第113話 悪友来たる
10月12日(日曜日)
祐希が入院してから、既に3週間近く経過していた。
その日の午後、特別個室のドアがノックされ、恐る恐る顔を出したのは、悪友の小島健太郎だった。
「おい、祐希。入っていいか?」
「お、コジケンか。
わざわざ来てくれて、ありがとな」
コジケンは部屋に入るなり、キョロキョロと室内を見回し、目を丸くした。
「うっわ、マジかよ。
お前、すっげ~いい部屋に入ってるんだな! ホテルかよ!」
「まあな。義姉が、住人を守ってくれたお礼だって、特別に手配してくれたんだ」
「ふ~ん、なるほどなぁ……
お前って、不幸な家系だとか言いながら、こういう面では恵まれてるよなぁ」
ベッドの上の祐希を見ると、すでに点滴も外れ、まだ左腕はギプスで固定されてはいるものの、顔色は随分と良くなっていた。
コジケンは安堵の息を漏らした。
「お前が刺されたってニュース見て、次の日、すっ飛んできたんだぞ。
でも、あの時はまだICUに入っててよ……
ピクリとも動かね~お前を見て、マジで心配したわ。
ホント生きててよかったなぁ……」
「心配かけたな。でも、もう大丈夫だ」
そこへ、エプロン姿の美少女がお盆にお茶を載せてやってきた。
「はい、コジケンさん、お茶をどうぞ。
熱いので気をつけてくださいね」
「あ、どうもすみませ……ん?」
コジケンは、その美少女の顔を二度見した。
7月のオープンキャンパスで会った、祐希の妹だ。
「あれ、月ちゃん!?」
「コジケンさん、お久しぶりです」
月は爽やかな笑顔を見せた。
「え、なんで!? 月ちゃん、高校生だろ? 学校は?」
「休んでます! お兄ちゃんが退院するまで、私が看病するんで……」
「はぁ!?」
祐希が苦笑しながら補足する。
「こいつ、両親が帰る時も『絶対に帰らない』って駄々こねてな。
今はシェアハウスの俺の部屋に住み込んで、そこから毎日、病院へ通ってるんだよ」
「ま、マジかよ……。
受験生なのに高校休んで看病!?
しかも、美女だらけのシェアハウスに住んでんのか!?」
「まあ、そういうことだ」
「お前……マジでラノベの主人公かよ?
妹にここまで愛されて、しかも周りは美女だらけって……普通、あり得ね~だろ」
コジケンは頭を掻きむしりながら悔しがった。
「コジケンさん、これ食べて下さい!」
そこで、月は一口大にカットした高級メロンの皿を差し出した。
「このメロン、お見舞いにもらったんですけど、お兄ちゃんそんなに食べないから」
「うおお! 妹ちゃんがカットしてくれたメロン! いただきます!」
コジケンはすぐに美味しそうにメロンを頬張った。
「月ちゃん、このメロンうめぇよ!
……あ、そうそう祐希。
大学の話だけどよ」
コジケンは真面目な顔で言った。
「お前、今大学ですげ~ことになってるぞ……『伝説のヒーロー』扱いだ」
「ヒーロー?」
「ああ。噂が尾ひれをつけて広まっててな。『暗殺拳の使い手らしい』とか」
「漫画かよ……」
「極めつけは、『女子大生かばって何箇所も刺されたが、翌日には傷が全部ふさがってた』とか言う超人説まである」
祐希は頭を抱えた。
「勘弁してくれよ……。復帰しづらいだろ」
「まあまあ。そう言うなって。
退院して元気になったらさ、景気づけにまたナンパしに行こうぜ!
今の俺は、ちょっとばかし懐が温けーからよ」
コジケンは下品な笑みを浮かべ、ズボンのポケットをパンと叩いた。
「懐が温かい?」
「ヘヘッ、実は先週のメインレースでな……
また万馬券、当てちゃったんだわ。
だから俺の奢りでパーッと行こうぜ!」
「お前、何考えてるんだ……
入院中の親友をナンパに誘うなよ!」
そのマイペースぶりに呆れる祐希に、コジケンは周囲を窺いながら小さめの紙袋を差し出した。
「これ、俺からの見舞い。
現役女子大生AV8時間スペシャル2枚組だ。
祐希、溜まってるんだろ。夜の慰めにしろ」
「バカ、月がいるんだぞ!」
祐希は、慌てて袋を枕の下に押し込んだ。
その時、控えめなノックの音が響いた。
祐希が返事をすると病室のドアが静かに開いた。
そして、華やかな香りと共に明日奈、沙織、さくらが現れた。
「祐希くん、体調はどう?……あら、お友達?」
先頭の明日奈が、大人の色香を感じさせる笑みを浮かべながら祐希に聞いた。
「うん。紹介するよ。
悪友のコジケン、スケベだけど根はいい奴なんだ」
「ゆ、祐希、スケベって、それはないだろ……」
「でも、事実だろ」
「うぅ、否定できねぇ……」
祐希が美女3人を順に紹介した。
「コジケン、この人が義理の姉で、シェアハウスのオーナーの篠宮明日奈さん」
「……っ!?」
コジケンは皿のメロンを落としそうになった。
明日奈の圧倒的なスタイルの良さと美貌に、一瞬でフリーズした。
(な、なんだこの大人の魅力……!
祐希、こんな美人と暮らしているのか……!)
「初めまして、明日奈です。
祐希くんからいつも話は聞いてます。
今日はお見舞いに来てくださって、ありがとうございます」
「は、初めまして、こ、こ、小島です」
「で、沙織はもう会ってるよな」
「……え? 沙織……?」
コジケンは明日奈の隣に立つスリム美女を凝視した。
ダサコーデの面影を微塵も感じさせない、沙織の洗練された容姿に驚かされた。
「う、嘘だろ……!?
これが本当の沙織ちゃんの姿なのか!?」
「ふふ、コジケンさん、これが本当の私よ」
「だから、大学でそう言っただろ……
で……最後は、早乙女さくらさん」
「……初めまして、さくらです。
祐希さんには、いつもお世話になってます……」
最後に、おずおずと自己紹介した美少女を見た瞬間、コジケンは言葉を失った。
気品に溢れ、非の打ちどころがない美しい顔立ち。
艶があり、流れるようなサラサラの長い黒髪。
芸術的なラインを描く均整のとれた身体。
清純可憐で、神々しいまでの透明感。
これまでの衝撃が霞むほどの「美」がそこにあった。
絶句するコジケンに、沙織がニヤリと笑ってトドメを刺した。
「コジケンさん……
彼女が、噂の『聖女の天使』ですよ」
「……ぶっっ!!」
コジケンは口に残っていたメロンを吹き出した。
「き、汚ねぇな、コジケン」
「沙織さん、その呼び方やめてください!」
「あ、ごめんね、さくらさん」
コジケンは、しばらくフリーズした後、ようやく口を開いた。
「せ、『聖女の天使』……!?
っていうか、本物の天使みたいじゃねぇか!?
え!……『聖女の天使』がホントにお前の彼女なの……?」
「……前に沙織が言っただろ……
両想いだけど、交際は許可待ちだって」
「ま、マジか……
天使様と両想い……
お前……どんだけ恵まれてんだよ……」
床に崩れ落ちた悪友を、祐希は苦笑しながら見ていた。
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