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第134話 それぞれの願い

 1月1日の早朝。

 祐希は裸の美女2人と、客室のテラスにある露天風呂に浸かり、日の出を待っていた。

 氷点下の凛とした空気が、温泉で火照った肌を心地よく引き締める。


「あ……見て見て……!」


 湯船の縁に頬杖をついた沙織が指差した。

 東の空が白み始めると同時に、目の前に聳える真っ白な富士山の山頂が、じわじわと薄紅色に染まり始めた。

 朝日を浴びて輝く「紅富士」。

 冬の朝、気象条件が揃った時にしか見られない奇跡の絶景だ。

 さらに風のない鏡のような湖面には、その雄姿が「逆さ富士」となって鮮明に映し出される。


「……こんな荘厳な景色……初めて見たわ……」


 明日奈が感動に声を震わせながら小さくつぶやいた。

 言葉を失うほどの美しさに、3人は寒さも忘れて見入っていた。

 新しい年が、静かに幕を開けた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 幻想的な初日の出に感動した後は、仲居が運んできた豪華な『新春祝膳』を囲んだ。

 テーブルの中央には、鯛の尾頭付き、車海老のつや煮、黒豆、数の子、栗きんとんなど目にも鮮やかなお節料理。

 その脇には、7種のお造り、熱々のお出汁に角餅と三つ葉が上品に浮かぶお雑煮が並んでいた。


「明けましておめでとうございます。

 本年も、どうぞよろしくお願いいたします」


 3人は新年の挨拶を交わし、小さく杯を合わせた。

 祐希と明日奈がお屠蘇を飲み干すと、身体の中から温かいものが広がっていく。


「今年が、みんなにとって良い年になりますように」


 明日奈の言葉に、祐希と沙織も深く頷いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 朝食を終えた3人は、明日奈の車に乗って初詣へ出かけた。

 向かった先は、富士山の北口にあたる『北口本宮冨士浅間神社きたぐちほんぐうふじせんげんじんじゃ』。

 鬱蒼(うっそう)とした杉木立に囲まれた長い参道には、苔生(こけむ)した石灯籠が並び、空気がピンと張り詰めている。


 鳥居をくぐると、樹齢千年を超える巨大な御神木が圧倒的な存在感で出迎えた。

 初詣(はつもうで)の参拝客で賑わう境内は、神域特有の厳かな空気に包まれていた。

 順番待ちの長い行列に並び、3人は拝殿で二礼二拍手一礼した。

 祐希は目を閉じ、神前で祈りを捧げた。


(さくらとの交際が認められますように……)


 隣では沙織が長い時間をかけて手を合わせ祈っていた。


(どうか、祐希先輩と両想いになって交際できますように……

 そして今年も、来年も、再来年も……ずっと先輩のそばにいられますように……)


 反対側では明日奈が静かに祈っていた。


(祐希の願いが叶いますように……

 そして、シェアハウスのみんなが、日々笑顔で安全に過ごせますように……)


 参拝の後3人は授与所に立ち寄った。

 明日奈は破魔矢と護符を授かり、3人は御神籤(おみくじ)を引いた。

 祐希が開いた大吉の神籤(みくじ)には『誠意を尽くせ、道は必ず開かれる』との言葉……

 沙織が引いた中吉の神籤(みくじ)には『騒がず時を待て、願いは何れ実を結ぶ』とあり……

 明日奈が引いた小吉の神籤(みくじ)には『備えあれば憂い無し、日々これ用心を旨とすべし』と記されていた。

 それはまるで、目前に迫った試練への、神様からのメッセージのように思えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 参拝の後は、富士山周辺の観光名所を巡った。

 まずは『河口湖~富士山パノラマロープウェイ』で天上山(てんじょうやま)へ。

 ゴンドラから見下ろす河口湖と、展望台から目の高さに迫る富士山の大パノラマに、沙織は歓声を上げた。

 展望台の一角には、富士山を真正面に望むハート型のモニュメント「天上の鐘」が設置されていた。


「私たちも鳴らしましょ」


 明日奈と沙織が両脇から祐希の手に自分の手を重ね、3人で一緒に鐘を鳴らした。

 澄んだ鐘の音が、冬の青空に心地よく響き渡る。


 昼食は、山梨名物のほうとうを囲んだ。

 熱々の味噌スープが、冷え切った3人の体を芯から温めてくれる。


 昼食後、遊覧船『天晴(あっぱれ)』に乗船した。

 武田水軍の軍船を模した純和風の船は、朱塗りの装飾が鮮やかだ。

 オープンデッキに出ると、湖上を渡る風が冷たく心地よかった。

 湖の真ん中から見上げる富士山は、地上で見るよりもさらに大きく、圧倒的な存在感を放っていた。


「ここに来てから、ずっと富士山を見てるけど……全然見飽きないな」


「ええ。見る場所や時間で、全然表情が違うよね」


 沙織が通りかかった観光客にスマホを渡し、シャッターを押してもらった。

 背景には日本一の山。そして、笑顔の3人。

 それは、3人の幸せな思い出をそのまま閉じ込めた、特別な1枚となった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 遊覧船を下りた後、湖畔の散策を楽しみ、夕暮れ前に旅館へと戻った。

 テラスの露天風呂で冷え切った体を温め、旅の締めくくりとなる豪華な会席料理を堪能した。

 仲居が器を下げた頃には、すっかり夜も更けていた。


 テレビを見ながらソファで寛いでいた明日奈が、いたずらっぽい笑みを浮かべ沙織に言った。


「ねえ、沙織ちゃん。『姫始め』って知ってる?」


 突然の問いに、沙織はきょとんとして首を傾げた。


「ヒメハジメ……?

 え……もしかしてスイーツの名前ですか?」


 その無垢な反応に、明日奈はくすりと笑い、蕩けるような視線を祐希へ送った。


「ふふ、沙織ちゃんたら……可愛いわね。

 ……教えてあげる。1年で最初のエッチのことを『姫始め』って言うのよ」


「えっ……!」


 その言葉に沙織は目を丸くした。


「さあ、私たちも『姫始め』するわよ」


 明日奈は立ち上がり、寝室へ歩きながら浴衣の帯を解いた。

 露わになった白磁の肌が、寝室の間接照明の下で艶めかしく輝いていた。

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