第141話 さくらの懸念
1月11日(日曜日)午前9時過ぎ。
シェアハウスの1階ラウンジは、妙にざわめいていた。
原因は、里緒奈の暴露だった。
「ねえねえねえ、明日奈さん、怜奈さん……聞いて下さいよ。
祐希とさくらちゃん、遂に2月から正式交際を許可されたんですって……」
その話を聞き、キッチンカウンターで食事していた未来と琴葉は、驚いたように顔を見合わせた。
「えっ、それって、どこからの情報?」
明日奈が驚いた様子で里緒奈に聞いた。
「祐希本人に決まってるじゃないですか……
昨日、スナック茜に祐希とさくらちゃんのお父さんが来て、その時に聞いたんですよ」
「へ~、でも、なんで2月からなんだろうね。
別に、今すぐでもいいような気がするけど……」
怜奈が不思議そうにつぶやいた。
「確かに……でも、あのお父さんのことだから、何か意味があるんだと思うわ」
明日奈が、苦笑いしながら言った。
こうして、祐希とさくらが、2月1日から正式に交際をスタートさせる――
そのニュースは、シェアハウスの住人たち全員が知るところとなった。
祐希が部屋から出てくるのと、さくらが2階から下りてくるのが、ほぼ同時で階段前で鉢合わせした。
すると、それを見ていた明日奈が立ち上がりこう言った。
「祐希くん、さくらちゃん、正式交際おめでとう。みんな拍手!」
その場にいたシェアハウスの住人たちが2人を祝福した。
突然の拍手にさくらは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いた。
祐希も照れくさそうに頭を掻いた。
そしてお互いの顔を見合わせて、2人並んで「ありがとうございます」と頭を下げた。
その祝福の中、祐希はさくらの父・賢吾から突きつけられた条件のことを改めて思い出していた。
(1月中に……キッパリと一線を引かないと……)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝食後、祐希はさくらを自室に呼び寄せた。
「2月1日から正式交際が始まる前に、さくらに話しておきたいことがあるんだ」
祐希は真剣な表情で、向かいのソファに座るさくらを見つめた。
「実は昨日、君のお父さんから交際の前提条件として『周りの女性と一線を引くこと』という条件をつけられたんだ」
さくらは目を丸くして祐希を見た。
「え……『周りの女性と一線を引くこと』……ですか?」
「分かりにくい言い回しだが、例えば沙織だ。
彼女は、機会あるごとに僕に迫ってきてるのは、さくらも知っていると思う」
「はい、沙織さん……祐希さんに一途っていう感じで、その執念が痛いほど私に伝わってきました」
「さくらも、そう思うだろう……
だから、正式交際する前に僕が付き合う意志がないと、彼女たちにハッキリ意思表明するように言われたんだ」
「なるほど……そういうことでしたか……
そんなことまで口出ししてくるなんて、さすがはうちの父です」
さくらは呆れた様子で溜め息をついた。
「ところで、沙織さんの他に誰から言い寄られているんですか?」
「えっと、未来と月だ……」
「確かに……未来さんは、最初の頃はグイグイとアプローチをかけてましたよね。
でも月ちゃんは、妹なんだから彼女にはなれないんじゃないですか?」
それを聞いて、祐希は月が、実は従妹であり結婚できることを、さくらに打ち明けるべきか悩んだ。
しばらく考えた末、その秘密をさくらに打ち明けることを祐希は決断した。
「これは僕ら家族4人しか知らない秘密だから、他の人には言わないでほしい……
実は……月は、亡くなった叔父夫婦の娘で、僕から見たら『従妹』なんだ」
「え、月ちゃんが従妹……」
さくらは祐希の言葉に絶句し、その場で固まった。
「1歳で天涯孤独になった姪の月を不憫に思った父が、養子として引き取ったんだ。
だから、戸籍上は間違いなく『妹』なんだけど、実際には『従妹』だから、結婚もできる……」
「それって、いつ分かったんですか?」
「去年の夏に札幌の実家に帰った時、父さんが教えてくれたんだよ」
「なるほど……月ちゃんのブラコンぶりに拍車がかかった原因が分かってきた気がします」
「月は異性として僕を見てるから、彼女とも一線を引かなきゃならないんだ……」
「なるほど……納得しました……
祐希さん、昨日聞いた『交際3か条』の他に、うちの父から何か無茶なことを言われてませんか?」
さくらは、自分の父が他にとんでもないことを言っていないか心配していた。
「それは……」
祐希は口ごもった。
さくらの父からは、『祐希の身上調査』を行ったことは、さくらに秘密にするよう厳命されていたからだ。
「言えない事があるんですね……」
「ごめん、僕の口からは話すことはできない……
君のお父さんとの約束を破ることになるから」
「分かりました。
それは私から父に直接聞くことにします」
「さくら、ホントにごめん」
「祐希さんは悪くないです。
悪いのは無茶なことばかり言って、周りに迷惑ばかりかけてる父なんですから……」
「とにかく、一線を引く件に関しては僕も同意見だから、まずは明日沙織に話してみるよ」
「分かりました。
でも、丁寧に対応してあげて下さいね。
もし、逆の立場だったら、私耐えられそうにないですから……」
「そうするよ。
きちんと順序立てて説明して、冷静にお願いしてみるよ」
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