第109話 見舞いラッシュ
明日奈が用意した最上階の『特別個室』は、見舞い客の訪問ラッシュが続いた。
午後6時過ぎ、祐希の両親と月がホテルへ帰ったのと入れ替わりに、シェアハウスのメンバーたちが見舞いに訪れた。
怜奈、里緒奈、琴葉、瑞希、朱音、未来。
それにシェアハウスに着替えを取りに戻ったさくらと沙織も一緒だ。
特別個室は、美女で埋め尽くされた。
「祐希……もう、本当に心配したんだからね……!」
いつもは陽気な里緒奈が、涙を浮かべながら祐希に微笑みかけた。
「祐希……意識が戻って……本当によかったね……」
瑞希は無理やり笑顔を作ろうとしたが、その瞳には堪えきれない涙が溜まっていた。
「私、心配でこの1週間ずっと仕事が手につかなかったんだから」
怜奈が真っ赤に腫らした目で祐希を見た。
「怜奈さん、天気予報の原稿、読み間違えたんじゃない?」
朱音がチャチャを入れた。
「あら朱音ちゃん、よく分かったわね。
何度も噛んで怒られちゃったの……」
怜奈がペロッと舌を出すと病室は笑い声に包まれた。
「でも、祐希くん、ヒーローみたいで格好よかったよ」
朱音は、祐希を褒めながらはにかんだ。
「未来ちゃんなんて、気がつくと祐希の部屋をじ~っと見てるし……」
瑞希が暴露すると、未来は「もぉ~、それ言わないで下さいよ」と慌てて彼女の口を塞いだ。
病室はいつものシェアハウスのような騒がしさに包まれ、祐希は心地よさと共に安心感さえ覚えた。
「瑞希さんだって、祐希の部屋見るたびに溜息ついてたでしょ」
涙ぐむ未来が放った言葉に、他の面々もうなずいた。
「祐希さん、さくらちゃんと沙織ちゃんを守ってくれてありがとう……
早く身体治してシェアハウスに戻ってきてね」
琴葉が涙目でメッセージを伝えた。
「ふふ、琴葉ちゃんの言う通り……
祐希くんがいないとヴィーナス・ラウンジは、火が消えたみたいに寂しいから……
早く良くなって、シェアハウスに帰ってきてね。
それじゃあ、最後に命を懸けて守ってもらった2人からも一言もらおうかしら」
明日奈の指名で沙織が一歩前に進み出て、祐希に感謝の言葉を伝えた。
「先輩が、私とさくらさんを、命を懸けて守ってくれたこと、一生忘れません。
……もう絶対に先輩から離れません。大好きです、先輩!」
沙織の言葉を聞いたシェアハウスのメンバーたちは、「ひゅーひゅー」「よ、色男」などと一斉に祐希を囃し立てた。
最後にさくらの番となった。
「また……祐希さんの笑顔が見られて……私……もう、胸がいっぱいです……
私たちを守ってくれて、本当にありがとうございました」
さくらは頬を赤らめて、緊張から服の裾をぎゅっと握りしめた。
そして俯きながら上目遣いで祐希を見つめてこう言った。
「……好きです! 私、祐希さんのことが……
……世界で一番、大好きです!」
普段はお淑やかなさくらが、沙織の言葉に触発されて、祐希への愛を告白した。
その直後、病室は一気に沸き立った。
「告白キタ~」「祐希、責任取れよ!」「熱いよお2人さん」などと冷やかしの言葉が掛けられ、病室は明るい雰囲気に包まれた。
住人たちの言葉に、祐希は胸の奥が熱くなるのを感じながら、みんなの顔を見回した。
「みんな、ありがとう……
さくら、沙織。2人が無事でいてくれて本当に嬉しいよ。
あの時、後先考えず、無我夢中で戦って……本当に良かったと……心の底から思う。
……2人の真っすぐな気持ち、ちゃんと届いたよ……
みんなが待っててくれるから、どんなに苦しいリハビリだって頑張れそうだ。
必ず元気になって、シェアハウスに帰る。
……だから、僕を信じて待っていてほしい」
祐希は、一言一言噛み締めるように、しっかりとした決意を込めて答えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午後7時過ぎ、特別個室のドアがノックされ、祐希のバイト先である『カフェ・バレンシア』の七ツ森家3人が入ってきた。
今日は店を早仕舞いして、祐希の見舞いに駆けつけたそうだ。
「祐兄ッ!!」
真っ先に飛び込んできたのは、セーラー服姿の結だった。
結はベッド脇まで駆け寄ると、涙をポロポロとこぼしながら祐希の顔を覗き込んだ。
「よかったぁ……。祐兄、死んじゃったらどうしようって……うぅぅ……」
「おいおい、結ちゃん、勝手に殺さないでくれよ」
「ごめんなさい、私、心配で心配で、夜も眠れなかったの」
「結ちゃん、心配してくれて、ありがとね」
祐希が笑いながら、右手で結の頭を撫でると、彼女は照れくさそうに微笑んだ。
その後ろから、マスターと美里ママが安堵の表情を浮かべ祐希に歩み寄った。
「祐希……まったく、無茶しやがって。
だけど、意識が戻って本当によかったな」
「マスターすいません……
こんな状態なので、しばらく出勤できそうにありません」
「何言ってるんだ、店のことは気にしなくていいから。
沙織ちゃんが祐希の代わりにカウンターに入ってくれて頑張ってるし……
それに新しく採用したバイトもいるから、まぁなんとかなってる。
祐希は怪我が完治するまで、しっかり養生するんだぞ。分かったな!」
「ありがとうございます、マスター。ご迷惑おかけします」
「祐希くんはウチの息子同然なんだから、心配しないでゆっくり休んでね」
挨拶のタイミングを見計らっていた、明日奈が七ツ森夫妻に声を掛けた。
「あの……私は、祐希の義姉の篠宮明日奈です」
「ああ、あなたが明日奈さんですか。
カフェ・バレンシアの店主、七ツ森慎太郎です。これは家内の美里」
「初めまして明日奈さん、店長とパティシエを兼務しております七ツ森美里です。
で、これが長女の結です」
「この子が結ちゃんですか。
祐希くんを、実の兄のように慕っていると聞きました。
お会いできて嬉しいです」
「あら、そうですか、明日奈さんのことも、いつも祐希くんから聞いてます。
スタイル抜群の美人のお義姉さんがシェアハウスのオーナーだって……」
美里はそう言って微笑むと、手に持っていた大きな箱をサイドテーブルに置いた。
それはカフェ・バレンシアのロゴが入った、大きなケーキの箱だった。
「これ、私たちから差し入れです。
祐希くんの好きなケーキ、詰め合わせにして持ってきました。
全部で10個あるから、明日奈さんとさくらちゃんも一緒に召し上がって」
「うわ、嬉しいな! 甘いものが欲しかったんです」
「祐兄、私が食べさせてあげるね」
「え、ああ、結ちゃん。……悪いな」
結は祐希の好きなケーキを一つ箱から取り出すと、フォークを使って切り分け祐希の口元へ運んだ。
「はい、あ~ん、祐兄、おいしい?」
「……うん。カフェ・バレンシアのケーキは最高だよ」
祐希が笑顔で答えると、結は自分のことのように嬉しそうに、満足げな笑みを浮かべた。
「明日奈さんも召し上がって。たくさんあるから、遠慮しないで」
その時、さくらが人数分の紅茶をトレイに乗せて、みんなのところへ運んできた。
「みなさん紅茶が入りましたよ」
「さすがはさくらちゃん、気が利くわね。将来、きっといいお嫁さんになれそうだわ」
美里ママは感心したように言うと、ベッドの祐希をチラッと見た。
さくらは顔を真っ赤にし、祐希も照れくさそうに視線をそらした。
甘いケーキと紅茶の香りで特別個室は、穏やかで幸せな時間へと包まれていった。
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