもり?

 ホテルって、タダじゃないんだよ。

 うちは裕福じゃないから、少しでも宿泊費を浮かせて家計を助けたいの…

 それに、お兄ちゃんがどんな所に住んでるのか、(あかり)見てみたいし…

 久しぶりに明日奈さんとも、会いたいしさ。

 だから、お願い! どうしてもそのシェアハウスに泊まりたいの!」


「そう言われてもなぁ」

 (あかり)の言い分も分からなくはない。

 祐希は他にいい方法がないか考えてみたが、何も思い浮かばなかった。


「とりあえず明日奈さんに相談してみるよ。

 (あかり)をこの部屋に泊めていいか、明日奈さんから許可を得ないと何とも言えないから」


「絶対許可もらってよね!

 お兄ちゃんと同じ大学に行くための、大事な下見なんだから!」


「はいはい、分かりました。

 それより、お前こそ、うちの大学受かる自信あるのか?」


「失礼しちゃうな!

 私はいつもテストでトップ10以内だし、先生からも問題ないって言われてるんだから!

 ……それじゃあ、良い返事待ってるからね!

 おやすみ!」

 一方的に電話を切った妹に、祐希は溜息をつき、スマホを置いた。


 それからすぐに祐希は明日奈の許可を得るため、ラウンジへ向かった。

 明日奈はバーカウンターでノンアルコールドリンクを飲みながら本を読んでいた。


「明日奈さん、今ちょっと時間いいですか?」


「あら、祐希くん。どうしたの?」


 祐希はバーカウンターの隣の席に腰掛けると、妹からの電話の内容をかいつまんで話した。


「7月に妹がうちの大学のオープンキャンパスに来るんです。

 その時に僕の部屋に泊めてほしいって言うんだけど……

 たとえ妹でも、同じ部屋に女子を泊めるのは、シェアハウス的にまずいですよね?」


「そうねぇ、妹でも女の子だから祐希くんの部屋は、ちょっとまずいかな」


「やっぱり、そうですよね。(あかり)にホテルを探すように言ってみます」


「ううん、そうじゃなくて…」


(あかり)ちゃん、私の部屋に泊まればいいじゃない。

 来客用の布団もあるし…」


「え、いいんですか!?そうしてもらえると助かります!」


「なに水臭いこと言ってるのよ。

 私と(あかり)ちゃんは、血は繋がってなくても姉妹だよ…」


「まあ、そうなんですけど、(あかり)がこのシェアハウスを見たら、自分もここに住みたいって言うんじゃないかと思って…」


「なるほどね…それはその時に空きがあれば考えましょ」


「明日奈さん、何から何まで、ホントにありがとうございます」


「早いものね~、(あかり)ちゃんも、来年は大学生か…

 私が最後に会ったのは、中学2年の頃だったかしら?

 きっと、美人さんになったんでしょうね。

 久しぶりに会えるの、今からとても楽しみだわ」


 明日奈の温かい言葉に、祐希は心から感謝した。

 これで妹にいい返事ができると祐希は安心した。

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